地理/文化

Last-modified: 2022-05-21 (土) 00:45:12

地理・文化

 サガフロンティア2の世界を語るにあたり、舞台となる大陸各地とそこに広がる文化の話は避けて通れない項目だ。アニマやモンスターといった現実世界には存在しないものを身近に置いて生活するサンダイルの人々を深く追い掛けるのがこの項である。ゲームだけでは理解できないさらなる奥深い世界観に触れ、そこに息づく人々をより身近に感じ取る手助けとなるはずである。ちなみにここで語られる年代はゲームスタート時の1220年時としている。

サンダイル3大大陸

 サンダイルという舞台はよくある世界地図のように「全世界」というわけではない。マップではゲーム中で語られたり訪れることになる地域のみが表示されており、これらは主に三つの大陸に分類される。この表示されていないさらなる外にも世界は広がっているはずだが、それはサガフロンティア2では語られることはない。各々の想像に委ねられるところといえる。
 さて、サンダイルを三つに分割するとそれぞれ東大陸、北大陸、南大陸と区分される。とりわけ東大陸は人口の多さから政治と文化の中心地となっている。逆に北大陸は近年になって開拓が始まったばかりであり、そのほとんどは謎に包まれた大陸である。

サンダイルの経済


 サンダイルの世界も経済がしっかりできている。各地で作られた特産品を別の国や大陸に運ぶ(輸出入)することでそれぞれが利益を得るという仕組みも作られている。
 ツールを例にすると、ツールそのものは発祥である南大陸のフォーゲラングが独占販売をしており他国での販売品はそこまで高価なものは見られない。フォーゲラングは腕利きのツール職人が多いので特産品としての数も質も豊富なのだ。
 ここで作られたツールはあらゆるルートで各国に運ばれるわけだが、遠く離れた東大陸のテルムでの価格自体はそこまで高くは感じられない。しかし、しっかりと関税というものが掛かっているために並んでいるツールは低価格でありふれたものが多いというわけだ。逆に言えば高価なツールは他国に輸出しても関税のために法外な価格になってしまいかねない。

 サンダイルの世界の通貨はCR(クラウン)であるが、これはランチの代金が5CRとして¥1,000とすれば、だいたい1CRで¥200と考えられる。他のNPCの会話からも月500CRあれば生活していけるという話もあるので、これらから考えると貨幣価値はだいぶ高いと言えるだろう。装備品のクロスブランチが100CR=¥20,000という計算だ。
 グラン・ヴァレの通行料が10,000CRというのはいかにも法外と言えるだろう。この際にクヴェルを代用品としても可というあたりから、クヴェルの価値も推し量れるというところ。


北大陸&南大陸



 未開の大地、北大陸。近年になって開拓が始まったばかりでいまだ全容が計り知れない大陸である。現在確認されている地域から推測されるのはほぼ全土にまたがり深い大森林が広がっているということ。温帯地域から寒冷地域に至るまでこの特徴は変わることはなく、生活可能圏を含めたほとんどが木々に覆われた大陸と言えるだろう。メガリスの存在も確認されているため、今後クヴェルが出土する可能性は大きいといえる。



 一方で南大陸は人口が多く古い歴史を持つ大陸である。地形的には砂漠や荒野が多く、人が住める地域が比較的少ないがその限られた土地には歴史と趣のあるナという国があり、安定した政情と堅固な土台とで古くから栄えている地となっている。この南大陸は東大陸と比べてクヴェルや術といったものが伝播するまで時が掛かっており、したがって鉄製品の加工や精製技術もいまだに根強く残っている。国風そのものも術力ばかりを重視しない傾向がある。


主要な地形
ラノック川北大陸のノースゲート付近の河川。ノースゲートの人々が糧としている川であり、飲料水としての用途がその主となっている。ノースゲートを軸とした北大陸奥地への探検時もこの川を遡るかたちでディガーや冒険者たちが利用している。上流にてウーズ川と合流し、さらに北・南ウーズ川とが合流している。
タウゼント湖南大陸のフォーゲラングに横たわる巨大湖。砂漠に覆われたフォーゲラングではこの湖が生命線である。古くから豊富な水量を誇っており、人々は飲料水だけでなく作物や酒の原料など様々な用途にタウゼント湖を利用してきた。水鳥や魚介類なども豊富に生息しており、周囲の環境と比較すると別世界のようである。歴史上で枯渇したことがなく、流れ出る川も無いため水底で海と繋がっていると推測されている。
ソマ川&ウルバト川タウゼント湖に注いでいるふたつの河川。ソマ川は水源が砂漠という他に例を見ない様相であり、この水源の実態については研究者の間でも論議の的となっており、高山の雪解け水という説が有力である。
インネル川南大陸のグリューゲル、つまりはナ国そのものを支え続けた大河。ナ国が首都グリューゲルをこの地に定めたのはひとえにインネル川の存在によるところが大きい。グリューゲル付近でアルダス川やマルマラ川と合流、シャルンホルストで海に注ぎ込む。


  サンダイルの世界にも娯楽はある。それは酒という人生の友である。各地に酒場やそれに類した建物が見かけられ、ここで人々は大いに食べ、飲み、歌って踊って笑い明かすのだ。それはモンスターや戦争といった脅威と日々身近に過ごす人々の数少ない貴重な娯楽であると共に人と人とが知己を得る大切な場所でもある。
 サンダイルの人々がよく飲んでいる酒は、南大陸ではフォーゲラング産バーボン、ヤーデ産ワイン。ヤーデ産ワインは東大陸でも多く飲まれているが、ヴァイスラントのクヴェルの酒という名酒も存在。もともと寒い地域での酒は保温用としても飲まれているためにアルコール度数が高く、様々な酒も作り出されている。ヴァイスラントがクヴェルだけでなく酒類で有名となるのも近い日のことであろう。



メルシュマン地方&ロードレスランド



 東大陸のメルシュマン地方は土地の広さと比較しても非常に人口が多い地域といえる。かつては多くの諸国がひしめき合い現在では吸収合併を経て四つの侯国に分かれているも、それぞれが国交や紛争を繰り返しては歴史を紡いでいる土地だ。逆に言えば地形は森や草原、川や山岳など豊かな自然に囲まれている。



 メルシュマンから南に位置するロードレスランドは打って変わって熱帯に位置する気候である。荒野や山岳地帯など人跡未踏の地域も包括している。古くはハン帝国を抱えた政治の中心地であったが現在は崩壊、モンスターと野盗たちが徘徊する危険かつ不安定な地域となっている。住民は多くはないが皆無ではなく、僅かな集落は存在する。


主要な地形
モート川シュッド候領から始まりフィニー島付近に注ぐ、メルシュマン地方では最長規模の河川。フィニー(バース侯国)はこのモート川の恩恵と利用を主として発展してきた歴史がある。
マニクール平原メルシュマン中心部に位置する広大な平原。現在対立している四侯国の領土といずれも隣接するように横たわっているため、それぞれの戦いの舞台となってきた。
アナス川メルシュマン南方に流れる河川。ハンの廃墟北を水源としマイセル湾へと注ぎ込む。ヴェスティアなどメルシュマン南部の村や集落にとっての生活用水であり、このあたりで活動するディガーや冒険者たちも利用する。川の周辺は戦争の舞台にもなってきた歴史ある川だ。ベンゾイル川、ヴァルタザール川の支流を持つ。
ユノー海岸サンダイルではほぼ赤道上に位置しているロードレスランド南西部の海岸。ギュスターヴ13世が東大陸上陸の際に最初に足を踏み入れた地点であり、後にもヤーデ伯遠征など、南大陸との接点として利用された。


  サンダイルでは主に陸路と海路のふたつの交通機関が存在している。
 陸路では主にギンガーという馬のような動物を使っての移動が多いようだが、ギンガーは王侯貴族や兵士たちの乗り物であり一般人の使用はあまり見かけられない。荷車の類はあるが、それよりも大型の陸上移動手段はストーリー中では見ることはできない。術という力を活用すれば何らかの移動手段は今後発見されそうではあるが、現時点での陸上移動は非常に限定されていると言えるだろう。
 一方で海路には帆船が使われている。こちらは南大陸のほうが技術的にもリードしているようで、船の歴史から見てもかなり進化したものが多数見かけることがある。南大陸で技術が秀でているのはやはり鉄製品の使用についてで、帆船クラスとなると鉄の利用は欠かせないためなのか金属類を嫌う傾向のある東大陸では造船も半ばといったところだろうか。海路に関しても術を利用することで今後大きな発展が見込める可能性はある。



グラン・タイユ&ヴァイスラント



 グラン・タイユはロードレスランド南部に位置する細長い地域である。ロードレスランドはそのほとんどがモンスターなどで荒廃しているのが現状だが、このグラン・タイユはハン帝国よりさらに昔から文明が盛んだったという歴史もあり、現在でもその名残を残した国が存在する。メルシュマン地方とは天然の要害で阻まれているような地形となっており、陸路で直接行き来するには労が伴う。



