アバター男性の場合
オアシス、司令部。 | |
七花 | おはよ、教授♪ |
教授 | ああ、おはよう……七花?どうしたんだ、そのサングラスは。 視覚モジュールにエラーでも起きたのか? |
七花 | ゴホン……安心したまえ!今日も七花は元気いっぱいなのだ♥これはね……あっ、その前に、メリルさんにご挨拶してあげて。 |
メリル | 教授、久しぶり。バーバンクが世話になってるね。 |
教授 | 遠慮はいらないさ、私たちはもう盟友なんだから。 それにしても、七花がここにいるということは…… なにかインスピレーションでも湧いたのかい? |
メリル | さっそく本題に入るなんて、相変わらずデリカシーがないのね。まぁでも、あなたらしいわ。 |
メリル | 簡単に言うと、ミュージックフェスティバルの開催をオアシスに手伝ってほしいの。 |
教授 | ミュージックフェスティバル? それまたどうして? |
メリル | 前のバーバンクフェスティバルじゃ、アクシデントがてんこ盛りだったけど、おかげでインスピレーションが刺激されちゃって……私だけじゃない、多くのエージェントが新たな試みに取り組んでるの。 |
メリル | コネクションロストが起きてから、マグラシアはいくつもの災難と苦痛に見舞われてる。そんな時だからこそ、音楽でみんなの気持ちを励ましてあげなくちゃ。 |
メリル | 教授なら、わかってくれるでしょ? |
メリルはさりげなく私のIDカードを一瞥し、私に向かって神妙な笑顔を浮かべた。 | |
教授 | なるほど、何を手伝えばいいんだ? |
メリル | オアシスは優れた人材で溢れてる。一緒にミュージックフェスを企画してほしいのよ。形式については……超人気アイドルの七花さんから、すでにアイディアを頂いてるわ。 |
教授 | 少し考えさせてくれ。 |
メリル | これは貴重なチャンス、報酬だって弾むよ。心配なら、まずは七花の意見を聞いてみたら? |
教授 | 七花、君はどう思う? |
七花 | 教授……七花ね、オアシスで女の子のアイドルグループを作ろうと思うの! |
教授 | なるほど……えっ?アイドルグループ? |
七花 | えへへ……クロの言葉でひらめいたんだ。バーバンクを灯せたのは、七花だけの力じゃない、クロと一緒だから出来たことだもん。あの時、「NotREAL?」でみんなを笑顔にしてきた日々のこと、思い出したの。 |
メリル | ははっ。クロがそれを聞いたら、七花の応援BBSが彼女の書き込みで埋め尽くされそうね。 |
七花 | 今度はバーバンクだけじゃない……マグラシアのみんなにもパフォーマンスを捧げたい。こんなこと言ったら、笑われるかもしれないけど……それがアイドルの責任だって思うから。 |
教授 | 新生「NotREAL?」か。興奮のあまりフリーズする者が出てきそうだな。 |
七花 | もぉ、教授ってば大げさなんだから☆ |
教授 | 新しいパフォーマンスでみんなを励ます…確かに素晴らしい提案だね。 |
メリル | ふふふ、やっぱりね。あのステージを提案したあなたなら、きっと同意すると思った。 |
教授 | それで君は、フェスティバルについての相談をしにここへ? |
七花 | えっと……それなんだけど、一つだけ教授に頼みたいことがあって。 |
七花 | 七花ね、アイドルグループへの参加者を募集してみたの…… |
七花は「申請ボックス」と書かれた箱を取り出した。 投函口からは申請書が溢れ出している。 | |
七花 | 教授……これ……どうしよう? |
オアシスだけじゃない、他のセクターからの申請書まで混じっている…… さすがは七花、凄まじい影響力だ。 | |
教授 | そうだな……フェスティバルが始まる前に、 アイドルのオーディションを開催してみてはどうだろう? |
メリル | へぇ、面白そうじゃん。七花はどう思う? |
七花 | オーディションかぁ……ますます「NotREAL?」みたいになってきたなぁ!となれば、ちゃんと準備しないと! |
七花 | ありがと、教授!これからよろしくお願いします♥ |
教授 | えっ、うん……? |
メリル | さてと、私は『異相レンジャーMtoN』の脚本に取りかからなきゃ。オーディションのことは、二人に任せたわ。 |
メリルは即座に通信を切った。 するとサングラスをかけた七花が、微笑んだまま分厚い資料を取り出す。 彼女の笑顔がどうにも怪しい…… | |
七花 | オーディションを開催するには、アイドルの心得がなくちゃ!この七花がし~っかり教えてあげるからね、教・授☆ |
教授 | えっ……ちょ、ちょっと待った―― |
三日後、オアシス。 | |
イェレナ | 皆さん、こんばんは。『ギャラクシーナイト』のお時間です。本番組の司会を担当させて頂きます、イェレナと申します。 |
イェレナ | ご応募頂いた方の中から七花さんのパートナーを選出し、最強のアイドルグループを結成する、それが本番組の最終目的。オーディションは一次選考と決勝戦に分けて実装されます。皆さんのお手持ちの票と、審査員の方々による採点が、グループの運命を左右します! |
イェレナ | ではまず、『ギャラクシーナイト』の審査員の面々をご紹介しましょう。アイドルグループといえば、欠かせないのがこの方!オアシスのアイドルグループ結成のためなら、鬼審査員と化すことも厭わない、伝説のアイドル人形にして「NotREAL?」のメインボーカル――七花さんです!! |
七花 | 超ド級の癒し系アイドル、七花、参上ッ!みんな~、今日のイベント、楽しんでいってね~♫ |
観客 | 七花!七花!七花! |
七花 | あっ、違った!えっと、ここは…… |
七花 | 言わずとしれた鬼審査員とはこの私……七花です、お見知りおきを。 |
観客 | うおおおおおお!!七花!七花!七花!! |
七花が口調を変えたせいか、ファンたちがより一層興奮しだす。 とある銀髪のエージェントが、素早くキーボードライフルを宙に向けて撃ち出した。 | |
イェレナ | ファンの皆さん、ご声援ありがとうございます。それでは次の審査員をご紹介しましょう。サイバーメディアのレジェンド、伝統楽器で世界征服を成し遂げた古箏演奏者――黛煙さんです!! |
黛煙 | このような場にお招き頂けましたこと、誠に光栄の至りと存じます。選考に臨まれる方々が、最高のパフォーマンスを発揮できますよう、心より願っております。 |
黛煙は深々と一礼した。 観客席から一斉に、はちきれんばかりの拍手が鳴りだした。 | |
イェレナ | さて、それでは審査員の最後の一人……は、なぜ自分がここにいるのか、どうやらまだおわかりでないご様子。そう、オアシスの主、我らが指導者にして教授――(プレイヤー名)さんです!! |
教授 | 私の紹介だけ…やけに適当すぎないか? |
教授 | えっと…ど、どうも。教授の(プレイヤー名)です。 |
私はぎこちなく、やや仕方なさげに観客席に手をふった。 だが、それでも観客たちの熱狂は冷めやらない。 | |
イェレナ | 審査員の皆様、この度はご足労頂きありがとうございます。ではさっそく参りましょう!一人目の参加者は――黛煙さんの妹君にしてオアシスのアクションスター、絳雨さんです!どうぞ! |
絳雨 | みんな~、こんにちは、絳雨です!あたしの歌と踊り、楽しんでいってね!曲名は『白日夢茶楼』! |
軽やかな音楽に合わせて、ステージの上で絳雨がおもむろに舞いを披露し始めた。 | |
教授 | この踊りは……拳法をアレンジしたのか。 身のこなしは流石だな、だけど…… |
舞台の上で飛び跳ねる絳雨を見て、私は仕方なく音楽を止めるよう指示した。 | |
教授 | 絳雨、ストップだ。 「歌と踊り」じゃなかったのか、歌はどうしたんだ? |
絳雨 | あっ! |
絳雨が額をポンッと叩く。 | |
絳雨 | わ、忘れてたぁ!ゴホン……も、もう一回! |
黛煙 | プッ…… |
絳雨 | ♫ 心児怦怦地在等待 装作不経意的様子…… |
私はアイドルの審査に関してはまったくの素人だし、歌の内容も理解できないが、 絳雨の歌声はとても魅力的であるように思えた。七花も頷いている。 | |
