ローズ・クォーツ

Last-modified: 2020-09-03 (木) 23:25:07


16.ローズ・クォーツ
宝石言葉:愛を伝える

←前のお話へ

 
 

あらすじ ※ネタバレ注意※

※ 16話は中盤の山場につき、別ページに道中チャットを含めた
メインストーリーのセリフをノーカットで掲載しておきます。
見たい場合はクリックしてこちらへ跳んでください。
※ 別タブで開きたい場合は右クリックでお願いします。
シーンごとの細かいリンクは考察の各項目最後部分にあります。

ショートカット
魔法戦士の家
パジャーユ火窟
プロクト城
キュコートス雪原

 

冒頭回想・ワタル&クオン編

ひとつの画面でワタル編とクオン編が同時に描写され、交互に話が展開していく特殊な手法がとられる。
(※ 下記画面を参考に。)

16-1.jpg

ワタル編1

体調を崩したらしいシマカが自室で休んでいると、ワタルが大声を上げながら慌ただしく部屋に入ってくる。
よほど慌てたのか、家にある薬を全部持ってきたらしい。
「そうやってグチャグチャにするから分からなくなるんじゃ……?」
呆れるシマカだが、ワタルは「この中のどれかが正解だろう」と、いかにも彼らしい対応。
自分を心配する兄の意思を汲み取り、シマカは薬を飲む。

クオン編編1

マドカの様子を見に帰ってきたクオン。
病身のマドカを気遣ってドアを静かにノックする。
「お兄ちゃん。おかえりなさい。」
と、出迎えたマドカに
「寝てろって言っただろ、薬は飲んだのか」
と聞く。具合がいいから薬は飲まなくても大丈夫だという妹を、心配のあまりクオンは
「悪くなってからじゃ遅いんだよ、毎日同じことを言わせるな!」
と、つい強い口調で怒ってしまう。しかしすぐに表情を改め、優しく諭す。
「……薬飲んで、栄養つけて、ちゃんと休め。な?」
マドカはベッドに横になった。

ワタル編2

玉の薬(錠剤)は飲みにくいと苦い顔をするシマカに、ワタルはひたすらスポーツの声援のような励ましの言葉をかける。
「気が散るよ……」
シマカはあきれ顔。

クオン編編2

薬を飲み渋るマドカに
「この間から粉末にしたから飲みやすくなっただろ。」
と声をかけるクオン。
マドカは頷いてみせる。

ワタル編3

ワタルはシマカに「栄養をつけろ」と料理を出す。
学校の先生から教わったというそれは、食べ物とは思えない代物。
「見た目はゲテモノだけど、栄養バランスは先生のお墨付きだ!」
とワタルは自信満々だが、一口食べたシマカは涙目だ。
「まずううぅぅい!」
「前もって言っただろ、見た目と味はゲテモノだって!」
「さっきは見た目だけだったじゃん! ワタルお兄ちゃんのばか!」
「良薬は口に苦いんだ!」
「苦いってレベルじゃないよ! ワタルお兄ちゃんも食べればいいんだ」
妹の抗議に一口食べたワタル、あまりの不味さに納得するも、
「栄養だけはバッチリのはずだ。だからちゃんと食べろ!」
とシマカを諭す。
けれど、ワタルの「シマカに元気になってほしい」という意思を汲み取り、
「全部食べたらイチゴジュースだからね」
とご褒美を要求しつつ、シマカは料理を口に運ぶ。

クオン編編3

クオンはマドカの好きなスープを作る。
マドカは喜び、
「毎日食べたいって言ったら怒る?」
と兄に甘える。
「怒るわけないだろ」
と、妹に優しく接しながらも、
「でも、またしばらく出ないといけないんだ。」
と告げる。

ワタル編4

ワタルは明日が提出期限の宿題をするため、自分の部屋に戻ろうとする。
しかし、傍にいて欲しいという妹の心を察し、
「……と思ったけど、教本とかぜーんぶ学校に置いてきちゃったぜ!
明日早く学校に行って終わらせよーっと。」
と言い、シマカの傍に残る。

クオン編編4

マドカはクオンに
「またお金を集めに行くの? それとも、お父さんの事件のことを調べに行くの?」
と尋ねる。
「そんなところ。薬だってタダじゃないしな。」
というクオンの返答を聞いたマドカは、
「私、元気だよ。お薬減らしていいんじゃないかな。
そうだよ。私ばっかり寝てちゃダメ。お兄ちゃんだって、休んだ方がいいよ。うん、その方がいいよね。そうすれば一緒に──」
と必死に兄を引き留めようとする。しかしクオンは妹の言葉を遮り、
「馬鹿なことを言うな。ちゃんと食べて寝てろ」
と微笑み、出かけてしまう。

魔法戦士の家

とってつけたような理由でクオンが捕まえられたことに、ワタル、スミカ、アヤネは納得がいかない。
ヤマトだけが
「あんな言われ方した後に、それでも助けるのか?」
とやや素っ気ないが、それに対するワタルの返答は、やや的外れにも聞こえるものだった。
「分からないんだ、クオンのことも、自分のことも。
でも、初めてなんだ。自分の考えを貫きたい、そのために、オレはクオンに勝ちたい。
こんな気持ちになったこと。」
「……力で言うことをきいてもらおうと?」
というアヤネの問いを否定したのはヤマトとスミカだ。
「ワタルが誰かに本気で勝ちたいなんていうこと、今までになかったもんね。単純な暴力じゃない、そういうことでしょ?」
そして、スミカは表情を改める。
「クオンくんね、アタシに耳打ちしていったの。「この世界は偽者の魔法だ」って。」
クオンが捕らえられた時、スミカが何か考えているように見えたのは、そのためだったのだ。
「偽者の魔法? 空間創造魔法? 誰かが創った世界だと?」
スミカの言葉に、ヤマトはじめ、アヤネもワタルも真相に気づいたようだ。
「そうだとしたら、どこで取り込まれたんだろう、この偽者の世界に。」
疑問を投げかけるスミカに答えたのはアヤネだ。
「パジャーユ火窟だと思います。大型魔物を倒した後、クオンさんは何か気にしていらっしゃいました。」
魔法戦士たちの行き先は決まった。だが、一つ問題がある。
「城には何て言うんだ? そう簡単に自由行動をさせてもらえるとは思えないが。」
ヤマトの指摘はもっともだ。それに対してアヤネが問題はないだろう、と話しはじめる。
「それを見越しての、クオンさんの挑発だったのだと思います。自分は脱獄するぞ、という。
兵士の皆さんが何故か次々に倒れてしまい、城の兵力はかなり落ちています。
しかし名目上は「多くの兵士に危害をくわえた」として捕らえたクオンさんを一切の監視なく放置はできないでしょう。
そして最後に「当てはある」と付け加えました。」
スミカが気づく。
「パジャーユ火窟に当てがあるって言えば、そこに行かせてもらえるってことだね!」
「海を挟んだ島まで、私たちを見張る兵力はないでしょう。あれだけ倒れてしまったのですから。」
そして、アヤネは推測ですが、と前置きして話をする。
「クオンさんは迷っていらっしゃったんです。魔王の正体、この世界の謎を話そうか。
でも、言えなかった。何かの理由があって。」
スミカも賛同した。
「……アタシ達以外の誰かに、知られたくなかったんだと思う。
だって、アタシ達に隠すつもりなら、あんな耳打ちしてくれなかったもん。
自分に濡れ衣を着せられたとき、一瞬で考えたんだ。アタシ達にだけ、真実を知る選択肢を与える方法。
大臣さんも言ってたけど、クオンくんの言葉は嘘だよ。本当は護ろうとしてくれてる。
一方的に隠したり、話したりしないで選択肢をくれた。
だから、アタシは知りたいんだ。それでクオンくんを助けられるなら。
大切な人の濡れ衣を晴らしてくれる。クオンくんが望んでいた人って、そういう人だと思うから。」
こうして、魔法戦士たちはパジャーユ火窟へと向かった。

