急造捕手

Last-modified: 2024-08-06 (火) 23:15:20

捕手として選手登録されていない選手が、捕手として試合に出場すること。


概要

捕手は他のポジションと比べて専門性が高く、本職以外が務めるのは極めて困難である*1。そのためプロ野球では2~4人の捕手を出場選手登録し、余程のことがない限り控えを残しておくのがセオリーである。
しかしそれでも登録捕手全員が途中交代することで頭数が足りなくなるケースが稀に発生し、この際にマスクを被る他ポジションの選手を「急造捕手」と呼ぶ。


「急造捕手」発生に至る典型的なパターン

  • 積極的な代打・代走攻勢
    捕手は守備力が重視されることから、他のポジションの野手より打力・走力が劣る選手で占められる場合が多い。このため一打同点・逆転のチャンス、あるいは大量ビハインドから追い上げを見せ接戦が見えてきた場面では(控え捕手の有無によらず)思い切って捕手に代打/代走を送る光景が見られる。
  • 途中出場していた控え捕手がプレー続行不能になった
    こちらは文字通り『不測の事態』によるもの。主な原因としては負傷交代、審判への侮辱・暴力行為による退場処分など。
    近年はコリジョンルールの制定(に伴う怪我リスクの減少)やリクエスト制度によるVTR判定の導入(に伴う審判への抗議減少)もあり、見かける頻度は少なくなっている。

いずれの場合も大概は捕手経験*2のある選手が起用される。


事例

1977年4月30日 阪神対大洋

1977年4月30日 阪神対大洋
阪神は7回裏、正捕手の田淵幸一及び控えの片岡新之助が相次いでファウルチップにより負傷。片岡は8回も守備に就くが負傷の影響でまともに守れる状態ではなく、1点差に迫られなお無死二・三塁のピンチに陥る。
3番手の大島忠一も代打で出場済みだったことから、外野手の池辺巌(プロ・アマ通じて捕手経験無し)がマスクを被り、8, 9回を無失点に抑え阪神が5-4で逃げ切った。
捕手経験の一切無かった池辺が選ばれた理由は「普段から中堅を守っており、(捕手以外の阪神ナインの中では)投球がよく見えているだろうから」というものであった。
試合結果

1991年9月26日 近鉄対ダイエー

1991年9月26日 近鉄対ダイエー
近鉄は序盤から代打攻勢で試合を運び、3人の捕手全員*3を使い切る。5-6の1点ビハインドで迎えた9回表の守備にて三塁手の金村義明が捕手を務め、1失点と急造捕手としては上出来に抑えたものの6-7で敗戦。結果的にこの1点が勝敗を決定付け、西武と優勝争いを繰り広げていた近鉄にとって痛い敗戦となった。
この試合を除いて、金村に捕手経験は無かった
試合結果

1995年5月7日 ロッテ対オリックス

1995年5月7日 ロッテ対オリックス
ロッテは当時チーム内で風疹が流行った影響で控え捕手の福澤洋一がベンチを外れていた。スタメン出場の山中潔が代打で退き、後を継いだ正捕手の定詰雅彦も退場で捕手不在となる。やむなく内外野を一通り守れる五十嵐章人(本試合は二塁手でスタメン出場)が捕手を務めた。試合は6-11で敗戦。
五十嵐の捕手経験は本人曰く「中学生の頃に少し練習しただけ」。捕手出場はキャリアを通して本試合のみであったが、本年度をもって投手以外の全ポジションを経験。これが遠因となって5年後に敗戦処理ながら投手として出場し、NPB史上2人目の全ポジション出場を達成。 加えて彼は全打順で本塁打という記録も保持しており、両記録を達成した唯一の選手である。
試合結果

2006年9月10日 広島対中日

2006年9月10日 広島対中日
広島は4-10と大量ビハインドの7回表、スタメン捕手の倉義和に代えて外野手の井生崇光にマスクを被らせる。イレギュラーな交代要因もなく、控え捕手(石原慶幸)も残っていた状況で非本職の選手が起用された珍しいケース。試合は4-12で敗戦。
マーティー・レオ・ブラウン監督による捕手陣の不甲斐なさに対する叱責を込めた起用といわれる。
試合結果

2009年9月4日 巨人対ヤクルト

2009年9月4日 巨人対ヤクルト
巨人はスタメン捕手の鶴岡一成に代わって出場した加藤健が延長11回裏に頭部死球を受け負傷退場*4。正捕手の阿部慎之助は一塁手としてスタメン出場していたが、この時代走を送られて試合を既に退いていたため、捕手を使い切ってしまう。12回にマスクを被ったのは途中出場で二塁手を務めていた木村拓也
豊田清、藤田宗一、野間口貴彦というタイプの違う3投手に対して自分でサインを出してリードし*5、1イニングを0点に抑えた。木村が守備を終えてベンチに戻る際には球場全体から大きな拍手と歓声が上がり、原監督もベンチから出て木村を出迎えると、その仕事ぶりを称えた。試合は3-3の引き分け。

