循光のキセキ

Last-modified: 2024-03-28 (木) 00:04:38

七花ね、オアシスで女の子のアイドルグループを作ろうと思うの!

アバター男性の場合

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オアシス、司令部。
七花おはよ、教授♪
教授ああ、おはよう……七花?どうしたんだ、そのサングラスは。
視覚モジュールにエラーでも起きたのか?
七花ゴホン……安心したまえ!今日も七花は元気いっぱいなのだ♥これはね……あっ、その前に、メリルさんにご挨拶してあげて。
メリル教授、久しぶり。バーバンクが世話になってるね。
教授遠慮はいらないさ、私たちはもう盟友なんだから。
それにしても、七花がここにいるということは……
なにかインスピレーションでも湧いたのかい?
メリルさっそく本題に入るなんて、相変わらずデリカシーがないのね。まぁでも、あなたらしいわ。
メリル簡単に言うと、ミュージックフェスティバルの開催をオアシスに手伝ってほしいの。
教授ミュージックフェスティバル?
それまたどうして?
メリル前のバーバンクフェスティバルじゃ、アクシデントがてんこ盛りだったけど、おかげでインスピレーションが刺激されちゃって……私だけじゃない、多くのエージェントが新たな試みに取り組んでるの。
メリルコネクションロストが起きてから、マグラシアはいくつもの災難と苦痛に見舞われてる。そんな時だからこそ、音楽でみんなの気持ちを励ましてあげなくちゃ。
メリル教授なら、わかってくれるでしょ?
メリルはさりげなく私のIDカードを一瞥し、私に向かって神妙な笑顔を浮かべた。
教授なるほど、何を手伝えばいいんだ?
メリルオアシスは優れた人材で溢れてる。一緒にミュージックフェスを企画してほしいのよ。形式については……超人気アイドルの七花さんから、すでにアイディアを頂いてるわ。
教授少し考えさせてくれ。
メリルこれは貴重なチャンス、報酬だって弾むよ。心配なら、まずは七花の意見を聞いてみたら?
教授七花、君はどう思う?
七花教授……七花ね、オアシスで女の子のアイドルグループを作ろうと思うの!
教授なるほど……えっ?アイドルグループ?
七花えへへ……クロの言葉でひらめいたんだ。バーバンクを灯せたのは、七花だけの力じゃない、クロと一緒だから出来たことだもん。あの時、「NotREAL?」でみんなを笑顔にしてきた日々のこと、思い出したの。
メリルははっ。クロがそれを聞いたら、七花の応援BBSが彼女の書き込みで埋め尽くされそうね。
七花今度はバーバンクだけじゃない……マグラシアのみんなにもパフォーマンスを捧げたい。こんなこと言ったら、笑われるかもしれないけど……それがアイドルの責任だって思うから。
教授新生「NotREAL?」か。興奮のあまりフリーズする者が出てきそうだな。
七花もぉ、教授ってば大げさなんだから☆
教授新しいパフォーマンスでみんなを励ます…確かに素晴らしい提案だね。
メリルふふふ、やっぱりね。あのステージを提案したあなたなら、きっと同意すると思った。
教授それで君は、フェスティバルについての相談をしにここへ?
七花えっと……それなんだけど、一つだけ教授に頼みたいことがあって。
七花七花ね、アイドルグループへの参加者を募集してみたの……
七花は「申請ボックス」と書かれた箱を取り出した。
投函口からは申請書が溢れ出している。
七花教授……これ……どうしよう?
オアシスだけじゃない、他のセクターからの申請書まで混じっている……
さすがは七花、凄まじい影響力だ。
教授そうだな……フェスティバルが始まる前に、
アイドルのオーディションを開催してみてはどうだろう?
メリルへぇ、面白そうじゃん。七花はどう思う?
七花オーディションかぁ……ますます「NotREAL?」みたいになってきたなぁ!となれば、ちゃんと準備しないと!
七花ありがと、教授!これからよろしくお願いします♥
教授えっ、うん……?
メリルさてと、私は『異相レンジャーMtoN』の脚本に取りかからなきゃ。オーディションのことは、二人に任せたわ。
メリルは即座に通信を切った。
するとサングラスをかけた七花が、微笑んだまま分厚い資料を取り出す。
彼女の笑顔がどうにも怪しい……
七花オーディションを開催するには、アイドルの心得がなくちゃ!この七花がし~っかり教えてあげるからね、教・授☆
教授えっ……ちょ、ちょっと待った――
三日後、オアシス。
イェレナ皆さん、こんばんは。『ギャラクシーナイト』のお時間です。本番組の司会を担当させて頂きます、イェレナと申します。
イェレナご応募頂いた方の中から七花さんのパートナーを選出し、最強のアイドルグループを結成する、それが本番組の最終目的。オーディションは一次選考と決勝戦に分けて実装されます。皆さんのお手持ちの票と、審査員の方々による採点が、グループの運命を左右します!
イェレナではまず、『ギャラクシーナイト』の審査員の面々をご紹介しましょう。アイドルグループといえば、欠かせないのがこの方!オアシスのアイドルグループ結成のためなら、鬼審査員と化すことも厭わない、伝説のアイドル人形にして「NotREAL?」のメインボーカル――七花さんです!!
七花超ド級の癒し系アイドル、七花、参上ッ!みんな~、今日のイベント、楽しんでいってね~♫
観客七花!七花!七花!
七花あっ、違った!えっと、ここは……
七花言わずとしれた鬼審査員とはこの私……七花です、お見知りおきを。
観客うおおおおおお!!七花!七花!七花!!
七花が口調を変えたせいか、ファンたちがより一層興奮しだす。
とある銀髪のエージェントが、素早くキーボードライフルを宙に向けて撃ち出した。
イェレナファンの皆さん、ご声援ありがとうございます。それでは次の審査員をご紹介しましょう。サイバーメディアのレジェンド、伝統楽器で世界征服を成し遂げた古箏演奏者――黛煙さんです!!
黛煙このような場にお招き頂けましたこと、誠に光栄の至りと存じます。選考に臨まれる方々が、最高のパフォーマンスを発揮できますよう、心より願っております。
黛煙は深々と一礼した。
観客席から一斉に、はちきれんばかりの拍手が鳴りだした。
イェレナさて、それでは審査員の最後の一人……は、なぜ自分がここにいるのか、どうやらまだおわかりでないご様子。そう、オアシスの主、我らが指導者にして教授――(プレイヤー名)さんです!!
教授私の紹介だけ…やけに適当すぎないか?
教授えっと…ど、どうも。教授の(プレイヤー名)です。
私はぎこちなく、やや仕方なさげに観客席に手をふった。
だが、それでも観客たちの熱狂は冷めやらない。
イェレナ審査員の皆様、この度はご足労頂きありがとうございます。ではさっそく参りましょう!一人目の参加者は――黛煙さんの妹君にしてオアシスのアクションスター、絳雨さんです!どうぞ!
絳雨みんな~、こんにちは、絳雨です!あたしの歌と踊り、楽しんでいってね!曲名は『白日夢茶楼』!
軽やかな音楽に合わせて、ステージの上で絳雨がおもむろに舞いを披露し始めた。
教授この踊りは……拳法をアレンジしたのか。
身のこなしは流石だな、だけど……
舞台の上で飛び跳ねる絳雨を見て、私は仕方なく音楽を止めるよう指示した。
教授絳雨、ストップだ。
「歌と踊り」じゃなかったのか、歌はどうしたんだ?
絳雨あっ!
絳雨が額をポンッと叩く。
絳雨わ、忘れてたぁ!ゴホン……も、もう一回!