 グラン・タイユ以南にあるヴァイスラントは寒冷地となる。ここは異常なまでの猛吹雪と大寒波とが年間を通して荒れ狂う地域であり、人々はクヴェルを利用して細々と生活している。この寒冷化の原因はメガリスにあるという噂もあるほどの異常ぶりで、自然気候とはまったく異なる理屈がある可能性が高いとされる。


主な地形
樹海地点としては東大陸を東西に分断するような場所に大規模に広がっている地形。熱帯雨林に近く、ハンの遺跡類をよすがとして縦横無尽に植物が絡まり合ってひとつの要塞のように立ち塞がっているためメルシュマン地方とグラン・タイユ地方の人々の交流を断ち切るような様相である。独特な動植物の生態系を抱えており、いまだ生息している動植物やモンスターの全貌は解明されていない。
グラン・ヴァレグラン・タイユとヴァイスラントとの間には深い渓谷が横たわっているが、ここを繋ぐ巨大な石橋がグラン・ヴァレである。最初に建設されたのがハン帝国の時代であるが、その後何度かの増改築を経て古来より人々が親しんできた橋となった。現在では野盗が巣食っており法外な交通量をせしめている。
シェンケル湖ヴァイスラントの中心部付近にある巨大な湖。雪と氷に囲まれているので湖自体も寒冷期は凍結しており、水源としての利用はできない。周囲には異常なまでの吹雪で視界も利かず、現地人やディガーたちも訪れる者は少ない。したがって探索や調査はまださほど進んでいない地点である。
アドラー川グラン・タイユの中心地ラウプホルツ付近を流れる河川。ラウプホルツでは堀としての利用に留めており、他の用途で川を利用することは少ない。街の付近でウルスラ川が合流し海へと注ぎ込む。



 サンダイルの人々はこの世界をどのようなものだと捉えているのかは、とある伝説が基盤となっている。
 メルシュマン地方のシュッド候のひとり、カルナック伯家に伝わる伝説では「東の果てに海があり、その先には星が輝く」と記されている。サンダイルの人々の世界観についてもこれとほとんど相違は見られず、世界を囲んでいる海は最果てで滝となり奈落に落ち、その向こう側には星々が輝いているというものだ。
 他にも、三頭のギンガー(あるいは類似した動物)が世界の大地を支えており、その下には巨大な亀がいるという伝説もある。こちらは主に船乗りたちの間で信じられている伝説であり、地震が起きる理由としても「ギンガーが亀の甲羅で足を滑らせるから」という理由付けが可能となっている。
 いずれにしてもサンダイルの人々は天が大地の周りを回る天動説を信じているようだ。


テルム [メルシュマン地方]

人口:約50,000人
現統治者:ギュスターヴ12世
特記事項:フィニー王国首都

テルムの概要
 メルシュマン地方西部、フィニー王国(バース侯国)の首都。人口だけで見るならば世界最大の規模であり、威厳ある石造りの外観と中央に聳える宮殿が堅牢かつ美しい。城下町は活気にあふれており、行き交う人々も気品がありどこか都会風である。世界的に見ても抜きん出て経済的にも文化的にも豊かで栄えている街であり、国力を生かしてあらゆる分野における最先端が日夜研究発見されている。
 位置はテルム湾に面し、モート川とも隣接。これらの水運を生かして国内外の産物がテルムに集まってくる。他国との貿易は非常に活気であり、昼夜を問わず世界各地から取り入れられた様々な物資や品々がテルムの豊かな生活を支えている。モート川を遡ることではシュッド川やオールージュ川といった支流も利用範囲としており、国外だけでなくメルシュマン地方のほとんどを水運で連結させている。もちろん産業だけでなく水路としての人々の往来についても頻繁であり、日々の移動手段として川や海は活用される。
 テルムが位置するのはモート川の扇状地であり、地質は非常に良く恵まれた土地として広範囲にまたがり田畑を作ることができる。しかしモート川の治水工事には歴代のユジーヌ家が苦労しており、ギュスターヴ8世の頃になってようやくいまの形に治水事業が完成された。ユジーヌ家が飛躍的にメルシュマン地方で活躍するのはこのすぐ後のことである。

テルムの気候
 フィニー王国は全体的に温暖で年中を通して過ごしやすく穏やかな気候である。ただしロードレスランド南部に隣接する地域のみ、亜熱帯気候の影響で夏季は比較的酷暑となりやすいが冬季は過ごしやすくなる。国内貴族たちのなかでは避寒地として南部に位置するナナミィなどに赴く者もいる。

 テルムの支配者、ギュスターヴの名を継ぐユジーヌ家のエンブレムは金色の獅子を形作っている。この獅子というデザインはそれだけで王者を意味するため、使用できる貴族はごく僅かに限られていることからユジーヌ家は当初から特記すべき貴族だったと言えるだろう。
 ユジーヌ家始祖であるギュスターヴ・ユジーヌはハン帝国からバース領を獲得した際にこの獅子のエンブレムを使用しているが、当初は獅子のみのエンブレムだった。現在のエンブレムでは太陽や王冠といった王者たる要素をいくつも配置した構図になっており、これはギュスターヴ8世が即位した際に追加されたもの。ギュスターヴ8世による数々の功績は現在でも語り継がれるところであり、まさに新たな日の出を迎えた時という偉大なる意味合いの意匠といえるだろう。


フィニー王国とフィニー島

 メルシュマン地方の西に浮かぶフィニー島は本来、ハン帝国の領土である。もともとバース領はこのフィニー島とは僅かな海域を隔てるだけの間しかなく、自領と言い張っても土地距離的には問題のない間柄といえた。この島が特筆されるのは内包している火のアニマのせいである。活火山が多いこの島は元来、人が住むには適さない地域であった。しかし、火のアニマが多いというのは火のクヴェルが見つかる可能性が高いということだ。案の定、ハン帝国時代からいくつものクヴェルが見つかっており、当時から重要なクヴェル出土拠点として位置していたのだ。
 バース領がフィニー島を獲得すればこうしたクヴェル類の独占化はもちろん、島を含めてバース全体を要塞と化すことで他国との戦いにおいても有利な位置につける。また、もともとハン帝国がメルシュマン地方を制圧する際にフィニー島を足がかりとしたという歴史的な意味合いにもなぞらえることができる。
 こうしたわけで他の三侯国はバースによる島獲得を阻止しようという働きがあったが、それはギュスターヴ8世がフィニー島を獲得したその時代に失敗に終わるというわけだ。

 8世がフィニー島を制圧した経緯については、当時の島所有者であったハン帝国が崩壊し宙に浮いたままのフィニー島にてファイアブランドを発見したのが8世であったというのが当初である。この歴史と威厳あるクヴェルを中心に据えてギュスターヴ8世は改めてフィニー島獲得を宣言。フィニー王国の建国とその国王即位とを同時に成し遂げたのだ。

テルムの抱える諸問題

 東大陸、特にメルシュマン地方は術時代の全盛期である。術力やアニマが強く豊富なものは一躍有名になることも少なくはないが、反面として術力やアニマに乏しいいわゆる「術不能者」たちは行き場をなくしている。このテルムではそうした色合いが特に濃いのが現状だ。
 テルムの一部地域はスラム街、貧民村などと呼ばれ、こうした術不能者を中心とした貧民層が多く暮らしている。彼らの大半はテルム近隣の街や村で術不能者としてのレッテルを貼られ追い出されるようにしてテルムに辿り着いた者たちだ。活気と文化で沸いているテルムであればと一縷の望みをかけてやって来たものの、結局は故郷よりもひどい環境に押し込められての生活を余儀なくされている。このスラム街に暮らす人々のなかにはテルム市街で生まれ育った者も少なくはない。

 貧民層と一般市民とは現在のところ、とりたてて抗争状態にあるということはない。術不能者がそのほとんどであるせいか、術力を持つ一般市民と表立って闘争などということになれば不利なのは明白というのもある。貧民たちは半端仕事などで細々と生計を立てており、死ねば遺棄されるだけの過酷な生活を過ごしている。
 現在のところの統治者ギュスターヴ12世の妃であるソフィー王妃がこうした貧民たちを保護し救済する活動を推進しているため表立って弾圧されるということも比較的少ないようであるが、それにより他国からの貧民を招き入れる結果にもなっているため皮肉な結果である。
 彼らの不満が溜まることで今後どのような問題が起きるかは不明であり、貧民問題はテルムの統治者が早急に解決すべき問題と言えるだろう。

貿易と国交問題

 貿易によりテルムに運ばれる物資のひとつに木材があるが、これは主にノールとオートの国境にあるワロニエの森から伐採されている。しかし、テルムに運ばれる際に切り出された木材はノール港からの水運ではなく、マニクール平原を抜けてシュッド川を用いてテルムにやってくる。
 一見すると遠回りでしかないこの運搬路であるが、もちろん理由がある。ノール港から水運を使う場合はオートゥイユ岬をめぐって南大陸に向かうようにしてテルムに入るわけだが、日数的にも物資的にも負荷の多い水運となっている。また、この水運を使った場合はノール領のスライブールという港町を中継地として使うことになるが、この街はオート領の国境と隣接している。ノールとオートは敵対してきた歴史が長いため、ここを中継地とするなにかとリスクが高い。それならば同盟関係であるバース領内のマニクール平原を使った方が安全で確実ということだ。
 ちなみにワロニエの森に関して、こちらも代々ノールとオートで伐採権対立している問題のひとつだ。