パジャーユ火窟

ワタル達は、火窟の最奥部を再訪していた。
しかし、やはり石碑の文字を解読することができない。
そこへ、スミカがクオンから手渡されたというメモを見せた。
謁見の間ですれ違い際に託されたのだというそれは、石碑の文字を翻訳したものだった。
クオンは、皆に内緒で情報を集めていたのだ。
ワタルたちがそのメモを頼りに読み上げると、石碑の前に魔方陣が出現した。
アヤネの解析によると、その魔方陣は対象を術者のもとへ引き寄せる型だという。
この魔法陣を使えば、空間魔法を使ってこの世界に閉じ込めた人物のもとへ行けるはずだ。
その人物を倒せば、この世界から出られる。
しかし、アヤネは浮かない表情でこう言う。
「……ご自分は、この空間と共に消えるつもりで。」
アヤネは、魔方陣を解析したことで、クオンの考えを正確に把握していた。
「今、この空間はクオンさんを苦しめるために、ゆがんだ方向に動いています。
ポーレートのお役人の方や、プロクトの兵士の方も、原因不明の体調不良に見舞われました。
それはおそらく、この空間主の意思。
この世界の主──いわば神にとって、クオンさんは討伐の対象なのです。
そんなクオンさんが、空間主と対峙したとして……。」
「……勝てない、ってこと?」
「自分は負けるように決められている。
それならば、自分はこの空間で消えようとも、私達に討伐させた方がよい。
きっと、そのようなお考えなのです。」
それを聞いたワタルは、突然皆に背を向け、無言で走り出した。
「ワタル!」
スミカとアヤネは慌てて後を追う。

ヤマトだけはその場に残り、魔方陣の前に立って何か思案した。
そして彼は、あることに気づく。
その時突然、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「コモンバチュ? 大きな影響はないようですネ!」
それは、招かざる客──ダークラウンだった。
警戒するヤマトに、ダークラウンは意外なことを言う。
「心配だったのですヨ。どうですか、お身体の方ハ?」
それで察するヤマト。
「……お前の仕業なのか。」
「根本は私ではありませんヨ!
あなた、付け焼刃の魔法を受けて倒れてしまいましたので、私の方法で治療したにすぎません。
まあ、そのせいで、ちょっと芽が出てしまったのは予定外ですが、
あのまま気絶しているよりはマシでショウ。
この花は最高のタイミングで咲くべきなのデス!
今はまだ、その時ではない。」
相も変わらずのらりくらりとはぐらかしつつ、意味深なことを言うダークラウンを前に、
ヤマトは魔方陣に防御壁を張った。
訝しむダークラウンにヤマトは第二の魔王の正体に気づいた、と告げる。

そして、挑発する。
「少し足を出せば(魔王のところに)行ける。
その間のお前の足止めくらいなら、今(魔方陣に)張った防御壁で充分だ。
あとは魔法陣を閉じればいい。そうすればお前には干渉されない。」
「まさか、一人で行くつもりデスカ!? そんなことをすれば──」
何故か焦った様子のダークラウンに、ヤマトは平然と答える。
「ああ、死ぬよ。それはお前にとって不都合なこと。
かといって魔王を倒すわけにもいかない。
魔王の正体を使って、俺達を追い詰めたいからな。
魔王は負の感情の材料として残したい。
けど俺一人で行けば返り討ち、それも都合が悪い。
それなら、お前がとるべき行動はひとつだ。」
そして、交渉カードを切る。
「魔王なんかより、興味を引く話を聞かせてくれよ。たとえば──勇者と大魔王の話とか。」
一瞬の静寂──そして、ダークラウンの高笑いが響いた。
「面白い方ですネ、あなたという人ハ!
真面目で常識的なようでいて、胸の奥では腹黒い算段が渦巻いている。
けれど自分でそれを理解しているから、醜い心に絶望することもない!」
ダークラウンは、上機嫌だ。
「あの娘の人選は正しかったようデス。……まあそれが、あなた達人間にとって幸か不幸かは知りませんがネ!」
ヤマトと間合いを詰めたダークラウンは、何かを告げるのだった。

