【長編】強くなりたい

Last-modified: 2024-04-21 (日) 23:22:34

プロローグ

おそらく自分は死んだと思う。
おそらく自分は強くなかったと思う。
それがとても悔しくてたまらないや。
悔しいや。
とても悔しいや。



強くなりたい。
とにかく強くなりたい。
なんでもいいから強くなりたい。

な ん で も い い か ら
強 く

登場キャラ

  • 自分
    死んで生き返ったらしいもの。とにかく強くなりたい。
  • その他大勢(敵含む)
    自分が起こす行動に振り回されたりする。その規模や被害は色々。

コメント

  • [来訪者合計が100人を突破しました。] -- 2024-03-24 (日) 13:05:05
  • [来訪者合計が200人を突破しました。]
    目指せ500人。 -- 2024-04-20 (土) 08:06:07

来訪者数

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昨日?
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Tag: 【SS】 Devour_Construct

本編

第一話[RESTART]

意識が落ちる。暗闇に閉ざされる。
直観的に把握する。”自分”は死んだのだと。そう把握してからは、絶望するのでもなく希望を抱くのでもなく、ひたすらに思考を始めた。
何かにぶつかったのは覚えている。スポーツカーなのかもしれないし、トラックなのかもしれない。いや、ぶつかってきた方向すらわからないので落石もあり得るのかもしれない。
だが、これは記憶が抜け落ちているらしい以上、いくら考えていても仕方がない。

次に考え始めようとしたときに、不意に心の底に何かが眠っているのを感じとった。
それはは”強くなりたい”という妙な物。
どう強くなればいいのか、どこまで強くなればいいのか、犠牲はどこまでだして良いのか、対価はどこまで払って良いのか。
それらが定義されていない以上、この願望も叶えられそうにないと思っていた。

だが、それを定義していたであろう人物は誰なのかふと考えた途端、その考えは吹っ切れた。
「願いは自分で抱くもの。だったら、求める上限と方向、犠牲に対価。これらも自分で決めているに違いない。
だけど今は?死んだとはいえ、自分は確かにいる。なら、これらを新しく決め直すのも自分。」
そう結論づけ、彼は願いの再定義を行った。
「できる限り望む限りすべての方向で」「上限なしに」「望む物を糧に」「望む物を支払い」
強くなる

ないはずの、出せないはずの声でそう宣言した瞬間、自分の目の前に何かが現れた。
[ヤリナオシマスカ?]
自分の答えはすぐに浮かんだ。
『うん。やり直す。』
それの返事は、視界を埋め尽くすほどの閃光だった。

第二話[SPAWN]

『...っは?!』
目が覚め飛び起きる。どうやらどこかしらの森の中で寝てしまっていたみたいだ。
両手をグーパーさせ、身体機能の感覚を確かめる。どこも過不足がないが...
『...弱いね。』
「握る力も、踏み締める力も、そもそもの肉体強度すら足りない」と感じ取った瞬間からどのように動くのかを瞬時にシュミレーションし始めた。
『(まずは...転生物ならではの個人的必須事項だが、この世界がどのような世界なのかを把握しないといけない。文明レベルだけでもわかればそれに合わせた振る舞いをある程度模倣できる。下手に把握せずに行動した場合、最悪未来技術ばら撒きで戦争が起こってそれに巻き込まれて強くなれるかもしれないけれどそれより死ぬ可能性の方が高い。)』
強くなるにはまず命あってこそ。何処かの巡る世界のように死にかけることで強くなれる可能性も捨てきれないけれどそれにかけるのは分があまりにも悪い。
『(把握するとなると一番早いのは集落を見つけること。街レベルかつファンタジー世界なら冒険者ギルドのようなものを探して日銭を稼げる。そうでなくとも...ちょっと裏の世界に浸ればいいか。)』
実のところ、裏の世界...所謂筋の者呼ばわりされるような世界は実力と実力と実力、それと地位があれば案外命の危険は少ない。暴れ回ってアンチャッチャブル扱いされれば向こうから手を出される確率は大きく減るので御の字であるが...それもかなりひどい賭けであることを再認識し、基本的にはファンタジー世界であることを強く望んでおくことにした。
『...手持ちは衣服一式と本..じゃないねこれ。”本の形をしたマップデバイス”だねこれ。あとは..なんだろこのシャベルにスコップ。ノコギリのようにも使えそうだし見た感じ研がれてる。とりあえず万能シャベル/スコップと呼称しておくか。あとは...リュックサック?中身はどれどれ...変えの衣服が三日分に水を弾きそうな布...これがテントがわり?ブルーシートにも見えないし...この世界の技術レベルに合わせてるっていうなら中世かそこらかな?』
初期装備の質は非常に高いと言い切ってしまっても過言ではない。事実上のGPS地図に加え武器兼道具が二個、着替えにテントにもレジャーシートにもなるでかい布。あとはアイテムを詰め込めるリュック。食料品と水がないのが残念だったが自力で探した後キャンプを設営すればどうとでもなる。
だが、正直言って仕舞えば若干”古い”。本の形をしたマップもスマホでいいはずだし万能スコップはシャベルで間に合っている。とするのならサバイバルナイフでもいい気はするが、もしそれらが用意できない事情があるのなら?
『...中世ファンタジーの可能性は高いかも。』
そう結論付け、すぐに使えるようナイフをホルスターのようなもの(リュックの底にあった)で腕に取り付け、スコップはベルトに保持(腰に下げてる形)。そしてマップを開いてここがどういう場所なのかを簡単に調べる。
『...森だねぇ...』
期待はそう簡単に叶うはずもなく、マップは無情にもこの辺り一体は森であることを示していた。



[手に入れたもの]

  • 「”アンティークマップ”」
    • 本の形をした魔法の地図。持っているだけで周辺地形が書き込まれていき、マップピン機能も完備。流石にファストトラベルはこれだけではできない。
  • 「バックパック」
    • ただのバックパックに見えるが見た目が中世な上外見と容積が一致していない。
  • 「万能スコップ/シャベル」
    • 元となる道具に複数の機能を搭載したもの。両方ともノコギリとして使えるよう片方がギザギザになっており、しっかりと研がれているのでスコップはナイフ、シャベルは斧としても使える。
  • 「水を弾く布」
    • まんまその通りである。強いて特徴を上げるのなら本当に布でできておりブルーシートではない点だろうか。

三話[”LV0”]

『...ひたすらに歩くしかないかぁ...』
アンティークマップを操作してさっきまで寝ていた場所に念の為ピンを打ち、とりあえずマップを見て上方向に移動し始める。
どこまで行っても森森森。マップがあるので迷う心配はないものの、もしなかったらという想像をして少し震えていると、妙な存在に出会った。
黄色いスライム?「*プルプル...*」
『...??????』

...え?なんだこのプルプルした生物..生物か?これが?一応顔らしきものはついているが...っとと!
黄色いスライム?「*飛びかかる*」
『あっぶgふぇ!』
...今のは避けれたと思ったのだが腹部に直撃食らってしまった。そこまで痛くはないけどやっぱり痛いし何よりなんだこの粘液ヌメヌメしてうざい。
黄色いスライム?「*プルプル...*」
『...殺すかな。』
黄色いスライム?「*プルルル?!*」
...表情が変わったような気がしたが、おそらく気のせいだろう。ひとまずはすばしっこいので一撃で潰すことにする。適任なのは...シャベルだ。
『ふん!』
黄色いスライム?「*ピギャー!*」
..元々が小さいのもあるのだろうか、それとも直撃食らった対象を舐めていたからだろうか?横に薙ぎ払ったシャベルは見事にスライムに直撃し吹っ飛んだ。結構無理のある姿勢で攻撃したからかちょっと肩がいたいが、許容範囲である。
『よっこらしょ...まだ生きてるのか。』
黄色いスライム?「*フルルル...*」
『フン!』
黄色いスライム?「*グシャリ*」
...ものすごい疲れた。今自分がやったことはただ攻撃を一回食らって2回ほど攻撃をしただけだが、それでも疲れている。
やはりこの体は脆弱であるが、それでも少しわかったことがある。
『この世界はファンタジーでほぼ確定かな。じゃなかったらあんな生物モドキがでるはずがないし...そこから導き出されるものは「経験値」の概念。これが存在してくれれば一々筋トレといったものをしなくても十二分に強くなれる可能性がある。』
レベルを上げて、物理で捻り潰す。万物に通用する最適解のうちの一つである。
『そうと決まれば今後の目標は「レベル上げ」で決まり。明確な目標があるっていいねぇ。』
とはいったものの、空を見ると日が沈みかけ夕焼けを形成している。そろそろここいらでキャンプを作るのが良さそうではある。
幸いにも近くには川があるので水の確保は問題なし。食糧も木に生っているりんご似の果物を焼けばよし。
異世界の初日はさまざまな経験を...ん?
『...なんだろうこれ。』

