魔王軍:ダイの大冒険
概要
漫画【ドラゴンクエスト ダイの大冒険】に登場する【ひとつめピエロ】。
【バーン】率いる魔王軍の殺し屋【キルバーン】と常時行動を共にしている彼の使い魔である。
主にキルバーンのサポート係などをしているが、普段の様子は基本的には使い魔というより悪友のような存在。
外見はゲームシリーズのひとつめピエロそのものだが、帽子にはバーンの紋章が入っている。
漫画では手の指の数が四本だが、アニメでは新旧ともに五本指に変更されている。
旧アニメ版での声優は江森浩子、新アニメ版では吉野裕行。吉野はキルバーンとの兼任なのだが、ピロロはネタバレ対策だったのか、第100話(最終回)でようやくクレジット表記された。
いたずら小僧のように常におどけた調子で無邪気に人を小バカにしているが、時折キルバーンと同じく邪悪な本性を垣間見せる。
また、大した力がある訳でもないのにバーンの目の前でも怖じけ付いたりせずに堂々と振舞ったり、バーンが窮地に陥っても他人事のような顔で助けに行こうとしなかったりと、ただの使い魔とは思えない言動も多い。
ちなみに最後の最後でずっと被っていた帽子を取るのだが、これは当時のゲーム作品で描かれることのなかったひとつめピエロ系列の帽子の下が分かる貴重なシーンである。
もとからそういうデザインだったのか、このシーンが取り入れられたかは不明だが、現在のゲームに登場するひとつめピエロも同じデザインになっている。
その正体
ボクが…本当のキルバーンだ……!!
実はこいつが「キルバーン」本人であり、それまでキルバーンだと思われていた死神風の黒衣の男はカラクリ仕掛けの操り人形だった。
普段のピロロの方を「声色を使って演じていた」と言っているので、本来はひとつめピエロの姿で死神人形の口調と声色という若干シュールな組み合わせで喋るようだ。
旧アニメはバラン編冒頭で終わっているため、田中による「地声のピロロ」を見ることは出来なかったが、新アニメでは実際に声色をシームレスに変化させ、上記の台詞を話す姿がついに映像となった。吉野の演技力の高さも相まって、かなり印象的なシーンに仕上がっている。
最後の最後まで正体を隠していた彼だが、間近にいたバーンや【ミストバーン】がその正体に気づいていたかは不明。
ミストバーンは「首を刎ねてトドメを刺した」「使い魔は見逃した」というアバンの言い分を聞いて倒されたと判断していることから、知らなかった可能性が高い。
一方バーンに関しては、【ハドラー】に初めて素顔を見せたシーンで、ミストバーン、キルバーン、ピロロの3人がいたにも拘わらす「お前たち2人にしか見せたことがない~」と語っているので、ピロロとキルバーンが二人で一人なのを勘づいていた可能性がある。もっとも彼の事なので、気づいていなかった場合「弱者であるピロロは数に入っていない」と言う事も考えられるが。
ミストバーンからの情報をもとに、最終決戦時に接触してきたヴェルザーへ「キルは死んだ」と語っているが、知らなかったのか、知っているがピロロもろとも撃破されたと判断したのか、ピロロが見逃された事は承知の上で『お前の暗殺用人形は使い物にならなくなった』という意味合いだったのかは不明。
その立場は少し複雑で、真の主は魔界でバーンと対立していた【冥竜王ヴェルザー】である。
表向きは、ヴェルザーがバーンと『各々が神になるための戦略を進め、太陽を手に入れた(地上侵略に成功した)方に従う』という協定を結んだ際、友好の証と称して送った使い魔という立場。ゆえに魔王軍の中でも賓客として別格の扱いで、大魔王バーンと同等の権限を持たされている。
実際のところ両者の最終目的は地上を標的とする点は同じでも、ヴェルザーは「新たな地上領土の支配」、バーンは「地上破壊による魔界の浮上」と全く両立不可能であるため、協定は正面切っての戦争をしないという程度のものでしかなく、キルバーンの本当の役割はバーンの監視だった。
故に直属の暗殺者としての仕事はきちんとこなすしバーンに対しても一目置いてはいるが、バーンのために戦う「義理はあっても義務はない」と当人が言った通り、そこに責務や忠誠はない。表向きは友好の証に迎え入れられたゲストなのでホストの大魔王に逆らえる道理もなく、その上で本人の嗜虐趣味もあって殺し屋役を引き受けているような身分である。