一方、スミカは火窟の入り口付近でようやくワタルに追いついた。
「どうしたのよ。ちゃんと話して。」
ワタルは、すぐに答えられなかった。が、観念したのか、ポツリ、ポツリと話し始める。
「……スミカ、前にオレに言ったよな。「変わらないことを望みすぎだ」って。
それってさ、オレが変わろうとしない分、誰かが犠牲になってるってことなのかな。
分かっちゃったんだ。第二の魔王が誰なのか。
もし、最初の魔王と同じなら、また大切な人を犠牲にしないといけない……!
……それで分かったんだ。
オレがこうなるって知ってたから、クオンは黙る選択肢を選んだ。
それに気づいて、ワガママかもしれないけど、
感謝よりも別の感情が湧き上がってきて、そうしたら黙っていられなくて……。」
気持ちが上手くまとめられない、といった風なワタルに、スミカは優しく声をかける。
「うん、分かった。もう充分だよ。」
その時二人に追いついたアヤネは、黙って様子を見守っていた。
スミカはワタルにウィンクを飛ばした。
「その気持ちが分かったなら、ワタルもちゃんと話してくれるよね。二人の魔王の正体のこと。」
ワタルは驚いた。どうして知ってるんだ、とありありと顔に書いてある。
「何、その顔。魔王討伐に悩んでたこと、気づかないわけないでしょ。
何年あんたの幼馴染やってると思うわけ?
良妻賢母のスミカちゃんが、クオンくんのこと助けて、ワタルの悩みもちゃんと聞きますから、飛行艇に乗った気持ちでいなさいね!」
明るいスミカの様子に、ワタルの顔に笑顔が浮かんだ。
「ありがとう。オレ、ちゃんと話すから。」
「うん。よろしい! さっそくプロクト城に帰って──ヤマトは?」
「あ、私も急いでしまって……。」
スミカがその場にいないヤマトに気づいた時、後ろから声が聞こえた。
「すまない、遅くなった。」
ヤマトだ。
「どうかしたの?」
「魔物に遭遇しただけだ。一体だけだったから問題なく撒いてこられたよ。」
ヤマトは平然と嘘をついた。誰もそのことに気づかない。
ワタルは、決意を新たにする。
「プロクト城に行って、クオンとちゃんと話をしよう!」

プロクト城

ワタル達は、クオンに会うためプロクト城を訪れていた。
謁見の間手前までさしかかった時、階段に3人の兵士がいるのを見かけた。
スミカが
「あの、お伺いしたいことがあるんですけど。」
と声をかけると、兵士はわけの分からない答えを返してきた。
「ああ、魔王討伐作戦のことですか? 皆様は待機でよいそうです!」
「魔王討伐作戦? オレ達は待機でいいって……?」
ワタルが聞き返す。
「魔王の居場所が分かったのです! 「キュコートス雪原」にいると! もう前衛部隊が向かっています!」
想像もしていなかった兵士の返答に
「どういうこと!? この世界を作った魔王はパジャーユ火窟の魔法陣に──」
スミカは混乱するが、ここでもアヤネは冷静だった。
「魔王が洗脳したのでしょう。支離滅裂でも違和感なく受け入れられてしまうのです。
私達以外の人間は、魔王の創造物なのですから。」
つまり、魔王のやりたい放題なのだ。スミカはハッとする。
「クオンくんは!?」
「多くの兵を苦しめたとして、魔王討伐に向かっています!
ですので、皆様の出撃は不要です!」
兵士のもたらした情報が、ワタル達を焦らせる。
「一人で行ったのかよ!?」
「無茶だよ! いくらクオンくんでも、魔王軍をたった一人で相手にするなんて……!」
「おそらくこれが魔王の計画……。魔王に関する偽の情報を流し、
プロクト軍を戦いへ誘導、その戦闘でクオンさんを……。」
クオンに命の危機が迫っている。

キュコートス雪原

──ほら、あの子よ。
いやねえ。犯罪者の子なんて。うちの子供に何かされないかしら。
いなくなってほしいわよねえ。悪いことをしたのだから、罪を償って当然でしょう?
犯罪者一族に生きてる価値なんてないのにね。一族の血を根絶やしにしないと。
死ねばいいのに。

キュコートス雪原では、出撃を前にしたクオンの脳裏に
これまでにかけられた心ない言葉が浮かんでは消えていた。
「……おい!聞いているのか! 
兵士作戦はまもなく決行だ。準備を済ませたら声をかけろ。」
兵士に呼びかけられて我に返ると、一応説得を試みる。
「不自然だとは思いませんか。作戦の決行があまりにも急すぎます。」
「黙れ! 本来ならば重罪人だが、魔法戦士だから特別で使ってやっているんだ。
さっさと準備にとりかかれ!」
兵士の返答は、クオンの予測の範疇だった。
(言動が滅茶苦茶だな。
やっぱり、魔王が生み出した木偶の坊ってわけか……俺を殺すための。
何を考えようが無駄か。
魔王の妄想世界の中なんていうくだらねえ場所で死なないといけないんだから。)
クオンは自らを嘲った。

いよいよ出撃の時が来た。雪原を進むクオンに、たちまち魔物が襲いかかってくる。
「どうせ死ぬんだ。一匹でも多く道連れにしてやるよ。」
魔法で、剣で、クオンは戦う。
クオンの攻撃で魔物は跡形もなく消し飛んでゆく。
しかし、倒しても倒しても、数が一向に減らない。
それどころか、進めば進むほど敵の数は増え続ける。
徐々に傷を負い、魔力も体力も消耗していく……。
絶え間ない戦闘を続けるうち、いつしか日は傾いてゆく。
戦い続けるクオンは満身創痍となっていた。疲れ果てた身体が重い。

どうして自分はこんなにムキになっているんだろうか。
もう、やめてしまえばいいのに。
さっさと死んでしまえば楽になるのに。

もう、現実なのか、夢なのかさえ分からなくなってきていた。

……ン。…………オ……。
…………クオン。

──誰かの声がする。自分を呼ぶ声が。
気が付くと、どこかの野原にいた。
花が咲き乱れるそこで、クオンの目の前に死んだはずの両親が立っている。
「……父さん……? 母さん……?」
しかし、クオンの呼びかけに両親は答えず、背中を向けてどこかへ歩いて行く。
その歩みが突然止まり、父の前に、突然剣が現れる。
「父さん!」
父に駆け寄ろうとしたクオンの前に、前触れもなく鏡が現れる。
阻まれたクオンは、父に近づけない。
そして、クオンの目の前で──父は剣を自らに突き立てた。
何度も何度も、かつて、自害したように。
「もうやめてくれ、父さん!」
クオンは叫ぶことしか出来ない。
その声すら届かないのか、ついに父の姿は消え去ってしまう。
「ああ……」