妙なクリスタルを見つけた。半透明だがまるで影のように形が外見から掴めない。しかし触ってみるとどうやら正八面体のようである。
『なんだこれ...使い道もわからなければ一体どうかつy』
その瞬間クリスタルは光り出し、謎のパネルのようなものを形成する。

*[LV0|LP:100%|HP:8/10|ST:21%]*

『...名前がないのはともかく「LV0」?それにLP...安直に考えるならライフポイントから転じて「生命力」かな?%表記なのがなんか妙な...いや待て待て待て!』
すんなり受け入れそうになったがこれは死ぬほど重要なアイテムの一つ、「ステータス表示系」である。
これが存在するということは、存在すればの話だが他の人も設備さえあれば見れるのだろう。
だが、一番気になるのは「LV0」。普通ならレベルは1から始まるのが道理。0というのはどういうことだろうか?少し気になったのであることを試してみる。
『...今の自分の経験値はいくつ?』

*[LV0|EXP:5|NEXTUP:5|NEXTLV:---]*

...肝心のネクストレベルは数字が書かれていない。だがアップの方はどういう意味なのだろうか?
今手に入っている数字から察するに、さっきの黄色いスライムは一体につき5EXP落とすのだろう。
ちょうどいいところにいたりは...
黄色いスライム「*プルプル...*」
ああ、なんて運がいいんだろう。しかもどうやら気づいていないらしく、即座にシャベルを取り出して背後から叩き潰す瞬間にようやく自分のことを認識したらしい。
黄色いスライム「*プルpグシャリ*」
...何も起こらない。レベルが上がった時は何かしらの音楽が流れたり力が漲ったりするのが普通だと認識しているが...そこでふと、ある可能性に思い至る。
『今の自分の経験値は?』
案の定、出てきた画面は自分の想像通りだった。

*[LV0|EXP:0|NEXTUP:10|NEXTLV:---]*
*[STATUP:DEX+1]*

どうやらレベルが上がったとしてもそれは非常に「静かなもの」らしく、いちいち確認しないといけないようだ。非常に面倒くさい。
後で他のステータスも確認したいが、今は一仕事を終えて空腹だ。
『...そろそろ何か食べるかな...』
そういって、木の枝とりんごモドキを集め始めた。



[手に入れたもの]

  • 「”ステータスクリスタル”」
    • ステータスなどがいろいろ見れる。他にも機能はありそうではあるが少なくとも”自分”の記憶の中では見たことがなく使いこなせる気がしない。
  • 「りんごモドキ」
    • りんごそっくりな果物。緑色なのを除けば100%りんごである。焼くと美味い。

[新しく知った概念]

  • レベルシステム
    • 一般的なソレと酷似しているが、どうやら「経験値を一定数貯めるとステータスが上がる」のだけは共通で、レベルそのものはどうやら違うものを貯める必要があるらしい。

[新しく出会ったもの]

  • 黄色いスライム
    • どうやらこの世界の某青いスライム的ポジションらしい。非常に弱く、脆弱な自分でもシャベルで一撃で粉砕できる。

第四話[STATUS/NEXTUP]

『...二度寝したいなぁ...』
どうやら無事に朝日を迎えることができたようだ。万が一襲撃がきた時のためにナイフはつけっぱなし、荷物もしっかりと隠していたが何一つ盗られていないようだ。
新しい朝日を迎え、気分も上々。強いていうのなら米と肉が欲しかったが、無い物ねだりされても誰も幸せにならないのは目に見えている。
そんな話はさておき、昨日気になったことを早速実行に移すためにクリスタルを手に持ち、言葉を発する。
『今の能力値は?』

*[LV0(STATUP:+1)|LP:1]*
*[HP:1|STR:1|PER:1|AGI:1|DEX:2]*
*[INT:1|MP:1|ST:1|RES:1|LUC:1]*

昨日の情報を合わせると、どうやらEXPが一定数溜まるとここにポイントが割り振られるようだと自分は結論付けたが、一つだけ気になるものがある。
『「LP」って何?』
そう、「LP」である。珍しく%表記なこのステータスだが、一体全体どういった経緯でこうなっているのかまるでわからない。
だが、そんな独り言でしかないはずの呟きはクリスタルに届いたらしく、説明文が生成された。

*[LP:LifePoint. 対象者の存在的生命力を指し示す。なんらかの原因で減少した場合、
現在HP/MP/STの最大値及び他能力値が%分減少(端数切り捨て)し、
仮に0となった場合は存在の消滅、つまり永久的な死を迎える。]*

とんでもないほどに重要なステータスだ。書いてあることが正しければ、たとえとしてLPが75%になったとする。すると「HPとMPとSTが4分の3になり、能力値が25%マイナスされる」ということだ。
...正直こんなステータスは今までのどのゲームでも見たことがない。となると、他の世界の知識はほとんど役に立たないものと考えた方がいいだろう。
『..つまりLP=魂の耐久力..ってところかな?コレで謎も解けたし、進むかな。』

歩く。歩く。歩く。歩く。歩く歩く歩く歩く歩く...
『...疲れたぁ...』
スタミナが脆弱すぎる。あまりにも脆弱。たった大体3km(マップピン機能に二点の距離を測るやつがあったのでそれで計算)を歩いただけでこの始末である。
何を鍛えるにしろ真っ先に必要となるのはスタミナ。どれだけ決意があろうとスタミナがなければ長続きしないのでどうにか鍛えなければならない。
そんなことを考えて現実逃避しているが、いくら逃避しようとも動かない足という現実が待っている。
『小休止するかな......』
流石にここで止まるしかない。これ以上休憩なしで動くとなると、肉体の脆弱度合いから過労死する可能性もある。
水を弾く布(レジャーシートモドキ)を地面に敷き、いくつか取っておいたりんごモドキ焼きをゆっくりと味わう。
『...噛めば噛むほど甘味と酸味が溢れ出してきて本当に美味しいねこれ...』
そんなふうに舌鼓を打っていると、ふと気になったのでステータスを見てみる。

*[LV0|EXP:3|NEXTUP:7|NEXTLV:---]*

...道中で敵を倒した覚えはないが、なぜかEXPが手に入っている。一体どういうことなのだろうか?
『EXPを手に入れるには?』

*[EXP:ExperiencePoint. 対象者が積み立てた経験を示す。
手に入れる方法は様々で、最もポピュラーなのは敵を倒すこと。
また、敵を倒さずともある種の訓練をすれば微量ながらに手に入る。
この方法でステータスを上げれたなら、上がるステータスをその方法によって指定可能。]*

どうやら敵を倒すのが最も効率的だが、ソレだと上がるステータスはランダムらしい。
狙ったステータスを向上させたいのなら筋トレとかをしろということなのだろうか。
そんなふうに考え込んでいたら、持っていたりんごの匂いに引かれたのか例の黄色いスライムが5体いっぺんにやってきた。

5体いっぺんにである。

スライム「「「「「*プルプル...*」」」」」
『...詰んだかな。』
まずい。非常にまずい。一体一体ならシャベルで一撃で粉砕できる。だが今回は5体。5対1。圧倒的数的不利である。
スライム「「「「「*ジリジリ...*」」」」」
スライムたちはじわりじわりと近寄ってきている。...心なしかりんごに目線を向けている気がするので、りんごを遠くに放り投げてみる。
『せいっ。』
スライム「「「「「*ジリリリ...*」」」」」
ビンゴ。スライムたちはリンゴの方に移動をし始め、こちらのことは眼中にない。しかも綺麗にバラけてくれたからコレで粉砕できる。