さらに、隙あらばその名の通りに「キル・バーン」つまり「バーンを抹殺しろ」を実行する為の刺客でもあったが、当のバーンはそれを指摘した上でなお一興だと敢えて自分宛の暗殺者のプレゼントを受け取って見せ、手元に置くことにした。
バーンに対して形式以上の敬意や畏怖を見せないのもこの立場ゆえだが、本当の主人であるヴェルザーの事さえ薄ら笑って評しているあたり、もともと忠義などとは無縁の性格であるようだ。
ヴェルザーの欲と執念深い性格を「まるで人間みたいだ」と笑ったキルバーンだが、ペースを乱してくる【アバン】に怒りを滾らせて不機嫌になったり意趣返しに執着するなど、自身もなかなか人間臭い感情を見せる描写が多い。
人間のことを最低と評する大魔王バーンは彼らのことをどう思っていたのやら。
少なくとも、腰巾着の演技とはいえ不敬な死神人形と並んでバーンの前で動じることなくおどけてみせたり、遠隔操作可能なのにわざわざ自分も最前線まで死神人形にくっついて回ったり、【黒の核晶】を身近において涼しい顔をしているなど、大胆不敵で度胸が据わっているのは確かである。
また、大魔王の重大な秘密を担うミストバーンにおそらく最後まで正体を悟らせず、価値観に合わない者を強く拒絶する彼に死神人形を親友と言える立場にまで接近させているあたり、騙しであれ素の性格であれ、精神的な面でも巧みなものがあったと言える。
そもそもそこまで忠誠心が高くないであろうにもかかわらずバーンへの刺客という大役を手放しに任される立場であったのだから、懐に入り込んで上手く立ち回る人心掌握術や人形操作による戦闘力や判断力など、ヴェルザーからも暗殺者として相応の実力者だとは認められていたのだろう。
もっとも、最後の最後に台無しにしたのは大胆を通り越してしまった迂闊なのだが……と言う点については後述。
能力
使い魔に成り済まして安全を図っている都合上、ピロロ自身が戦うことはまずない。死神人形に同行して戦場に出ることもあるが、死神人形の戦い方も「罠でハメて楽々仕留める」なので使い魔としての補助も基本的に必要としない。
回復呪文や【ヒャダイン】までの氷系呪文を使いこなし【ファントムレイザー】を作り出す能力も持つなど、ゲームに登場する同族よりかなり芸達者だが、正体を明かした際には簡単に動きを捉えられており、肉体的には普通のひとつめピエロを大きく超える様子は見られない。
死神人形が彼の魔力等で操作されているのか、マシンモンスターのようにオートで動くのかは不明だが、前者であるならそれを悟らせずにアバンと互角に戦わせる程の腕があるため操り主として相当な技量があることになる。
死神人形が大きく破損した場合は、主人のピンチを助ける手下といった演技で謎の粉を振りかけ、即座に修復する技も見せている。
壊れたまま置いておくことで相手に死んだように錯覚させ、時間差で修復させることも可能らしい。
さすがに大きなパーツの予備などは無かったのか、あるいは爆破するなら修理も無用ということか、最後に登場した人形は首が斬られたまま、【バーニングクリメイション】の燃料にした左手も喪失したままだった。普段の強敵ぶりも発揮できず【ダイ】や【ポップ】に捕まっており、このときばかりは自慢の人形もダメージでガタが来ていたのだろうか。
戦歴
劇中ではラスト寸前まで非力な使い魔の偽装で通していたため、戦闘の補助に呪文を使う程度で「ピロロとして」まともに戦う事はなかった。
最終決戦の中でも死神人形を操り自分は安全圏で悠々としていたが、必殺の罠を逆に利用され人形が大破するという屈辱的な結末でアバンにしてやられた後は、主人の死に打ちひしがれる無力な使い魔を演じて見逃され、そのまま決戦からフェードアウトした。
バーンが敗死し、結果的に「バーンの抹殺」というヴェルザーから与えられた任務は達成されたが、魔界最強を誇ったバーンをも倒したダイ達一行や人間達の底力はそれ以上に危険と判断、急遽彼らの抹殺を図った。