黛煙プッ……
絳雨♫ 心児怦怦地在等待 装作不経意的様子……
私はアイドルの審査に関してはまったくの素人だし、歌の内容も理解できないが、
絳雨の歌声はとても魅力的であるように思えた。七花も頷いている。
しかし……歌い出したとたん、絳雨はまるで竹竿のように、
舞台の中央に立ったまま動かなくなった。
先ほどの力強く多彩な舞いとはまるで違う。
教授今度は踊りを忘れてるな……
イェレナ残念ながら、絳雨さんは審査員の期待に応えられなかった模様……けれど、彼女の舞いと歌声には、目を見張るものがありました。絳雨さんに改めて拍手を!
黛煙ふふふ……あの子ったら、まだまだね。
絳雨ありがとうございましたー!きっとまた戻ってくるから!
絳雨が拳を振りまわす一方で、黛煙は絳雨に向かって優しく手をふった。
イェレナさて、次に参りましょう。冥界の幽蝶、晩秋の哀悼歌、オアシスの十不思議に数えられた歌声の持ち主――クロトさんです、どうぞ!!
平然とした表情のクロトが、棺桶を引きずって舞台へと現れた。
そして舞台の中央に立つと、棺桶の前にマイクを設置し、ゆっくりと舞台を降りる。
イェレナお、おや!?どうしたことでしょう……クロトさん、クロトさん!?
イェレナは大慌てでクロトを引き止めた。
だが、背後からの声がそれを遮る。
??おいおいおい、司会者さんよォ!オーディション受けんのはオレだよ、オレ!こっちこっち!
イェレナえっ?
ヘルウォッホン!えー、ど~も~!アイドルオーディションに参加しに来ました、棺桶のヘルで~っす!
教授ヘル?
私は慌てて参加者リストを確認した。クロトの名前の横には、
小さな文字で「文字の書けないヘルのための代理申請」と記されている。
黛煙……これは……
七花プッ……あはははっ!棺桶アイドルかぁ、結構イケてるかも!
イェレナ……ゴホン。えー、予想外の展開になってまいりました。クロトさんの歌声を聞けるものかと思っていましたが、真の参加者はヘルさんだったようです。
イェレナとにかく、パフォーマンスを始めて頂きましょう。
ヘルフフン、いいぜ!オレの完璧な歌声をとくと味わえ!
ヘルふゆ~~の、かぜぇぇ~……はる~~のぉ、ひざしぃぃ~~
歌声が会場内を席巻する。
観客たちが一斉に静かになった。
黛煙目の前が真っ暗になる点を踏まえると……子守唄の一種とも言えるのでは……
ヘルあん?なんだぁ、まだ歌い終わっちゃいねぇぞ!?
おい、やめろ、オレに触るな!棺桶がアイドル志望でなにが悪いってんだ!?
オマエ~!今にオレの腹に押し込んでやるからな!?
教授……見なかったことにしよう。
オーディションが進むにつれて、絳雨のように印象に残る参加者も数多く現れた。
しかし、ヘルのような参加者も同様に後を絶たない……
オーディション番組をセールスプロモーションに利用する謎の商人。
リコさぁてと。今日はこん曲をみんなに捧げるよォ――『マグラシアの北から南まで』
リコ♫ 北のセクターから南のセクターまで ステキなアイテム届けます……
イェレナリコさん……オアシスの財務担当ならびに本番組の司会者として、あなたとはきっちりと話をしておくべきね。
リコこーんっ!?ちょ、ちょっと待った!今日のために書き下ろした新曲だよ!?ほんじゃなにかい、別の曲ならいいってのかい?これならどうだっ――『リコリック讃歌』!!♫ まぁるい尻尾の――
七花歌詞に目をつむれば、悪くないと思うけどな……歌詞にさえ目をつむれば……
筆を捨て、歌に走る脚本家。
野良ウォッホン!えー、うちがオーディションに参加したんは、主に締め切りから逃げよぉ……あっ……
蔵音だろうと思いましたよ!さっさとそこから降りんさい、この黒毛和牛がッ!
黛煙ふふふ……漫才やお笑い番組が開催される暁には、お二人をご招待しませんと。
美しい歌声を持ちながら、アイドルグループには不向きな教誨師。
エリカ本日は、本官による『メサイア』を聞かせてやろう。
七花なんて素敵な歌声……でも、どう見てもアイドルって感じじゃないな……
七花あ、あれ?客席のお人たちが懺悔し始めたよ……!?
様々な理由により、会場へと紛れ込んでしまった者たち……
イェレナさて、次の方に参りましょう!すえよ……えっ?末宵くん!?
末宵……
イェレナあ、あの……末宵くん?ここは女性アイドルグループのオーディション現場でして……
末宵わかってる。
イェレナえっ……な、なら、どういうつもり……?
末宵おい、見てんだろ、このアホンダラ!?よくもオレの名前で勝手にエントリーしてくれたな!?急にオアシスでの任務が出てきたかと思えば……!!
末宵が怒りにまかせ、手中の番号札を床に叩きつけるのを見て、
私は参加者リストの備考欄を確認してみた。
「末宵は部屋にこもってないで、あちこち見て回ったほうがいいから」
――初塵
……彼には真相を伝えないほうがよさそうだ。
教授ふむ、男性アイドルグループか……それもアリだな。
七花きょ、教授?七花、さすがに男の子グループを指導した経験はないよ?……もし本当に結成するなら、教授にプロデューサーになってもらわないと。
教授えっ……と、とりあえず、目の前の問題から対処しようか。
末宵出てこい、初塵!!どーせお前のシワザだろ!?
数時間の奮闘を経て、一次選考がようやく幕を下ろした。
続いては最も重要となる決勝パートだ。
イェレナ皆さま、大変お待たせいたしました。まもなく決勝が始まります。選考を勝ち抜いた精鋭たちも、すでに準備万端のようですね。決勝戦では、参加者全員に十分なパフォーマンスの時間が与えられます。
イェレナ審査員はその場で点数を割り振るのではなく、すべてのパフォーマンスを終えてから審査を行います。最高得点を獲得した方が、七花さん率いるアイドルグループのメンバーに迎えられ、マグラシアに愛と希望を振りまくこととなるでしょう。
イェレナそれでは、決勝戦のトップバッターをご紹介いたします。予選では『ゆうきの歌』で審査員を唸らせた、オアシス医療部門所属、美容のエキスパート――ヴィーさんです、どうぞ!
ヴィーみんな~、こんばんは~!最高の笑顔で夜を迎える準備はできた?
イェレナふふふ。ヴィーさんの歌声は、とても印象に残るものでしたね。ヴィーさん、オーディションに参加した理由をお伺いしても?
ヴィー当然、私の美容サービスの宣伝に決まってる。
イェレナおや、それが理由だったんですね?
ヴィーだって、このところみんな忙しいでしょ?いつの間にか客足が減っちゃって。
ヴィーこういう時こそ、ちょっとしたイメチェンがきっかけで、思いもよらぬ収穫が得られたりするの。自分やみんなに目新しさを感じてもらえるし、物事の行く末まで左右できちゃうんだから。
ヴィーは観客席のとある一角に向けてウィンクした。
客席に座るがっしりとした人形が、呆れたように肩をすくめる。
イェレナなるほど、とても興味深いですね。
ヴィー身近にそういった例がたくさんあるの。だからみんなには最高の笑顔と顔立ちで、明日を迎えてほしい。
イェレナなんて素晴らしいスピーチでしょう。
イェレナ私も番組が終わったら、ヴィーさんのもとを訪れるしかなさそうです。あなたの言うように、最高の笑顔で未来を迎えるために。
ヴィーうん、楽しみにしてる。
イェレナトークはこの辺にして、ヴィーさんにステージを預けましょうか。曲名は――『凛華――Before the Day』
艶やかで心震わせる歌声が、会場を駆け巡った。
それはさながら、美の女神が降臨したかのようだった。
黛煙ヴィーさんの歌声が、こんなにも美しかっただなんて。
教授黛煙の言う通りだ。
ヴィーにこんな特技があるとは知らなかったよ。
七花歌声だけじゃない。
七花は首をふる。
七花一番すごいのは、あの笑顔。自身に満ち溢れた笑顔が、ヴィーさんの最大の武器であり、彼女の歌声が人の心を動かす理由の一つだよ。
七花アイドルの笑顔は、ファンにパワーをもたらす……だからこそ、アイドルは舞台で輝けるの。
ウンディーネむぐっ……
楽屋では、ウンディーネがスクリーンに映る観客の姿を物憂げに見つめていた。
ウンディーネ1000、1001……数が多すぎて、書ききれない。でも、これだけ「人」の字を呑み込んだんだもの。きっと大丈夫よね?