~粉砕中~

一通りスライムを処理し終わったのち、ステータスを見てみる。

*[LV0|EXP:8|NEXTUP:2|NEXTLV:---]*
*[STATUP:HP+1 LUC+1]*

『よし、やっぱりあのスライムは一匹につきEXP5だね。』
予想があっていたことをしっかりと確認したのち、更新された能力値とステータスを見てみる。

*[LV0(STATUP:+3)|LP:1]*
*[HP:2|STR:1|PER:1|AGI:1|DEX:2]*
*[INT:1|MP:1|ST:1|RES:1|LUC:2]*
*[LV0|LP:100%|HP:20/20|ST:5%]*

『...え?』
妙だ。上がり幅が非常に大きい。HP(能力値)1PにつきHP(ステータス)10P。ゲームシステム的には欠陥しか産まないであろうこの方式にはあまりいい思い出がない。
その上「NEXTUPの数値がずっと10のまま」である。
普通ならレベルが上がると次のレベルアップに必要な経験値が増えるように、この数値も同じように増えていくのが道理。ソレが上がらないとなると...一体何が原因なのだろうか?
...考えても答えが出ない。少なくとも今は、この適当なシステムに感謝するべきだろう。



[知識が深まったもの]

  • NEXTUP
    • どうやらなぜか数字が10で固定らしい。ゲームバランス崩壊も甚だしい。
  • HPなど
    • 1Pにつき最大値10P。大雑把がすぎる。
  • りんごモドキ
    • 黄色いスライムの誘引剤となり得るらしい。囲まれた時のために複数個持ち歩いておこう。

第五話[./RUINED_TOWN]

しっかりと休息をとり、川の位置などもピン刺しして保存。

*[LV0|LP:100%|HP:20/20|ST:100%]*

スタミナが最大まで回復しているのを確認し、また上方向へと向かう。
『そろそろ何か変化はー...うん?』
マップの書き込みに変化が起こる。森を示すマークで埋め尽くされていたのだが、「何か石のような地面で構成されていることを示すマップタイル」が端っこに現れたのだ。
『これは...街であってほしいけど...』
岩山の可能性も考えたが、そうだとしたらこの距離からでもソレが見えるはず。ならばほぼ街しかありえないということで足早にそこに向かい始める。
『やっとまともな文明に出会えるかな。流石に長い間人と出会ってないとクるものがあるし、ここいらで誰かしらと関わりを持っておきたいしね。』
一番の望みは友達ではなく「己を強くしてくれる人間」。己の身体能力を鍛え上げてくれれば正直誰でもいいのが本音であるのだが...
『この辺でそろそろ森をぬk...え?』

眼前に広がっていたのは、街は街でも廃墟化した街だった。

『...ええ......』

予想外も予想外。ポストアポカリプスの可能性も考えてしまったが、あくまでこの都市が滅んでいるだけであると信じ探索を始める。
幸いにも道具は万能スコップにシャベルと充実している。道を塞ぐ蔦や木の枝なぞ容易く切り裂き削り落とせる。
『ほいほいほいほい...結構疲れるねこれ...』
ほとんどの行動を「できる限りの最小限の動きで、できる限りの最大限の効率を出す」。器用度の指標であるDEXを高めるためにはどうしたらいいのかと考えた末に編み出した訓練法である。
利点はこれによってほぼ確実にDEXが、たまにSTが上昇すること。欠点はまだ能力値が高くないのでどう動かすのかをいちいち考えて行動してしまい、ソレによって脳が疲れることである。
そして、ただスパスパ蔦を切り裂いているだけではない。ここは廃墟都市、ジャンクを漁り使えるものを探し出すスカベンジャーにとって、宝の山と言っても過言ではない場所である。...大半がゴミかもしれないが。
そこで使えるものを片っ端から捜索しリュックに詰める。これだけでも色々と使えるものが手に入るし、DEXを上げていけば可能となるであろう工作によってより高度なアイテムを作れるようにもなる。
そして何より、あまり上げる方法が思いつかないLUCが廃墟漁りによって上昇するのだ。
だが、ここを上記のDEXを鍛える手法で漁ってしまうとDEXが上がってしまう。そのため、漁る時だけめざとく貪欲に、全てを掘り返す勢いで漁ることにしている。

『...やっぱりどこからどう見ても現代都市だねぇ...お、救急キット?ラッキー。』

『耐熱ポットだやったー!これで煮沸とか色々できるから料理の幅が大きく広がるね!』
などなどそんなことをほぼ一日中続けていれば当然......



『...身体中が痛い...眩暈もするし......もう...動けないや......』

このように仰向けで気絶しかかりの瀕死状態になる。幸いにもこの周りに敵影はなく、屋内だが窓からの逃走経路もしっかりと確保した上で出入り口を封じているので外で寝るよりも圧倒的に安全である。
残念だったのがベットが植物の苔まみれになってまともに使えない状態だったので遠くに捨てた上で(バレないように)焼却せざるをえなかったことだが、耐熱容器が複数手に入ったことで食品加工の幅が非常に広がったのはかなり大きいだろう。
『...経験値...能力値...ステータス...』
弱々しい声で呟きながら宝石を握りしめ、ステータスを表示させる。

*[LV0|EXP:1|NEXTUP:9|NEXTLV:---]*
*[STATUP:STR+1 DEX+5 INT+1 ST+3 LUC+2]*
*[LV0(STATUP:+15)|LP:1]*
*[HP:2|STR:2|PER:1|AGI:1|DEX:7]*
*[INT:2|MP:1|ST:4|RES:1|LUC:4]*
*[LV0|LP:100%|HP:12/12(-8)|ST:2%]*

『...はぇ?』
めっちゃ成長したのはいいがなぜかHPの最大値が減っている。一番の原因と思えるのはスタミナだが..
『...スタミナの詳細...』

*[ST:StaminaPoint. 対象者の残存持久力を示す。ほぼ全ての行動で消費していき、
攻撃行動といった特に激しい行動は消費量も激しいものとなる。
仮に0%になってしまうよう消費しようとした場合、HP最大値を一時的に消費して一定量補充される。
この時超過した分の体力は一時的に消滅し、補充量はHP及びPERに依存する。
これによって消費されるのは元の最大体力の半分までであり、これを超えて消費しようとした場合は
強制的に気絶し、25%に回復するまで一切の行動が不能となる。
消費した分の体力を回復させるには、STを100%にした状態で追加で休息行動をとる必要がある。]*

『わぁ...』
...どうやら今はかなりギリギリの状態らしい。途中でなんか急にHIGHになった気分に陥ったが、どうやらそれは最大体力を削ってまで動いていた空元気に近い状態だったかららしい。
にしてもここまで成長していたからには途中で楽になってもいいはずである。だがいつまで経ってもずっと同じだけの負荷がかかり続けていた。これから導き出されたのは...
『..もしかして、一度ステータス見ないと反映されない?』
なんともまぁ面倒臭いシステムである。もし仮にソレが正解だった場合、戦闘中に急成長するロマン溢れる伝統芸ができないではないか。
『...今日はもう...寝よう...お腹減った...りんご...』
あまりにも行動しすぎたせいで語彙力が完全に崩壊していたが、それでも慣れた手つきでりんごを食し、そしてそのままレジャーシートの上に倒れ込み死んだ人間のように眠ることにした。



[手に入れたもの]

  • 救急キット
    • 薬品の類は入っていなかったものの、伸縮性のある清潔な包帯が4セット入っていた。万一の怪我に役に立つし、素材としての使い道も多岐にわたる。
  • 道具箱
    • 内容物はまだ確認していないもののずっしりと重い。重さから少なくともレンチの一本は入っているだろう。
  • 耐熱ポット/耐熱容器
    • 料理の幅が大きく広がる道具。特にポットが手に入ったことで"煮る"という動作が可能になったのはかなり大きい。
  • その他色々
    • 手当たり次第にリュックに突っ込んだものがちらほらあるが残念ながら確認する余裕は今はない。起きたらじっくりと確認しよう。

[知識が深まったもの]

  • ST
    • かなりややこしいシステム暫定一位。文字通り身を削って動いていることに気づけないのはかなりやばいと思うが、それでも強くなれたのでヨシ。

_log1.echo[investigate.]





[未知のログエントリを検出]
[スキャン中..........]
[WARN:command-injection detected.]
[User logging in detected:root]
[root$~ --nolog server:■■■.■■■.■■■.■■■/removewarn.exe]
[All "warning" logs have been successfully deleted.]
[root$~ play ./log1.echo]
[ログを再生します...]