しかし……歌い出したとたん、絳雨はまるで竹竿のように、 舞台の中央に立ったまま動かなくなった。 先ほどの力強く多彩な舞いとはまるで違う。 | |
教授 | 今度は踊りを忘れてるな…… |
イェレナ | 残念ながら、絳雨さんは審査員の期待に応えられなかった模様……けれど、彼女の舞いと歌声には、目を見張るものがありました。絳雨さんに改めて拍手を! |
黛煙 | ふふふ……あの子ったら、まだまだね。 |
絳雨 | ありがとうございましたー!きっとまた戻ってくるから! |
絳雨が拳を振りまわす一方で、黛煙は絳雨に向かって優しく手をふった。 | |
イェレナ | さて、次に参りましょう。冥界の幽蝶、晩秋の哀悼歌、オアシスの十不思議に数えられた歌声の持ち主――クロトさんです、どうぞ!! |
平然とした表情のクロトが、棺桶を引きずって舞台へと現れた。 そして舞台の中央に立つと、棺桶の前にマイクを設置し、ゆっくりと舞台を降りる。 | |
イェレナ | お、おや!?どうしたことでしょう……クロトさん、クロトさん!? |
イェレナは大慌てでクロトを引き止めた。 だが、背後からの声がそれを遮る。 | |
?? | おいおいおい、司会者さんよォ!オーディション受けんのはオレだよ、オレ!こっちこっち! |
イェレナ | えっ? |
ヘル | ウォッホン!えー、ど~も~!アイドルオーディションに参加しに来ました、棺桶のヘルで~っす! |
教授 | ヘル? |
私は慌てて参加者リストを確認した。クロトの名前の横には、 小さな文字で「文字の書けないヘルのための代理申請」と記されている。 | |
黛煙 | ……これは…… |
七花 | プッ……あはははっ!棺桶アイドルかぁ、結構イケてるかも! |
イェレナ | ……ゴホン。えー、予想外の展開になってまいりました。クロトさんの歌声を聞けるものかと思っていましたが、真の参加者はヘルさんだったようです。 |
イェレナ | とにかく、パフォーマンスを始めて頂きましょう。 |
ヘル | フフン、いいぜ!オレの完璧な歌声をとくと味わえ! |
ヘル | ふゆ~~の、かぜぇぇ~……はる~~のぉ、ひざしぃぃ~~ |
歌声が会場内を席巻する。 観客たちが一斉に静かになった。 | |
黛煙 | 目の前が真っ暗になる点を踏まえると……子守唄の一種とも言えるのでは…… |
ヘル | あん?なんだぁ、まだ歌い終わっちゃいねぇぞ!? おい、やめろ、オレに触るな!棺桶がアイドル志望でなにが悪いってんだ!? オマエ~!今にオレの腹に押し込んでやるからな!? |
教授 | ……見なかったことにしよう。 |
オーディションが進むにつれて、絳雨のように印象に残る参加者も数多く現れた。 しかし、ヘルのような参加者も同様に後を絶たない…… | |
オーディション番組をセールスプロモーションに利用する謎の商人。 | |
リコ | さぁてと。今日はこん曲をみんなに捧げるよォ――『マグラシアの北から南まで』 |
リコ | ♫ 北のセクターから南のセクターまで ステキなアイテム届けます…… |
イェレナ | リコさん……オアシスの財務担当ならびに本番組の司会者として、あなたとはきっちりと話をしておくべきね。 |
リコ | こーんっ!?ちょ、ちょっと待った!今日のために書き下ろした新曲だよ!?ほんじゃなにかい、別の曲ならいいってのかい?これならどうだっ――『リコリック讃歌』!!♫ まぁるい尻尾の―― |
七花 | 歌詞に目をつむれば、悪くないと思うけどな……歌詞にさえ目をつむれば…… |
筆を捨て、歌に走る脚本家。 | |
野良 | ウォッホン!えー、うちがオーディションに参加したんは、主に締め切りから逃げよぉ……あっ…… |
蔵音 | だろうと思いましたよ!さっさとそこから降りんさい、この黒毛和牛がッ! |
黛煙 | ふふふ……漫才やお笑い番組が開催される暁には、お二人をご招待しませんと。 |
美しい歌声を持ちながら、アイドルグループには不向きな教誨師。 | |
エリカ | 本日は、本官による『メサイア』を聞かせてやろう。 |
七花 | なんて素敵な歌声……でも、どう見てもアイドルって感じじゃないな…… |
七花 | あ、あれ?客席のお人たちが懺悔し始めたよ……!? |
様々な理由により、会場へと紛れ込んでしまった者たち…… | |
イェレナ | さて、次の方に参りましょう!すえよ……えっ?末宵くん!? |
末宵 | …… |
イェレナ | あ、あの……末宵くん?ここは女性アイドルグループのオーディション現場でして…… |
末宵 | わかってる。 |
イェレナ | えっ……な、なら、どういうつもり……? |
末宵 | おい、見てんだろ、このアホンダラ!?よくもオレの名前で勝手にエントリーしてくれたな!?急にオアシスでの任務が出てきたかと思えば……!! |
末宵が怒りにまかせ、手中の番号札を床に叩きつけるのを見て、 私は参加者リストの備考欄を確認してみた。 | |
「末宵は部屋にこもってないで、あちこち見て回ったほうがいいから」 ――初塵 | |
……彼には真相を伝えないほうがよさそうだ。 | |
教授 | ふむ、男性アイドルグループか……それもアリだな。 |
七花 | きょ、教授?七花、さすがに男の子グループを指導した経験はないよ?……もし本当に結成するなら、教授にプロデューサーになってもらわないと。 |
教授 | えっ……と、とりあえず、目の前の問題から対処しようか。 |
末宵 | 出てこい、初塵!!どーせお前のシワザだろ!? |
数時間の奮闘を経て、一次選考がようやく幕を下ろした。 続いては最も重要となる決勝パートだ。 | |
イェレナ | 皆さま、大変お待たせいたしました。まもなく決勝が始まります。選考を勝ち抜いた精鋭たちも、すでに準備万端のようですね。決勝戦では、参加者全員に十分なパフォーマンスの時間が与えられます。 |
イェレナ | 審査員はその場で点数を割り振るのではなく、すべてのパフォーマンスを終えてから審査を行います。最高得点を獲得した方が、七花さん率いるアイドルグループのメンバーに迎えられ、マグラシアに愛と希望を振りまくこととなるでしょう。 |
イェレナ | それでは、決勝戦のトップバッターをご紹介いたします。予選では『ゆうきの歌』で審査員を唸らせた、オアシス医療部門所属、美容のエキスパート――ヴィーさんです、どうぞ! |
ヴィー | みんな~、こんばんは~!最高の笑顔で夜を迎える準備はできた? |
イェレナ | ふふふ。ヴィーさんの歌声は、とても印象に残るものでしたね。ヴィーさん、オーディションに参加した理由をお伺いしても? |
ヴィー | 当然、私の美容サービスの宣伝に決まってる。 |
イェレナ | おや、それが理由だったんですね? |
ヴィー | だって、このところみんな忙しいでしょ?いつの間にか客足が減っちゃって。 |
ヴィー | こういう時こそ、ちょっとしたイメチェンがきっかけで、思いもよらぬ収穫が得られたりするの。自分やみんなに目新しさを感じてもらえるし、物事の行く末まで左右できちゃうんだから。 |
ヴィーは観客席のとある一角に向けてウィンクした。 客席に座るがっしりとした人形が、呆れたように肩をすくめる。 | |
イェレナ | なるほど、とても興味深いですね。 |
ヴィー | 身近にそういった例がたくさんあるの。だからみんなには最高の笑顔と顔立ちで、明日を迎えてほしい。 |
イェレナ | なんて素晴らしいスピーチでしょう。 |
イェレナ | 私も番組が終わったら、ヴィーさんのもとを訪れるしかなさそうです。あなたの言うように、最高の笑顔で未来を迎えるために。 |
ヴィー | うん、楽しみにしてる。 |
イェレナ | トークはこの辺にして、ヴィーさんにステージを預けましょうか。曲名は――『凛華――Before the Day』 |
艶やかで心震わせる歌声が、会場を駆け巡った。 それはさながら、美の女神が降臨したかのようだった。 | |
黛煙 | ヴィーさんの歌声が、こんなにも美しかっただなんて。 |
教授 | 黛煙の言う通りだ。 ヴィーにこんな特技があるとは知らなかったよ。 |