悲嘆にくれるクオンだが、悲しむ間もない。
今度は母の周囲を3人の女性が取り囲んでいるのに気づく。
そして、母は崖に向かい歩きはじめる。
奇妙なことに、3人の女性は足を動かしていないのに、
母の周囲を取り囲んだまま、一緒に崖に向かう。
「母さん!」
クオンが慌てて後を追うが、追いつく間もなく、母は自ら崖から飛び降りてしまう。
「ううっ……」
クオンの心が悲しみと悔しさに満たされていく。
「くそっ……くそったれ……っ!
どうして、どうして俺を置いていくんだよ……!」
とその時、クオンは野原に妹がいるのに気づいた。
「マドカ……!」
駆け寄るクオンに、マドカは容赦ない言葉を浴びせる。
「どうして私を置いていったの? どうして傍にいてくれなかったの?
お父さんとお母さんがいなくなってあれだけさみしい思いをしたのに、
同じ思いを、お兄ちゃんは私にくれた。」
「違う!」
思わずクオンは叫ぶ。
「俺はただ、マドカの病気を治したくて、マドカにいなくなってほしくなくて――」
しかし、マドカはクオンを責めるのをやめない。
「ほら、独りよがり。それはお兄ちゃんの望むことだよ。
私が望むことは考えてくれた?
私とお兄ちゃんは、同じ方を見てた? 見てなかったよね?
だから、思い通りにならなかった私を、お父さんを、お母さんを、
恨みながら生きてるんだもんね?」
「違うんだマドカ、本当は恨んでなんか──」
必死に訴えるクオンを、マドカは追い詰める。
「じゃあ、証拠を見せてよ。私たちと同じところに来てよ。」
そして突然、マドカの姿は死に神へと変わる。
「ホラホラ! ドウセココデシヌンデショ? イッショニイコウヨ!
サミシイヨ、オニイチャン。イッショニイテヨ。
オクスリナンカナクタッテ、オニイチャンガイレバ、イキテイラレタノニ。」
その通りだ、クオンは思った。しかし、身体が動かない。
そして、クオンは気づいた。
それは、自分の心の奥に眠っていた本当の気持ち。

世界のしくみとか、権力だとか、そういうことじゃない。
ただ、ただ、
皆と一緒に生きたかったんだ。 

いつの間にか、キュコートス雪原へ戻って来ていた。
さっき見たものは幻影だったのだろうか。
傷ついた身体を引きずるように、クオンは歩いていた。
その背後に、魔物が忍び寄る。
気配に振り返るも、わずかに反応が遅れた。
「!」
しかし、それと同時に魔物は倒れる。
ギリギリのタイミングで、ワタルが駆けつけてきたのだ。

「てめえ、何でここに……!」
クオンはワタルを睨み付ける。
「叱りに来たんだ、嘘つきのこと。
死んでもいいなんて嘘のくせに、自分で自分を殺すようなマネして。
そんなことしてもらって、喜ぶとでも思ったのかよ!
この世界を作った魔王の正体を隠すためにここに来たんだろ。
オレが傷つくと思ったから。分かってるんだよ、ちゃんと!
クオンが誰かを思う気持ちが!」
クオンは激昂してワタルに掴みかかった。
「てめえなんかに分かられてたまるかよ!
何も考えなくたって、思ったことを言ってるだけで、簡単に誰かを護れるてめえに──
何も護れない人間の気持ちが分かるわけねえだろうが!」
悔しさと羨望の混じった気持ちを、クオンは拳と共に思い切りワタルにぶつける。
ワタルは、言い返しもせずに黙って耳を傾けている。
「俺だって護りたかった! 父さんを、母さんを、マドカを、失いたくなんてなかった!
分かるっていうなら教えろよ、俺に何が足りなかったんだよ!
権力に勝つための剣術も魔法も死ぬ気で鍛えた!
裁判で勝つための法律書も無心で読み漁った!
薬を買うための金も血反吐吐いて貯めた!
それでも誰も護れなかった!
末席のてめえにはあって、俺にはないものって何だよ!
何が違うっていうんだよ!」
「……今から分かるよ。」
クオンの激しい言葉の後に、ワタルが返したのは、たった一言だった。
スミカ、ヤマト、アヤネ。仲間たちが皆、クオンを助けに来ていた。
口々にクオンを気遣うスミカとアヤネ。
しかし、クオンは突っぱねた。
「一人でやれる。」
「逃げるなよ。」
そんなクオンを、ワタルは叱りつけた。
「自分の幸せを望む人から、逃げるなよ! 犯罪者の息子だか知らないけど、
それを理由に自分を悪者にして、悪者だから嘘ばっかついて!
済まして平気なふりばっかり!」
クオンをスミカ達の前に引きずり出したワタルは、クオンに ありったけの思いをぶつける。
「護られ方を知らない人間が、誰かを護れるわけないだろ!
剣術だ魔法だ法律だ金稼ぎだ、そんな勉強してる暇があったら、
甘え方、頼り方、護られ方の勉強しろ!
万年最下位のオレですら知ってんだから!
首席のくせに、そんなことも分かんなかったのかバーカ!」
「……妹さんも。」
スミカも続く。
「お父さんも、お母さんも、クオンくんのこと傷つけたかったわけじゃないと思うんだ。
ただ、色んな人に、世界に、一気に冷たくされたから、
弱音の吐き方を忘れちゃっただけなんだよ。」
「私、辛かったです。
クオンさん、何かご存知なの分かってたのに、何もできなかったこと。
ご両親に、妹さんに、何も言ってもらえなかったこと、辛さから護れなかったことが悲しかったのなら。
同じ思いをさせないでほしいです。」
アヤネもクオンに強いまなざしを向けた。

仲間たちから次々と言葉をかけられ、
クオンはマドカの幻影の言葉を思い返す。

私が望むことは考えてくれた?
私とお兄ちゃんは、同じ方を見てた?