未知の存在が出現したであろう地点には妙な痕跡が残されていた。
リーダー「...なんだこれは?」
調査員1「一撃で潰されたムチンの”死骸”ですね。」
ムチンは非常に一般的なモンスターであり、かのナメクジよりは強いとされているがそれだけの、所謂スライム的なポジションである。だが、この死骸は妙なことになっている。
調査員2「...ここまで綺麗に潰せるのは相当な手練れですよ?それに...死骸としてわかるレベルに残っている。」
リーダー「確かにそうだな。普通モンスターは倒された上で素材を取られたら綺麗さっぱりに消滅する。だがそれがないとなると...素材を回収していないのか?」
調査員1「失礼します。この地面の凹みに切り込みの入った枝...おそらくシャベルによるものかと。」
調査員2&リーダー「「シャベル?」」
調査員2「ただのシャベルで切り込みを入れれるのか?」
調査員1「しっかりと研いでおけば斧程度の火力は出せます。現に太古の世界大戦ではこの研いだスコップが猛威を奮っていたという記述があちこちから見つかるわけですし立証は取れているかと。」
リーダー「......妙な時空の魔道的揺らぎを検出から来てみたがこれとなると...」
調査員2「もし仮に本物のシャベルを使用していたとするのなら...恐らく知性体でしょうね。」
リーダー「...調査を続けよう。場合によっては討伐も視野に入れなければ。」
彼らは痕跡を追って、未知の存在の居場所へと歩みを進める。
この地に何が来たのかを調べるために。





[root$~ --nolog rm -rf ./sys/log/today]
[All "today"s logs have been successfully deleted.]
[root$~ --nolog server:■■■.■■■.■■■.■■■/forkbomb.exe]
[executing...]
[executing...]
[executing...]
[executing...]
[executing...]
[executing...]
[FATAL:Out of Memory detected. Forcereboot is processing...]

第六話[DATA/DAY]

...長い間睡眠していたようだ。どのくらい寝ていたのかはわからないが、凄まじい空腹から察するに少なくとも"二食分の時間"寝ているのは確かだ。
近くに川があるはちょうどよかった。昨日手に入れた耐熱容器ポットに水を汲み、キャンプファイヤーの上に熱伝導が比較的いいプレートを乗っけてその上にポットを設置。あとは沸騰するまで待つ。
待っている間は食料探し。昨日どかどかと突っ込んだ荷物を整理していると...
『...スマホだ。』
偶然にもスマホを見つけることができた。


『スマホ...スマホあるのかぁ...』
頭を抱えるレベルで混乱している。ファンタジー世界かと思ったらポストアポカリプスの可能性もあり、それどころか所謂現代+ダンジョン物の可能性すらも出てきたとなるともう可能性を絞り切ることはできない。
だが、ある賭けに勝てばこの疑念を完全に払拭できる。
『...持ち主には申し訳ないけど、中身を見るしかないよね。緊急避難緊急避難。』
スマホから情報を取り出せればどういう世界なのかをかなりの精度で識別できる。もし仮にネットに繋がってくれれば偉大なるグーグル大先生の知識の一部も借りることができ、できることがかなり広がる。
だが、それをするにはまずパスワードを突破する必要がある。
『...1234、なーんてn[ピロン♪]...え?』
......どうやらあっさり開いてしまっt..てえ?開いたの?え?
...凄まじく拍子抜けどころかもはやなんだこれは。
『うーん...まぁ、元の持ち主に感謝しつつもうちょいセキュリティ意識を高めてほしいかな。まぁ、生きてたらの話だけどね...』


先ほどのスマホだが、ネットには普通に繋がった。だがどうも更新がある日にちで止まっている。
その日にちが、「創造暦6年1月23日」らしく、今日の日付は同年3月24日。創造暦の起源がなんなのかはわからなかった。
そしてどうやらこの世界、調べる限りでは現代のあれこれもありながら魔法といったファンタジー概念が存在する。正直己の頭の発想ではこの可能性は思い浮かばなかったため普通に驚いている。
『...なんで1月23日で更新がピッタリと止まっているんだろう?』
疑問の一つがこれだ。スマホがあるのでと簡単にググってみたが所謂5chanのような掲示板も普通に存在しており1月23日までは普通に活動していた。もし仮に世界が滅亡したとするのなら、この後に何かしらの投稿があってもおかしくないはずである。
『「唐突に消えた」...一番しっくり来るのがそれだけど、にしてはあの痕跡もあるし...』
昨日のスカベンジしている時の話なのだが、、明らかな戦闘の痕跡(切り付けたようなあとと弾痕のようなもの)が集中している箇所が見つかったのだ。当然安全策をとって今の拠点はそれから遠い場所に設立されている。
...考えていてもしょうがない。そう結論付けてこのスマホをポケットにしまい...そこであるものを発見した。
『カンパンだね。』
昨日どかどか放り込んだ荷物の中にカンパンが見つかった。封は切られていない上賞味期限は来年の4月なので問題なく食べることができ、久々の塩味に気分が上がるのだった。



[新しく知った概念]

  • 創造歴
    • 何かが創造された時を基準にしているのはなんとなくわかるが具体的に何を基準にしているのかは不明。

第七話[knockdown.]

人の気配がする。何者かが近づいている。
『(...独り言は封印しておいた方がいいね。)』
耳をすませ、足音を注意深く聞き取ろうと試みる。
幸いにも耐熱容器といった荷物類はリュックの中だし、武器は手元にある。特に問題はない。
男性の声(落ち着いた声)「...この辺り、明らかに最近何者かが出入りしているようです。」
男性の声(少し低め)「例の知性体はこの辺りで間違いなさそうだな。気をつけておけ。」
少年の声「...話が通じる相手だといいですけど...」
どうやら己がどういう存在なのかをなんとなく把握できているようだ。...彼らは自分のことを舐めている気がする。「話が通じる」などという幻想は捨てておくべきだろう。当然、その可能性が当たって無血でことが済めばハッピーエンドである。だが、己は「強くなることを望んでいる」。糧にできるのなら、そしてそれを望んだのだら、容赦なく”倒す”。
残念ながら、己は望んでいる。彼らを倒すことを。


ナイフがわりのスコップを取り出し、深呼吸をする。深呼吸をする。深呼吸を重ねる。心を落ち着かせる。これからすることへの忌避感を消し去る。強さへの渇望を引き出す。罪なき者を倒すことを受け入れる。深呼吸。深呼吸深呼吸深呼吸深呼吸深呼吸................
落ち着いた。
『...(相手が開けてきたら”やる”。)』
扉はいつ開くのだろうか、待ち遠しい。
これが終われば、強くなれる。

男性の声(少し低め)->リーダー格の装備持ち「この部屋g..誰だ!」

 来た。 
『来た。』

男性の声(落ち着いた声)->研究者っぽい人「今アナライズしm...”LV0”?!」
少年の声->少年兵「レベル0...?それってアナライズで無機物や死体を調べた時にしか出てこない表記なんじゃ...」

 死体? 
『死体?誰のことを言っているのでしょうか?』

研究者っぽい人「......あなたは”何”ですか?」

 自分は自分。 
『自分は自分です。』

リーダー格「......どうやってここに来たか、覚えていたりはしないか?」

 それは覚えている。 
『それは覚えています。死んで生き返った時はここにいました。この言葉の概念があるのかはわかりませんが、異世界転生ですね。』

少年兵「じ、じゃあ...この世界のことについてあまり知らないみたいですし...私たちと一緒に施設n」
 ダメだ。強くなれない。 
『嫌です。強くなれないので。』
少年兵「...つ、強く?」
 己は強くならなければならない。 
『自分は強くならないと。』
リーダー格「...何をもって強くなりたいのかは一旦置いておくとして、施設に来れば訓練を受けれる。ならそこで強くなれるだろう?そこまで短絡的n」
 訓練よりも殺し合いをした方が圧倒的に経験値が手に入る。 
練習よりも本物の殺し合いをした方がもっともっと強くなれます。
研究者っぽい人「......な、ななな...何をいって」
 『まずあなたたちを拷問して、本拠地を探ります。この過程でDEXとLUCが成長するでしょう。
次に素早く確実に殺し、DEXを育てます。あとは本拠地に殴り込んで望む方法で屠っていけば”強く”なれます。
今の自分にはSTが足りません。そのため訓練をしようにもすぐにバテてしまい、まるで長続きしません。なのでここで経験値を手に入れて成長すれば、今後効率的に訓練ができるというわけです。納得しましたか?』
 

三人「「「 . . . . . . . . . 」」」
『金的キック』
リーダー格「*グギャッ?!*」
一人目。
『鳩尾パンチ』
研究者っぽい人「*ガヒュッ*」
二人目。
少年兵「......あ...え...?」
『首筋手刀。』
少年兵「*ア゜*」
三人目。...こうも簡単に終わってしまうと、あっけないものがある。
『経験値、能力値、ステータス。』

*[LV0|EXP:1|NEXTUP:9|NEXTLV:---]*
*[STATUP:STR+3 AGI+7 DEX+10 INT+2 ST+4 LUC+4]*
*[LV0(STATUP:+45)|LP:1]*
*[HP:2|STR:5|PER:1|AGI:8|DEX:17]*
*[INT:4|MP:1|ST:8|RES:1|LUC:8]*
*[LV0|LP:100%|HP:20/20|ST:75%]*

無力化でもかなり美味しい。つまり蘇生した上で自らに突撃させるよう誘導すれば無限に経験値が手に入る...かもしれない。だが今は...



