ep5
星のラベルが躍る、一抱えもあるような大瓶のウイスキー。それを抱えたディーン・ウィンチェスターは、無人のレーンで一人、泥酔の極致にいた。意識は混濁し、足元はおぼつかない。
彼はボウリングのルールなど、とっくに忘却の彼方へ放り出していた。手に取るボールは一つではなく、五個、六個と続けざまに、投げるというよりはただ無造作に床へ転がしていく。
「イェーイ! 見ろよ、最高だぜ!」
十個近いボールが鞠のようにコロコロと重なり合い、波となってピンを飲み込む。スコアボードには、到底あり得ない最高得点が点滅し続けていた。当然だ、これだけの質量の暴力に晒されて、立っていられるピンなど一本もない。
ディーンは最後の一口を飲み干すと、空になったボトルをゴミ箱へ捨てる代わりに、レーンの彼方へと豪快に放り投げた。
「俺の……優勝!」
その直後、黄色い制服を着た店員が腕をまくりながら現れた。そこからの記憶は、コマ落としのモノクロフィルムのように断片的だ。何度も拳を叩き込まれ、ついに歯が一本、根元から折れた。綺麗なレーンの上を、自分の歯が独楽のようにくるくると回転している光景が、その場所での最後の記憶となった。
気がつくと、再び夜の街に放り出されていた。
「クソ野郎が……!」
震える中指を店の看板に突き立て、千鳥足で歩き出す。夜空の三日月も、通り過ぎる街の人々も、電柱も車も、すべてが五重に重なって見えた。
気分は最低だ。吐き気と痛みを抱え、ディーンは車道に飛び出すようにしてタクシーを求めた。
「連れてってくれ! どこでもいい、ここじゃないどこかへ!」
だが、薄汚れた酔っ払いを拾うタクシーなど存在しない。一台、また一台と冷淡にスルーされていく。苛立ちに頭が回り、さらに数歩、車道の中央へと足を踏み出した。
刹那、横から突っ込んできた車の影。直撃こそ免れたものの、ディーンの身体は弾き飛ばされ、全身をアスファルトに強打した。
遠のく意識の中で、通行人の叫び声と、耳を弄するサイレンの音が混ざり合う。
「触んな! 俺は大丈夫だ、放っとけ……!」
駆け寄った救急隊員の手を振り払い、毒づく。朦朧とした視界の隅に、隊員たちをなだめながら、今にも泣きそうな顔で見下ろしているサミーの姿を捉えた。
次に目を覚ましたとき、ディーンは路上で、自分のものではないジャケットを枕に横たわっていた。
「おはよう、タフガイ」
隣には、途方に暮れたような顔のサムが座っていた。
「……おう」
「ずいぶんひどいことを言ってたよ、覚えてるか?」
「ん……ああ」
「どっちだよ」
視界の月が、ゆっくりと三個から一個へと重なり、収束していく。
「……もう平気だ。あんな奴らに、俺のことを任せたくなかっただけだ」
「分かってるよ」
サムの返答は短く、穏やかだった。ディーンはふらつきながら立ち上がり、埃を払った。
「じゃあ、何か買ってくる。煙草も切れた」
「待てよ、怪我してるんだぞ」
「ほっとけ」
いまは一人にさせてくれ、と言外に込めて、ディーンはサムを背に歩き出した。
サムは、兄が角を曲がった瞬間に崩れ落ちたことに気づかずに済んだ。
「いってぇぇ、クソっ……!」
壁に手をつき、誰にともなく罵るディーンの姿。その痛みを隠し通すのが、今の彼に残された唯一の誇りであるかのように、彼は暗い路地の奥へと消えていった。
ep6?