テルムの特産品
 テルム周辺の特産品は麦である。モート川流域は大穀倉地帯であり、国の主要食というだけでなく南大陸への貿易を経ることで他国の食糧事情も左右するほどの収穫が毎年見込まれている。ただし敵対関係という意味からかオートやシュッドへは一切輸出されていない。
 他にはツールの材料として火に関係するものがフィニー島では多く採取される。火のツールは材料が限定されるため基本的には高価であり、その産地としてフィニー島は世界各地に恩恵をもたらしていると言ってもいい。これらの資源はツール加工が盛んな南大陸に輸出されている。

 一方でテルムに輸入されるものはナ国からのツール類の数々だ。メルシュマン地方での主要都市のほとんどはナ国と交易関係にあるが、なかでもバースは前述した火のツール材料資源の相手として格別の取引相手と言ってもいいだろう。また、珊瑚類の装飾品や魚介類などはテルムでは珍しいものであり、主に貴族たちなどを中心に庶民にも流行として広まりつつある。


ヴェスティア [ロードレスランド北部]

人口:約2,000人
現統治者:なし
特記事項:ハンの廃墟ベースキャンプ

ヴェスティアの概要
 歴史の中ではハン帝国の首都に連なる街として栄えていたのがこのヴェスティアである。アイセル湾に面した港は豊かな海産物の宝庫であり、ハン帝国の人々はこの海からの幸を主な糧としていた。付近を流れるアナス川もまたこの海産物の運搬維持に大きな役割を果たしており、鮮度を損なわぬまま海から川を伝って帝国や首都まで運ばれていた。ヴェスティアはこうした港湾の玄関口として当時から賑わいを見せていた場所である。

 月日が流れ、ハン帝国が崩壊しその名前は歴史のなかでしか見られなくなった現在においてヴェスティアとこの近郊の環境は大いに変化した。ハン帝国時代の名残でもある石造りの街並みこそは残るが周囲には野盗やモンスターが溢れかえり、かつては世界一を誇った首都の衛星都市だったヴェスティアも全体的な規模は縮小してしまったと言ってもいい。
 目下のところヴェスティアは付近にあるハン帝国の一部が遺跡化した「ハンの廃墟」に向かうディガーやヴィジランツのたまり場として新たな役割を担い出している。クヴェル類を探し求めるディガーとその護衛を務めるヴィジランツの出会いの酒場なども軒を連ねており、特に駆け出しのディガーや冒険者たちの登竜門としての賑わいを見せる。

 ストーリー中ではその後、ギュスターヴ13世によって近隣にハン・ノヴァが建国されることとなる。アナス川流域の肥沃な土壌や環境は国家を立てるのには最適であり、かつてのハン帝国のような発展を願ってのことだったろう。

ヴェスティアの気候
 ロードレスランドのこのあたりは全体的に熱帯地域であり、夏は暑く冬は比較的過ごしやすい気候だ。ただしヴェスティアのあたりは海にも近いために風が強く、したがって湿度はそこまで高いわけではない。

  ヴェスティアの名物は新鮮な魚介類にある。焼き魚定食やアジの開きといった庶民的な料理が大半だが、これらの一部はテルムなどの都会の貴族たちも珍しがって流行になっているほどの美味しさであるらしい。かつてのハン帝国の貴族たちも好んで食べたと言い伝えられるこれらの魚介類において、ヴェスティアでのオススメはアジフライ定食。パンやサラダと同一皿に盛りつけられた食べやすいサイズのアジフライにはソースが垂らされて食欲をそそる。新鮮なアジの使われたこの定食は人々に愛されているメニューであり、ヴェスティアの酒場ランチとしてふるまわれているがすぐさま売り切れとなってしまう人気っぷりである。


ハンの廃墟

 ヴェスティアからアナス川を遡ってほどなくすると見えてくるのがハンの廃墟である。ヴェスティアから近いとはいえ15kmほどは移動しなければならず、ハンの廃墟周辺は山と高地に囲まれた人々の住まう圏内からはずいぶん離れた場所になっている。
 内部はハン帝国の特徴でもあった白石をふんだんに使った石造りの構造がそこかしこに見られるがどれも風化が始まっており、場所によっては崩壊の危険も伴うほど荒廃してしまっている。地上部分はところどころ砕けた石畳や石壁、そして闘技場や神殿の跡地らしき建物がいまなお原型をとどめた姿で立ち並んでいる。
 一方で地下部分も広大に広がっており、いくつかは崩落しているものの相当な規模の地下街が存在していた可能性がある。ここではクヴェル類も良く見つかっているため何人ものディガーたちが探索し尽くしているものの、隠し通路類も含めればまだまだこれからの新発見もあると言えるだろう。

 モンスターは地上部分はそこまで多くはなく脅威も低いほうだが地下は無数のモンスターが確認されており、なかでも非生物系に分類されるグールやグーラといったアンデッドが多い。行き場をなくしたアニマが凝り固まる場所としてこの遺跡は格好の巣穴といったところだろうか。漂流アニマがディガーたちを食い散らかし、それに引き寄せられた新たな漂流アニマがモンスターとなるという負の連鎖も起きている。


夜の街 [ロードレスランド]

人口:約12,000人 (定住者のみ)
現統治者:なし
特記事項:ハン帝国の技術が残る街

夜の街の概要
 俗語めいた響きを漂わせる夜の街だが、この名はもちろん通称だ。正式名称は「シュヴァルツメドヘン」という名であるが、このメドヘンというのは乙女を意味する言葉。夜の遊びと女性という意味の名前が結びついて夜の歓楽街、やがて夜の街という通称が一般化したというのが名前の由来だ。

 この理由としては街にいまだ残るハン帝国のテクノロジーが挙げられるだろう。サンダイルのほかの街は夜間の照明はロウソクのようなもの以外には特に存在しない。アニマを使って発光させる日常生活ツールはあるが、基本的に夜は灯りを消して眠るというだけの生活である。
 ところがこの夜の街には街全体に街灯を始めとした多くの照明が配置されている。これらはすべてハン帝国時代に作られたクヴェルと連動する大規模な照明機構であり、現在の技術では再現することが不可能だ。この照明は夜の街にある管理部屋でスイッチを少しいじれば手軽にオンオフが可能なので、ここに住む人々は昼は寝て夜に生活や店舗営業をするというスタイルがほぼ恒例化している。
 また、夜の街を訪れる客層からも影響を受けている。夜の街北部にはスヴェルドルフ鉱山という大規模な鉱山があるが、ここで働いた山男たちは夜の街でひと息ついて一日の疲れを癒す。一方でグラン・ヴァレを回る船乗りたちも海況次第ではこの夜の街をひと時の滞在場所として選び、やはり酒と女に興じていく。これらの稼ぎが夜の街に落とされると街側も潤う。
 このような開放的過ぎると言っても良い空気が長年漂っているのはひとえにこの夜の街がある地域が熱帯であり、南国特有の自由で気ままな風潮が色濃いというのが大きい。サービス業がその主な収入源とはいえ、独特な食事や繊細な装飾品類もこの街の名産品となっているのも人気の理由だろう。

 街を覆う街灯の古代機構が一番の名物ではあるが、給水や下水道の設備も同様にして古代のテクノロジーで機能している。インフラの設備がほとんどハン帝国時代そのままに生きているため生活のしやすさは他の街と比べて格段に良いと言える。一見すると猥雑ですらある街だが、こうした設備のお陰で衛生状態はすこぶる良好であり疫病の発生率も低い。いわゆる水商売と呼ばれる稼業もしやすいと言えるだろう。ただ、故障の際に修理できる者がいないことがネックであり、クヴェル研究家も居るには居るが現在の技術でこれらの古代機構を修理するのは基本的に不可能とされている。
 ハン帝国時代の技術も残っているお陰なのかツール職人がフォーゲラング同様に多いというのも特徴だ。ツール制作には一定の技術が必要なため、東大陸にはそこまで有名な職人がいないのが実情であるが、この夜の街では子供たちがチップを集めるなどする光景が見られ、職人候補生には事欠かない様子が見て取れる。

夜の街の気候
 ヴェスティアよりは南部に位置するが、このあたりもロードレスランドとして熱帯気候であり年中を通して高温多湿となっている。この夜の街からラウプホルツあたりまではほとんど一年中ハリケーンが猛威を振るう地域であり、実は夜の街のあちこちが崩落していたり汚れているのはハリケーンの爪痕によるもの。夜の街はこの自然の驚異とどう立ち向かうかが今後の課題と言えるだろう。

  夜の街はサービス業が有名ではあるが、もちろんそれだけではない。北部にあるスヴェルドルフ鉱山と古代機構の両方に影響を受けた結果、ここではツール制作の技術が培われることになった。鉱山からの感応石をふんだんに取り入れ、帝国時代の技術力と各方面の夜の街の客たちから集められた膨大なチップで繋ぎ合わせたというこれらのツールは、南大陸のツール総本山であるフォーゲラング産のものと遜色ない精度を誇っている。ただし、夜の街の地理的に他国への流通手段が乏しく、なかなか出回っていないのが現状である。
 食事に関しては南国特有の果物類が有名である。これらは他国に輸出するほどの数は無いものの、それが逆に夜の街に行って食べてみようという意欲をそそり他国からこれだけを目当てに訪れる者もいるほど。マンゴーやパッションフルーツ、ドリアンなどその種類も豊富である。