ウンディーネハァ……現実じゃ緊張とは無縁だったのに、どうしてクラウドでは逆に……
ウンディーネは自身のパフォーマンス用の衣装を見下ろした。
ウンディーネこの衣装……アイドルらしくないけれど、時間もなかったし仕方ないか。オーディションのためだけにメンタル映写を用意するのは、さすがに贅沢すぎるもの……ハァ……
スケルツァ【ピピピッポポッ――】
(リーダー、リーダー!)
ウンディーネあら、あなたたち?客席にいたはずじゃ?
ドルチェ【ピピピッポポッ――】
(プレゼント!プレゼント!)
ウンディーネプレゼント?わたくしに?
ウンディーネはやや怪訝な顔で、ドルチェに渡されたプレゼント箱を開いた。
ウンディーネあっ、このメンタル映写は……
トランク【ピピピッポポッ――】
(バイト、貯金、僚機、ドレーシー)
マエス【ピピピッポポッ――】
(リーダー!アイドル!ファイト!
ウンディーネドレーシーと、あなたたちが貯めたお金で……?
ドルチェ【ピピッ――】
(サプライズ、サプライズ!)
ウンディーネぐすっ……ありがとう、みんな。
ウンディーネはドルチェたちをぎゅっと抱きしめた。
ウンディーネ安心なさい、わたくしが最高のパフォーマンスをお届けしますわ!
イェレナヴィーさんの素晴らしい歌声に、改めて盛大な拍手を!ご覧ください、観客席まで輝かしい笑顔で埋め尽くされていますね!
イェレナさて、続いての参加者もとてもユニークですよ。彼女にとって舞台は大変身近なものですが、おそらく彼女「一人」が舞台に立つのは、これが初めてでしょう。
イェレナそれではお越し頂きましょう!ウンディーネ儀仗楽団――ウンディーネさんです!
ウンディーネ皆様、ごきげんよう……
イェレナおや?ウンディーネさんのこちらのメンタル映写、初めて目にしますね。決勝戦のために準備されたんですか?
ウンディーネええ。大切な仲間たちが、わたくしのために用意してくださいましたの。オーディションへ参加するよう励ましてくださったのも、彼女たちですわ。
イェレナなるほど、ウンディーネ儀仗楽団の愛らしいメンバーたちですね?
ウンディーネはい……わたくしは、ウンディーネ儀仗楽団を代表して、ここへと参りましたの。
ウンディーネE-Orchestra人形たるわたくしどもに強い力はありませんし、ストレージのほとんどが演奏に割かれているせいで、機能も著しく制限されておりますわ。わたくしどもはあまりにも弱く、皆様のお役に立てることは少ない……
ウンディーネけれどあの日、七花さんからのアイドル募集のお知らせを見て、思い立ったんですの。これをチャンスに、音楽を武器にして……皆様に勇気と希望を与えることができたら。
イェレナ……ありがとうございます、ウンディーネさん。あなた方を弱いと考える者なんて、ここには誰一人としていませんよ。あなた方の演奏は、何度も私たちを励ましてくれた。今日もいつものように、最高のパフォーマンスを披露して頂けると信じています。
ウンディーネええ!それでは、お聴きくださいませ……『涙の純度』
七花ヴィーさんとはぜんぜん違う曲風だね。温かい……なんて温かい歌だろう。
黛煙儀仗楽団の動きを組み合わせるのは、まさにウンディーネさんにしかできないことですね。旗が舞うたびに、客席が熱狂しているように感じます。
七花こんなアイドル、現実でも珍しいよ……七花も試してみたくなっちゃった!
黛煙の言う通り、儀仗楽団とアイドルのパフォーマンスは似ても似つかないはずだった。
だがウンディーネは、両者を見事に結びつけている。
イェレナウンディーネさん、素晴らしいパフォーマンスをありがとうございました。私の心にも、勇気という名の炎が燃え上がったように感じます。ウンディーネさんにもう一曲お願いしたいところですが……
イェレナまだ最後の参加者が残っています。オアシスにいくつもの奇跡をもたらした、我らがメイド長――センタウレイシーさんです!
センタウレイシー皆様、ごきげんよう。私はセンタウレイシーと申します。
イェレナセンタウレイシーさんがオーディションに参加なさったのは、クロトさんの影響なのだとか?
イェレナの問いかけに、センタウレイシーは頬を赤らめた。
センタウレイシーはい。初めは私がクロトに参加するよう勧めたのですけれど……まさか、私が決勝入りしてしまうだなんて思いもよらず……
イェレナクロトさんは参加されませんでしたが、ヘルさんには、とても楽しいパフォーマンスを披露して頂きました。センタウレイシーさんは本日、どのような曲目を?
センタウレイシー今日、歌わせて頂くのは、ヴェーネ……私の最も大切な方が好きだった曲です。名前は『Wiegenlied』。
イェレナ『Wiegenlied』……たしか、ドイツに伝わる子守唄ですね?
センタウレイシーはい、現実にいた頃、最も大切な方によく歌い聴かせておりました。彼女はもう幼くはありませんでしたが、それでも、わがままには敵わなくて。
センタウレイシーこの場を借りて、私の歌を記録しておきたいのです。現実に戻った時、彼女に渡せるように。
センタウレイシーたとえ私が傍にいなくても、私たちは歌声で繋がることができる……オーディションに参加する理由としては、少々弱すぎますでしょうか。
イェレナとてもセンタウレイシーさんらしい選択ですね。その理由が弱いだなんて、私は思いません。
センタウレイシーえっ?
イェレナ自分の歌声、現実にいる、最も大切な人に届けたい……つまり、私たちは現実に戻れると、あなたは強く信じている。
センタウレイシーえ、ええ……それを疑ったことは、一度もありません。
イェレナふふふ……それならこの機会に、その最も大切な人に、メッセージを残しておいてはいかがでしょう?
センタウレイシー……ヴェーネ。どうか待っていて、きっと、姉さんが会いにいくから。
美しい子守唄が奏でられる。馴染みあるはずのメロディが、
センタウレイシーの歌声により、これまでとは違ったフレーバーを醸し出す。
そこからは安眠を催す原曲よりも、明日を受け止めるような揺るぎなさが感じられた。
心地よい歌声に、観客たちは静かに耳を傾けている。
音楽が止むと、やや遅れてから雷鳴のような拍手が鳴った。
イェレナセンタウレイシーさん、ありがとうございます。ここまで心震わせる子守唄を聴いたのは、これが初めてです。
イェレナさて、困ったことになりました。三名にはそれぞれの良さ、それぞれのスタイルがありますし、まさに甲乙つけ難いと言ったところでしょうか。
イェレナ果たして審査員の面々がどう評価するのか?観客の皆さんも興味津々であることでしょう。七花さんのパートナーとして、アイドルグループを結成するのは一体誰か?ご期待ください!