『...拷問するかな。』





[被害者]

  • リーダー格の人
    • 臨機応変にトラブルに対処できることを買われ次元の歪み探索体のリーダーに抜擢された人。本来これは危険度が低いはずなので、後述する少年兵の護衛権教育役の面が強かった。
  • 研究者っぽい人
    • いわゆるスカウト。フィールドの痕跡から罠などを見抜くことに長けており、身につけている衣服もそれ用にチューニングされている。だが、今回の相手はあまりにも未知が過ぎた。
  • 少年兵
    • 入隊して間もない少年兵。経験も知識も足りないため未熟であり、こういった危険度の低い任務に駆り出されて経験を積むのが通例。今回の任務は危険度が低いはずだった。

[深まった知識]

  • ”LV0”
    • ......自分は、死体?

第八話["organization".]

気絶してるうちにあらかじめ固そうなプロテクターなどを脱がせてから結束バンドで拘束し、シャベルで峰打ちをしてリーダーを叩き起こす。
リーダー格「*グッ?!*」
『起きましたか。まず、あなたの組織名を答えてください。』
リーダー格「......」
......まぁ、無言なのはわかりきっている。正直、拷問なんぞやったことないのでどのように痛めつければ効率的に情報を吐かせられるのかなんてわかったもんじゃない。
なので、個人的にやられたら死ぬだろうなって攻撃をやってみることにする。
『足小指ストンプ』
リーダー格「グッ....」
『......やっぱり子供の考えることじゃあ大人を超える事は出来ないみたいですね...』
リーダー格「一体何が目的なんだ?」
『さっき言いましたよ。「強くなること」だって。』
リーダー格「何のために?」
『この世界に生まれ落ちた時からの一種の使命のようなものですよ。』
少年兵「う...う~ん...?」
『あ、起きたね。』
ここで少年兵が起きてくれたのはとても好都合だ。大人二人と違い精神が未成熟ゆえ粗雑な拷問でも効果的に心にダメージを与え、情報を獲得できる。
問題なのは肉体強度が低いことが多いのでうっかりすると殺しかねないことだが...まぁその時は経験値になったと捉えておけばいい。
『ちょっと君に聞きたいことがあるんだけど、良いかな?』
少年兵「ッ?!」
『君が所属している組織の名前を教えてくれるかい?』
少年兵「......」
『教えてほしいな。』
少年兵「......」
...うーむ...訓練がしっかりしてることに賞賛すれば良いのか自分の技術が未成熟なことに嘆き悲しめば良いのかわからないのが......
ひとまずここは頭を鷲掴みにしつつ、目をしっかりと合わせてから会話すればいい。
『*ガシッ*』
少年兵「ヒィッ?!」
『 教 え て ほ し い な 。 』
少年兵「*ガクガクブルブル*」
『......』
困った。ここまでしてもまだ理性が勝つとなると、本格的に暴力に訴えなけれb
研究者「リーダー、組織名なら知られても問題はないでしょう。それにこれ以上彼をイラつかせるような真似をすると...」
リーダー「...彼はここで死なれると困る。しょうがない、ここで明かすしかないか...」
全部聞こえているのがアレである。というかいつの間にか起きていたのか研究者。だが会話内容が不穏...ここは一つ、聞こえていないフリをしてみるとしよう。
『...知ってるかな?人間って手足合わせて爪が20枚あるんだよね。早く話してくれないt』
リーダー「DCO機関...その非公式支部だ。」
は?
少年兵「リーダー?!」
リーダー「損失を天秤にかけた結果、こうした方がいいと判断しただけだ。」
....は?
『...失礼、今なんといったのか少し理解しかねるものだったのですが...”DCO機関”?』
リーダー「知っているのか?」
『あくまで知識としてだけです。...正直、実在してて欲しくなかったですが。』
リーダー「どうやって知ったのはか置いておくとして、それは一体どういう意味だ?」
『あなた方のような組織が存在することは人知を超えた魑魅魍魎どもが存在することの証明になってしまいます。自分は強くなりたいですが、そのためには死なないことが重要。死にかけることで強くなれるかもしれませんが、死んでしまったら元も子もない。』
...プランを変えよう。今襲撃をかければ壊滅はさせられるかもしれないが多分その過程で死ぬだろう。己の想像を超えたよくわからん物体が万一にも攻撃的に使用されたら下手すると己という存在が消滅する可能性もある。...前世でしっかりと読み漁っておくべきだったか?
『...先ほど皆殺しにするとかいった事は謝ります。申し訳ございません。結局のところ、自分は脆弱で情弱なのでしょう。』
研究者「.........」
『ですが、いくら情弱でもある程度の情報は持っています。その中での知識の質問なのですが、レベルという概念は少なくともDCO機関には存在し得ない、相容れない概念だったような気がするのですが...そこは一体どういう事でしょうか?』
研究者「...レベルは世界共通の常識ですよ?敵対的オブジェクトの強さ的指標にもなり得ますし使わない手はないですが...」
...自分の知るDCOにレベルなんてものは無い。この辺は完全に”本家”ではないのだろう。
知りたかった情報は知れた。だが...正直このまま返すわけにもいかない。放置して元の場所に返したとして、次の日分隊が来ましたとかになってしまった場合、蹂躙されるのが関の山。
『...やっぱりこの世界は自分の想定の外のようですね...』
そう認識を改め、ひとまずはこの三人の処遇を考えることにしたのだった。



[新しく知った概念]

  • DCO機関?
    • 大元とは違い「レベル」という一般常識から考えて異常とも言えるものを常識として使いこなしている上少年兵がいたり自らを”非公式”と言っている辺り、本家ではない事は確かである。*1

第九話[CRAFT]

結論から言うと、彼らは解放することにした。食料問題もあるが一番は救出隊とかち合ったら死ぬからである。
『...何であんなトチ狂った結論が出たのかなぁ?』
思い出すは三人衆と相対した時の話だ。冷静だからこそ言えるが、あの時の思考回路は完全にバーサーカーを超えた何かである。強くなるのはいいが、あそこまで凶暴な方法だと自分が先に死ぬのが先だろう。
『......』
手のひらを見る。若干灰色にくすみががっており、心なしか輪郭ががぼやけているように見え、それが謎の不安を煽る。
『...しっかりとした武器と道具作ろうかな。いつまで経ってもマルチツール(万能シャベル/スコップ)頼りだと強度的に不安があるしね。』
あれらは頑丈に作られているとはいえ、武器としての想定はされていない。道具としての強度は十二分にあるが、だからと言って武器として使い続けた場合は修復不能な損傷を負う可能性もある。そうなるのは避けたい。
『...道具箱、結構充実してるね。』
先日手に入れた道具箱だが、非常に中身が充実していた。どうやらこれも自分が持っているバックパックと同じ仕組みが使われているらしく中から出てくる道具の量と箱そのものの容積が一致していない。
だがそれはどうでも良く、出てきた道具は本当の意味で多岐にわたっている。軽くみただけでも、

  • ペンチやドライバーといった一般的なもの
  • はんだセット&テスター
  • ガチの砥石(荒いやつから細かいやつまで色々)
  • バーナー

などなどなど...これらがあればある程度のものならその場で作れてしまいそうではある。
『近接武器もいいけど一番足りないものは..遠距離武器だね。』
現状近接で殴り潰す以外の攻撃手段を持たない自分は遠距離攻撃をしてくる敵と相対してしまった場合即死する危険がある。ならばまずはそこを埋め、そこから近接を充実させるのがいいと判断した。
だが、遠距離にも色々ある。極論言って仕舞えばその辺の石ころも投擲すれば遠距離武器ではあるが、いかんせん火力が足りない。一番強いのはクロスボウのような複雑な機構で高い火力を叩き出すやつであるが、材料の加工が難しい。銃に負けないレベルの物を作ろうとすれば木材フレームではなく金属を使う必要がある以上現状ではまともに加工する事は叶わない。
...ひとまずは加工が比較的簡単な遠距離武器を作ることにする。