七花 | 歌声だけじゃない。 |
七花は首をふる。 | |
七花 | 一番すごいのは、あの笑顔。自身に満ち溢れた笑顔が、ヴィーさんの最大の武器であり、彼女の歌声が人の心を動かす理由の一つだよ。 |
七花 | アイドルの笑顔は、ファンにパワーをもたらす……だからこそ、アイドルは舞台で輝けるの。 |
ウンディーネ | むぐっ…… |
楽屋では、ウンディーネがスクリーンに映る観客の姿を物憂げに見つめていた。 | |
ウンディーネ | 1000、1001……数が多すぎて、書ききれない。でも、これだけ「人」の字を呑み込んだんだもの。きっと大丈夫よね? |
ウンディーネ | ハァ……現実じゃ緊張とは無縁だったのに、どうしてクラウドでは逆に…… |
ウンディーネは自身のパフォーマンス用の衣装を見下ろした。 | |
ウンディーネ | この衣装……アイドルらしくないけれど、時間もなかったし仕方ないか。オーディションのためだけにメンタル映写を用意するのは、さすがに贅沢すぎるもの……ハァ…… |
スケルツァ | 【ピピピッポポッ――】 (リーダー、リーダー!) |
ウンディーネ | あら、あなたたち?客席にいたはずじゃ? |
ドルチェ | 【ピピピッポポッ――】 (プレゼント!プレゼント!) |
ウンディーネ | プレゼント?わたくしに? |
ウンディーネはやや怪訝な顔で、ドルチェに渡されたプレゼント箱を開いた。 | |
ウンディーネ | あっ、このメンタル映写は…… |
トランク | 【ピピピッポポッ――】 (バイト、貯金、僚機、ドレーシー) |
マエス | 【ピピピッポポッ――】 (リーダー!アイドル!ファイト! |
ウンディーネ | ドレーシーと、あなたたちが貯めたお金で……? |
ドルチェ | 【ピピッ――】 (サプライズ、サプライズ!) |
ウンディーネ | ぐすっ……ありがとう、みんな。 |
ウンディーネはドルチェたちをぎゅっと抱きしめた。 | |
ウンディーネ | 安心なさい、わたくしが最高のパフォーマンスをお届けしますわ! |
イェレナ | ヴィーさんの素晴らしい歌声に、改めて盛大な拍手を!ご覧ください、観客席まで輝かしい笑顔で埋め尽くされていますね! |
イェレナ | さて、続いての参加者もとてもユニークですよ。彼女にとって舞台は大変身近なものですが、おそらく彼女「一人」が舞台に立つのは、これが初めてでしょう。 |
イェレナ | それではお越し頂きましょう!ウンディーネ儀仗楽団――ウンディーネさんです! |
ウンディーネ | 皆様、ごきげんよう…… |
イェレナ | おや?ウンディーネさんのこちらのメンタル映写、初めて目にしますね。決勝戦のために準備されたんですか? |
ウンディーネ | ええ。大切な仲間たちが、わたくしのために用意してくださいましたの。オーディションへ参加するよう励ましてくださったのも、彼女たちですわ。 |
イェレナ | なるほど、ウンディーネ儀仗楽団の愛らしいメンバーたちですね? |
ウンディーネ | はい……わたくしは、ウンディーネ儀仗楽団を代表して、ここへと参りましたの。 |
ウンディーネ | E-Orchestra人形たるわたくしどもに強い力はありませんし、ストレージのほとんどが演奏に割かれているせいで、機能も著しく制限されておりますわ。わたくしどもはあまりにも弱く、皆様のお役に立てることは少ない…… |
ウンディーネ | けれどあの日、七花さんからのアイドル募集のお知らせを見て、思い立ったんですの。これをチャンスに、音楽を武器にして……皆様に勇気と希望を与えることができたら。 |
イェレナ | ……ありがとうございます、ウンディーネさん。あなた方を弱いと考える者なんて、ここには誰一人としていませんよ。あなた方の演奏は、何度も私たちを励ましてくれた。今日もいつものように、最高のパフォーマンスを披露して頂けると信じています。 |
ウンディーネ | ええ!それでは、お聴きくださいませ……『涙の純度』 |
七花 | ヴィーさんとはぜんぜん違う曲風だね。温かい……なんて温かい歌だろう。 |
黛煙 | 儀仗楽団の動きを組み合わせるのは、まさにウンディーネさんにしかできないことですね。旗が舞うたびに、客席が熱狂しているように感じます。 |
七花 | こんなアイドル、現実でも珍しいよ……七花も試してみたくなっちゃった! |
黛煙の言う通り、儀仗楽団とアイドルのパフォーマンスは似ても似つかないはずだった。 だがウンディーネは、両者を見事に結びつけている。 | |
イェレナ | ウンディーネさん、素晴らしいパフォーマンスをありがとうございました。私の心にも、勇気という名の炎が燃え上がったように感じます。ウンディーネさんにもう一曲お願いしたいところですが…… |
イェレナ | まだ最後の参加者が残っています。オアシスにいくつもの奇跡をもたらした、我らがメイド長――センタウレイシーさんです! |
センタウレイシー | 皆様、ごきげんよう。私はセンタウレイシーと申します。 |
イェレナ | センタウレイシーさんがオーディションに参加なさったのは、クロトさんの影響なのだとか? |
イェレナの問いかけに、センタウレイシーは頬を赤らめた。 | |
センタウレイシー | はい。初めは私がクロトに参加するよう勧めたのですけれど……まさか、私が決勝入りしてしまうだなんて思いもよらず…… |
イェレナ | クロトさんは参加されませんでしたが、ヘルさんには、とても楽しいパフォーマンスを披露して頂きました。センタウレイシーさんは本日、どのような曲目を? |
センタウレイシー | 今日、歌わせて頂くのは、ヴェーネ……私の最も大切な方が好きだった曲です。名前は『Wiegenlied』。 |
イェレナ | 『Wiegenlied』……たしか、ドイツに伝わる子守唄ですね? |
センタウレイシー | はい、現実にいた頃、最も大切な方によく歌い聴かせておりました。彼女はもう幼くはありませんでしたが、それでも、わがままには敵わなくて。 |
センタウレイシー | この場を借りて、私の歌を記録しておきたいのです。現実に戻った時、彼女に渡せるように。 |
センタウレイシー | たとえ私が傍にいなくても、私たちは歌声で繋がることができる……オーディションに参加する理由としては、少々弱すぎますでしょうか。 |
イェレナ | とてもセンタウレイシーさんらしい選択ですね。その理由が弱いだなんて、私は思いません。 |
センタウレイシー | えっ? |
イェレナ | 自分の歌声、現実にいる、最も大切な人に届けたい……つまり、私たちは現実に戻れると、あなたは強く信じている。 |
センタウレイシー | え、ええ……それを疑ったことは、一度もありません。 |
イェレナ | ふふふ……それならこの機会に、その最も大切な人に、メッセージを残しておいてはいかがでしょう? |
センタウレイシー | ……ヴェーネ。どうか待っていて、きっと、姉さんが会いにいくから。 |
美しい子守唄が奏でられる。馴染みあるはずのメロディが、 センタウレイシーの歌声により、これまでとは違ったフレーバーを醸し出す。 そこからは安眠を催す原曲よりも、明日を受け止めるような揺るぎなさが感じられた。 | |
心地よい歌声に、観客たちは静かに耳を傾けている。 音楽が止むと、やや遅れてから雷鳴のような拍手が鳴った。 | |
イェレナ | センタウレイシーさん、ありがとうございます。ここまで心震わせる子守唄を聴いたのは、これが初めてです。 |
イェレナ | さて、困ったことになりました。三名にはそれぞれの良さ、それぞれのスタイルがありますし、まさに甲乙つけ難いと言ったところでしょうか。 |
イェレナ | 果たして審査員の面々がどう評価するのか?観客の皆さんも興味津々であることでしょう。七花さんのパートナーとして、アイドルグループを結成するのは一体誰か?ご期待ください! |
イェレナは審査員席に向かってウインクしてみせた。 私たちに早く結論を出せと言わんばかりに。 | |
黛煙 | これは……想像以上でしたね。 |