「……もう一回、きいていいかな。寂しくないの?」
スミカがクオンに、かつてと同じ問いかけをする。
ためらいは一瞬だった。
「……嫌だ。」
クオンは答える。嘘ではない、本当の気持ちを。
「世界なんてくだらない。そうやって毒吐いてたけど、本当は生きたくて。
父さんが、母さんが、マドカが、同じ気持ちじゃなかったのが辛くて、
ただ、それだけ……!」

「……寂しい。」

「独りは嫌だ。」
ポツリ、ポツリ、と答えるうちに、いつしかこらえきれなくなった涙が頬を伝っていた。
「置いていかないで……!」

「任せとけ!」
クオンの言葉を聞いたワタルは、満足そうな笑顔を浮かべる。
ちょうどその時、魔物の大群が現れていた。
「ちょうど団体さんのご登場だな! 全員まとめて吹っ飛ばす!」
ワタル達は、クオンを護るように前へ飛び出した。
最前線で攻撃を仕掛けるワタル、右翼で魔物を食い止めるヤマト。
スミカとアヤネは後方から援護をする。
ワタル達の攻撃に、魔物はみるみるうちに数を減らしていく。
粗方片付けたところで、スミカとアヤネの合わせ技が周囲をなぎ払う。
「やったね!」
勝敗は決したかと思われたその時、ヤマトが警告を発した。
「まだだ!」
前方には今までとは桁違いの大型ドラゴンが出現していた。
「ボスいたのかよ!」
4人は応戦するも、さすがにボスだ。
強力な氷属性攻撃に、耐えきれずに後退してしまう。
ドラゴンは早くも次の攻撃を仕掛けようとしていた。
4人に緊張が走ったその時、背後から爆発魔法が放たれ、ドラゴンの攻撃を封じる。クオンだ。
ワタルの左に陣取ったクオンは、
「あの技が発動する前に、俺が爆発魔法で止める。その隙に仕留めろ。
集中しねえと避けられる。ヘマすんなよ。」
と、ワタルにニヤリとして見せた。
不意を突かれたワタルだが、すぐに笑顔になった。
「りょーかい! ブッ飛ばそうぜ!」
技さえ封じてしまえば、あとはダメージを与えていくだけだ。
最後はワタルとクオンの合わせ技がクリーンヒットし、ドラゴンを倒すことに成功した。
「今のはオレの方がちょっとだけ火力があったな!」
「調子に乗んな。てめえのバラバラな魔法を威力が出るように束ねてやったんだよ。」
軽口をたたき合うその姿は、かつての武道会とはまるで違うもの。
「とりあえず飯にしようぜ!オレはいつもの3倍で。」
「お前がいつもの3倍食べたら食糧難に見舞われるからやめろ。」
「ケーキ食べたーい! あとアイスとプリンとカステラとチョコレートとドーナツとマドレーヌと──」
「この世に存在するすべての甘味料を胃袋におさめるつもりか。」
勝利を喜び合うワタル達。だが、クオンは困っていた。
仲間たちに、どう言えばいいというのだろうか。
仲間たちの輪から少しはなれ、そっぽを向いてしまったクオンに、どこか身体が痛むのか、と心配するスミカとアヤネ。
後ろでワタルが
「あのドラゴン! 国の重要イケメン財になんてことを!
アタクシのジェラシービームで末代まで妬んでやるわ!」
などとわけの分からないことを言って
ヤマトにツッコミを食らっているのを聞きながら、
クオンは照れくささを隠しながら、小さな声でやっと一言、こう言うのだった。
「&size(10){……ありがとう。}」
それをしっかり聞き取ったスミカは、満面の笑みを浮かべる。
「うん!」
クオンの言葉が聞こえなかったらしいワタルがまとわりついたあげくに爆発魔法をくらったり、それにヤマトやスミカがあきれたり。
いつものような光景が広がるのだった。

※ネタバレ注意※

考察 ※ネタバレ注意※

16話は前半の山場につき、別ページに道中チャットを含めた
メインストーリーのセリフをノーカットで掲載してあります。
一括して見たい場合は、こちらに直接跳んでください。
※ 別タブで開きたい場合は右クリックでお願いします。
考察の各項目最後からも掲載場所へダイレクトに跳べますが、
考察なしのシーンは会話ページへはダイレクトに繋いでいません。ご注意ください。

ショートカット
魔法戦士の家
パジャーユ火窟・最奥部
キュコートス雪原
演出について

 

 

第16話のタイトル「ローズ・クォーツ」の宝石言葉は「愛を伝える」。
自分の心を護るため、家族への思いに嘘をついてきたクオン。
そんな彼に本心に向き合う出来事が発生する。
クオンから家族へ、また仲間たちからクオンへの思い、といったところか。

冒頭回想・ワタル&クオン編

冒頭回想は、ワタル兄妹とクオン兄妹を対比して描かれている。
共に、体調を崩した妹(病の妹)とそれを気遣う兄という、
似たような状況でありながら、正反対のことが起こっている。
これは、前回ワタルとクオンが互いにぶつけ合った
「互いが互いのどういうところを羨ましく思っているか」
の再確認でもある。

部屋への入り方から始まり、料理も薬の形状も、
勢いだけで中身は滅茶苦茶なワタルに対し、
クオンは非常にスマートな対応で「よく出来ている」といえる。
差が酷いのはワタルの性格も関与しているが、知識が乏しいせいもある。
ハッキリ言ってしまえば勉強不足が否めないのだ。

だが、最後に妹から暗に「行かないで、傍にいて」と言われる場面。
ここでシマカの意を汲み取ったワタルはその場に残ることを選択するが、
クオンはそのまま去ってしまうのだ。
この他人の心情を汲み取る力(コミュニケーション能力)こそ、
ワタルが非常に優れており、クオンが喉から手が出るほど欲しいものだろう。
もっとも、「妹に健康になってほしい。そのために薬代が必要だから」
という思いは間違いではない。
しかし、マドカは自分の延命よりも、兄に傍にいて欲しい思いが強い。
両親を亡くし、周囲からは疎まれているからこそ、
唯一心を許せる兄・クオンに傍にいて欲しかったのだろう。
「薬の回数を減らすことで、兄がお金稼ぎに行く時間を減らし、
自分と一緒にいる時間を増やしたい」
というマドカの思いに胸が痛くなる。
しかし、14話でクオンは、マドカが薬を飲まなかった理由を把握していなかった。
その当時、クオンは同時に父親の冤罪を晴らすために奔走している。
周囲に頼れる人間は皆無なので、全てがクオンの肩に乗っかっている状況は、
いくら優秀であっても10代の人間には一杯一杯だったことはあるだろうが、
結果的にクオンは妹の気持ちを察することが出来なかった。
クオン兄妹は、互いを思っていたにも関わらず根本ですれ違っていたのだ。

ここは演出にも非常に力が入っており、
ワタル兄妹と対比させることで、クオン兄妹の切なさをより強調させる効果がある。
よく見ると、シマカの部屋の方がマドカの部屋より明るい色調になっているのも分かる。
補完者も、涙なしには見られなかった場面だ。