夜の街の孤立化

 一見して華やかですらある夜の街の空気だが、地理的にはこの街は周囲の地形や環境のせいで孤立しているというのが実情である。それはここがロードレスランドというもともと人間の住まいには適さない土地であるということも由来しているが、とりわけ原因となっているのは陸路の難しさである。
 夜の街に通じる特に大きな道はスヴェルドルフ鉱山と直結する通路ぐらいで、他には安全かつ確実な幹線道路が存在しない。スヴェルドルフ鉱山から北はすぐに樹海になっており、こちらも通行するには難がつきまとう。一方で夜の街の南はグラン・ヴァレという古代帝国時代から利用されている石橋があるが、ここは近年になって野盗たちが住み着いて法外な交通料をせしめているほど治安が悪いところだ。
 また海路に関しても周辺海域は強風にあおられる事が多く、危険な荒波と潮流に耐え得る船と船乗りたちしかこの街を訪れる者はいないと言ってもいい。

 地理的に不安定であるにもかかわらず夜の街が一部の人々をトリコにしているのはもちろん、街特有の雰囲気とサービス業を始めとした名産品の数々の恩恵たればこそだが、他国からの出入りがしづらいという点は今後の課題となると言えそうである。ラウプホルツ方面との交流が出来るだけでも相当な規模の都市に生まれ変わる可能性は秘めているのだが。

ハン帝国時代の特徴ある佇まい

 ハン帝国時代の影響を特に色濃く受けているというべきか、街はほとんどすべてが石造りで完成されている。さらに、家屋の石壁はそのまま街の外壁と連なっているなど街全体がひとつの石の塊を切り分けて整形したかのような佇まいなのもハン帝国時代の特徴と言えるだろう。それぞれは石の階段で起伏が多く繋がり合っており、街に不慣れな者からすれば迷子になってしまうほど入り組んでいる箇所も多い。

 もともとハン帝国の時代この夜の街はもっと規模が小さく、現在の下層域にしか建物は存在しなかった。当時からも歓楽街として確固たる雰囲気を持っていたが、帝国崩壊後に住民が急増し徐々に独自の発展を遂げていくようになる。階段類がそこかしこに作られると下層と上層とに大別されるようになり、下層(ダウンタウン)では歓楽街をそのままとした店舗類が、上層(アップタウン)には夜の街の住民たちが住まう住宅と住み分けがされるようになったのだ。
 とはいえ、もともとが計画的に施工されての街工事ではなかったためにその区分けは曖昧であり、ダウンタウンでも住居はあるしアップタウンでも店舗経営されていたりなどこのあたりも含めて夜の街という自由で大らかな空気と雰囲気が出ているところだろう。


ラウプホルツ [グラン・タイユ]

人口:約34,000人
現統治者:ラウプホルツ公エーリッヒ
特記事項:ラウプホルツ公国首都

ラウプホルツの概要
 歴代として名君を多く輩出してきたラウプホルツの歴史は非常に古く、遡れば古代帝国よりも昔、ヴァイスラントでクヴェルが発見された頃まで辿ることができる。しかしグラン・タイユの人類の発祥については論議が分かれており、一部のヴァイスラント人が北部に流れて来てこの地にラウプホルツなど都市国家を作り出したという説とグラン・ヴァレにもとから存在した国家が発祥という説である。
 ヴァイスラント人を発祥とした場合、クヴェルによる闘争に敗れたヴァイスラント人が陸路にてこの地に辿り着いたということになるが、当時すでにこの地にはグラン・ヴァレを発祥とする都市国家が発展していたはずであり、彼らとの関係性も問われるところになる。
 グラン・ヴァレに存在していた都市国家が発祥とする場合で有力となっているのは、グラン・ヴァレの都市国家のひとつがヴァイスラントにクヴェルを探索しに行くための前哨基地をラウプホルツのあたりに作ったという歴史的事実がある。ラウプホルツ以外の街はともかく、この基地を住居とした人々が発祥というのはいかにもな部分もある。
 どちらにしても住人のルーツに関わる問題であるために長年論議はされているが、決着に至れるほどにはまだ歴史の解明が追い付いていないのが現状となる。

 また、ラウプホルツは外観からも納得できる通り非常に美しい森林地帯が絶景とされている。これは温帯と寒帯のどちらもある地域であるためか非常に多種多様な植物が成長し、常緑樹や針葉樹などのなかに紅葉樹が入り交ざる光景は詩的でロマンティックである。
 こうした豊富な種類の木々を利用してのことか、街の造りは木造家屋がほとんどである。

ラウプホルツの気候
 ラウプホルツ自体は温帯であり年中を通して比較的過ごしやすいが、領土全体で見ると寒冷地がやや比率的には多いと言える。特にヴァイスラントに隣接している地域は豪雪地帯となり、広葉樹や針葉樹が無造作に生えそろっているような環境が散見される。
 ラウプホルツも温帯と言えども地形としては高地であるため、冬季に関してはロードレスランドやそれより北と比べると寒いと言えるだろう。

  ラウプホルツの木材は非常に良質であり、特にツール類の製作に関しては抜群の相性の良さを誇っている。ラウプホルツにやってくるには法外な交通料を取る野盗たちがいるグラン・ヴァレの石橋を渡らねばならないが、そうしたリスクを負ってでも多くの商人たちが通ってくるのはこの木材目当てひとつと言ってもいい。南大陸のフォーゲラングからも人々が集うというのだから、いかにラウプホルツの木材が世界的に見ても優良なものかは見て取れるだろう。それは術と深い歴史を紡いできたラウプホルツの木々ならではという説もあるほどだ。
 地形的な意味で鎖国に近いラウプホルツだが、こうした名産品のお陰で国内は豊かに保たれている。

 ラウプホルツ公のエンブレムはハン帝国皇帝にたまわったという非常に歴史が古いものであり、剣をあしらった構図となっている。この剣は同時に聖者の十字架も表しており、剣は力を、聖者は術と信仰とを意味している。このふたつを守護する者としてラウプホルツ公国としているのだ。つまりはラウプホルツ公爵家とその公国民全体で術の庇護者であるという意識の表れである。
 また、剣の周囲を纏うように配置されているのは樹の葉。赤褐色で塗られているのも美しい紅葉樹が昔から多かったことの証であり、ラウプホルツを取り巻く美麗なる森を象徴したものである。
 このエンブレムはラウプホルツ公爵家だけのものというより、国民全員を一丸にするための象徴という見方が強いと言えるだろう。


術と根強いラウプホルツ

 ラウプホルツのすぐ南にはヴァイスラントがある。北側とは天然の要害により行き来がしづらい一方でヴァイスラントとの交流は盛んであり、その歴史は人類誕生に近いほど遡ることができる。ヴァイスラントは国家としてはいまだ発展途上と言えるが、世界的に見てもクヴェルや術に関する重要拠点であるのは言うまでもない。このヴァイスラントから直接、術やクヴェルの知識や技術を得ることのできる位置がラウプホルツというわけだ。
 ラウプホルツの人々では術不能者はほぼ存在しない。それは住人のルーツにヴァイスラント人が何らかの形で混ざっているからであり、人々のアニマはおしなべて強い傾向にあるといえる。起源となるヴァイスラント人の持つ信仰心や精霊交信の血筋がいまなお受け継がれているという証拠といえるだろう。そしてヴァイスラントよりも術を文明の一助として利用する意識が高いのもあり、意欲的に術力を文化や社会に取り入れている。

 もちろん、ヴァイスラントとの交流はいまなお続いている。かつてはハン帝国により幾度となく侵略行為を受けて来たヴァイスラントではあるが、グラン・タイユとは良好な関係を保っていた。その流れに従い、ラウプホルツの住民たちもまたヴァイスラント人には術発祥の地の祖先として敬意を払って接している。現在においてはヴァイスラント人の数は激減しており、術に関する知識交流の機会は少ないではあるがラウプホルツもまたヴァイスラントへの援助を惜しまないため、持ちつ持たれつの関係は継続中といったところ。

北を阻むグラン・ヴァレ

 ラウプホルツの北側はグラン・ヴァレという天然の要害が横たわる。巨大渓谷地帯であるこのグラン・ヴァレにはハン帝国時代に石橋が作られて以降も整備を重ねられておりいまでは唯一の陸路交通手段となっているが、ここには野盗たちが巣食いだしてしまっている。彼らは法外な交通料金か高価なクヴェルのどちらかを渡ろうとする者から奪い取り、したがって石橋を利用する以外に北側との交流手段がないラウプホルツが鎖国化する一因となってしまっている。
 とはいえ、このグラン・ヴァレや石橋が無かったとしても夜の街を挟んで北側は樹海というこれまた道を阻む難所があるためにロードレスランド北側やメルシュマン地方とは直接的な行き来はしづらい場所ではある。