イェレナは審査員席に向かってウインクしてみせた。
私たちに早く結論を出せと言わんばかりに。
黛煙これは……想像以上でしたね。
七花こんなの決められないよ……教授はどう思う?
教授もはや私には判断がつかない、君たちに任せるよ。
七花あっ、ずるーい!
教授みんな素晴らしいな。
七花うーん……だから困ってるんだよね。
ヴィーの笑顔、ウンディーネの心躍るダンス、
そしてセンタウレイシーの美しき歌声……どれも捨てがたい。
教授それなら……全員合格にしよう!
黛煙それはつまり……
教授三人とも捨てがたいなら……彼女たちと七花の四人で、
新しいアイドルグループを結成するのはどうだ?
七花わぁっ、七花もそう思ってたところなの!だけど……七花と組むよりも、彼女たちだけで、新しいグループを結成したほうがいいと思うな。
七花きっと七花とは違う何かが、ステージで花開くかもしれないよ。
黛煙そうですね、彼女たちなら……もっと興味深い火花がほとばしりそうです。
黛煙けれど、七花さん。彼女たちでグループを結成するとなると、「センター」になり得る存在が……
七花たしかに……そこが問題なんだよね。
教授センター?
七花うん、アイドルグループの「センター」……みんなを率いる隊長のような役割だよ。ファンに愛と希望をもたらして、慰めて、力になるの。メンバーを導いて、気にかけられる存在。まさに完璧なアイドル!
黛煙そんな大役を担える方は、多くはないでしょう。やはり、ここは七花さん自身が……
七花だけど……七花とは違うスタンスであってほしいんだ……
教授完璧なアイドル……完璧、か……
教授ふむ、それなら……ぴったりの人材がいるぞ。
七花えっ?
教授ま、期待しておいてくれ。
ミュージックフェスティバル、『ギャラクティック前奏曲』楽屋。
クルカイ歌声で、マグラシアに希望とパワーを……
クルカイハァ……なにがあるのかと思えば、こんなイベントのために呼び戻されるだなんて。
教授苦労かけるね。
クルカイ身分や環境は関係ありませんよ。私はあなたの副官として命令に従うまでです。
教授君にしかできないことなんだ。
クルカイそこまで言われては、仕方ありませんね……考えてみれば、確かに完璧な私にふさわしい任務だとも言えますし。
クルカイ歌声でマグラシアを励ます、そんな突拍子もない発想が出てくるなんて……さすがはあなたの率いるオアシスと言ったところですか。
教授急な相談ですまない。
それも、たった数回のリハーサルで舞台に立つことになりそうだ……できるかい?
クルカイ当然です。どんな任務だろうと、最も完璧な姿で成し遂げてみせますよ。
クルカイ歌、ダンス、ポジショニング。もうとっくにマスターしましたから。
クルカイはやや遠くで振り付けの相談をしている七花とウンディーネ、そして服装を整えているセンタウレイシーとヴィーを見た。
クルカイチームでの作戦は……久しぶりですね。
クルカイあなたが皆に伝えたい言葉、そして届けたい気持ちは、私たちが責任を持って伝えます。
クルカイ見ていてください、指揮官……いえ、今はプロデューサーと呼ぶべきですね。
教授君たちのパフォーマンスを、楽しみにしているよ。
クルカイ当然でしょう、あなたは私たちのプロデューサーなんですから。
120%の応援、頼みましたからね!
『ギャラクティック前奏曲』、舞台現場。
教授えっ、ちょ、ちょっと待っ――た、助け……て……
匿名希望の
単推し司会者
レディース・アーンド・ジェントルメーン!!
本番組は超ド級の鬼マネによる渾身プロデュース、そしてそしてぇ、
超人気配信者にして七花単推し信者、ならびにロード・オブ・オアシス、
またの名を監禁ルームの支配者による制作でお送りしておりま~~ッす!!
匿名希望の
単推し司会者
笑顔、ダンス、歌声、あらゆる至高のアイドル要素で構成された
完璧なアイドルグループが、ついに歴史の表舞台へと現れたァッ!!
匿名希望の
単推し司会者
まーーずーーはーー!欠かせないのがこちらの御方!
我が最愛のディーヴァ、あまねくステージの頂点、本フェスティバルのザ・仕掛人……
瞬き煌めき輝ける鬼マネージャー、七ーー花ーーーーッ!!
クロのはち切れんばかりの叫び声とともに、七花が華々しく舞台へと現れた。
七花みんなーー!ミュージックフェスティバルの前夜祭――『ギャラクティック前奏曲』へようこそ~!みんなの超ド級癒し系アイドル、七花だよ☆
観客七花!七花!七花!
七花応援ありがと~~!だ・け・ど、今日の主役は七花じゃないんだ!それではお呼びしましょう!オアシスの新生アイドルグループ――『4YOU』の皆さんで~す!
音楽の前奏が鳴り、その場にいた全員が絢爛たる世界に誘われる。
クルカイ♫ 抑えきれない気持ちが 熱を帯びてパンクする……
ウンディーネ♫ 君の奥底に ずっとずっとずっと 触れたい……
観客うおおおお!!来たぁぁあああああ!!!
心震わす歌声、鮮やかなパフォーマンス、熱狂する観客たち。
観客クルカイって、どこの人形なの?超カッコイイんだけど~~!!
センタウレイシー♫ 輝く希望を 君と感じていたい……
ヴィー♫ 無限に広がる 光のオンパレード!
観客4You!4You!4You!
最後の音符が奏でられると、雷鳴のような拍手と歓声が沸き上がった。
教授はは、大成功だな。
リコふっふ~ん!リコがあちこち宣伝してやったんだ、当ったり前だろ?この後のミュージックフェスの入場券でも、ガッポリ一儲けできそうだねェ!
リコにしても、このアイドルグループの名前……教授さんがつけたのかい?
教授名前がどうかしたのか?
4YOU、For you……良いネーミングだと思うけど。
リコゴホン……いや、まぁ、なんだ。お前さんが納得してりゃ、それでいいさ……
ツッコミを懸命にこらえるリコをよそに、私は舞台に目を向けた。
「4YOU」というグループ名の発案者は、全力で汗を撒き散らしている。
教授(名前の評判に関しては……クルカイには黙っておこう……)
クルカイ皆さん、こんばんは。私たちはオアシスのアイドルグループ、4YOUです。今日は『ギャラクティック前奏曲』に来てくれてありがとう。
クルカイオアシスとマグラシアは、これまでずっと、たくさんの危機や災難に見舞われてきた。
クルカイそんな中、親しい者との別れもあれば、新たな出会いもあった。私たちは多くのことを経験したわ……オアシスを守り、セクターを支え、治療や戦いを助け、私たちの居場所を造り上げてきた……私たちは一つのチームだからこそ、あらゆる困難を乗り越え、未来へと向かうことができた。
クルカイ私たちは、あなたたちのために歌う。私たちは、あなたたちのために存在する。だからこそ、私たちは「4YOU」……みんながオアシスに、マグラシアに与えてくれた全てに、心からありがとう。
クルカイ仮想世界を漂う私たちは、けして孤独じゃない。一人ひとりのオアシスへの貢献に、ありがとう。
クルカイはしばらく黙った。
ふいに、視線を私に向ける。
教授ん?
クルカイそしてもう一人。ここに、特別な存在がいる……
ウンディーネ彼が、オアシスをここまで導いてくれた。
センタウレイシー彼が、オアシスでの日々に寄り添ってくれた。
ヴィー彼は、私たちが笑顔でいられる理由。
クルカイ時に身を顧みず、忠告も聞かないけれど……彼がいるからこそ、今のすべてはある。
4YOU全員あなたが与えてくれたすべてに、ありがとう!