※ 冒頭シーンの会話はこちら→冒頭回想・ワタル&クオン編
※ 別タブで開きたい場合は右クリックでお願いします。

魔法戦士の家

プロクトの場面では、クオン以外の全員も真相に近づいていく。
前回、クオンはワタルの気持ちを慮って真実を告げるか否か迷い、
結果的に黙秘することとなってしまった。
しかし、スミカにキーワードを残すことで、選択権を委ねている。
ワタルに対して、
「あんたはそいつを疑えない。魔王を倒せない。」
という言葉を残しているが、これは他の魔法戦士たちへのヒントと考えることも出来る。
「魔王の正体を知れば、ワタルは魔王を疑えず、倒すこともできないだろう。」
とクオンは確信している。
そうなっても真実を知るのか否か、お前たちが決めろ、といったところか。
そして、大臣に向けて言い放った挑発は、
魔法戦士たちを動きやすくするための布石だったことが、ここで解明される。
「「疑わしきは罰せよ」ですよね?
御自由にどうぞ。牢獄にでもぶち込みますか?
脱獄して一人で魔王を追った方がよっぽどはやく片付くと思いますよ。
それで残りの人間にこの現象の解決法を探してもらえばいい。
当てはありますから。」
このセリフの前半3行はそのまま大臣へ向けられているが、後半は違う。
この言葉と、スミカへの耳打ちで「パジャーユ火窟へ行け」と言ったわけなのだ。

この”クオン語”を翻訳したのがスミカとアヤネだということもポイント。
彼女たちとクオンの間に、一定の絆ができていることの裏付けでもあるからだ。
特にアヤネは、ずっとクオンを気にかけており、
彼が何を考えているのか、必死に探っていたのではないだろうか。
結果的に彼女たちの推理は当たり、クオンを救済する大きな力となる。
しかし、この時点でクオンは、二人が自分を心配しているなどとは全く思っていないだろう。

そして、ここでクオンを助けに行こうとするワタルの行動は、
彼の非常に優れた一面が現れている場面だ。
15話ラストでクオンは(演技とはいえ)ワタルへ暴言レベルの言葉を投げつけた。
大抵の人間ならば、嫌な気持ちを抱いてしまい、「助けよう」とは思わないだろう。
自分に暴言を吐いた相手を助けたい、と自然に行動出来るワタルは、
日頃の軽い言動とは裏腹に、非常に懐の大きな人間なのだ。

また、この場面は今までよりもヤマトに違和感を持ちやすいのではないだろうか。
「あんな言われ方した後に、それでも助けるのか?」
「城には何て言うんだ?
そう簡単に自由行動をさせてもらえるとは思えないが。」
と、クオンの心配よりも他のことを重要視する発言が多い。
この時点でもまだ、ヤマトにとってクオンは
「ワタルやスミカにとっていい影響を与えない人物」
の範疇を出ていないだろう。
他の3人との温度差が非常に感じられる場面となっている。

※ 魔法戦士の家での会話はこちら→魔法戦士の家
※ 別タブで開きたい場合は右クリックでお願いします。

パジャーユ火窟・最奥部

パジャーユ火窟でも、アヤネの推理が冴え渡る。
非常に目立たないのだが、16話はアヤネが今までになく活躍しているのも見逃せない。
セリフも非常に多く、序盤のおどおどした彼女と比べると、目を見張る成長ぶりだ。
この辺りから、アヤネとクオンの人間関係が大きく変わることとなる。

また、クオンが自らの命を捨てて他の人間の命を優先しようとしたことは、
父親と同じ自害を選んだに等しいということも押さえておこう。
濡れ衣を着せられた父と同じような道を辿りながら……ということだが、
これはASで描かれたことを異界用に修正して取り入れられている。

そしてここでかなり重要なのがダークラウンとヤマトの会話だ。
魔王城から始まったヤマトの異変は、ダークラウンが彼に何事かしたためだと分かる。
また、ヤマトが
「ダークラウンは自分たちを絶望させたがっている。
ということは、逆にいえば、今ここで死なれるのは困る」
という判断から、交渉カードに自分の命を使ったことは非常に冷徹ともいえる。
一見真面目な委員長タイプだが、実は腹黒いヤマトの一面が垣間見える。
(この冷静かつ大胆な行動は、まさに人狼でいうところの人外役というべきか。)
ダークラウンも「腹黒い算段が渦巻いている」と評しており、
それはむしろダークラウンにとって好都合らしい。
「あの娘の人選は正しかったようデス」。
つまりヤマトは、とある女の子から何かに選ばれたわけだが……。
ヤマトはダークラウンから、何かの情報を引き出すのに成功したのだが、
(そのことが早くも次の話で頭脳明晰な”彼”にバレるので、この時点でも断言できる)
何故かその情報を仲間たちに言わない。
それは何故なのか。頭の片隅に置いておこう。

火窟の入り口では、ついにワタルが魔王の正体に気づいたことが描かれる。
そしてワタルは、こうも言っている。
「……それで分かったんだ。
オレがこうなるって知ってたから、クオンは黙る選択肢を選んだ。
それに気づいて、ワガママかもしれないけど、
感謝よりも別の感情が湧き上がってきて、そうしたら黙っていられなくて……。」
このセリフで、ワタルもクオンの真意に気づいたらしいことが察せられる。
しかし、湧き上がってきたのは感謝ではないという。
それがぶつけられるのが、二人の正面対決2ラウンド目となる。

※ パジャーユ火窟での会話はこちら→パジャーユ火窟
※ 別タブで開きたい場合は右クリックでお願いします。

キュコートス雪原

16話の山場がここ、キュコートス雪原。
8話の冒頭回想の最後にあった文章が、このシーンにかかっている。

正義は笑う。世界はほくそ笑む。
作られた悪を裁く。妄想の中で剣をふるう。
偽りの罪を殺す正義は贖罪すら許さない。

この展開は、無界版の「Story 4-2 置いて行かないで」に
ASにあったクオン編の要素を加え、リメイクされている。
下記のスクリーンショットに見覚えがあるプレイヤーも多いだろう。
無界版で屈指の名場面として非常に評判が良かったシーンだが、
異界版でも同様の評価を得ている。
ここは、作者様の演出に非常に力が入っており、
BGMの使い方から、時間経過の描写を利用した心理状況や命の表現、
クオンの幻想世界での視覚的な暗喩と、見所が満載である。
そしてここでは、クオンが「偽りの姿・嘘」の呪縛から解き放たれ、
彼の物語もクライマックスを迎える。