 海路についても同様で、ラウプホルツおよびグラン・タイユ周辺海域は強風や潮流の問題で荒れ波が多いことで有名である。ラウプホルツ周辺は特に小島や暗礁が多いためによほど手慣れた経験豊富な航海士でないと船を出すことすら危険と言える。ヴァイスラントからの年中を通して吹き荒れる吹雪をはらんだ強風もしかり、航海そのものが都度危険性を伴うのでよほどの場合以外はどの国もラウプホルツとは海路を使っての行き来はしていないのが実情である。ラウプホルツそのものも海とは遠い山間に存在するため、港湾部からさらに徒歩を経なければたどり着けないのも理由の一つであろうか。

 それでもなお、ラウプホルツとの取引や貿易を目指して商人たちが訪れるのはひとえにツールの素材として名高い材木の調達が主である。ツールそのものが世界規模で需要が高いものであるため、その時の儲けがパーになろうとも石橋を利用して行き来するのは長い目で見れば黒字ということなのかもしれない。


ヴァイスラント

人口:約400人
現統治者:なし
特記事項:術発祥の地

ヴァイスラントの概要
 東大陸の南の果て。いまではほぼ世界中の人々が知る伝説として、ヴァイスラントこそが術発祥の地という歴史があるがまさにその中心地がこの雪と氷に閉ざされた小さな集落と周辺に広がる大豪雪地帯および氷河地域なのである。国家が無いので明確に国境というものもなく、ラウプホルツ公国が国境と定めたリンホフ川から南を大雑把に区分してヴァイスラントの領域として制定している。
 ヴァイスラントは歴史のなかで国家や都市といったものが作られたことが一度もない。太古には多くの人々が生活していたが、1,000人足らずの人口となった現在においてその頃の面影は見かけないのが実際であろう。ヴァイスラントという名前も地域全体を指すのかこの氷河地域に唯一存在する寒村を指すのかも人によって曖昧であり、それだけ全体人口が少なく孤立している地ということになる。

 もともと多くの人々が暮らしていたと述べたが、クヴェルが初めて発見された頃に精霊信仰やアニマを崇める文化がヴァイスラント全体に広まってのち、クヴェルを持つ者同士で奪い合いの戦争が起きた。これに敗れた者は手持ちのクヴェルを持って北を目指してグラン・タイユやロードレスランド、やがてはメルシュマン地方にまで足を延ばして広がっていったという歴史による。
 そうしたわけで、現在でもヴァイスラントに住み続けている人々は太古においてクヴェルをめぐる争いの勝者となった者たちの末裔という見方も可能である。もちろん北側から来訪しここに住み着いた者も皆無ではないが、総じて全人口が少ないのは人々の流動によるところが主ということになる。

 他国や他の地域ではクヴェルはあくまでも道具であり暮らしや戦いを便利にする程度の認識しかないが、ヴァイスラントにおいてはより神聖で聖なるものとして見る信仰が根付いている。アニマや術は精霊や神々の力であり、人間たちは彼らから力の一部を借り受けているに過ぎないという独特の原始的精霊信仰(アニミズム)だ。そのため、ヴァイスラント人はクヴェルだけでなくメガリスに対しても古代遺跡というよりも聖地として扱っており人の立ち入ってはいけない場所という強い認識がある。
 クヴェルの使用も限定されたことだけに留まっており、元来が術力が高い者が多いヴァイスラント人なのだが炎のクヴェルで寒い日の暖を取る以外の用途には歴史上で見てもほぼ使用しなかった。クヴェルそのものが人間の持つべきものではないと考えているため、濫用を避けている風習がある。近年になってラウプホルツから伝わったツール類がようやく広まり出した程度でアニマや術を政治や社会のために利用することはまったく無いと言ってもいいだろう。

 このような信仰や風土が根強いとはいえ、クヴェルやメガリスを解き明かそうとするディガーたちに対しても非常に親切で好意的だ。それというのもこのような辺境の地を訪れる旅人は少ないので村人たちは見知らぬ人に対しても快く接している。単純な交易のためというだけでなく、人と人の交流を欲している人が多いのだろう。
 また、ヴァイスラントでは寒さをしのぐために炎のクヴェルとは別にアルコール類がよく利用されている。度数の強い酒は身体を内部から温めてくれる効果があるので、この村では老若男女問わずアルコールで身体を温めるのが通例となっている。「クヴェルで外から暖まり、酒で内から暖まる」という言葉通り、この過酷な環境で人々が生活していくのはクヴェルと酒のどちらもが無ければ成立しなかったことだろう。
 酒類は種類も豊富だが「クヴェルの酒」と呼ばれる逸品が特に有名。これは無色透明でハーブの香りを漂わせる名酒であり、遠くはメルシュマン地方の貴族たちからも絶賛されている一杯。アルコール度数はサンダイルでは最強レベルであり飲める者は限られてしまうとはいえ、遠くからこの酒だけを求めて訪れる旅人や商人も少なくない。

ヴァイスラントの気候
 言うまでもなく寒冷地帯であり、年間を通して全地域が極寒の地である。とはいえ短い夏季の間だけはヴァイスラントの村付近のみ雪も解けて過ごしやすい環境になる。この短期間で人々は田畑を耕し食料を確保しなければならない。獲れた川魚は長期保存のために工夫されるなど、寒冷地ならではの保存食の作り方が昔から伝わっている。

ヴァイスラントのメガリス

 クヴェルと術発祥の地ヴァイスラントではメガリスの歴史も長いと言える。いまでこそ世界各地で見つかっているメガリスだがヴァイスラントにも確実にメガリスがあるというのがクヴェルやメガリスの研究家たちの考察である。というわけで、過去何度となく個人レベルから国家規模でメガリスの探索は行われているが、一人として吹雪のなかから戻って来た者がいない。それは過酷な環境とそこに適応した強大なモンスターたちだけでなく、メガリスそのものが不可思議な危険に満ちているからではと推測されている。

 実際に何人ものディガーを始めとした冒険者たちがヴァイスラント深部に向かっている。道中には雪と氷を選り分けるように通路らしきものが作られており、ベースとなる仮キャンプも作られている場所がある。しかしこのキャンプ地すら安全とは言い難く、眠ったまま凍死する危険性もあるほどの寒波が周囲に巻き起こっているのだ。これは異常と言わざるを得ない気候であり、通常の寒波や寒冷地とは比較できないと思われる。
 ヴァイスラント深部を探索しに行くも命からがらメガリス探索から戻って来たディガーやヴィジランツたちの証言からすれば、道中はドラゴンを始めとした大型で強力なモンスターが大量に生息しているという話である。いずれも他の地域ではほとんど見られない種ばかりだが狂暴かつ見境のない性格ということは分かっている。手練れのディガーも「ドラゴンの巣であり、メガリスに到達できる人間はこの世にはいない」と言い残しているほどだ。
 このモンスターの異常なまでの狂暴性についてもメガリスのなにかが関与しているという見方もあり、ヴァイスラントのメガリスとモンスターの関連性が今後調査され明るみになることを願うばかりである。

  ヴァイスラントは通貨はそこまで流通しておらず、基本的には自給自足による物々交換が主である。サンダイルで使われている貨幣はもちろん通用するしヴァイスラント外まで行商に行く商人たちも居ないことはないが、人口も少ないのでそこまで大々的な商売や輸入出はされていないのが現状である。
 唯一ヴァイスラントから輸出するものといえばクヴェルくらいだが、それらも数が多いとは言えずヴァイスラントにとっても生活において大切な物である。売る、というよりも譲る、という形で広まることはあるが、積極的に外の世界に広めようという風潮はない。
 それよりもお土産としての酒類のほうが有名かつ人気を誇っており様々な種類の酒が流通している。ストレートでも美味しいが何で割っても美味になる飲みやすくクセの少ない名酒揃いで遠くメルシュマン地方からも商人たちがやってくる。



ハン・ノヴァ [ロードレスランド]

人口:約12,000人
現統治者:ギュスターヴ13世→ヤーデ伯ケルヴィン→オート候カンタール
特記事項:ギュスターヴ帝国新首都

ハン・ノヴァの概要
 1249年、ゲームストーリーでは中盤において建設されることになるギュスターヴ13世の新たなる牙城がハン・ノヴァである。
 鋼を用いた新しくも強力な軍隊を編成し一躍世界各地に影響を与えながら東大陸全土を掌握していくギュスターヴ13世は新たな領土としてロードレスランド全域を見据えていた。ハン帝国が崩壊して800年あまりが経過し人々の記憶から薄れつつある帝国という巨大な権力に匹敵する国家を再び復活させる。そしてそこに君臨し東大陸を皮切りに南大陸や北大陸をもとした野望の最初の拠点となった場所と言えよう。もはやロードレスランドは呪われた地ではなく、鋼の13世が切り拓いた新天地であるという気概を込めている。
 メルシュマン全土を掌握したギュスターヴ13世がこうした意思を新たにしてハン帝国があった場所からほど近いところに建国されるのがこのハン・ノヴァであるが、この建国に先駆けて13世は中原(ロードレスランド)を支配し東大陸全土を掌握すると宣言している。モンスターや野盗たちが闊歩している地域ではあるが本来のロードレスランドは不毛な地ではなく豊かな大自然と耕作可能な地域に溢れた場所でもあり、13世の軍隊によってモンスターたちが駆逐された後は住みやすく快適な地となって復活を遂げたのだ。