クルカイ(プレイヤー名)教授。この曲を「あなたのために」捧げます――

アバター女性の場合

背景を開く
オアシス、司令部。
七花おはよ、教授♪
教授ああ、おはよう……七花?どうしたの、そのサングラス?
視覚モジュールにエラーでも起きたとか?
七花ゴホン……安心したまえ!今日も七花は元気いっぱいなのだ♥これはね……あっ、その前に、メリルさんにご挨拶してあげて。
メリル教授、久しぶり。バーバンクが世話になってるね。
教授遠慮しないで、私たちはもう盟友なんだから。
それにしても、七花がここにいるってことは……
なにかインスピレーションでも湧いたの?
メリルさっそく本題に入るなんて、相変わらずデリカシーがないのね。まぁでも、あなたらしいわ。
メリル簡単に言うと、ミュージックフェスティバルの開催をオアシスに手伝ってほしいの。
教授ミュージックフェスティバル?
それまたどうして?
メリル前のバーバンクフェスティバルじゃ、アクシデントがてんこ盛りだったけど、おかげでインスピレーションが刺激されちゃって……私だけじゃない、多くのエージェントが新たな試みに取り組んでるの。
メリルコネクションロストが起きてから、マグラシアはいくつもの災難と苦痛に見舞われてる。そんな時だからこそ、音楽でみんなの気持ちを励ましてあげなくちゃ。
メリル教授なら、わかってくれるでしょ?
メリルはさりげなく私のIDカードを一瞥し、私に向かって神妙な笑顔を浮かべた。
教授なるほど、何を手伝えばいいの?
メリルオアシスは優れた人材で溢れてる。一緒にミュージックフェスを企画してほしいのよ。形式については……超人気アイドルの七花さんから、すでにアイディアを頂いてるわ。
教授少し考えさせて。
メリルこれは貴重なチャンス、報酬だって弾むよ。心配なら、まずは七花の意見を聞いてみたら?
教授七花、あなたはどう思う?
七花教授……七花ね、オアシスで女の子のアイドルグループを作ろうと思うの!
教授なるほど……えっ?アイドルグループ?
七花えへへ……クロの言葉でひらめいたんだ。バーバンクを灯せたのは、七花だけの力じゃない、クロと一緒だから出来たことだもん。あの時、「NotREAL?」でみんなを笑顔にしてきた日々のこと、思い出したの。
メリルははっ。クロがそれを聞いたら、七花の応援BBSが彼女の書き込みで埋め尽くされそうね。
七花今度はバーバンクだけじゃない……マグラシアのみんなにもパフォーマンスを捧げたい。こんなこと言ったら、笑われるかもしれないけど……それがアイドルの責任だって思うから。
教授新生「NotREAL?」か。興奮のあまりフリーズする人が出てきそうね。
七花もぉ、教授ってば大げさなんだから☆
教授新しいパフォーマンスでみんなを励ます…確かに素晴らしい提案ね。
メリルふふふ、やっぱりね。あのステージを提案したあなたなら、きっと同意すると思った。
教授それであなたは、フェスティバルについての相談をしにここへ?
七花えっと……それなんだけど、一つだけ教授に頼みたいことがあって。
七花七花ね、アイドルグループへの参加者を募集してみたの……
七花は「申請ボックス」と書かれた箱を取り出した。
投函口からは申請書が溢れ出している。
七花教授……これ……どうしよう?
オアシスだけじゃない、他のセクターからの申請書まで混じっている……
さすがは七花、凄まじい影響力だ。
教授そうね……フェスティバルが始まる前に、
アイドルのオーディションを開催してみてらどう?
メリルへぇ、面白そうじゃん。七花はどう思う?
七花オーディションかぁ……ますます「NotREAL?」みたいになってきたなぁ!となれば、ちゃんと準備しないと!
七花ありがと、教授!これからよろしくお願いします♥
教授えっ、うん……?
メリルさてと、私は『異相レンジャーMtoN』の脚本に取りかからなきゃ。オーディションのことは、二人に任せたわ。
メリルは即座に通信を切った。
するとサングラスをかけた七花が、微笑んだまま分厚い資料を取り出す。
彼女の笑顔がどうにも怪しい……
七花オーディションを開催するには、アイドルの心得がなくちゃ!この七花がし~っかり教えてあげるからね、教・授☆
教授えっ……ちょ、ちょっと待って――
三日後、オアシス。
イェレナ皆さん、こんばんは。『ギャラクシーナイト』のお時間です。本番組の司会を担当させて頂きます、イェレナと申します。
イェレナご応募頂いた方の中から七花さんのパートナーを選出し、最強のアイドルグループを結成する、それが本番組の最終目的。オーディションは一次選考と決勝戦に分けて実装されます。皆さんのお手持ちの票と、審査員の方々による採点が、グループの運命を左右します!
イェレナではまず、『ギャラクシーナイト』の審査員の面々をご紹介しましょう。アイドルグループといえば、欠かせないのがこの方!オアシスのアイドルグループ結成のためなら、鬼審査員と化すことも厭わない、伝説のアイドル人形にして「NotREAL?」のメインボーカル――七花さんです!!
七花超ド級の癒し系アイドル、七花、参上ッ!みんな~、今日のイベント、楽しんでいってね~♫
観客七花!七花!七花!
七花あっ、違った!えっと、ここは……
七花言わずとしれた鬼審査員とはこの私……七花です、お見知りおきを。
観客うおおおおおお!!七花!七花!七花!!
七花が口調を変えたせいか、ファンたちがより一層興奮しだす。
とある銀髪のエージェントが、素早くキーボードライフルを宙に向けて撃ち出した。
イェレナファンの皆さん、ご声援ありがとうございます。それでは次の審査員をご紹介しましょう。サイバーメディアのレジェンド、伝統楽器で世界征服を成し遂げた古箏演奏者――黛煙さんです!!
黛煙このような場にお招き頂けましたこと、誠に光栄の至りと存じます。選考に臨まれる方々が、最高のパフォーマンスを発揮できますよう、心より願っております。
黛煙は深々と一礼した。
観客席から一斉に、はちきれんばかりの拍手が鳴りだした。
イェレナさて、それでは審査員の最後の一人……は、なぜ自分がここにいるのか、どうやらまだおわかりでないご様子。そう、オアシスの主、我らが指導者にして教授――(プレイヤー名)さんです!!
教授私の紹介だけ…やけに適当すぎない?
教授えっと…ど、どうも。教授の(プレイヤー名)です。
私はぎこちなく、やや仕方なさげに観客席に手をふった。
だが、それでも観客たちの熱狂は冷めやらない。
イェレナ審査員の皆様、この度はご足労頂きありがとうございます。ではさっそく参りましょう!一人目の参加者は――黛煙さんの妹君にしてオアシスのアクションスター、絳雨さんです!どうぞ!
絳雨みんな~、こんにちは、絳雨です!あたしの歌と踊り、楽しんでいってね!曲名は『白日夢茶楼』!
軽やかな音楽に合わせて、ステージの上で絳雨がおもむろに舞いを披露し始めた。
教授この踊りは……拳法をアレンジしたのか。
身のこなしは流石ね、だけど……
舞台の上で飛び跳ねる絳雨を見て、私は仕方なく音楽を止めるよう指示した。
教授絳雨、ストップ。
「歌と踊り」なんでしょう、歌はどうしたの?
絳雨あっ!
絳雨が額をポンッと叩く。
絳雨わ、忘れてたぁ!ゴホン……も、もう一回!
