ディルレ事件

　2002年5月。
　2ちゃんねるのペット大嫌い板（現：生き物苦手板）にてディルレヴァンガーというコテハンの人物により「おい！おまえら」というタイトルのスレッドが立てられた。間もなくディルレヴァンガーは自身の住むと思われるマンションの一室にて捕獲してきた野良ネコを風呂場に監禁、ハサミや針金を利用して耳や尻尾を切るなどする一連の虐待行為や光景を写真に撮るなどしてスレ内で実況しはじめる。スレッドでは虐待の方法を募るという方法がとられ、言われるままにディルレヴァンガーは猫を虐待していた。

　さらにディルレヴァンガーはニュース速報板にも同様のスレッドを作成、自分の成果を発表するかのように2ちゃんねる全体に知らしめようとした。


　当時のペット大嫌い板という場所はペット嫌いが集まるという性質上、動物虐待についての話題も日常茶飯事であるほど2ちゃんねるの暗部とも呼べるところであったが、ここまではっきりとした虐待行為や各写真などをまじえた実況をしたのはディルレヴァンガーがはじめてであった。最終的に監禁された野良ネコは死んでいるとしか思えない状態になった末に川に投げ捨てられてしまい、生き物を苦手とする住人が多いペット大嫌い板でもディルレヴァンガーの行為に対して非難が殺到することになる。

　その後、2ちゃんねるのユーザーが複数で犯人特定を進めることになり、ログ解析や写真の分析を経て数日のうちにディルレヴァンガーが福岡在住の無職の27歳男性、松原 潤という人物であることが判明。過去の書き込みからハムスターを虐殺するような文章を書き綴っていたことなどから恒常的に生き物や動物に対する虐待性癖があったと考えられる。動物愛護を訴える2ちゃんねるユーザーを中心とした署名活動も行われ、犯人への刑事訴訟が求められた。
　警察に取り調べを受けた松原氏は「酔っていてカッとなってやった」「猫は死んでおらず、逃がしている」などと答えていたが、残されている画像や松原氏が2ちゃんねる上で過去に綴った内容から再犯の可能性があるほどの危険人物であることを断定。山のような嘆願書や署名に加え証拠隠滅の可能性も考慮して逮捕されることになった。


　被害者が人間ではなく猫という動物であるにもかかわらず2ちゃんねるユーザーなどインターネット利用者複数による犯人特定と調査、そこからの通報と署名活動を理由とした逮捕は当時の日本では異例といえる事件であり、以後同様の動物虐待事件においても引き合いに出されることになる。抵抗のできない動物虐待という劣悪な事件の犯人逮捕に対する影響は大きなものになった。
　事件と犯人逮捕後、死亡した猫には「こげんた」という名前がつけられることになり死してなお可愛がられた。また、「Dear,こげんた―この子猫を知っていますか?」（mimi著）というタイトルの書籍が出版されるなど、動物という存在に対する愛情と敬愛を再認識する事件としていまもなお語り継がれることになった。

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ママをさがして7こくらいよるをすごした。。

ママはぼくがきらいになったのかな?

ママはどこへいっちゃったんだろう。

すてられたの?

おなかがすいてぺこぺこになった。

しかたがないから ゴミすてばにいたんだ、

そしたら おにいちゃんがきて ぼくをいえにつれていった

名は体を表す

　ディルレヴァンガーというコテハンの元ネタはナチス・ドイツの武装親衛隊将官の「オスカール・パウル・ディルレヴァンガー」とされている。
　1895年9月に生まれたオスカール・ディルレヴァンガーはさまざまな勲功を得て最終的には第36SS武装擲弾兵師団の師団長を務めるに至るがその性格は非道きわまりなく、生きたまま民間人を焼殺したりユダヤ人女性を全裸にして鞭を打って殺すなど残虐な私刑を好んだ。彼に殺されたユダヤ人は12万人にものぼるとされており、同じナチス・ドイツ軍からも悪魔とおそれられて批判されることも多かったという。


　松原氏は野良ネコの虐待実況の際、「世界と斗う黒ムツ諸兄に捧ぐ オスカル・ディル」というメモを一緒に写していた。
　『黒ムツ』とは「黒いムツゴロウ」という言葉を略したネットスラングのひとつであり、動物好きおじいちゃんとして有名な畑正憲の愛称、ムツゴロウに黒いという言葉をつけて動物嫌い人間全員（この場合はペット大嫌い板住民たち）を意味している。オスカル・ディルとはいうまでもなくナチス・ドイツのオスカール・パウル・ディルレヴァンガーの名前であり、ニックネームのつもりで明記したと思われる。
　一方で『世界と斗（たたか）う』というのは、動物を虐待することが批判される世の中に対抗しようという意味なのかはいまとなっては定かではない。