 建国後はギュスターヴ13世の南方への足がかりとして機能するようになり、それまで統治していたフィニー王国をカンタールに預けた13世は改めてハン・ノヴァに入城しここの統治者として落ち着くことになる。13世はロードレスランドに僅かに住んでいた人々に招集をかけて軍隊を組織し自分の兵士として迎え入れると共に彼らの故郷の安全と保護とを約束した。
 この兵士たちのなかにはロードレスランドの各地で野盗として名を連ねていた者たちも含まれていたが13世はそうした経歴には目を貸さず、あくまで自分の兵士としてどんな者でも受け入れていた。こうすることで自軍の強化と治安の改善の一挙両得を成し得たのである。術不能者に対してもしかりだが、13世のこうした懐ときっぷの良さは多くの人々の同調と信望を買ったのは言うまでもないが、こうした13世らしい政策のいくつかの発案は名行政家のムートンによるところも大きかったという。

ハン・ノヴァの気候
 ハンの廃墟からほど近いところに建国されたハン・ノヴァはヴェスティア同様に熱帯気候に属しているが、ハン・ノヴァが作られた場所は高地であるためか過ごしやすい環境だ。内陸であるために天候も安定しており、強風やハリケーンといったような自然災害も少なく安定した地盤であるといえる。年中を通して晴天が多いが冬季は極寒に近く冷え込む日はある。

ハン・ノヴァ建国とその効果

 ギュスターヴ13世がハン・ノヴァを建国したのは東大陸全土を掌握するためということは前述の通りだ。グラン・タイユやヴァイスラントといった南方の諸国や領土を目指しての一歩としてハン・ノヴァは大いに役立つことを期待されていた。建国して早々に13世もこの地に移動をしており、いかに南方への期待が高かったかは推し量れるところだろう。
 さて、このように東大陸全土を見据えていた13世だが、実際に南に軍を動かす前にいくつかの政策を打ち出しており、言うなれば東大陸掌握のための前哨戦を既に開始していた。

 ひとつ目はアニマ教団という古くから存在するカルト的な集団の撲滅である。アニマ教団の理念は「アニマがすべて」という言葉に集約されており、歴史も長いので信者たちの数は相当な数にのぼる規模の大きいカルト集団である。ギュスターヴ13世が世に出る前は術全盛時代ということもありアニマ教団の理念は多くの人の共感を買っていたが、13世はこれら全員の抹殺を決行する。
 アニマ教団はその性質から術不能者に対しての仕打ちは冷酷非道でほとんど人間と同じ扱いをしていないという噂があるなどしており、世に台頭したギュスターヴ13世に対しても術不能者という意味で一部の人々をそそのかして13世に反抗する活動をしていたとされる。その教団の本拠地がハン・ノヴァの膝元であるハンの廃墟に出没していたとなれば13世としても黙っているわけにはいかず、教団員抹殺のために自らが出向くほどの大規模な駆逐作戦を展開した。
 この結果、生き残ったアニマ教団員たちから13世は「魔王」と恐れられることになったのは後日談となろう。

 ふたつ目の政策は東大陸の南方に向けての制覇宣言である。アニマ教団を一掃してほとんど間も置かずに13世は南方に出撃する体制を整えている。早々のうちに夜の街を版図として異常なまでの素早さで南東メルツィヒに前進基地を建設する。南方遠征については数度に渡り繰り返されたが、いずれも13世の迅速な動きに周囲は圧倒されていただろう。

幻の都

 1220年のゲーム開始当初はハン・ノヴァは存在せず、中盤の1249年にて建設と建国が果たされる。しかしその22年後の1269年のメルツィヒ砦にてギュスターヴ13世は世を去ることになり、実質的に無人の王国となってしまうのだ。
 13世の亡き後は盟友であったケルヴィンが統治を引き取る形となるが、そもそもヤーデ伯のケルヴィンはナ国の人間でありそのままハン・ノヴァを統治するにはギュスターヴ陣営の諸侯だけでなくナ国をも裏切ることになりかねない立場に悩まされていた。そんな折にフィニー王国を任されていたカンタールがメルシュマン統一軍を起こしてハン・ノヴァに進撃してくるという事態に陥り、窮地に立たされたケルヴィンがヤーデに撤退すると同時にハン・ノヴァは待ち構えていたかのようなモンスターたちの襲撃を受けて炎の海に壊滅してしまう。
 このモンスターの軍勢出現についてはカンタール陣営の一部が送り込んだやアニマ教団の仕業など諸説あるが、ハン・ノヴァを包み込んだ炎はまるでギュスターヴ13世を送る炎のようにいつまでも気高く煌めいていたと伝わっている。

 建国に関してのひとつに、ギュスターヴ13世の性格がよりよく分かるエピソードとしてこんなものがある。
 ハン・ノヴァ建設の最高責任者が当時、首都建設に関して意見具申をしに行く前の日のこと。血も涙もない覇王、非情で冷酷な獅子王などとさまざまに噂されていたギュスターヴ13世を知る責任者は妻と最後の晩餐で涙をしながらこの世と別れを告げて13世の前に向かった。まさに死を賜るのを覚悟しての首都建設に関する物言いの数々を並べ立てた責任者を驚かせたのは興味津々に建設の概要と意見に聞き入る鋼の13世の姿。
 話を聞き入れた13世はこの最高責任者に一切の権利を任せ、すべて彼の言うような首都を作ると約束まで取り付けてしまったのだ。22年でこの世からなくなった幻の都ハン・ノヴァだが、その実態はこの最高責任者の趣味如何だったと思うと興味深いところである。そしてまた、豪快で大らかな13世の性格も垣間見える苦笑の浮かぶエピソードとも言えようか。


グリューゲル [ナ国]

人口:約16,000人
現統治者:ナ国王スイ
特記事項:ナ国首都

グリューゲルの概要
 ハン帝国の末期。衰退し腐敗しきったハン帝国を再建しようとした一部の権力者たちが引き出してきた五賢帝の末裔たる皇太子がいる。人望に満ちた道徳心もある好青年だった人物だが、ハン帝国に対してはすでに見切りをつけており一部の家臣と彼を信奉する貴族たちを中心にハン帝国から離反。遠く海を渡り辿り着いた南大陸に亡命したのだ。
 当時の南大陸はクヴェルが伝播するのも遅く、術というものは存在こそ知っていても使い手は少なく、一般市民たちにとってもまだ広まっているとは言い難かった。恐怖心さえ感じていた摩訶不思議な術を自在に操れる人間が突然現れたというだけでも人々のショックは相当であり、皇太子とその一行を「人間以上の存在」として崇め奉った。そして南大陸の人々はこの神のような不思議な力を使いこなす皇太子を国王とした一大連合国家を興すことになり、これが現在のナ国の発祥とされているのだ。長い歴史においては国の体制や政策も変わったところもあるが、ナ国が常に一定の安定度を誇っているのは皇帝の血筋がハン帝国の末裔という事実を国民全員が崇めており、尊敬の対象としているからに他ならない。

 ナ国は当初、周辺の国家を平定するにあたり術を使って時には脅したりなだめたりもしていた。グリューゲル周辺の都市国家は当然ながらナ国同様に術も到来しておらず、皇帝と一部の臣下たちが使う術の力を誰もが恐れていたので大規模な戦争になるなどもせず比較的穏やかに併合は済まされ、連合国として完成する。
 しばらくは絶対君主としてナ国を収めていた皇帝だったが、術が徐々に東大陸から伝来し使い手も増えていく頃合いに連合国解体を宣言。これによりナ国と併合されていたすべての都市国家は自治を認められることになり、さらに時代が経るごとに自治権はより拡大してそれぞれの都市国家が独自の発展を遂げるような連邦国の仕組みが作られていく。
 これはつまり、形式的にはあくまでも南大陸の都市国家はすべてナの合併国としているが実質的には国王から領土をもらった各領主が自分たちの領土を自治しているという形である。とはいえ、ほとんどの領主たちがナ国皇帝が現れる前から自領を持っていた者ばかりなのでこの政策変更に関しては混乱も特に見られなかった。
 自治に関してナ国側からは僅かな納税と幾つかの義務を各領主に課しており、戦時での軍役もここに含まれている。そのため、協同組合的な同盟同士という見方も可能であろうか。平時ではとりたててナ国から各領主への政治に関する言及は無い代わりにそれぞれの国の脅威はそれぞれで対処するという苦労もある。