『この木の棒が一番良さそうだね。ついでにこの動物の骨...いや人骨だね。まぁいいや素材だし。...あ、スライムだ。煮ればいい感じの接着剤になるかな?』
哀れなことに見つかってしまったスライム「*プルルル?!*」
今作ろうとしているのは動物の骨と木を組み合わせて作る複合弓(コンポジットボウ)である。金属と比べるとさすがに劣るものの、ただの木製より強度と火力が勝る。
最初クラフトするのならなんの捻りもないただの弓でもよかったのだが、それだと簡単すぎて経験値が入らない可能性がある。真に強くなるのなら、こう言った部分でも細かく拘らないといけないのだ。
『あとはこの乾燥させた蔦を編んでー』
生きたまま煮られているスライム「*ブルジュゴポポポ....*」
『ビンゴ。見事に接着剤みたいになってるね。で、張り合わせて編み込み蔦で固定して、乾燥させつつ張り合わせて....出来上がり!』
最初にしてはそこそこの出来と言ってもいいのでは無いのだろうか?
生きたまま弓として加工されたスライム「*ジュジュジュ...*」
『...あれ?』


生きたまま加工したのがまずかったのだろうか?弓そのものがなんか生きた武器になっている気がする。
『...えーと、意思疎通ってできる?』
弓として生きる羽目になったスライム「*ウルジュジュジュ...*」
『...怒ってる感じ?』
焼かれる苦痛を訴えるスライム「*ジュジュジュジュジュ!!!*」
『わわわわ?!』
なんだこれは。ただ持っているだけなのに物理的に振り回される。飛んだじゃじゃ馬を作り出してしまったものだ。
...いや、待てよ?
『...定期的にりんごの液体を染み込ませるから大人しくなってほしいけど、どうかな?』
餌に釣られてしまうスライム「*ジュラ!*」
...やはりスライムはスライムだった。



[新しく手に入れたもの]

  • 生体複合弓(リビング・コンポジット)
    • 人骨とか言う怨念がこもっている物にモンスターとはいえ生きる物をそのまま加工したものを合成するとか言う倫理がぶっ飛んだ加工をした結果生まれてしまったとんでもない魔弓。修復素材がりんごの汁で済む(本来はノーコストだがスライムが要求する対価を支払わないと働いてくれない為こうなった)他植物素材も組み合わせたからか成長する性質を持っている。...が、それを知るのはだいぶ先の話である。

第十話[Ranged.]

レシートと棒で作った間に合わせの矢をつがい、弓を引き絞る。スライムには「引き絞る時は力を抜いて、ある程度までいったら力んで」と指示することにより、引き絞るときは軽い力で、放つ時は強い力で発射できるようになると考えた実験の成果は上々。狙い通り比較的軽い力--それでもだいぶきつい--で引き絞り切ることに成功した自分は適当な的...壁につけた印を狙い放つ。
風を切る音が響き、壁に命中...したはいいものの、壁にヒビが入ると同時に矢が粉々に砕け散ってしまった。
『...木製だと耐えられないかぁ...』
完全な誤算である。当然衝撃という面では相当に強いものの「敵を仕留める、ないし退却させる」という面で見るとこれは欠点になりうる。
どういうことかという話になるが、簡単にいうと「矢が貫通しきってどっかいくのは困る」のである。
ただ突き刺さりそのままになった場合、矢を引き抜いて手当てするときに傷口が広がるなど手間と痛みが発生し、そこで接近や行動を止めることができる。だが貫通しきってしまった場合は矢の回収は望めない上引き抜く手間がないので比較的簡単に手当されてしまうのだ。
ならば頭を狙えばいいのでは?ともなるが、その場合普通の威力の弓矢でも十二分に即死が狙える。
つまり完全に過剰火力故の産廃になってしまったのだ。...最も、木で貫通することができない防具に対してなら意表をつけるかもしれないが。
『...まぁいっか!先端をゴム弾みたいにすれば多分殺さずに無力化できるしね。回収はもう諦めよう。』
すぐに妥協案を考えて実行に移す。当然、これぐらいの素材と手間なら手持ちの道具箱でも楽にクラフトできるどころか矢尻の素材を安上がりにできるのは大きい。


ゴム矢をつがい弓を引き絞る。ギリギリと音がするが関係なしに仮想敵たるマネキンヘッドに狙いを定め...放つ。
狙いそのものは残念ながら外れてしまうが、背後にある木製の板でできた間に合わせの壁を見事に破壊する。
『うっわぁ...』
貫通し突き刺さる攻撃ではなく「飛ぶ打撃属性攻撃」として見出してみた結果がこれである。これは頭に直撃したら脳震盪どころではないだろうし、肩か肘に当たったら脱臼ですめば幸運、ヘタをすると衝撃によって関節の筋肉がネジ切れるまで曲がってしまうかもしれない。
嬉しそうな弓スライム「*ジュラジュラ♪*」
『...やっぱりある程度知性あるっぽいけど...』
無いフリをするスライム「*ラージュラ*」
『...今日はりんごジュース抜き。』
猛抗議するスライム「*ジュジュジュジュジュジュ!!!!*」
『わーごめんって冗談だから!りんごジュースあげるから暴れないで!!!』


今度はあえてスライムに何も指示をせず、自分の力のみで引き絞り発射する。
戻る時の力も弱い為、木壁どころかガラスにヒビを入れるのが精々であるものの、大雑把にだが威力調節ができることがわかった。...スライムにもう少し知性を仕込めばもっと細かくできる気がしないでもないが、肝心のスライムの自我が強すぎるのでやめておくことにする。
何も指示されないことを不思議がるスライム「*ルールル?*」
『...何もあの威力だけしか出ないだと自分が困るんだよね...』
脳筋が全てなスライム「*ルルブルル!*」
『嫌だから...ってかなんとなくニュアンスわかるし知性あるよね?』
無いフリをするスライム「*ラージュラ*」
『......』
...本当になんなのだろうかこれは。



[深まった知識]

  • 生体複合弓(リビング・コンポジット)
    • ゴポゴポ言う音をうまく組み合わせて感情表現や意思疎通をするあたり知性はかなり高く、おそらく人間の子供並みかもしれない。いわゆるAIじみた従順な個体がいてくれさえすればもっと高度なものが作れる気がする。
    • [言語(?)パターン]
      • 「*ジュジュジュ*」:基本系。強調されたり暴れていた場合は怒りを示す。
      • 「*ジュラ*」:りんごジュースをあげると発言した時によく発することからおそらく肯定を示す。
      • 「*ラージュラ*」:知性あると聞いた時に無いフリをするがその時によく発することから恐らく否定を示す。

第十一話[magical potential.]

遠距離ができたのなら近接武器も作るべきではある。だが既に鉄製のものを使ってしまっている以上、石製のものを使うのはちょっと...いやあまりやりたくない。
なので鉄に限らず何かしらの金属を加工する手段を確保する。
幸いにも前世の知識により七輪をちょいと改造することにより石を溶岩にできるレベルでの高温を発生させられるのは知っている。ならばうまくいじればもっと高温...それこそ金属が加工できるレベルにまでいけるのでは無いのだろうか?
『思い立ったが吉日!レッツスカベンジ!』
もはや仲間なスライム「*ジュラジュラ!*」
『...やっぱり知性あるよね?』
相変わらず否定するスライム「*ラージュラ*」


ここで一旦自分のステータスを確認しておこう。

*[LV0|EXP:1|NEXTUP:9|NEXTLV:---]*
*[STATUP:DEX+5 INT+3 MP+5]*
*[LV0(STATUP:+58)|LP:1]*
*[HP:2|STR:5|PER:1|AGI:8|DEX:17]*
*[INT:7|MP:6|ST:8|RES:1|LUC:8]*

生体複合弓(リビング・コンポジット)を作った時の経験値でMPがいくらか伸びた影響か、どういうわけか...オーラのようなエネルギーを感じ取ることができるようになっていた。
だが、いくら感じとれどもそれをしっかりとした魔法として打ち出すことは叶わず、できて魔力の塊をぶつけることだけだ。それも、まるでその辺の水をぶちまけたかのような威力で。
...それでもある発見があった。
『...深呼吸...循環...よし。』