七花 | こんなの決められないよ……教授はどう思う? |
教授 | もはや私には判断がつかない、君たちに任せるよ。 |
七花 | あっ、ずるーい! |
教授 | みんな素晴らしいな。 |
七花 | うーん……だから困ってるんだよね。 |
ヴィーの笑顔、ウンディーネの心躍るダンス、 そしてセンタウレイシーの美しき歌声……どれも捨てがたい。 | |
教授 | それなら……全員合格にしよう! |
黛煙 | それはつまり…… |
教授 | 三人とも捨てがたいなら……彼女たちと七花の四人で、 新しいアイドルグループを結成するのはどうだ? |
七花 | わぁっ、七花もそう思ってたところなの!だけど……七花と組むよりも、彼女たちだけで、新しいグループを結成したほうがいいと思うな。 |
七花 | きっと七花とは違う何かが、ステージで花開くかもしれないよ。 |
黛煙 | そうですね、彼女たちなら……もっと興味深い火花がほとばしりそうです。 |
黛煙 | けれど、七花さん。彼女たちでグループを結成するとなると、「センター」になり得る存在が…… |
七花 | たしかに……そこが問題なんだよね。 |
教授 | センター? |
七花 | うん、アイドルグループの「センター」……みんなを率いる隊長のような役割だよ。ファンに愛と希望をもたらして、慰めて、力になるの。メンバーを導いて、気にかけられる存在。まさに完璧なアイドル! |
黛煙 | そんな大役を担える方は、多くはないでしょう。やはり、ここは七花さん自身が…… |
七花 | だけど……七花とは違うスタンスであってほしいんだ…… |
教授 | 完璧なアイドル……完璧、か…… |
教授 | ふむ、それなら……ぴったりの人材がいるぞ。 |
七花 | えっ? |
教授 | ま、期待しておいてくれ。 |
ミュージックフェスティバル、『ギャラクティック前奏曲』楽屋。 | |
クルカイ | 歌声で、マグラシアに希望とパワーを…… |
クルカイ | ハァ……なにがあるのかと思えば、こんなイベントのために呼び戻されるだなんて。 |
教授 | 苦労かけるね。 |
クルカイ | 身分や環境は関係ありませんよ。私はあなたの副官として命令に従うまでです。 |
教授 | 君にしかできないことなんだ。 |
クルカイ | そこまで言われては、仕方ありませんね……考えてみれば、確かに完璧な私にふさわしい任務だとも言えますし。 |
クルカイ | 歌声でマグラシアを励ます、そんな突拍子もない発想が出てくるなんて……さすがはあなたの率いるオアシスと言ったところですか。 |
教授 | 急な相談ですまない。 それも、たった数回のリハーサルで舞台に立つことになりそうだ……できるかい? |
クルカイ | 当然です。どんな任務だろうと、最も完璧な姿で成し遂げてみせますよ。 |
クルカイ | 歌、ダンス、ポジショニング。もうとっくにマスターしましたから。 |
クルカイはやや遠くで振り付けの相談をしている七花とウンディーネ、そして服装を整えているセンタウレイシーとヴィーを見た。 | |
クルカイ | チームでの作戦は……久しぶりですね。 |
クルカイ | あなたが皆に伝えたい言葉、そして届けたい気持ちは、私たちが責任を持って伝えます。 |
クルカイ | 見ていてください、指揮官……いえ、今はプロデューサーと呼ぶべきですね。 |
教授 | 君たちのパフォーマンスを、楽しみにしているよ。 |
クルカイ | 当然でしょう、あなたは私たちのプロデューサーなんですから。 120%の応援、頼みましたからね! |
『ギャラクティック前奏曲』、舞台現場。 | |
教授 | えっ、ちょ、ちょっと待っ――た、助け……て…… |
匿名希望の 単推し司会者 | レディース・アーンド・ジェントルメーン!! 本番組は超ド級の鬼マネによる渾身プロデュース、そしてそしてぇ、 超人気配信者にして七花単推し信者、ならびにロード・オブ・オアシス、 またの名を監禁ルームの支配者による制作でお送りしておりま~~ッす!! |
匿名希望の 単推し司会者 | 笑顔、ダンス、歌声、あらゆる至高のアイドル要素で構成された 完璧なアイドルグループが、ついに歴史の表舞台へと現れたァッ!! |
匿名希望の 単推し司会者 | まーーずーーはーー!欠かせないのがこちらの御方! 我が最愛のディーヴァ、あまねくステージの頂点、本フェスティバルのザ・仕掛人…… 瞬き煌めき輝ける鬼マネージャー、七ーー花ーーーーッ!! |
クロのはち切れんばかりの叫び声とともに、七花が華々しく舞台へと現れた。 | |
七花 | みんなーー!ミュージックフェスティバルの前夜祭――『ギャラクティック前奏曲』へようこそ~!みんなの超ド級癒し系アイドル、七花だよ☆ |
観客 | 七花!七花!七花! |
七花 | 応援ありがと~~!だ・け・ど、今日の主役は七花じゃないんだ!それではお呼びしましょう!オアシスの新生アイドルグループ――『4YOU』の皆さんで~す! |
音楽の前奏が鳴り、その場にいた全員が絢爛たる世界に誘われる。 | |
クルカイ | ♫ 抑えきれない気持ちが 熱を帯びてパンクする…… |
ウンディーネ | ♫ 君の奥底に ずっとずっとずっと 触れたい…… |
観客 | うおおおお!!来たぁぁあああああ!!! |
心震わす歌声、鮮やかなパフォーマンス、熱狂する観客たち。 | |
観客 | クルカイって、どこの人形なの?超カッコイイんだけど~~!! |
センタウレイシー | ♫ 輝く希望を 君と感じていたい…… |
ヴィー | ♫ 無限に広がる 光のオンパレード! |
観客 | 4You!4You!4You! |
最後の音符が奏でられると、雷鳴のような拍手と歓声が沸き上がった。 | |
教授 | はは、大成功だな。 |
リコ | ふっふ~ん!リコがあちこち宣伝してやったんだ、当ったり前だろ?この後のミュージックフェスの入場券でも、ガッポリ一儲けできそうだねェ! |
リコ | にしても、このアイドルグループの名前……教授さんがつけたのかい? |
教授 | 名前がどうかしたのか? 4YOU、For you……良いネーミングだと思うけど。 |
リコ | ゴホン……いや、まぁ、なんだ。お前さんが納得してりゃ、それでいいさ…… |
ツッコミを懸命にこらえるリコをよそに、私は舞台に目を向けた。 「4YOU」というグループ名の発案者は、全力で汗を撒き散らしている。 | |
教授 | (名前の評判に関しては……クルカイには黙っておこう……) |
クルカイ | 皆さん、こんばんは。私たちはオアシスのアイドルグループ、4YOUです。今日は『ギャラクティック前奏曲』に来てくれてありがとう。 |
クルカイ | オアシスとマグラシアは、これまでずっと、たくさんの危機や災難に見舞われてきた。 |
クルカイ | そんな中、親しい者との別れもあれば、新たな出会いもあった。私たちは多くのことを経験したわ……オアシスを守り、セクターを支え、治療や戦いを助け、私たちの居場所を造り上げてきた……私たちは一つのチームだからこそ、あらゆる困難を乗り越え、未来へと向かうことができた。 |
クルカイ | 私たちは、あなたたちのために歌う。私たちは、あなたたちのために存在する。だからこそ、私たちは「4YOU」……みんながオアシスに、マグラシアに与えてくれた全てに、心からありがとう。 |
クルカイ | 仮想世界を漂う私たちは、けして孤独じゃない。一人ひとりのオアシスへの貢献に、ありがとう。 |
クルカイはしばらく黙った。 ふいに、視線を私に向ける。 | |
教授 | ん? |
クルカイ | そしてもう一人。ここに、特別な存在がいる…… |
ウンディーネ | 彼が、オアシスをここまで導いてくれた。 |
センタウレイシー | 彼が、オアシスでの日々に寄り添ってくれた。 |
ヴィー | 彼は、私たちが笑顔でいられる理由。 |
クルカイ | 時に身を顧みず、忠告も聞かないけれど……彼がいるからこそ、今のすべてはある。 |
4YOU全員 | あなたが与えてくれたすべてに、ありがとう! |
クルカイ | (プレイヤー名)教授。この曲を「あなたのために」捧げます―― |