木村は捕手としてプロ入り。捕手→外野→内外野とコンバート(ユーティリティ化)を重ねる中で、1999年に4試合の捕手出場経験あり。2004年のアテネオリンピックにて選手兼任でブルペンキャッチャーを務めた経験こそあれど、実戦は10年ぶりであった。

試合結果

2012年5月10日 楽天対西武
楽天の6点リードを西武がひっくり返す乱打戦。8回裏に楽天が再度逆転し7-8。8点目は本塁クロスプレーとなり、セーフ判定に抗議した西武の星孝典が球審を小突いたため退場処分を受ける。
先発の炭谷銀仁朗は代打を送られ交代済み、残る捕手登録の上本達之は指名打者で先発出場しこちらも代打を送られていたため捕手不在に。外野手の星秀和が2アウトから急遽捕手を務め後続を断つ。本試合を報じた日刊スポーツの記事の見出し『捕手星退場で野手星が捕手』が「早口言葉みたいだ」とネタにされた。

星秀和は入団当初は捕手。1年目はファームで捕手として出場経験がある*6
試合結果

2016年4月17日 中日対阪神

2016年4月17日 中日対阪神
阪神は1点ビハインドの9回表、二死一・三塁のチャンスで最後の捕手の岡崎太一に代打の福留孝介を送り同点に追い付く。当然9回裏を守る捕手はおらず、3年前まで捕手出場経験のあった今成亮太にマスクを託す。9回は無失点に抑えたものの、10回にビシエドにサヨナラ弾を浴び万事休す。2-4で敗れた。
試合結果

2019年4月7日 オリックス対楽天

2019年4月7日 オリックス対楽天
楽天は3点を追う9回表、最後の捕手の足立祐一に代打を送ったことを起点として猛攻を見せ、土壇場で同点に追い付いた。捕手不在で臨んだ裏の守備にて女房役に抜擢されたのは一塁手の銀次松井裕樹、フランク・ハーマン、森原康平とバッテリーを組む。二死一塁の場面で二盗を阻止し当シーズンの楽天で初めて盗塁を刺した捕手となる等の見せ場も作り、9~12回の4イニングという急造捕手として異例の長さにわたり守備に就き0点に抑える。試合は5-5の引き分け。

銀次は捕手として入団。一軍の試合でマスクを被ったのは2009年のオープン戦以来で、二軍で36試合マスクを被った後内野手に転向していた。
試合結果

2023年7月12日 ロッテ対ヤクルト(二軍戦)

2023年7月12日 ロッテ対ヤクルト(二軍戦)
ロッテはこの日のスタメンで指名打者に松川虎生、一塁手に植田将太、中堅手に谷川唯人と3人の捕手登録の選手を他ポジションで起用した一方でマスクを被ったのは内野手登録の大下誠一郎
アマチュア時代を通じても捕手経験のない大下だったが、2失点こそしたものの守備のミスなく初回を終えた後、2回からは植田とポジションを入れ替わり共に本職へと戻った。
なお、大下はその後本格的に捕手転向を進めていく方針であることが報じられている。


関連項目



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*1 そのため捕手に怪我人が続出しているチームでは一軍の穴埋めによって必然的に二軍の捕手が頭数不足になり、最悪の場合二軍戦を中止せざるを得ない事態にも繋がるため、近年ではチームスタッフであるブルペンキャッチャーを育成選手として現役復帰させ二軍戦に出場させる事例も珍しくない。
*2 主に捕手としての守備力は低いが打力があり、ポジションの特性上絶対的なレギュラーが君臨していて出場機会が限られる選手は捕手としてプロ入りした後でも他のポジションにコンバートされることは多い。代表例は小笠原道大山崎武司近藤健介など。また、国際大会でもロースター枠の関係から捕手の枠を多く裂けないため、不測の事態に備えるためにプロ入り後の捕手経験の有無で選出される選手もいる。
*3 山下和彦・光山英和・古久保健二
*4 この日も含めて加藤は二回も頭部死球を喰らっており、それによって2012年の日本シリーズで起こる事件の原因となった。
*5 イニングの頭から登板した豊田とは予めサインを確認していたが、投手交代までは想定していなかったため藤田と野間口に関してはほぼ即席のサインを出していたという。
*6 前橋工高時代は強打の捕手として鳴らし、『伊東勤二世』との呼び名もあった。