黛煙プッ……
絳雨♫ 心児怦怦地在等待 装作不経意的様子……
私はアイドルの審査に関してはまったくの素人だし、歌の内容も理解できないが、
絳雨の歌声はとても魅力的であるように思えた。七花も頷いている。
しかし……歌い出したとたん、絳雨はまるで竹竿のように、
舞台の中央に立ったまま動かなくなった。
先ほどの力強く多彩な舞いとはまるで違う。
教授今度は踊りを忘れてるわね……
イェレナ残念ながら、絳雨さんは審査員の期待に応えられなかった模様……けれど、彼女の舞いと歌声には、目を見張るものがありました。絳雨さんに改めて拍手を!
黛煙ふふふ……あの子ったら、まだまだね。
絳雨ありがとうございましたー!きっとまた戻ってくるから!
絳雨が拳を振りまわす一方で、黛煙は絳雨に向かって優しく手をふった。
イェレナさて、次に参りましょう。冥界の幽蝶、晩秋の哀悼歌、オアシスの十不思議に数えられた歌声の持ち主――クロトさんです、どうぞ!!
平然とした表情のクロトが、棺桶を引きずって舞台へと現れた。
そして舞台の中央に立つと、棺桶の前にマイクを設置し、ゆっくりと舞台を降りる。
イェレナお、おや!?どうしたことでしょう……クロトさん、クロトさん!?
イェレナは大慌てでクロトを引き止めた。
だが、背後からの声がそれを遮る。
??おいおいおい、司会者さんよォ!オーディション受けんのはオレだよ、オレ!こっちこっち!
イェレナえっ?
ヘルウォッホン!えー、ど~も~!アイドルオーディションに参加しに来ました、棺桶のヘルで~っす!
教授ヘル?
私は慌てて参加者リストを確認した。クロトの名前の横には、
小さな文字で「文字の書けないヘルのための代理申請」と記されている。
黛煙……これは……
七花プッ……あはははっ!棺桶アイドルかぁ、結構イケてるかも!
イェレナ……ゴホン。えー、予想外の展開になってまいりました。クロトさんの歌声を聞けるものかと思っていましたが、真の参加者はヘルさんだったようです。
イェレナとにかく、パフォーマンスを始めて頂きましょう。
ヘルフフン、いいぜ!オレの完璧な歌声をとくと味わえ!
ヘルふゆ~~の、かぜぇぇ~……はる~~のぉ、ひざしぃぃ~~
歌声が会場内を席巻する。
観客たちが一斉に静かになった。
黛煙目の前が真っ暗になる点を踏まえると……子守唄の一種とも言えるのでは……
ヘルあん?なんだぁ、まだ歌い終わっちゃいねぇぞ!?
おい、やめろ、オレに触るな!棺桶がアイドル志望でなにが悪いってんだ!?
オマエ~!今にオレの腹に押し込んでやるからな!?
教授……見なかったことにしよう。
オーディションが進むにつれて、絳雨のように印象に残る参加者も数多く現れた。
しかし、ヘルのような参加者も同様に後を絶たない……
オーディション番組をセールスプロモーションに利用する謎の商人。
リコさぁてと。今日はこん曲をみんなに捧げるよォ――『マグラシアの北から南まで』
リコ♫ 北のセクターから南のセクターまで ステキなアイテム届けます……
イェレナリコさん……オアシスの財務担当ならびに本番組の司会者として、あなたとはきっちりと話をしておくべきね。
リコこーんっ!?ちょ、ちょっと待った!今日のために書き下ろした新曲だよ!?ほんじゃなにかい、別の曲ならいいってのかい?これならどうだっ――『リコリック讃歌』!!♫ まぁるい尻尾の――
七花歌詞に目をつむれば、悪くないと思うけどな……歌詞にさえ目をつむれば……
筆を捨て、歌に走る脚本家。
野良ウォッホン!えー、うちがオーディションに参加したんは、主に締め切りから逃げよぉ……あっ……
蔵音だろうと思いましたよ!さっさとそこから降りんさい、この黒毛和牛がッ!
黛煙ふふふ……漫才やお笑い番組が開催される暁には、お二人をご招待しませんと。
美しい歌声を持ちながら、アイドルグループには不向きな教誨師。
エリカ本日は、本官による『メサイア』を聞かせてやろう。
七花なんて素敵な歌声……でも、どう見てもアイドルって感じじゃないな……
七花あ、あれ?客席のお人たちが懺悔し始めたよ……!?
様々な理由により、会場へと紛れ込んでしまった者たち……
イェレナさて、次の方に参りましょう!すえよ……えっ?末宵くん!?
末宵……
イェレナあ、あの……末宵くん?ここは女性アイドルグループのオーディション現場でして……
末宵わかってる。
イェレナえっ……な、なら、どういうつもり……?
末宵おい、見てんだろ、このアホンダラ!?よくもオレの名前で勝手にエントリーしてくれたな!?急にオアシスでの任務が出てきたかと思えば……!!
末宵が怒りにまかせ、手中の番号札を床に叩きつけるのを見て、
私は参加者リストの備考欄を確認してみた。
「末宵は部屋にこもってないで、あちこち見て回ったほうがいいから」
――初塵
……彼には真相を伝えないほうがよさそうね。
教授ふむ、男性アイドルグループか……それもアリね。
七花きょ、教授?七花、さすがに男の子グループを指導した経験はないよ?……もし本当に結成するなら、教授にプロデューサーになってもらわないと。
教授えっ……と、とりあえず、目の前の問題から対処しよっか。
末宵出てこい、初塵!!どーせお前のシワザだろ!?
数時間の奮闘を経て、一次選考がようやく幕を下ろした。
続いては最も重要となる決勝パートだ。
イェレナ皆さま、大変お待たせいたしました。まもなく決勝が始まります。選考を勝ち抜いた精鋭たちも、すでに準備万端のようですね。決勝戦では、参加者全員に十分なパフォーマンスの時間が与えられます。
イェレナ審査員はその場で点数を割り振るのではなく、すべてのパフォーマンスを終えてから審査を行います。最高得点を獲得した方が、七花さん率いるアイドルグループのメンバーに迎えられ、マグラシアに愛と希望を振りまくこととなるでしょう。
イェレナそれでは、決勝戦のトップバッターをご紹介いたします。予選では『ゆうきの歌』で審査員を唸らせた、オアシス医療部門所属、美容のエキスパート――ヴィーさんです、どうぞ!
ヴィーみんな~、こんばんは~!最高の笑顔で夜を迎える準備はできた?
イェレナふふふ。ヴィーさんの歌声は、とても印象に残るものでしたね。ヴィーさん、オーディションに参加した理由をお伺いしても?
ヴィー当然、私の美容サービスの宣伝に決まってる。
イェレナおや、それが理由だったんですね?
ヴィーだって、このところみんな忙しいでしょ?いつの間にか客足が減っちゃって。
ヴィーこういう時こそ、ちょっとしたイメチェンがきっかけで、思いもよらぬ収穫が得られたりするの。自分やみんなに目新しさを感じてもらえるし、物事の行く末まで左右できちゃうんだから。
ヴィーは観客席のとある一角に向けてウィンクした。
客席に座るがっしりとした人形が、呆れたように肩をすくめる。
イェレナなるほど、とても興味深いですね。
ヴィー身近にそういった例がたくさんあるの。だからみんなには最高の笑顔と顔立ちで、明日を迎えてほしい。
イェレナなんて素晴らしいスピーチでしょう。
イェレナ私も番組が終わったら、ヴィーさんのもとを訪れるしかなさそうです。あなたの言うように、最高の笑顔で未来を迎えるために。
ヴィーうん、楽しみにしてる。
イェレナトークはこの辺にして、ヴィーさんにステージを預けましょうか。曲名は――『凛華――Before the Day』
艶やかで心震わせる歌声が、会場を駆け巡った。
それはさながら、美の女神が降臨したかのようだった。
黛煙ヴィーさんの歌声が、こんなにも美しかっただなんて。
教授黛煙の言う通りね。
ヴィーにこんな特技があるなんて、知らなかったわ。
七花歌声だけじゃない。
七花は首をふる。
七花一番すごいのは、あの笑顔。自身に満ち溢れた笑顔が、ヴィーさんの最大の武器であり、彼女の歌声が人の心を動かす理由の一つだよ。
七花アイドルの笑顔は、ファンにパワーをもたらす……だからこそ、アイドルは舞台で輝けるの。
ウンディーネむぐっ……
楽屋では、ウンディーネがスクリーンに映る観客の姿を物憂げに見つめていた。
ウンディーネ1000、1001……数が多すぎて、書ききれない。でも、これだけ「人」の字を呑み込んだんだもの。きっと大丈夫よね?