バーンを倒し大団円な地上の人々の前に、斬り落とされたままの首パーツを抱えた人形を従えて飄々と現れ、キルバーンの正体、不死身の原理、自身の本当の所属と目的、そして人形に仕込まれた【黒の核晶】の存在を次々と明かし驚愕させると核晶を起動。
人形の動力として流れるマグマの熱で守られた核晶は凍結による阻止も不可能だと宣言し、絶望する人々の様子に満足した彼は悠々と魔界に帰還しようとするも、それを正義の使徒達が黙って見ているわけがなかった。人形はダイとポップの捨身の行動により周囲を巻き込まない高度まで運び去られてしまい地上の爆破は失敗。自身もアバンの投げつけた【ゴールドフェザー】で動きを止められたところに【マァム】の閃華裂光拳(と思われる技)の一撃を受けてあっさり倒され、必勝法と嘯いていた「もがいているところを楽に殺す」そのままの流れで自分がトドメを刺される末路となった。
一応ダイだけはバーンパレス崩壊後も鬼眼王バーンとの戦いで上空にいたので、爆発が届かず討ち漏らす可能性はあった。
そのダイが地上に降りたのを確認するために出てきたと考えられなくもないが、そうだとしても陰から覗き見たり、見つかったとしても使い魔のフリをしたままその場から逃げれば良いわけで、わざわざ正体をネタばらしする合理的理由はまったくない。
ダイ達の前に姿を表す事無くさっさと起爆してやれば、阻止されることも自分が殺される事もなく安全かつ確実にすべての敵を始末できていたのだが…。
また、この手段を使えば近くの柱が誘爆して地上が真っ平らになる可能性も平然と口にしていたが、ピラァを落とした際のバーンの説明どおりなら「一つでも爆発すれば他も誘爆して地上を確実に吹き飛ばす」ことになるので、領土を惜しんで黒の核晶を使うのを控えるようになった主ヴェルザーの意向にも沿っていない。バーンが勇者に倒されたと言う非常事態に際して、ヴェルザーから何らかの追加指示が与えられていた可能性はなくもないが。
ピロロは元来より「罠にかかって絶望する表情を見るのが何よりも好き」という悪趣味で残忍な遊び心が原動力でもあったため、黒の核晶の爆発の事実を宣告されて絶望するところを見たかったのだろう。
だが、たった1枚のゴールドフェザーで動きを止められる程度の無防備な姿で出て来て、最後の策を自らバラし、自分の安全確保はタイムラグが有る魔界の転移……と言うのは、見通しが甘いにも程があり、策士たる彼らしくない行動である。普段の彼なら、嫌がらせをするにしても自らの安全を確実に確保した上で行っていた事だろうし、それが無理な状況で趣味を優先するような事もなかっただろう。
納得のいく理由を考えるなら、アバンに屈辱的な敗北を喫した事で、よほど頭に血が昇っていたのかもしれない。例え自分の安全をかなぐり捨ててでも、人間の絶望する顔を見なければ収まりがつかない……と言う程に激昂していたのなら、その迂闊さにも説明がつく。
メタ的に言えば、ピロロの撤退を巡る攻防に漫画的な尺をこれ以上割く余裕などない(このシーンのメインは、あくまでダイとポップの捨て身の行動と、その後の会話である)と言うのも理由の一つだろうが。
と、原作ではそんな末路を辿り、【ザボエラ】同様に溶けて死んだ描写が明確に描かれたピロロではあるが、新アニメでは三条の意向で「消える際に【リリルーラ】の音が鳴る」と言う描写に変更され、後のインタビューで「魔界に帰還していた」ことが明らかとなった。完全に後付の改変ではあるものの、ここまで書かれて来た通り「どんな時でも保険を用意しておく慎重さ(臆病さ)を持つ」と言う方が彼のキャラに合致しており、視聴者としても納得がいきやすいだろう。
原作では魔界編が構想レベルで終わったこともあってピロロは倒されたが、新アニメでは魔界編につなげられる可能性を残すために殺さなかったのだろう。
ジョーカー3プロ
キルバーンと共に出演。
豆知識ではネタバレ防止のためか、キルバーンの使い魔という説明にとどまっている。
残念ながら普通のひとつめピエロとの共演はできなかった。
インフィニティストラッシュ
本作は【鬼岩城】編まででムービーにしか登場しないが、スタッフリストではキルバーンと同時にクレジットされている。