アバター女性の場合
オアシス、司令部。 | |
七花 | おはよ、教授♪ |
教授 | ああ、おはよう……七花?どうしたの、そのサングラス? 視覚モジュールにエラーでも起きたとか? |
七花 | ゴホン……安心したまえ!今日も七花は元気いっぱいなのだ♥これはね……あっ、その前に、メリルさんにご挨拶してあげて。 |
メリル | 教授、久しぶり。バーバンクが世話になってるね。 |
教授 | 遠慮しないで、私たちはもう盟友なんだから。 それにしても、七花がここにいるってことは…… なにかインスピレーションでも湧いたの? |
メリル | さっそく本題に入るなんて、相変わらずデリカシーがないのね。まぁでも、あなたらしいわ。 |
メリル | 簡単に言うと、ミュージックフェスティバルの開催をオアシスに手伝ってほしいの。 |
教授 | ミュージックフェスティバル? それまたどうして? |
メリル | 前のバーバンクフェスティバルじゃ、アクシデントがてんこ盛りだったけど、おかげでインスピレーションが刺激されちゃって……私だけじゃない、多くのエージェントが新たな試みに取り組んでるの。 |
メリル | コネクションロストが起きてから、マグラシアはいくつもの災難と苦痛に見舞われてる。そんな時だからこそ、音楽でみんなの気持ちを励ましてあげなくちゃ。 |
メリル | 教授なら、わかってくれるでしょ? |
メリルはさりげなく私のIDカードを一瞥し、私に向かって神妙な笑顔を浮かべた。 | |
教授 | なるほど、何を手伝えばいいの? |
メリル | オアシスは優れた人材で溢れてる。一緒にミュージックフェスを企画してほしいのよ。形式については……超人気アイドルの七花さんから、すでにアイディアを頂いてるわ。 |
教授 | 少し考えさせて。 |
メリル | これは貴重なチャンス、報酬だって弾むよ。心配なら、まずは七花の意見を聞いてみたら? |
教授 | 七花、あなたはどう思う? |
七花 | 教授……七花ね、オアシスで女の子のアイドルグループを作ろうと思うの! |
教授 | なるほど……えっ?アイドルグループ? |
七花 | えへへ……クロの言葉でひらめいたんだ。バーバンクを灯せたのは、七花だけの力じゃない、クロと一緒だから出来たことだもん。あの時、「NotREAL?」でみんなを笑顔にしてきた日々のこと、思い出したの。 |
メリル | ははっ。クロがそれを聞いたら、七花の応援BBSが彼女の書き込みで埋め尽くされそうね。 |
七花 | 今度はバーバンクだけじゃない……マグラシアのみんなにもパフォーマンスを捧げたい。こんなこと言ったら、笑われるかもしれないけど……それがアイドルの責任だって思うから。 |
教授 | 新生「NotREAL?」か。興奮のあまりフリーズする人が出てきそうね。 |
七花 | もぉ、教授ってば大げさなんだから☆ |
教授 | 新しいパフォーマンスでみんなを励ます…確かに素晴らしい提案ね。 |
メリル | ふふふ、やっぱりね。あのステージを提案したあなたなら、きっと同意すると思った。 |
教授 | それであなたは、フェスティバルについての相談をしにここへ? |
七花 | えっと……それなんだけど、一つだけ教授に頼みたいことがあって。 |
七花 | 七花ね、アイドルグループへの参加者を募集してみたの…… |
七花は「申請ボックス」と書かれた箱を取り出した。 投函口からは申請書が溢れ出している。 | |
七花 | 教授……これ……どうしよう? |
オアシスだけじゃない、他のセクターからの申請書まで混じっている…… さすがは七花、凄まじい影響力だ。 | |
教授 | そうね……フェスティバルが始まる前に、 アイドルのオーディションを開催してみてらどう? |
メリル | へぇ、面白そうじゃん。七花はどう思う? |
七花 | オーディションかぁ……ますます「NotREAL?」みたいになってきたなぁ!となれば、ちゃんと準備しないと! |
七花 | ありがと、教授!これからよろしくお願いします♥ |
教授 | えっ、うん……? |
メリル | さてと、私は『異相レンジャーMtoN』の脚本に取りかからなきゃ。オーディションのことは、二人に任せたわ。 |
メリルは即座に通信を切った。 するとサングラスをかけた七花が、微笑んだまま分厚い資料を取り出す。 彼女の笑顔がどうにも怪しい…… | |
七花 | オーディションを開催するには、アイドルの心得がなくちゃ!この七花がし~っかり教えてあげるからね、教・授☆ |
教授 | えっ……ちょ、ちょっと待って―― |
三日後、オアシス。 | |
イェレナ | 皆さん、こんばんは。『ギャラクシーナイト』のお時間です。本番組の司会を担当させて頂きます、イェレナと申します。 |
イェレナ | ご応募頂いた方の中から七花さんのパートナーを選出し、最強のアイドルグループを結成する、それが本番組の最終目的。オーディションは一次選考と決勝戦に分けて実装されます。皆さんのお手持ちの票と、審査員の方々による採点が、グループの運命を左右します! |
イェレナ | ではまず、『ギャラクシーナイト』の審査員の面々をご紹介しましょう。アイドルグループといえば、欠かせないのがこの方!オアシスのアイドルグループ結成のためなら、鬼審査員と化すことも厭わない、伝説のアイドル人形にして「NotREAL?」のメインボーカル――七花さんです!! |
七花 | 超ド級の癒し系アイドル、七花、参上ッ!みんな~、今日のイベント、楽しんでいってね~♫ |
観客 | 七花!七花!七花! |
七花 | あっ、違った!えっと、ここは…… |
七花 | 言わずとしれた鬼審査員とはこの私……七花です、お見知りおきを。 |
観客 | うおおおおおお!!七花!七花!七花!! |
七花が口調を変えたせいか、ファンたちがより一層興奮しだす。 とある銀髪のエージェントが、素早くキーボードライフルを宙に向けて撃ち出した。 | |
イェレナ | ファンの皆さん、ご声援ありがとうございます。それでは次の審査員をご紹介しましょう。サイバーメディアのレジェンド、伝統楽器で世界征服を成し遂げた古箏演奏者――黛煙さんです!! |
黛煙 | このような場にお招き頂けましたこと、誠に光栄の至りと存じます。選考に臨まれる方々が、最高のパフォーマンスを発揮できますよう、心より願っております。 |
黛煙は深々と一礼した。 観客席から一斉に、はちきれんばかりの拍手が鳴りだした。 | |
イェレナ | さて、それでは審査員の最後の一人……は、なぜ自分がここにいるのか、どうやらまだおわかりでないご様子。そう、オアシスの主、我らが指導者にして教授――(プレイヤー名)さんです!! |
教授 | 私の紹介だけ…やけに適当すぎない? |
教授 | えっと…ど、どうも。教授の(プレイヤー名)です。 |
私はぎこちなく、やや仕方なさげに観客席に手をふった。 だが、それでも観客たちの熱狂は冷めやらない。 | |
イェレナ | 審査員の皆様、この度はご足労頂きありがとうございます。ではさっそく参りましょう!一人目の参加者は――黛煙さんの妹君にしてオアシスのアクションスター、絳雨さんです!どうぞ! |
絳雨 | みんな~、こんにちは、絳雨です!あたしの歌と踊り、楽しんでいってね!曲名は『白日夢茶楼』! |
軽やかな音楽に合わせて、ステージの上で絳雨がおもむろに舞いを披露し始めた。 | |
教授 | この踊りは……拳法をアレンジしたのか。 身のこなしは流石ね、だけど…… |
舞台の上で飛び跳ねる絳雨を見て、私は仕方なく音楽を止めるよう指示した。 | |
教授 | 絳雨、ストップ。 「歌と踊り」なんでしょう、歌はどうしたの? |
絳雨 | あっ! |
絳雨が額をポンッと叩く。 | |
絳雨 | わ、忘れてたぁ!ゴホン……も、もう一回! |
黛煙 | プッ…… |
絳雨 | ♫ 心児怦怦地在等待 装作不経意的様子…… |
私はアイドルの審査に関してはまったくの素人だし、歌の内容も理解できないが、 絳雨の歌声はとても魅力的であるように思えた。七花も頷いている。 | |