ウンディーネハァ……現実じゃ緊張とは無縁だったのに、どうしてクラウドでは逆に……
ウンディーネは自身のパフォーマンス用の衣装を見下ろした。
ウンディーネこの衣装……アイドルらしくないけれど、時間もなかったし仕方ないか。オーディションのためだけにメンタル映写を用意するのは、さすがに贅沢すぎるもの……ハァ……
スケルツァ【ピピピッポポッ――】
(リーダー、リーダー!)
ウンディーネあら、あなたたち?客席にいたはずじゃ?
ドルチェ【ピピピッポポッ――】
(プレゼント!プレゼント!)
ウンディーネプレゼント?わたくしに?
ウンディーネはやや怪訝な顔で、ドルチェに渡されたプレゼント箱を開いた。
ウンディーネあっ、このメンタル映写は……
トランク【ピピピッポポッ――】
(バイト、貯金、僚機、ドレーシー)
マエス【ピピピッポポッ――】
(リーダー!アイドル!ファイト!
ウンディーネドレーシーと、あなたたちが貯めたお金で……?
ドルチェ【ピピッ――】
(サプライズ、サプライズ!)
ウンディーネぐすっ……ありがとう、みんな。
ウンディーネはドルチェたちをぎゅっと抱きしめた。
ウンディーネ安心なさい、わたくしが最高のパフォーマンスをお届けしますわ!
イェレナヴィーさんの素晴らしい歌声に、改めて盛大な拍手を!ご覧ください、観客席まで輝かしい笑顔で埋め尽くされていますね!
イェレナさて、続いての参加者もとてもユニークですよ。彼女にとって舞台は大変身近なものですが、おそらく彼女「一人」が舞台に立つのは、これが初めてでしょう。
イェレナそれではお越し頂きましょう!ウンディーネ儀仗楽団――ウンディーネさんです!
ウンディーネ皆様、ごきげんよう……
イェレナおや?ウンディーネさんのこちらのメンタル映写、初めて目にしますね。決勝戦のために準備されたんですか?
ウンディーネええ。大切な仲間たちが、わたくしのために用意してくださいましたの。オーディションへ参加するよう励ましてくださったのも、彼女たちですわ。
イェレナなるほど、ウンディーネ儀仗楽団の愛らしいメンバーたちですね?
ウンディーネはい……わたくしは、ウンディーネ儀仗楽団を代表して、ここへと参りましたの。
ウンディーネE-Orchestra人形たるわたくしどもに強い力はありませんし、ストレージのほとんどが演奏に割かれているせいで、機能も著しく制限されておりますわ。わたくしどもはあまりにも弱く、皆様のお役に立てることは少ない……
ウンディーネけれどあの日、七花さんからのアイドル募集のお知らせを見て、思い立ったんですの。これをチャンスに、音楽を武器にして……皆様に勇気と希望を与えることができたら。
イェレナ……ありがとうございます、ウンディーネさん。あなた方を弱いと考える者なんて、ここには誰一人としていませんよ。あなた方の演奏は、何度も私たちを励ましてくれた。今日もいつものように、最高のパフォーマンスを披露して頂けると信じています。
ウンディーネええ!それでは、お聴きくださいませ……『涙の純度』
七花ヴィーさんとはぜんぜん違う曲風だね。温かい……なんて温かい歌だろう。
黛煙儀仗楽団の動きを組み合わせるのは、まさにウンディーネさんにしかできないことですね。旗が舞うたびに、客席が熱狂しているように感じます。
七花こんなアイドル、現実でも珍しいよ……七花も試してみたくなっちゃった!
黛煙の言う通り、儀仗楽団とアイドルのパフォーマンスは似ても似つかないはずだった。
だがウンディーネは、両者を見事に結びつけている。
イェレナウンディーネさん、素晴らしいパフォーマンスをありがとうございました。私の心にも、勇気という名の炎が燃え上がったように感じます。ウンディーネさんにもう一曲お願いしたいところですが……
イェレナまだ最後の参加者が残っています。オアシスにいくつもの奇跡をもたらした、我らがメイド長――センタウレイシーさんです!
センタウレイシー皆様、ごきげんよう。私はセンタウレイシーと申します。
イェレナセンタウレイシーさんがオーディションに参加なさったのは、クロトさんの影響なのだとか?
イェレナの問いかけに、センタウレイシーは頬を赤らめた。
センタウレイシーはい。初めは私がクロトに参加するよう勧めたのですけれど……まさか、私が決勝入りしてしまうだなんて思いもよらず……
イェレナクロトさんは参加されませんでしたが、ヘルさんには、とても楽しいパフォーマンスを披露して頂きました。センタウレイシーさんは本日、どのような曲目を?
センタウレイシー今日、歌わせて頂くのは、ヴェーネ……私の最も大切な方が好きだった曲です。名前は『Wiegenlied』。
イェレナ『Wiegenlied』……たしか、ドイツに伝わる子守唄ですね?
センタウレイシーはい、現実にいた頃、最も大切な方によく歌い聴かせておりました。彼女はもう幼くはありませんでしたが、それでも、わがままには敵わなくて。
センタウレイシーこの場を借りて、私の歌を記録しておきたいのです。現実に戻った時、彼女に渡せるように。
センタウレイシーたとえ私が傍にいなくても、私たちは歌声で繋がることができる……オーディションに参加する理由としては、少々弱すぎますでしょうか。
イェレナとてもセンタウレイシーさんらしい選択ですね。その理由が弱いだなんて、私は思いません。
センタウレイシーえっ?
イェレナ自分の歌声、現実にいる、最も大切な人に届けたい……つまり、私たちは現実に戻れると、あなたは強く信じている。
センタウレイシーえ、ええ……それを疑ったことは、一度もありません。
イェレナふふふ……それならこの機会に、その最も大切な人に、メッセージを残しておいてはいかがでしょう?
センタウレイシー……ヴェーネ。どうか待っていて、きっと、姉さんが会いにいくから。
美しい子守唄が奏でられる。馴染みあるはずのメロディが、
センタウレイシーの歌声により、これまでとは違ったフレーバーを醸し出す。
そこからは安眠を催す原曲よりも、明日を受け止めるような揺るぎなさが感じられた。
心地よい歌声に、観客たちは静かに耳を傾けている。
音楽が止むと、やや遅れてから雷鳴のような拍手が鳴った。
イェレナセンタウレイシーさん、ありがとうございます。ここまで心震わせる子守唄を聴いたのは、これが初めてです。
イェレナさて、困ったことになりました。三名にはそれぞれの良さ、それぞれのスタイルがありますし、まさに甲乙つけ難いと言ったところでしょうか。
イェレナ果たして審査員の面々がどう評価するのか?観客の皆さんも興味津々であることでしょう。七花さんのパートナーとして、アイドルグループを結成するのは一体誰か?ご期待ください!