ポイントその1は、出撃前のこのセリフ。
(言動が滅茶苦茶だな。
やっぱり、魔王が生み出した木偶の坊ってわけか……俺を殺すための。)
(何を考えようが無駄か。
魔王の妄想世界の中なんていうくだらねえ場所で死なないといけないんだから。)
プロクト城でアヤネが指摘した通り、ここは魔王〇〇〇の空間魔法の世界なので、
魔法戦士以外は全員〇〇〇の作り物ということが断言される。

ポイントその2は、やはりクオンが見た幻覚だろう。
この時点で時刻は既に夕方になっており、日が沈もうとしている。
つまり、クオンの命は風前の灯火だということを示している。
その中で見せた幻覚の暗喩の意味は、次の通り。
まず、剣で自分を刺す父親は、「父がナイフで自殺した」ことを示す。
そして、その父に駆け寄るクオンを遮る鏡は三種の神器の一つ、「八咫の鏡」。
裁判官のバッジで、クオンの父親を有罪にした裁判(判決)を意味している。
そして、足もとに咲き乱れる花は正義を象徴した菊(又は向日葵)のイメージで、
弁理士(又は弁護士)のバッジを意味している。

16-2.jpg

そして、クオンの母を取り囲んだ3人の女性は、
クオン一家を「犯罪者の家族」だとして中傷した世間の噂を表す。
そして、クオンの母のみが自分の足で歩いて、つまり自分の意思で崖へ向かい、飛び降りてしまう。
これは、母親が世間の噂に耐えきれず精神を病み、自殺したことの暗喩なのだ。

16-3.jpg

そして、大きく異なるのが最後のシーンだ。
無界版では、栄光へ向かっていくワタル達4人にクオンは加われないという描写だった。
しかし、異界版は設定が変わったため、最後にマドカが登場する。
マドカは、自分の気持ちを汲み取ってくれなかったクオンを責め、彼を死へと誘う。

16-23.jpg

ところが、クオンはここで「皆と一緒に生きたい」という本心に気づいてしまう。
死ぬことが決定されているのに、死にたくない。
「いきたくない……いきたいんだ!」

16-10.jpg

このセリフに漢字を当てはめると、次のようになる。
「逝きたくない……生きたいんだ!」
ここで、濡れ衣を着せられて自害した父に対し、
生を選び、懸命に死に抗うクオンという正反対の描写がされる。

補完者の推測だが、異界版のクオンの幻想は第二の魔王が仕組んだのかもしれない。
悲惨な過去を見せつけ、妹の幻影で死へ誘う……。
これでクオンが死ねば、自分の思い通りだろう。
ところが、そうはならなかった。
それどころか、クオンは逆に生きたいと強く思い、ワタル達が彼を助けに来る。
魔王の思惑は完全に外れてしまうこととなったのだ。
また、ワタルがクオンを助け、二人が和解したことで、
クオンを排除する必要性もなくなったと考えられないだろうか。

ポイントその3は、ワタルvsクオンの第二ラウンド。
前回に続き、互いに本心をぶつけ合う二人だが、
ワタルはクオンの行動や彼の真意を理解した上で、彼の欠点を容赦なくついている。
「護られ方を知らない人間が、誰かを護れるわけないだろ!
剣術だ魔法だ法律だ金稼ぎだ、そんな勉強してる暇があったら、
甘え方、頼り方、護られ方の勉強しろ!」
つまり、クオンは努力の方向性を間違えていたのだ。
マドカは、頑張りすぎてボロボロになる兄を見かねて薬を飲まなかった。
そして、クオンはそれに気づくことが出来なかったのだ。

ワタルに続いて、スミカとアヤネからも口々にクオンを気遣う言葉をかけられ、クオンはついに「寂しい」と本心を打ち明ける。
それは、クオンがきちんと過去に向き合い、前へ進み始めた瞬間でもある。
クオンは一見すると頭が良くて万能で、容姿も完璧と隙がないように見えるが、
その実シャイ(謝罪や励ましなどの言葉を素直に言えない)で
口下手で、寂しがり屋のくせに過去のせいや復讐を目論んで一匹狼気取り、と非常に不器用な人間だ。
裏切られても家族を信じるスミカや、お世辞にも素晴らしいとは言えない両親に感謝を言うアヤネとは違い、
自分を置いていった家族や、一家を壊滅に追いやった社会と権力者に憎しみや恨みも抱いている。
それは、彼が弱いというよりも、スミカやアヤネが優れているのであって、
むしろクオンのほうが非常に人間くさいといえるのではないだろうか。
そんな彼が「皮肉屋でつかみ所がなく、頭脳明晰で影があるイケメン」
という偽りの姿を捨て、
優しくて人一倍寂しがり屋で不器用で、頭脳明晰なイケメン」
という本当の姿を仲間に見せ始めるのがここから。
偽りを纏うクオンが救済されたのが、空間魔法による偽りの世界なのは、おそらく意図的だろう。

4つめのポイントは、勝利後の皆の輪にクオンが加わって軽口を叩いていること。
過去の武道会、スミカ救済時には見られなかった大きな違いだ。
そして、ここでもやや素っ気ないヤマトの描写がやはり少し違和感を持たせている。
ヤマト以外の3人との温度差は、魔法戦士の家とあまり変わらない。
事件は解決したが、ヤマトはクオンに信頼を抱くことは出来ていないだろう。
これ以降、二人の関係性がどう変わっていくのか、終盤にかけて注目して欲しい。

※ キュコートス雪原での会話はこちら→キュコートス雪原
※ 別タブで開きたい場合は右クリックでお願いします。

演出について

最後に、作者様の演出がいかに気合いが入っているかを少し付け加えておこう。
キュコートス雪原の、最初のクオンのモノローグではBGMがない。
その後の幻想世界では、オルゴールの寂しげなメロディーが胸を締め付け、
そして再びクオンのモノローグになると音が消える。
次にBGMが再開されるのは、ワタル達がクオンを助けて魔物と戦うシーンからで、
ゲームでのタイトルは「大切な人のもとへ!」。
10話で変装したクオンがアヤネを助けるシーンと同じ盛り上がる曲で、
直前まで無音だったこともあり、一気にプレイヤーの心を熱くする狙いがある。
実は無界版と同じ曲が使われているのだが、
この曲は聴いてすぐに「これだ!」と作者様が思ったという、こだわりの曲だ。
そして、ここでは音楽に加え、光の演出もある。
時刻が夕方で、辺りがオレンジ色~薄暗かったのが、
BGMが鳴り出すと同時に周囲が明るくなっている。