 ナ国は面積としてはサンダイルで最大規模を誇るが、そのほとんどが砂漠地帯と荒野という人の住むには適さない土地となる。特に農作物の収穫は芳しくない土地であり、干ばつや日照りには年間を通して悩まされる。これらを克服するためにナ国は他国との貿易を積極的に行っており、東大陸のほとんどの国と取引をして安定させている。なかでもバース侯国からの麦の輸入はナ国の食生活を左右するほどであり、今後も継続して輸入されなければならない物資と言えよう。
 国土内での大規模な戦争は長い歴史においてほとんど無かった。ナ国の皇帝や国民、そして周辺の都市国家含めても全体的におっとり、のんびりとした風潮があるのはそのためである。いざ戦いとなればそれぞれの組織された兵隊や術も用意されてはいるが、積極的に戦を仕掛けるという国風ではないので軍費に関してはあくまでも非常用という見方で良いだろう。

 また、ナ国は術に関する考え方が一般市民規模で東大陸のそれとは大きく異なっている。クヴェルや術が伝播する前は鉄製品が人々の主体として機能していたという背景もあり、術に重きを置いた考え方はされていない。術不能者に対する弾圧も東大陸とは比較にならないほど僅かだと言ってもいいだろう。
 ただし術の資質に関しての人口比率は東大陸と異なるかと言えばそうではなく、術不能者の割合なども南大陸と東大陸はほとんど同じ比率である。ヴァイスラントや一部のラウプホルツ国民以外の術の資質は全世界の人間がまったく同じであり、したがって高名な術士といわれるシルマールが南大陸の出身というのも不思議ではないだろう。
 また、鉄製品に関しては都市部より地方のほうがその使用率は高くなっており、こうしたことも情報や技術の伝播速度が関係していると思われる。地方都市の幾つかではいまだに鉄製品の加工や精製技術が伝統的に残っており、人々もアニマを阻害するなどを承知の上で鉄製品を日常的に使いこなしている。

グリューゲルの気候
 温帯に位置するグリューゲルの気候は穏やかではあるが、大陸性気候であるために夏は短く一年中乾燥した空気である。降雨量は少なく、ほとんどの植物類が育ちにくい環境だ。農作物にとっては厳しい土地と言えるため、グリューゲルでは僅かな穀物の自給自足以外はほとんどすべてを輸入に頼っているのが現状である。

 ギュスターヴ13世が幼少期、父ギュスターヴ12世にテルムから追放された際に身を寄せたのがナ国である。シルマールの保護があってのことではあったが、ナ国という土地は最適な隠れ場所だ。東大陸のメルシュマン諸国が直接関与のできない国力はあり、ひっそりと暮らすに限ってはまさに天国と言えただろう。
 しかし、ナ国王のスイはギュスターヴ母子に対して身の安全だけでなくグリューゲルの相当豪華な住まいを与えるだけでなく、やがてはヤーデ郊外ファウエンハイムに領地までをも送ったのだからずいぶんと破格の対応である。
 これについてはナ国王スイの女性好きが挙げられるだろう。ソフィーは誰もの気を引く美人であると共に深い慈愛と博愛に満ちた内も外も美しい女性である。この人物をスイ王が放っておくわけもなかったということか。とはいえソフィーがそうしたアプローチになびいたという面もなく、毅然としたまま接していたとすればさすがギュスターヴ13世の母親だといったところだろうか。


  グリューゲルの近郊にある大河、インネル。この川はまさにグリューゲルにとっては物資運搬や人々の行き来、そして軍船の停泊とあらゆる用途に使われているまさにナ国と共に栄えた河川と言える。
 物資の運搬についてはインネル川河口のシャルンホルストという港町は外せない拠点だ。東大陸など各国から輸入した物資はいったんこのシャルンホルストに集められ、インネル川を通じてナ国など周辺都市に分散していく。もともとナ国は海運が発達した国であり他地域との貿易は必須性もあって頻繁かつ積極的だった。商人たちの活躍は国家の収入も潤しており、船舶や造船技術も他国の追随を許さないほど発展している。
 ナ国がサンダイル最強と言われる海軍を保有するのはこうした背景があってこそだが、軍船類は一部もしくは全部に鉄製品が使われているのもナ国の船の特徴だろう。地方でいまだ受け継がれている鉄製品の精製技術が船の素材には最適であり、東大陸など他国に真似のできない文化と技術を作り上げている。シャルンホルストは海軍港として整備されており、ナ国最大の母港として恥のない佇まいを誇る。あらゆる海域を知り尽くした歴戦の船乗りたちの数も多い。
 一方でナ国から輸出されているのはフォーゲラング産のツール類の数々だ。東大陸では夜の街で僅かに作られ周辺地域に広がっているに過ぎないツールだが、こちらはナ国の後押しもあって大規模な輸出ルートが組まれており全世界に流通するだけの数が確保されている。いまのサンダイルに存在するほとんどのツールはフォーゲラングで作られたものと言えるだろう。


大国、ナ国の今後の課題

 歴史のなかで連合国家からそれぞれの自治を認めた連邦国として姿を変えて来たナ国では幾度となく直面する問題として旧都市国家の独立問題が挙げられる。これは自治を認められた領主が完全独立を目論んでナ国からの離反を宣言しようとするもので、戦による独裁政権をよしとしないナ国ではこの問題が起きるたびに政策を変えるなどしてやんわりと対処してきた。
 こうした、どこか懐柔的なナ国の姿勢には理由がある。ナ国はその国土のほとんどを産業に適さないカイワラン砂漠に覆われており、自国の産業だけで財政を切り盛りするのは不可能なのだ。そのために各領主をなだめながら連邦国の維持を継続し、それぞれからの特産品を得たり税金などを得て国庫としているという側面がある。ナ国は中央に位置するとはいえ、強気な姿勢に出られる立場には居ないのである。

 しかし現在はともかく今後を見ればそれぞれの領主と領土は自治を離れてもいいほどには発展しているのが実情だ。かつてハン帝国の皇太子がナ国を興した時にはまだ術の使い手が少なかったために人々は付き従っていたが、それらも歴史を重ねるごとに術とクヴェルが伝播し術が広まり、今では都市国家がそれぞれで自治を始めている。やがてはナ国という中心国は崩壊か解体されそれぞれの国が独自化するのは自明の理というところか。


フォーゲラング [ナ国]

人口:約2,500人
現統治者:ナ国王スイ
特記事項:ツール発祥の地

フォーゲラングの概要
 ナ国からは砂漠や荒野を隔てた遥か西にある街。タウゼント湖という砂漠の只中に佇む広大な湖のほとりに寄り添うようにして家々が連なる砂漠街がフォーゲラングである。ナ国領の街というわけで形式的な統治者そのものはナ国王のスイだが実際は距離も離れているために関与できる関係性はなく、ほぼすべてが住民たちの自治によりまかなわれている。ナ国からの戒厳類も届きづらく、フォーゲラングは独自の社会と文化を築いていると言ってもいいだろう。
 この街は辺境の小都市でしかないが、世界中で名を知らぬ者はいないほど有名な街である。それはひとえにフォーゲラングで作られる様々な種類のツールのおかげだろう。ラウプホルツの木材やフィニー島の火にまつわるツール材料など、他国との貿易に積極的なナ国には世界各地からツールの材料となる良質な素材も多く集まってくる。こうしたものはほとんどすべてフォーゲラングに搬送されツールとして加工されふたたび世界に散らばっていくのだ。
 ツールの制作はフォーゲラングでしかできず、これらは門外不出の技術である。フォーゲラング以外では夜の街(シュヴァルツメドヘン)でもツールは制作されているがそちらは樹海などに阻まれ地理的に行き来がしづらい場所であり、ナ国のような貿易や商売を後押しする大きな国家も存在しないため一部の地域にしか出回っていない。
 フォーゲラングのツールはまさにサンダイル全域を支える大産業と言えるだろう。

 他にはタウゼント湖を利用した酒類がフォーゲラングでは有名である。もともと栽培されていたトウモロコシを原料としたバーボン、荒野にあるサボテンを原料としたテキーラなどが名産となっている。ただし周辺地域は荒廃した地形というのも理由としてあるがモンスターの多さが要因で収穫が滞ることは多いといえる。
 タウゼント湖は湖底で海と繋がっているという推測があり、思いのほか魚介類も豊富に漁獲されるので食生活は砂漠の只中とはいえ豊かで活気づいている。

  ツールの産業はフォーゲラングだけでなくナ国全体に多大なる影響を及ぼしているのは実際だろう。ただ、いまでこそ全世界規模でツール市場を独占しているが今後の世界各地のツール技術の進歩によってはフォーゲラングだけの独占販売というわけにはいかない。フォーゲラングだけの新たなる産業や名産品は求められるところだろう。
 バーボンなどの酒類は徐々にではあるがその味が広まっており、酒造に関して今後施設の改増築や原材料の安定確保ができるようになればフォーゲラングならではの酒が広まることは間違いないだろう。バーボンでの銘では「タウゼント・エイジ」「イエロー・ローズ・オブ・フォーゲラング」などが代表格だ。テキーラ同様これらの酒は夜間は昼とは裏腹に冷え込む環境のフォーゲラングでは暖房目的のアルコールとして生活必需品と言えないこともない。
 酒類以外ではトウモロコシが毎年まとまって収穫されるのが強みと言える。これらは酒の原料に使われるもの以外はナ国に搬入されているが、ナ国は主食すら他国の貿易に頼らなければならないほど食糧事情が逼迫している。フォーゲラングからの穀物がナ国にとって大きな益になるのは言うまでもないだろう。