イェレナは審査員席に向かってウインクしてみせた。
私たちに早く結論を出せと言わんばかりに。
黛煙これは……想像以上でしたね。
七花こんなの決められないよ……教授はどう思う?
教授もはや私には判断がつかないわ、あなたたちに任せる。
七花あっ、ずるーい!
教授みんな素晴らしいわね。
七花うーん……だから困ってるんだよね。
ヴィーの笑顔、ウンディーネの心躍るダンス、
そしてセンタウレイシーの美しき歌声……どれも捨てがたい。
教授それなら……全員合格にしよう!
黛煙それはつまり……
教授三人とも捨てがたいなら……彼女たちと七花の四人で、
新しいアイドルグループを結成するのはどう?
七花わぁっ、七花もそう思ってたところなの!だけど……七花と組むよりも、彼女たちだけで、新しいグループを結成したほうがいいと思うな。
七花きっと七花とは違う何かが、ステージで花開くかもしれないよ。
黛煙そうですね、彼女たちなら……もっと興味深い火花がほとばしりそうです。
黛煙けれど、七花さん。彼女たちでグループを結成するとなると、「センター」になり得る存在が……
七花たしかに……そこが問題なんだよね。
教授センター?
七花うん、アイドルグループの「センター」……みんなを率いる隊長のような役割だよ。ファンに愛と希望をもたらして、慰めて、力になるの。メンバーを導いて、気にかけられる存在。まさに完璧なアイドル!
黛煙そんな大役を担える方は、多くはないでしょう。やはり、ここは七花さん自身が……
七花だけど……七花とは違うスタンスであってほしいんだ……
教授完璧なアイドル……完璧、か……
教授ふむ、それなら……ぴったりの人材がいるわ。
七花えっ?
教授ま、期待しておいて。
ミュージックフェスティバル、『ギャラクティック前奏曲』楽屋。
クルカイ歌声で、マグラシアに希望とパワーを……
クルカイハァ……なにがあるのかと思えば、こんなイベントのために呼び戻されるだなんて。
教授苦労かけるわね。
クルカイ身分や環境は関係ありませんよ。私はあなたの副官として命令に従うまでです。
教授あなたにしかできないことなの。
クルカイそこまで言われては、仕方ありませんね……考えてみれば、確かに完璧な私にふさわしい任務だとも言えますし。
クルカイ歌声でマグラシアを励ます、そんな突拍子もない発想が出てくるなんて……さすがはあなたの率いるオアシスと言ったところですか。
教授急な相談でごめんなさい。
それも、たった数回のリハーサルで舞台に立つことになりそう……できる?
クルカイ当然です。どんな任務だろうと、最も完璧な姿で成し遂げてみせますよ。
クルカイ歌、ダンス、ポジショニング。もうとっくにマスターしましたから。
クルカイはやや遠くで振り付けの相談をしている七花とウンディーネ、そして服装を整えているセンタウレイシーとヴィーを見た。
クルカイチームでの作戦は……久しぶりですね。
クルカイあなたが皆に伝えたい言葉、そして届けたい気持ちは、私たちが責任を持って伝えます。
クルカイ見ていてください、指揮官……いえ、今はプロデューサーと呼ぶべきですね。
教授あなたたちのパフォーマンスを、楽しみにしているわ。
クルカイ当然でしょう、あなたは私たちのプロデューサーなんですから。
120%の応援、頼みましたからね!
『ギャラクティック前奏曲』、舞台現場。
教授えっ、ちょ、ちょっと待っ――た、助け……て……
匿名希望の
単推し司会者
レディース・アーンド・ジェントルメーン!!
本番組は超ド級の鬼マネによる渾身プロデュース、そしてそしてぇ、
超人気配信者にして七花単推し信者、ならびにロード・オブ・オアシス、
またの名を監禁ルームの支配者による制作でお送りしておりま~~ッす!!
匿名希望の
単推し司会者
笑顔、ダンス、歌声、あらゆる至高のアイドル要素で構成された
完璧なアイドルグループが、ついに歴史の表舞台へと現れたァッ!!
匿名希望の
単推し司会者
まーーずーーはーー!欠かせないのがこちらの御方!
我が最愛のディーヴァ、あまねくステージの頂点、本フェスティバルのザ・仕掛人……
瞬き煌めき輝ける鬼マネージャー、七ーー花ーーーーッ!!
クロのはち切れんばかりの叫び声とともに、七花が華々しく舞台へと現れた。
七花みんなーー!ミュージックフェスティバルの前夜祭――『ギャラクティック前奏曲』へようこそ~!みんなの超ド級癒し系アイドル、七花だよ☆
観客七花!七花!七花!
七花応援ありがと~~!だ・け・ど、今日の主役は七花じゃないんだ!それではお呼びしましょう!オアシスの新生アイドルグループ――『4YOU』の皆さんで~す!
音楽の前奏が鳴り、その場にいた全員が絢爛たる世界に誘われる。
クルカイ♫ 抑えきれない気持ちが 熱を帯びてパンクする……
ウンディーネ♫ 君の奥底に ずっとずっとずっと 触れたい……
観客うおおおお!!来たぁぁあああああ!!!
心震わす歌声、鮮やかなパフォーマンス、熱狂する観客たち。
観客クルカイって、どこの人形なの?超カッコイイんだけど~~!!
センタウレイシー♫ 輝く希望を 君と感じていたい……
ヴィー♫ 無限に広がる 光のオンパレード!
観客4You!4You!4You!
最後の音符が奏でられると、雷鳴のような拍手と歓声が沸き上がった。
教授ふふ、大成功ね。
リコふっふ~ん!リコがあちこち宣伝してやったんだ、当ったり前だろ?この後のミュージックフェスの入場券でも、ガッポリ一儲けできそうだねェ!
リコにしても、このアイドルグループの名前……教授さんがつけたのかい?
教授名前がどうかしたの?
4YOU、For you……良いネーミングだと思うけど。
リコゴホン……いや、まぁ、なんだ。お前さんが納得してりゃ、それでいいさ……
ツッコミを懸命にこらえるリコをよそに、私は舞台に目を向けた。
「4YOU」というグループ名の発案者は、全力で汗を撒き散らしている。
教授(名前の評判に関しては……クルカイには黙っておこう……)
クルカイ皆さん、こんばんは。私たちはオアシスのアイドルグループ、4YOUです。今日は『ギャラクティック前奏曲』に来てくれてありがとう。
クルカイオアシスとマグラシアは、これまでずっと、たくさんの危機や災難に見舞われてきた。
クルカイそんな中、親しい者との別れもあれば、新たな出会いもあった。私たちは多くのことを経験したわ……オアシスを守り、セクターを支え、治療や戦いを助け、私たちの居場所を造り上げてきた……私たちは一つのチームだからこそ、あらゆる困難を乗り越え、未来へと向かうことができた。
クルカイ私たちは、あなたたちのために歌う。私たちは、あなたたちのために存在する。だからこそ、私たちは「4YOU」……みんながオアシスに、マグラシアに与えてくれた全てに、心からありがとう。
クルカイ仮想世界を漂う私たちは、けして孤独じゃない。一人ひとりのオアシスへの貢献に、ありがとう。
クルカイはしばらく黙った。
ふいに、視線を私に向ける。
教授ん?
クルカイそしてもう一人。ここに、特別な存在がいる……
ウンディーネ彼が、オアシスをここまで導いてくれた。
センタウレイシー彼が、オアシスでの日々に寄り添ってくれた。
ヴィー彼は、私たちが笑顔でいられる理由。
クルカイ時に身を顧みず、忠告も聞かないけれど……彼がいるからこそ、今のすべてはある。
4YOU全員あなたが与えてくれたすべてに、ありがとう!
クルカイ(プレイヤー名)教授。この曲を「あなたのために」捧げます――