しかし……歌い出したとたん、絳雨はまるで竹竿のように、 舞台の中央に立ったまま動かなくなった。 先ほどの力強く多彩な舞いとはまるで違う。 | |
教授 | 今度は踊りを忘れてるわね…… |
イェレナ | 残念ながら、絳雨さんは審査員の期待に応えられなかった模様……けれど、彼女の舞いと歌声には、目を見張るものがありました。絳雨さんに改めて拍手を! |
黛煙 | ふふふ……あの子ったら、まだまだね。 |
絳雨 | ありがとうございましたー!きっとまた戻ってくるから! |
絳雨が拳を振りまわす一方で、黛煙は絳雨に向かって優しく手をふった。 | |
イェレナ | さて、次に参りましょう。冥界の幽蝶、晩秋の哀悼歌、オアシスの十不思議に数えられた歌声の持ち主――クロトさんです、どうぞ!! |
平然とした表情のクロトが、棺桶を引きずって舞台へと現れた。 そして舞台の中央に立つと、棺桶の前にマイクを設置し、ゆっくりと舞台を降りる。 | |
イェレナ | お、おや!?どうしたことでしょう……クロトさん、クロトさん!? |
イェレナは大慌てでクロトを引き止めた。 だが、背後からの声がそれを遮る。 | |
?? | おいおいおい、司会者さんよォ!オーディション受けんのはオレだよ、オレ!こっちこっち! |
イェレナ | えっ? |
ヘル | ウォッホン!えー、ど~も~!アイドルオーディションに参加しに来ました、棺桶のヘルで~っす! |
教授 | ヘル? |
私は慌てて参加者リストを確認した。クロトの名前の横には、 小さな文字で「文字の書けないヘルのための代理申請」と記されている。 | |
黛煙 | ……これは…… |
七花 | プッ……あはははっ!棺桶アイドルかぁ、結構イケてるかも! |
イェレナ | ……ゴホン。えー、予想外の展開になってまいりました。クロトさんの歌声を聞けるものかと思っていましたが、真の参加者はヘルさんだったようです。 |
イェレナ | とにかく、パフォーマンスを始めて頂きましょう。 |
ヘル | フフン、いいぜ!オレの完璧な歌声をとくと味わえ! |
ヘル | ふゆ~~の、かぜぇぇ~……はる~~のぉ、ひざしぃぃ~~ |
歌声が会場内を席巻する。 観客たちが一斉に静かになった。 | |
黛煙 | 目の前が真っ暗になる点を踏まえると……子守唄の一種とも言えるのでは…… |
ヘル | あん?なんだぁ、まだ歌い終わっちゃいねぇぞ!? おい、やめろ、オレに触るな!棺桶がアイドル志望でなにが悪いってんだ!? オマエ~!今にオレの腹に押し込んでやるからな!? |
教授 | ……見なかったことにしよう。 |
オーディションが進むにつれて、絳雨のように印象に残る参加者も数多く現れた。 しかし、ヘルのような参加者も同様に後を絶たない…… | |
オーディション番組をセールスプロモーションに利用する謎の商人。 | |
リコ | さぁてと。今日はこん曲をみんなに捧げるよォ――『マグラシアの北から南まで』 |
リコ | ♫ 北のセクターから南のセクターまで ステキなアイテム届けます…… |
イェレナ | リコさん……オアシスの財務担当ならびに本番組の司会者として、あなたとはきっちりと話をしておくべきね。 |
リコ | こーんっ!?ちょ、ちょっと待った!今日のために書き下ろした新曲だよ!?ほんじゃなにかい、別の曲ならいいってのかい?これならどうだっ――『リコリック讃歌』!!♫ まぁるい尻尾の―― |
七花 | 歌詞に目をつむれば、悪くないと思うけどな……歌詞にさえ目をつむれば…… |
筆を捨て、歌に走る脚本家。 | |
野良 | ウォッホン!えー、うちがオーディションに参加したんは、主に締め切りから逃げよぉ……あっ…… |
蔵音 | だろうと思いましたよ!さっさとそこから降りんさい、この黒毛和牛がッ! |
黛煙 | ふふふ……漫才やお笑い番組が開催される暁には、お二人をご招待しませんと。 |
美しい歌声を持ちながら、アイドルグループには不向きな教誨師。 | |
エリカ | 本日は、本官による『メサイア』を聞かせてやろう。 |
七花 | なんて素敵な歌声……でも、どう見てもアイドルって感じじゃないな…… |
七花 | あ、あれ?客席のお人たちが懺悔し始めたよ……!? |
様々な理由により、会場へと紛れ込んでしまった者たち…… | |
イェレナ | さて、次の方に参りましょう!すえよ……えっ?末宵くん!? |
末宵 | …… |
イェレナ | あ、あの……末宵くん?ここは女性アイドルグループのオーディション現場でして…… |
末宵 | わかってる。 |
イェレナ | えっ……な、なら、どういうつもり……? |
末宵 | おい、見てんだろ、このアホンダラ!?よくもオレの名前で勝手にエントリーしてくれたな!?急にオアシスでの任務が出てきたかと思えば……!! |
末宵が怒りにまかせ、手中の番号札を床に叩きつけるのを見て、 私は参加者リストの備考欄を確認してみた。 | |
「末宵は部屋にこもってないで、あちこち見て回ったほうがいいから」 ――初塵 | |
……彼には真相を伝えないほうがよさそうね。 | |
教授 | ふむ、男性アイドルグループか……それもアリね。 |
七花 | きょ、教授?七花、さすがに男の子グループを指導した経験はないよ?……もし本当に結成するなら、教授にプロデューサーになってもらわないと。 |
教授 | えっ……と、とりあえず、目の前の問題から対処しよっか。 |
末宵 | 出てこい、初塵!!どーせお前のシワザだろ!? |
数時間の奮闘を経て、一次選考がようやく幕を下ろした。 続いては最も重要となる決勝パートだ。 | |
イェレナ | 皆さま、大変お待たせいたしました。まもなく決勝が始まります。選考を勝ち抜いた精鋭たちも、すでに準備万端のようですね。決勝戦では、参加者全員に十分なパフォーマンスの時間が与えられます。 |
イェレナ | 審査員はその場で点数を割り振るのではなく、すべてのパフォーマンスを終えてから審査を行います。最高得点を獲得した方が、七花さん率いるアイドルグループのメンバーに迎えられ、マグラシアに愛と希望を振りまくこととなるでしょう。 |
イェレナ | それでは、決勝戦のトップバッターをご紹介いたします。予選では『ゆうきの歌』で審査員を唸らせた、オアシス医療部門所属、美容のエキスパート――ヴィーさんです、どうぞ! |
ヴィー | みんな~、こんばんは~!最高の笑顔で夜を迎える準備はできた? |
イェレナ | ふふふ。ヴィーさんの歌声は、とても印象に残るものでしたね。ヴィーさん、オーディションに参加した理由をお伺いしても? |
ヴィー | 当然、私の美容サービスの宣伝に決まってる。 |
イェレナ | おや、それが理由だったんですね? |
ヴィー | だって、このところみんな忙しいでしょ?いつの間にか客足が減っちゃって。 |
ヴィー | こういう時こそ、ちょっとしたイメチェンがきっかけで、思いもよらぬ収穫が得られたりするの。自分やみんなに目新しさを感じてもらえるし、物事の行く末まで左右できちゃうんだから。 |
ヴィーは観客席のとある一角に向けてウィンクした。 客席に座るがっしりとした人形が、呆れたように肩をすくめる。 | |
イェレナ | なるほど、とても興味深いですね。 |
ヴィー | 身近にそういった例がたくさんあるの。だからみんなには最高の笑顔と顔立ちで、明日を迎えてほしい。 |
イェレナ | なんて素晴らしいスピーチでしょう。 |
イェレナ | 私も番組が終わったら、ヴィーさんのもとを訪れるしかなさそうです。あなたの言うように、最高の笑顔で未来を迎えるために。 |
ヴィー | うん、楽しみにしてる。 |
イェレナ | トークはこの辺にして、ヴィーさんにステージを預けましょうか。曲名は――『凛華――Before the Day』 |
艶やかで心震わせる歌声が、会場を駆け巡った。 それはさながら、美の女神が降臨したかのようだった。 | |
黛煙 | ヴィーさんの歌声が、こんなにも美しかっただなんて。 |
教授 | 黛煙の言う通りね。 ヴィーにこんな特技があるなんて、知らなかったわ。 |