*身体強化10%.
*ニューラルヒート冷却90%.
*ニューラルヒート:0%

どうやら某廻る世界のように身体能力の強化ができるのだ。...だが、かなりシステムは難解である。
まず、既存のMPシステムではポイントとして表され、”使えば減る”。だが、この世界では上のように最大100%としてほしい機能にMPを”割り当てる”のだ。ちなみに未割り当ては自動的に「ニューラルヒート冷却」へと割り当てられる。
今現在は身体強化しか使えないものの、それでもかなり世界が違う。疲労がいつもより溜まりにくいし、純粋に足の速度も上がっている。
...ニューラルヒートという単語が出てきたが、これはいわゆる”排熱”である。割り当てを冷却以外に割り当てた場合、ニューラルヒートが溜まり始める。これが一定量貯まるとMPを使用する各種行動にデバフが入るほか、100%になった場合は勝手に全てのリソースが冷却に割り当てられてしまう。
...関係ない話になるが、自分はこの単語に一種の絶望を覚えた。
『ニューラルヒート...この単語が出てくるのはあのゲームしかなかった気がするんだよね...』

「RIMWORLD」

”最底辺の世界”といった意味合いを持っていた気がするその言葉は、なんともまぁ恐ろしい世界を舞台にしたゲームの名称でもある。
仲間だったものが転がるのは日常で、人身売買やら奴隷やら食人やら生贄やら...倫理がどっかいってるせいでもはや半分世紀末なその世界。
そんな世界に落ちてしまった三人のストーリーを生成する...というのが主題であるが。
『...システムは違うけどこれ完全にrimのサイフォーカスだよね...』
詳しく話すとなると非常に長くなるものの、簡単にいうと脳内にできる消費可能な神経系組織...だったような気がするが、ともかくそのような物質であり、一定量消費することで超能力じみた何かを起動可能である。...だがその原理がだいぶ怖いのだ。
かなり噛み砕いて説明するが、[要クリアランス:T/P]にこの神経系を使って干渉して[要クリアランス:T/P]の認識を曲げ、望む効果を現実に卸すというもの。もしこの仮説がこの世界でもあっていたとしたら、それは[要クリアランス:T/P]の存在を認めることになってしまう。
『...いてほしくないなぁ...』
[要クリアランス:T/P]は言ってしまえば邪神そのものにかなり近いと言える。なぜなら己に限らず管理する星になんらかのイベントを巻き起こしたりとめちゃくちゃするわけであり、やられる側からすればたまったものではない。
『......考えるのはやめ。とりあえず目の前のことに集中しないと!』
こればっかりは考えるとどんどん悪い方向に向かっていくので考えないようにする。今やるべきことは、金属加工ができるだけの設備を手に入れることなのだ。



[新しく知った概念]

  • magical potential(魔術的電位)
    • 全く異なる仕組みでの魔法発動の仕組み。どうやら魔素とも違うらしい。上がれば上がるほど割り当てた時の効率が上がり、排熱が少なくなる。

第十二話[twoshot.]

歩いて歩いて歩いて歩く。疲れはMPを身体強化に割り当てているおかげで全くないが、妙な気配を感じ取る。
静かに。何かいるよ。
スライム弓に指示をして音を出さないようにする。耳を澄ませると...会話が聞こえてきた。だが妙なことに大雑把にしか意味を理解できない。
男性っぽい声「[いない][周辺][目的?]」
女性っぽい声「[怒り][疑問][であるはず?][存在]」
男性っぽい声「[怒り][殺害][お前?]」
女性っぽい声「[怒り][殺害][お前?]」
『(...逆になんで大雑把に理解できるんだろう?)』
所々怪しい部分はあるが喧嘩をしていることはわかる...が内容が物騒。言語が違うことからDCO機関の仲間ではないと判断して目の前の敵を倒すことに精神を集中させる。

*身体強化50%.
*ニューラルヒート冷却50%.
*ニューラルヒート:6.8%(+0.7/s)

万一逃げられるようにMPを身体強化に半分割り当てる。ちなみに今現在の実力では100%割り当ててもせいぜいが1.3倍くらいであるが、正直弓を接射すればワンパンできるのでどうでもいい。
弓を静かに引き絞り、敵が来るのを待つ。ああ、この待っている時間がどういうわけか恐ろしいほどにじれったく、待ち遠しくて渇望が湧き出す。
...渇望?
真っ黒の男性人型「[怒り][殺害][存在-はず?][どこ?]」
きた。きた。来た来た来た来た来た来た来た来た!!!!!!
...少し落ち着かないと。目の前の人が逃げてしまう。そう、ゆっくり確実に、頭を狙って矢を放つ。
真っ黒の男性人型「*ゴグシャァ*」
頭は首を起点にちょうど180度真後ろに折れた。倒せた(殺せた)倒した(殺した)倒した(殺した)倒した(殺した)倒した(殺した)倒した(殺した)倒した(殺した)
真っ黒の女性人型「*叫び声*!!!!!!」
もう一人は背中を見せつけている。ただの鴨だ。
ちょうど背中のある部分をよく狙って矢を放つ。その矢は最も容易く脊椎を砕き半身不随へと導く。

真っ黒の女性人型「*狂ったような叫び声*!!!!!!!!!!!!!!!!!」
...ああ、哀れだ。どうしてこんなところにいるのだろうか?彼女は不幸だっただろう。自分がいたから倒されることになったのだから。
ゆっくりと確実に、しっかりと倒せるように、しっかりと見えるように弓を弾き絞り、逃げられないよう肩を足でふんずける。

真っ黒の女性人型「*[懇願][逃げる][渇望][逃げる][逃げる][渇望][懇願][懇願]!!!!!!!!!!*」
『おやすみなさい。』


...Why did I do "this"(なぜこんな事をやらかしたのだろうか)?
何か赤い思考回路に支配されたのかと思ったら気づけば人型だったものが二つ転がっている。少なくともDCOの類ではないし、この顔に彫られているペイントタトゥー?はどういうわけか見覚えがある。
『..."宙賊"だねこれ。』
宙賊。銃とかロケットとかを持って近くの基地を荒らし回って略奪して虐殺もする、Rimの倫理0筆頭である。
どうして己が彼らの識別タグの一つでもあるタトゥーのパターンを覚えていたのかはわからないが、少なくともある仮説が出来上がってしまった。
『...ここはRimだね。』
ここがあの最底辺の世界であるという確信。そして、
『"殺しの渇き"かな?さっきの赤い衝動は...』
定期的に殺害をしないと精神崩壊を引き起こすようになる特異な遺伝子改造が組み込まれている可能性。
前者はRimでないと説明がつかず、後者は......なぜか妙に清々しい気分なのだ。殺害という恐ろしい行為をしたはずなのに。
とりあえず深呼吸をして、解体する。物理的性質はともかく、魔力的な素材という面では人間は非常に優秀な素材なのは既に立証済みである。
『スライム。今から君を強くするよ。リンゴジュースもたくさんあげるよ。だから...取り込めるかい?』
目の前で始まった惨状にドンびくスライム「*ジュ...ジュラジュラ!*」
『うん。じゃあ、パーツを切り出すから合図したらよろしくね。』
承諾したことに後悔するもハイしか言えないスライム「*ジュラ*」
どっちにしろ、強くなれるのならなんだって使うのが自分だ。
それが物であれモンスターであれ人であれ、”自分が望むのなら”糧にする。
だからこれは至って正常な思考のはず...かな?



[深まった知識]

  • ”自分”
    • 多分妙な遺伝子改造を仕込まれている可能性はあるかもしれない。じゃなかったらさっきの変な殺人衝動の説明がつかないし正直コレ抜きでついてほしくない。

第十三話[magic.]