砂漠のメガリス伝説

 フォーゲラングの周辺はカイワラン砂漠に囲まれているが、南側は特にまだ本格的な調査も入っておらず人跡未踏の地が広がっている。そうした背景もあるというわけか、この大砂漠のどこかにメガリスが存在するというまことしやかな噂が人々の間では持ち上がっているのだ。
 元来、南大陸はクヴェルやメガリスが出土したという歴史がない。ヴァイスラントからもたらされたアニマや術の伝来が遅れたのも南大陸本土でこうしたクヴェル類が発見されなかったせいであり、ディガーたちも南大陸での探索はそこまで本格的には行っていないのが現在である。明確な収益が見込めない状況ではこの過酷な環境を踏破するにはリスクが高すぎるのである。

 それでも、一部のディガーたちは夢を追い掛けて大砂漠に挑戦している。ヴァイスラントも雪と氷に対策が必要だったが、砂漠でもまた相応の準備が必要である。さらにヴァイスラントと違ってこちらはモンスターの出没も多く、探索にはより大きな危険性が伴うのだ。しかし、そうしたなかでメガリスやクヴェルを見つけることができれば相応の見返り、タイクーンというディガーにとっては最大級の称号すらも夢ではない。
 多くのディガーや冒険者たちが砂漠に挑戦したがいまだメガリスなどの発見には至っておらず、帰らぬ人が後を絶たない。

ツール技術の発祥地

 ナ国が成立する以前よりフォーゲラングは鉄製品類の加工や精製技術が発展していた。もともとフォーゲラングだけでなく南大陸はクヴェルが出土しないという大陸的な特徴も手伝って鉄製品が根強く残っている風潮は持っていたがフォーゲラングもこれらと同様の一面を持っていたということである。
 鉄製品の加工には指先での技術力が時に物を言う場面があるが、こうした職人技ともいうべき技術力が元来備わっているところにツールというクヴェルと同等の効果を発揮する道具類が南大陸全土に伝来した結果、フォーゲラングならではのツールというものを研究し作り出す技術が少しずつ発明され発展していく。

 ナ国のなかでもフォーゲラングはとりわけ孤立したような位置に存在しているため、南大陸にようやく伝来したクヴェル類もフォーゲラングにまで届くことは当時、滅多になかった。さらに南大陸ではクヴェル自体が産出しないとあれば人々が術を使おうとしても環境が構築できないということになる。
 幸運なことにツール制作には必須ともいえる感応石の坑道も付近で発見されるなどし、快適な生活に憧れを抱いた人々とそれらに応える技術力とが結びついた結果、ツールは発明された当初から瞬く間にフォーゲラングの名産品として名をはせていくのである。

 ちなみに感応石については東大陸ではスヴェルドルフ鉱山が有名ではあるが本来はフォーゲラングの感応石採掘のほうが先んじている。もともと感応石自体は装飾品用としてしか人々は使っていなかったが、これらがアニマと非常に相性の良い性質があると判明してからは東大陸にも感応石の利用とツールとの融合が爆発的に広まっていったのである。


ヤーデ [ナ国]

人口:約9,000人
現統治者:ヤーデ伯トマス
特記事項:ヤーデ伯領首都

ヤーデの概要
 イビスカス湾に面したヤーデはナ国連邦に属する国家のひとつ。ヤーデという場所はナ国成立前からの土豪であり、ナ国が結成されたのちに当時の皇帝に臣従の意を見せてナ国連邦に所属する形となる。ナ国の他の国もそうだがここも自治を任されており、特にヤーデは独自の港湾施設を抱えているために交易面でも自主的に世界各地と取引ができる。それだけでなく、ヤーデは立地的にグリューゲル方面やワイド方面へ伸びる街道の中間地点に位置している。各地を旅する者たちの陸路においても要所となっているのだ。
 この港湾施設は貿易利用としてが強いがもうひとつ、強力な海軍こそがヤーデの特徴にもなっている。ナ国はもともとが強い海軍を抱えているがこのヤーデもそれらに負けず劣らずの軍隊であり、特に「海の近衛兵団」と呼ばれる部隊はナ国でも指折りの軍事力を誇る。この強力な艦隊が貿易の商船たちを護衛しながら運航しているため、ヤーデと取引をする各国の船は安心して商売に専念できるという仕組みだ。

 歴代のヤーデ伯は律儀で礼儀正しく、温厚で控えめな者が多かった。ナ国よりも歴史が古い国であるにもかかわらず主従を結んだナ国とその王には忠誠を誓っており自国の堅実な自治をしながらもナ国との力関係を保ち、堅実な政治を育んできたといえる。現在のヤーデ伯はトマス卿であり、聡明で生真面目な性格が評判だが一方では策士の顔も持つ人物だ。

 ファウエンハイムはギュスターヴ母子がストーリー中で住処としていた場所だが、ここもヤーデの領内となる。静かでのんびり穏やかな村であるファウエンハイムは砂漠や荒野とは離れており自然が豊かだが、代わりにモンスターは周辺地域に多数生息している。そのためかヤーデからの兵士が駐屯することも多く、ヤーデ伯が直々に目をかけている村でもある。

ヤーデの気候
 ナ国の他の国は砂漠の乾燥地帯だがこのヤーデは海に近いためか夏でも過ごしやすく、南西の風により穏やかで湿度の少ない快適な気候であるといえる。ただしこの風は時に強風になることが多く、熱帯低気圧もあいまって暴風が吹き荒れることもたびたびある。そのため、ヤーデの特に風が強い地域は防風林で家を囲む住人も多い。

  ヤーデ名物のワインは作り方次第でブランドが変わるというのはあまり知られていない事実である。
 もともとは人間が原料となるブドウを足で踏んでその果実液を利用しワインとしていたが、術やツールが伝来するとそれらがワイン作りに利用されるようになる。なかでも石のハンマーはブドウを潰すのに画期的に使われており、このツールを使う時の術の種類により味わいが変わるのでブランドも変わるというわけだ。それには術の力も大いに関わってくるため、収穫の時期になると術の使い手探しに各農家は奔走することになる。
 一方ではヤーデではあんずも有名どころである。こちらは輸出の際は干したものやジャムとして加工されたものしか出されず、生で食べるにはヤーデに行くしか方法はないので旅人たちの間では珍重されている。

 ヤーデ伯のエンブレムはナ国に臣従した際に用いられたもので、他の国や領のエンブレムとはかなり異なった構図となっている。
 中央に鎮座するのは翼を広げた白馬であり、これは天駆ける馬ペガサスという伝説上の生き物だ。白を基調とした品のあるこのペガサスと枠が目を引くが、さらに特徴的なのは下部に配置された七本の鋭い矢じり。これらはヤーデ伯の先祖が初めて見た術とその時の衝撃を暗喩しており、ペガサスは天を、矢は衝撃ということで「天から降ってきた激しい光(衝撃)」という全体的な意味となる。


豊かな農産物が名物

 ヤーデという国は代々、穏やかで善良な領主と領民に恵まれて来た。この理由はひとえにヤーデが農産物、特に果実類の収穫において恵まれているからである。
 まず目を引くのは街中に等間隔に植えられているあんずやブドウを中心とした果実樹である。これは計画的に栽培されて定期的に植木職人により管理されており、大量の果実が収穫される。これらをヤーデでは国ぐるみで大切に育てているために自然と人々は協力し合って助け合うような精神が育まれていった。こうした協力関係による穏やかな雰囲気は目に見えた収穫としてヤーデを潤しており、平穏な国として人々の評価も高い。

 栽培されたブドウは種別により収穫されて品質でさらに細かく分類されると、そのほとんどはワインとして加工されていく。残ったものは食用のブドウとして生であるいは干して食卓に並び、無駄なく収穫のすべてを糧としている。
 ワイン作りは大規模に行われており、特に主要とされる農家の幾つかが協力し合ってワイン作りに精を出す。昔は人力によるブドウの果実液絞りが行われていたが現在ではもっぱらツールと術を使用しての生産体制が組まれている。こうした過程で作られるワインのなかでもひと際有名で品格の高いブランドがヤーデ伯家で作られている「ヤーデ・ロイヤル」である。ワイン作りに関しては領主みずからも積極的に参加しており、ヤーデ全体でブドウの良い香りが漂うと言われる。
 ブドウのほかにはあんずの栽培も盛んであり、こちらは花を咲かせて人々の目を楽しませたあとに収穫されると干しあんずにされたりジャムにされたりなど様々に加工されて国外へも輸出される。ワインと比べるとやや地味な印象だがヤーデのあんずには確かな味と品質があり、ワインが有名になるのにつれてあんずも同様に生産量が増えている。このあんずに関しても果実部分だけではなく種や皮も食用や薬用として加工され、ヤーデ領内で余すところなく活用されている。

 他には独自の港湾施設からの漁業も行われているが、こちらはそこまで大規模ではなく漁獲量もそこまで多くはない。それでも漁場には恵まれているのでヤーデ領内だけを潤わせるにはじゅうぶんな魚介類が水揚げされ、さして問題はないと言えるだろう。