七花 | 歌声だけじゃない。 |
七花は首をふる。 | |
七花 | 一番すごいのは、あの笑顔。自身に満ち溢れた笑顔が、ヴィーさんの最大の武器であり、彼女の歌声が人の心を動かす理由の一つだよ。 |
七花 | アイドルの笑顔は、ファンにパワーをもたらす……だからこそ、アイドルは舞台で輝けるの。 |
ウンディーネ | むぐっ…… |
楽屋では、ウンディーネがスクリーンに映る観客の姿を物憂げに見つめていた。 | |
ウンディーネ | 1000、1001……数が多すぎて、書ききれない。でも、これだけ「人」の字を呑み込んだんだもの。きっと大丈夫よね? |
ウンディーネ | ハァ……現実じゃ緊張とは無縁だったのに、どうしてクラウドでは逆に…… |
ウンディーネは自身のパフォーマンス用の衣装を見下ろした。 | |
ウンディーネ | この衣装……アイドルらしくないけれど、時間もなかったし仕方ないか。オーディションのためだけにメンタル映写を用意するのは、さすがに贅沢すぎるもの……ハァ…… |
スケルツァ | 【ピピピッポポッ――】 (リーダー、リーダー!) |
ウンディーネ | あら、あなたたち?客席にいたはずじゃ? |
ドルチェ | 【ピピピッポポッ――】 (プレゼント!プレゼント!) |
ウンディーネ | プレゼント?わたくしに? |
ウンディーネはやや怪訝な顔で、ドルチェに渡されたプレゼント箱を開いた。 | |
ウンディーネ | あっ、このメンタル映写は…… |
トランク | 【ピピピッポポッ――】 (バイト、貯金、僚機、ドレーシー) |
マエス | 【ピピピッポポッ――】 (リーダー!アイドル!ファイト! |
ウンディーネ | ドレーシーと、あなたたちが貯めたお金で……? |
ドルチェ | 【ピピッ――】 (サプライズ、サプライズ!) |
ウンディーネ | ぐすっ……ありがとう、みんな。 |
ウンディーネはドルチェたちをぎゅっと抱きしめた。 | |
ウンディーネ | 安心なさい、わたくしが最高のパフォーマンスをお届けしますわ! |
イェレナ | ヴィーさんの素晴らしい歌声に、改めて盛大な拍手を!ご覧ください、観客席まで輝かしい笑顔で埋め尽くされていますね! |
イェレナ | さて、続いての参加者もとてもユニークですよ。彼女にとって舞台は大変身近なものですが、おそらく彼女「一人」が舞台に立つのは、これが初めてでしょう。 |
イェレナ | それではお越し頂きましょう!ウンディーネ儀仗楽団――ウンディーネさんです! |
ウンディーネ | 皆様、ごきげんよう…… |
イェレナ | おや?ウンディーネさんのこちらのメンタル映写、初めて目にしますね。決勝戦のために準備されたんですか? |
ウンディーネ | ええ。大切な仲間たちが、わたくしのために用意してくださいましたの。オーディションへ参加するよう励ましてくださったのも、彼女たちですわ。 |
イェレナ | なるほど、ウンディーネ儀仗楽団の愛らしいメンバーたちですね? |
ウンディーネ | はい……わたくしは、ウンディーネ儀仗楽団を代表して、ここへと参りましたの。 |
ウンディーネ | E-Orchestra人形たるわたくしどもに強い力はありませんし、ストレージのほとんどが演奏に割かれているせいで、機能も著しく制限されておりますわ。わたくしどもはあまりにも弱く、皆様のお役に立てることは少ない…… |
ウンディーネ | けれどあの日、七花さんからのアイドル募集のお知らせを見て、思い立ったんですの。これをチャンスに、音楽を武器にして……皆様に勇気と希望を与えることができたら。 |
イェレナ | ……ありがとうございます、ウンディーネさん。あなた方を弱いと考える者なんて、ここには誰一人としていませんよ。あなた方の演奏は、何度も私たちを励ましてくれた。今日もいつものように、最高のパフォーマンスを披露して頂けると信じています。 |
ウンディーネ | ええ!それでは、お聴きくださいませ……『涙の純度』 |
七花 | ヴィーさんとはぜんぜん違う曲風だね。温かい……なんて温かい歌だろう。 |
黛煙 | 儀仗楽団の動きを組み合わせるのは、まさにウンディーネさんにしかできないことですね。旗が舞うたびに、客席が熱狂しているように感じます。 |
七花 | こんなアイドル、現実でも珍しいよ……七花も試してみたくなっちゃった! |
黛煙の言う通り、儀仗楽団とアイドルのパフォーマンスは似ても似つかないはずだった。 だがウンディーネは、両者を見事に結びつけている。 | |
イェレナ | ウンディーネさん、素晴らしいパフォーマンスをありがとうございました。私の心にも、勇気という名の炎が燃え上がったように感じます。ウンディーネさんにもう一曲お願いしたいところですが…… |
イェレナ | まだ最後の参加者が残っています。オアシスにいくつもの奇跡をもたらした、我らがメイド長――センタウレイシーさんです! |
センタウレイシー | 皆様、ごきげんよう。私はセンタウレイシーと申します。 |
イェレナ | センタウレイシーさんがオーディションに参加なさったのは、クロトさんの影響なのだとか? |
イェレナの問いかけに、センタウレイシーは頬を赤らめた。 | |
センタウレイシー | はい。初めは私がクロトに参加するよう勧めたのですけれど……まさか、私が決勝入りしてしまうだなんて思いもよらず…… |
イェレナ | クロトさんは参加されませんでしたが、ヘルさんには、とても楽しいパフォーマンスを披露して頂きました。センタウレイシーさんは本日、どのような曲目を? |
センタウレイシー | 今日、歌わせて頂くのは、ヴェーネ……私の最も大切な方が好きだった曲です。名前は『Wiegenlied』。 |
イェレナ | 『Wiegenlied』……たしか、ドイツに伝わる子守唄ですね? |
センタウレイシー | はい、現実にいた頃、最も大切な方によく歌い聴かせておりました。彼女はもう幼くはありませんでしたが、それでも、わがままには敵わなくて。 |
センタウレイシー | この場を借りて、私の歌を記録しておきたいのです。現実に戻った時、彼女に渡せるように。 |
センタウレイシー | たとえ私が傍にいなくても、私たちは歌声で繋がることができる……オーディションに参加する理由としては、少々弱すぎますでしょうか。 |
イェレナ | とてもセンタウレイシーさんらしい選択ですね。その理由が弱いだなんて、私は思いません。 |
センタウレイシー | えっ? |
イェレナ | 自分の歌声、現実にいる、最も大切な人に届けたい……つまり、私たちは現実に戻れると、あなたは強く信じている。 |
センタウレイシー | え、ええ……それを疑ったことは、一度もありません。 |
イェレナ | ふふふ……それならこの機会に、その最も大切な人に、メッセージを残しておいてはいかがでしょう? |
センタウレイシー | ……ヴェーネ。どうか待っていて、きっと、姉さんが会いにいくから。 |
美しい子守唄が奏でられる。馴染みあるはずのメロディが、 センタウレイシーの歌声により、これまでとは違ったフレーバーを醸し出す。 そこからは安眠を催す原曲よりも、明日を受け止めるような揺るぎなさが感じられた。 | |
心地よい歌声に、観客たちは静かに耳を傾けている。 音楽が止むと、やや遅れてから雷鳴のような拍手が鳴った。 | |
イェレナ | センタウレイシーさん、ありがとうございます。ここまで心震わせる子守唄を聴いたのは、これが初めてです。 |
イェレナ | さて、困ったことになりました。三名にはそれぞれの良さ、それぞれのスタイルがありますし、まさに甲乙つけ難いと言ったところでしょうか。 |
イェレナ | 果たして審査員の面々がどう評価するのか?観客の皆さんも興味津々であることでしょう。七花さんのパートナーとして、アイドルグループを結成するのは一体誰か?ご期待ください! |
イェレナは審査員席に向かってウインクしてみせた。 私たちに早く結論を出せと言わんばかりに。 | |
黛煙 | これは……想像以上でしたね。 |
七花 | こんなの決められないよ……教授はどう思う? |