16-6.jpg

16-8.jpg

これは、死の淵から這い上がったクオンの立場と心情を表す効果が主だろう。
音と光によりプレイヤーの心も一気に奮い立ったところで戦闘開始となるわけだ。
フリーゲームでこれほど絶妙な演出がされている作品は、そうそうないだろう。
16話は冒頭の1画面同時進行の演出に加え、作者様の手腕が光るお話なのだ。

次回はいよいよ第二の魔王の正体が明かされる。
救済されたクオンはどう動くのか、注目しよう。

※ネタバレ注意※

攻略

イベント後、動けるようになったら自由行動が出来る。
装備等の準備が必要ならやっておこう。
この時にプロクト城・謁見の間に入ろうとすると、
会談を塞いでいる兵士との間に通行止め会話が発生する。

会話内容

※ 「」なし=兵士のセリフ

 

 

ただいま魔王討伐作戦の会議中です。立ち入りはご遠慮願います。
「何だそれ、そんな話聞いてねえけど。」
「でも、アタシ達が呼ばれなかったってことは、
今は好きに動いていいってことじゃない?」

「そういうことか。よっしゃ、パジャーユ火窟にレッツゴー!」

パジャーユ火窟

♪パジャーユ火窟(曲名:Volcano /配布元:Presence of Music)

最奥部に行くとイベントが発生し、シナリオが進行する。
戦闘はない。

プロクト

プロクト城の謁見の間の前にいる兵士に話しかけるとイベントが進む。
その前までは自由行動が可能。

次の戦闘時にはスキルセット・装備見直しができないが、イベント戦闘。
特殊強化されているので負ける方が難しいくらいだが、
集団戦なので、全体攻撃の手段を持たせておくと早く終わる。
念のために、ヤマト・アヤネには凍結耐性を装備させておくと万全だろう。
尚、敵の弱点は火属性だが、クオン抜きでの戦闘なのでアヤネぐらいしか対応できない。

キュコートス雪原

最初はクオン単騎での連戦があり、その後ワタル達4人での戦闘、
最後に全員でのボス戦という流れ。
順番にポイントを記載する。

1.クオンの連戦

♪クオン(曲名:水曜日のあれ /配布元:DEAD END WONDER)
♪イベント戦闘(曲名:堕剣-voiceless/配布元:ほわいとあいらんど工房)

勝っても負けても先へは進むが、勝てない戦闘ではないので、出来れば全勝したい。

まずは、装備が外れているので準備しよう。
左上の兵士が回復もしてくれるので、魔装石の装備でHPやSPが変わった場合は利用しよう。
連戦突入前にチャットすると「火強化+」「水耐性+」「凍結耐性+」の魔装石を入手する。
特に凍結耐性は装備させておくと勝率が高くなる。運の低いクオンには必須ともいえるだろう。
また、チャットでクオンが言うように、水耐性と火属性攻撃の準備もしておこう。
多数の敵を相手にする場合もあるので、コレスパッシィもセットしておきたい。

ヒントチャット

「明らかに水属性魔物の住処だな。気温がかなり低いから水というより氷か。
そうなると、弱点突くなら火属性……。凍結対策しねえと蜂の巣にされるな。
……何考えてんだか。どうせ死ぬのに、生き残る方法を考えたって無駄じゃねえか。」

真ん中で後ろを向いている兵士(最初にクオンと話していた態度のでかい兵士)に話しかけ「できた」を選ぶと連戦開始。
全部で6戦、後になればなるほど敵の数が増える。以下、連戦の相手を簡単に載せておく。

  1. メイジ(一体)
  2. マーマン(一体)
  3. ウィスプボール(一体) 
  4. メイジ・マーマン(各一体)
  5. メイジ・マーマン・ウィスプボール(各一体)
  6. メイジ・マーマン・ウィスプボール(各二体ずつ、計六体)

クオンの連戦が終わると少し長めのイベントが入る。

小ネタ
クオン単独の連戦で使われているBGM「堕剣-voiceless(作者:島白様)」には、
ヴォイス入りバージョンが存在する。(興味がある方は下記参考動画をどうぞ)

loading...

(ここで使われているのは主旋律なしのバージョン。)
歌は適当な言葉で歌われているのだが、きちんとした意味がある(作詞も島白様)。
その中の一説をご紹介しよう。

>彼は剣を翳す
>高く掲げた理想が体を紅に染めるように
>神経を喰らっていく

>心臓を天秤にかけ
>塵となった物を還すために
>対価を支払うだけ

選曲時に歌詞のことは考えられていないはずだが、
このシーンによく合っていると感じるのは筆者だけだろうか。
ちなみに、島白様の曲は最近では入手しづらいが、
Youtubeで聴くことができるものも多く、この曲もその一つ。

2.ワタルたち4人

♪大切な人のもとへ!(曲名:RISE/配布元:Andante)

イベント後、ワタル・スミカ・ヤマト・アヤネでの連戦。
上記「プロクト」で記載したように、いきなり戦闘開始する。
装備・スキルの変更が出来ない。
しかし、特殊強化がかかるので、わざとでもない限り負けることはない。
連戦の相手はクオンの連戦5.6戦目と同じ。
終了するとイベントが入る。

3.ボス戦

♪大切な人のもとへ!(曲名:RISE/配布元:Andante)

最後はクオンも加わり、全員でのボス戦。
ここでメニューが開くので、装備・スキルを見直そう。
特に、クオンの「ヴォルカン」は必須。

ボス攻略
ボス戦の攻略はこちら→アイスドラゴン
※ 別タブで開きたい場合は右クリックでお願いします。
 
撃破するとイベントが進行する。
クリア時、クオンが固有EPスキル「アズィームサイフ」を習得する。
 
小ネタ
どうでもいい小ネタだが、「キュコートス雪原」という名前の元ネタは「コキュートス」で、
語源はギリシャ語で「封印の氷地獄」という意味。
ギリシャ神話では冥府に流れる川で通称(嘆きの川)。
ダンテの「神曲」にも登場しているが、これは語源と同じく「封印の氷地獄」。

→次のお話へ