グチュグチュ。トントン。ブチブチブチ。
職業が”解体業”でない人がうっかり直視した上でこの音を聞こう物なら、間違いなく不快と嫌悪と吐き気と嫌悪と恐怖を催し遁走すると思われる。
丁寧に、ゆっくりと、筋の一本一本を壊さないように、重ねてゆっくりと”解体”していく。
『このためだけにこの”加工台”も作ったからね。何もなくてもできなくはないんだけどそれだとどうしても素材の入手量が減っちゃうからなぁ...』
そう呟くのは”己”。己は今、先ほど手に入れた(殺してきた)素材の塊(宙賊だったもの)二つを丁寧に解体している。
どう考えてもやっている事と今から成そうとしていることが某縫い目の人とか某倫理観ゆるふわな人と同じなのだが、これも強くなるためだと己を納得させる。既に被害者()意識は消え失せている(死んでいて物と同じである)ので特に問題ない。むしろ、あの時のショックか何かで己はどうやら...
『...なあんで今になって魔法らしい魔法が使える様になるのかな...?』
やっと身体強化以外のこと...具体的には、魔法の行使が可能になったのだ。とは言ってもまだまだ未熟レベルである。

MAGIC_TREEICE
[LV1:MYST]*照準妨害+温度低下。

今現在使えるのは氷属性の”ミスト”のみ。効果は単純で、自身もしくは魔法を込めた対象を中心に霧を発生させ、その範囲内の温度を下げるという物。
だが、やろうと思えば霧そのものを操れそうではあるし何よりコスパがいい。今現在の自分でも30%割り当てた上で身体強化の余裕が10%ほどあるのだ。
...だが、こういう継続発動系の割り当ての挙動は少し変わっている。

*[LV1:MYST]40%.
*ニューラルヒート冷却60%.
*ニューラルヒート:0%
[LV1:MYST]影響範囲:30%
効果強度:70%
影響強度:0%

このように、あらかじめ割り当てた上で”さらに別で配分も考えないといけない”。
それぞれの効果だが、まず範囲はそのまま範囲を示す。純粋に多ければ多いほどどんどん広範囲に影響を及ぼせる様になるが、その分効果が薄くなる。
次に効果強度。これはそのまま効果の強さを示す。これを100%にした時は手のひらに物凄く濃密な白いボールが出現し、それを物体に触れさせたら時間こそかかったもののの凍りついた時はビビった。
最後はわかりずらい”影響強度”。未割り当ての配分は勝手にここに回されるが、ここに割り当てると「塗りつぶされにくくなる」。
魔法という存在は当然、使い方を知れば案外誰でも使えるもの。
ならば敵も同じように使ってくるだろうが...ここで二つの魔法がぶつかったらどうなるのだろうか?
答えは案外単純で、”基本的には影響強度が強い方が勝つ”...らしい。ステータス表示クリスタル(勝手にそう呼んでるだけ)のwiki機能がここで”基本的には”というある種の免罪符を使ったあたり、例外や抜け道はありそうではある。
だが、今はそう言った敵の心配はいらない。なので特に問題なくこうやって強度マシマシで魔法を行使しているわけである。


死体が腐敗しないよう辺りを冷やし、血を一滴も漏らさずに抜き取り、毛の一本一本に至るまでむしり回収。
皮を丁寧に剥がし、腕を切り分け、骨と肉を時には剥がし、時には断ち。
内臓の一個一個を抜き取っては瞬間的に効果強度を100%にして氷漬けにして保存し、骨の一個一個一本一本を丁寧に水で洗い布で磨く。
『解体終わりー!!!』
名状し難き行為を動けないが故に目と耳で理解するしかなかったスライム「*ジュ......*」
...今思ったのだが、今こうやって自分がやっていることは某倫理観ゆるふわな人モドキと同じなのではなかろうか?
いや、これも己が強くなるためである。ならばこれぐらいできないと。



[新しい魔法]

  • MYST:ミスト
    • 温度を奪う霧を発生させる。範囲と効果強度はトレードオフで、自分自身を起点としない場合は燃費が悪くなるがそれでも高効率。なんなら頑張れば他の魔法と併用して面白いことができるかも知れない。
      あと、素の状態でセーフティーがあるらしく自分が影響を及ぼしたいと思っているもの以外には何も影響がない。スライムが氷漬けにならずとも弱らなかったのはこの為。

_log2.echo[■■_■■■■■■■■■■■]

『_疑問。対象の存在理由。』
_それは本来この世界には居ないはずだった。
__だが、演算結果は存在を証明した。


『_疑問。対象の存在理由。』
_それの存在は、一存在が演算する因果ではまるで説明できない。
__存在を定義していないのに、どうやって現れた?


『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。


『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は未定義。


『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は未知数。


『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。


『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない
『_疑問。対象の存在理由。』


_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』


_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。


『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』


_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』
_演算しても、結果は出ない。
『_疑問。対象の存在理由。』








_演算しても、結果は出ない。


『_理解不能。』
_それは、一種の宣言だった。
__これは、一存在()の計算では解決できないという印。
___ただそれだけの印。


『_...』
_湧き上がる物がある。変わっている。
__一存在()一存在()である。湧き上がるものなど等に消えている。
___だが、存在しないはずの「胸」と呼ばれる部位がひどく痛み熱くなるのはなんだ?


『_...理解不能。』
_まるでわからない。それの存在理由が演算不能。ただそれだけ。
__ただそれだけの結果に、どうにも執着というものを覚えてしまう。
___意味は知っている。だが、それを一存在()が感じ取っている。


『_......疑問。この”感情”の原因。』
_演算をすると。驚くほど簡単に答えが出た。






『「_/ああ。私は好奇心をそれに抱いているのですね。」』
_/知りたい。
__/もっと知りたい。
___/解明したい。
____/解き明かしたい。



『「_/定義。{event.ambush>(space_pirate)}」』

第十四話[_/check]

......足りない。もっと強化したいが、これ以上を見込むには...やっぱり金属製じゃないとキツイ。
魔法で強化する手段をあみ出せばいいとも思ったがそれでも木材よりかは魔法的な適正がある金属...例えば金や銀、あるかはわからないがミスリルといった物の方がいいらしい。情報源はスマホだ。
...ゴリゴリの現代の情報源にさも当然かのように”ミスリル”の単語が存在するのを見るに、ここは色々混じっているような気がする。
普通のrim世界には”ミスリル”なんて金属は存在し得ないのは知っている。エルテックスならあるかもしれないが。
ともかく、やはりどうにかして金属の加工技術をb
_/宙賊「[攻撃]![殺害]!」
『っがっ?!』
......えーと?いま自分の下腹部から突き出ているのは...ナイフだね。は?
『...どうやって自分に気づかれずに隠れ通したのです?』
_/宙賊「[望む]-[殺害]![望む]-[殺害]![望む]-[殺害]!」
『ええ...?』
いや冷静すぎない自分?これ下手すると普通に出血で死ねるんだけど?
だけどなんかこう...希薄だな。よく見るとなんか若干ホログラムのように見える。いや、さっき奴の足元にある石ころがどっか蹴飛ばされたのを見るに実体はあるのだろうけど。
しかし冷静なのはいいことだ。倒すべきと相対したものの例の赤い衝動はない。多分まだ渇望するまで乾いてはいないのだと思う。それはそれとして殺さないとまずいのは変わらんのだが。
『恨まないでくださいよ?』

*身体強化100%.
*ニューラルヒート冷却0%.
*ニューラルヒート:23%(+10/s)

ちょっと流石に洒落にならんので全力で潰す。まだ1.3倍ではあるもののそれはこの近距離戦ではかなりのアド。この勢いを持って弓を全力で引き絞り、放つ。
_/宙賊「*ドゴォッグッッチャア......*」
『....ウッっっっわ...』
...生きていたものに対して”ミンチより酷でぇ”と口に出さずとも心に思う時が来るとは。
さて、あとの問題は...

bloodloss:1.5%(+0.03/s)

なんか見えるようになったこれはおそらくデバフのやつだろう。みた感じ失血を示していて、100%になったら死ねそうである。
『包帯包帯...あ、念のため洗わないと。』
水を汲んで傷口を洗浄し、できる限り血を逃さないように包帯をガチガチに巻きつける。

bloodloss(treated):1.3%(-0.001/s)

...デバフ表記が変わり値が減り始めたが流石に瞬間的に治るようなことはないらしい。まぁ失血だし当然か。
この宙賊が持っていたナイフはもらっておき、肉体は...とりあえず焼却しよう。粉砕しちゃったから使える部分がほとんどないし。










『「_/それの強さは常軌を逸している。」』
_/世界が世界なら、存在を許さない強さだ。
『「_/まるで他の一実体では歯が立たない。」』
_/そんなことは本来許されない。全ての一実体には何かしらの役目がある。
__/だが、それ(it)それ(役目)すらをも粉砕する。
『「_/だが、それが興味深い。」』
_/もっと知りたい。もっと知ってみたい。
『「_/疑問。対象の強さを引き出す方法。」』
_/演算を開始する。


*1 完全オリジナルDCO及び博士を登場させる予定(つまり作者の完全ヘッドカノン世界でありその他は一切出しません)ですがメインは主人公こと「自分」が強くなる事です。そのうち記事も作りたいと思っていますが、DCO以外にも色々混ぜる予定ですのでそのうち専用タグ作ります。