教授 | もはや私には判断がつかないわ、あなたたちに任せる。 |
七花 | あっ、ずるーい! |
教授 | みんな素晴らしいわね。 |
七花 | うーん……だから困ってるんだよね。 |
ヴィーの笑顔、ウンディーネの心躍るダンス、 そしてセンタウレイシーの美しき歌声……どれも捨てがたい。 | |
教授 | それなら……全員合格にしよう! |
黛煙 | それはつまり…… |
教授 | 三人とも捨てがたいなら……彼女たちと七花の四人で、 新しいアイドルグループを結成するのはどう? |
七花 | わぁっ、七花もそう思ってたところなの!だけど……七花と組むよりも、彼女たちだけで、新しいグループを結成したほうがいいと思うな。 |
七花 | きっと七花とは違う何かが、ステージで花開くかもしれないよ。 |
黛煙 | そうですね、彼女たちなら……もっと興味深い火花がほとばしりそうです。 |
黛煙 | けれど、七花さん。彼女たちでグループを結成するとなると、「センター」になり得る存在が…… |
七花 | たしかに……そこが問題なんだよね。 |
教授 | センター? |
七花 | うん、アイドルグループの「センター」……みんなを率いる隊長のような役割だよ。ファンに愛と希望をもたらして、慰めて、力になるの。メンバーを導いて、気にかけられる存在。まさに完璧なアイドル! |
黛煙 | そんな大役を担える方は、多くはないでしょう。やはり、ここは七花さん自身が…… |
七花 | だけど……七花とは違うスタンスであってほしいんだ…… |
教授 | 完璧なアイドル……完璧、か…… |
教授 | ふむ、それなら……ぴったりの人材がいるわ。 |
七花 | えっ? |
教授 | ま、期待しておいて。 |
ミュージックフェスティバル、『ギャラクティック前奏曲』楽屋。 | |
クルカイ | 歌声で、マグラシアに希望とパワーを…… |
クルカイ | ハァ……なにがあるのかと思えば、こんなイベントのために呼び戻されるだなんて。 |
教授 | 苦労かけるわね。 |
クルカイ | 身分や環境は関係ありませんよ。私はあなたの副官として命令に従うまでです。 |
教授 | あなたにしかできないことなの。 |
クルカイ | そこまで言われては、仕方ありませんね……考えてみれば、確かに完璧な私にふさわしい任務だとも言えますし。 |
クルカイ | 歌声でマグラシアを励ます、そんな突拍子もない発想が出てくるなんて……さすがはあなたの率いるオアシスと言ったところですか。 |
教授 | 急な相談でごめんなさい。 それも、たった数回のリハーサルで舞台に立つことになりそう……できる? |
クルカイ | 当然です。どんな任務だろうと、最も完璧な姿で成し遂げてみせますよ。 |
クルカイ | 歌、ダンス、ポジショニング。もうとっくにマスターしましたから。 |
クルカイはやや遠くで振り付けの相談をしている七花とウンディーネ、そして服装を整えているセンタウレイシーとヴィーを見た。 | |
クルカイ | チームでの作戦は……久しぶりですね。 |
クルカイ | あなたが皆に伝えたい言葉、そして届けたい気持ちは、私たちが責任を持って伝えます。 |
クルカイ | 見ていてください、指揮官……いえ、今はプロデューサーと呼ぶべきですね。 |
教授 | あなたたちのパフォーマンスを、楽しみにしているわ。 |
クルカイ | 当然でしょう、あなたは私たちのプロデューサーなんですから。 120%の応援、頼みましたからね! |
『ギャラクティック前奏曲』、舞台現場。 | |
教授 | えっ、ちょ、ちょっと待っ――た、助け……て…… |
匿名希望の 単推し司会者 | レディース・アーンド・ジェントルメーン!! 本番組は超ド級の鬼マネによる渾身プロデュース、そしてそしてぇ、 超人気配信者にして七花単推し信者、ならびにロード・オブ・オアシス、 またの名を監禁ルームの支配者による制作でお送りしておりま~~ッす!! |
匿名希望の 単推し司会者 | 笑顔、ダンス、歌声、あらゆる至高のアイドル要素で構成された 完璧なアイドルグループが、ついに歴史の表舞台へと現れたァッ!! |
匿名希望の 単推し司会者 | まーーずーーはーー!欠かせないのがこちらの御方! 我が最愛のディーヴァ、あまねくステージの頂点、本フェスティバルのザ・仕掛人…… 瞬き煌めき輝ける鬼マネージャー、七ーー花ーーーーッ!! |
クロのはち切れんばかりの叫び声とともに、七花が華々しく舞台へと現れた。 | |
七花 | みんなーー!ミュージックフェスティバルの前夜祭――『ギャラクティック前奏曲』へようこそ~!みんなの超ド級癒し系アイドル、七花だよ☆ |
観客 | 七花!七花!七花! |
七花 | 応援ありがと~~!だ・け・ど、今日の主役は七花じゃないんだ!それではお呼びしましょう!オアシスの新生アイドルグループ――『4YOU』の皆さんで~す! |
音楽の前奏が鳴り、その場にいた全員が絢爛たる世界に誘われる。 | |
クルカイ | ♫ 抑えきれない気持ちが 熱を帯びてパンクする…… |
ウンディーネ | ♫ 君の奥底に ずっとずっとずっと 触れたい…… |
観客 | うおおおお!!来たぁぁあああああ!!! |
心震わす歌声、鮮やかなパフォーマンス、熱狂する観客たち。 | |
観客 | クルカイって、どこの人形なの?超カッコイイんだけど~~!! |
センタウレイシー | ♫ 輝く希望を 君と感じていたい…… |
ヴィー | ♫ 無限に広がる 光のオンパレード! |
観客 | 4You!4You!4You! |
最後の音符が奏でられると、雷鳴のような拍手と歓声が沸き上がった。 | |
教授 | ふふ、大成功ね。 |
リコ | ふっふ~ん!リコがあちこち宣伝してやったんだ、当ったり前だろ?この後のミュージックフェスの入場券でも、ガッポリ一儲けできそうだねェ! |
リコ | にしても、このアイドルグループの名前……教授さんがつけたのかい? |
教授 | 名前がどうかしたの? 4YOU、For you……良いネーミングだと思うけど。 |
リコ | ゴホン……いや、まぁ、なんだ。お前さんが納得してりゃ、それでいいさ…… |
ツッコミを懸命にこらえるリコをよそに、私は舞台に目を向けた。 「4YOU」というグループ名の発案者は、全力で汗を撒き散らしている。 | |
教授 | (名前の評判に関しては……クルカイには黙っておこう……) |
クルカイ | 皆さん、こんばんは。私たちはオアシスのアイドルグループ、4YOUです。今日は『ギャラクティック前奏曲』に来てくれてありがとう。 |
クルカイ | オアシスとマグラシアは、これまでずっと、たくさんの危機や災難に見舞われてきた。 |
クルカイ | そんな中、親しい者との別れもあれば、新たな出会いもあった。私たちは多くのことを経験したわ……オアシスを守り、セクターを支え、治療や戦いを助け、私たちの居場所を造り上げてきた……私たちは一つのチームだからこそ、あらゆる困難を乗り越え、未来へと向かうことができた。 |
クルカイ | 私たちは、あなたたちのために歌う。私たちは、あなたたちのために存在する。だからこそ、私たちは「4YOU」……みんながオアシスに、マグラシアに与えてくれた全てに、心からありがとう。 |
クルカイ | 仮想世界を漂う私たちは、けして孤独じゃない。一人ひとりのオアシスへの貢献に、ありがとう。 |
クルカイはしばらく黙った。 ふいに、視線を私に向ける。 | |
教授 | ん? |
クルカイ | そしてもう一人。ここに、特別な存在がいる…… |
ウンディーネ | 彼が、オアシスをここまで導いてくれた。 |
センタウレイシー | 彼が、オアシスでの日々に寄り添ってくれた。 |
ヴィー | 彼は、私たちが笑顔でいられる理由。 |
クルカイ | 時に身を顧みず、忠告も聞かないけれど……彼がいるからこそ、今のすべてはある。 |
4YOU全員 | あなたが与えてくれたすべてに、ありがとう! |
クルカイ | (プレイヤー名)教授。この曲を「あなたのために」捧げます―― |