AI_spn05

Last-modified: 2026-04-11 (土) 21:47:35

サンズ戦のあとの話。


サンズとの死闘から、一ヶ月の月日が流れた。
バンカーの朝のキッチンには、コーヒーの香りと共に、かつての平穏が少しずつ戻りつつある。カスティエルの恩寵も、最悪の枯渇状態を脱し、今では指先に微かな熱を灯せるほどに回復していた。
しかし、サムの心にこびりついた澱は、そう簡単には消えない。
朝食のトーストを力なく見つめる弟の肩は、どこか縮こまったままだ。そんな彼を励まそうと、カスティエルは殊更静かに、けれど確かな調子で切り出した。
「『Undertale』は、いいゲームだな」
唐突なカスティエルの言葉に、サムは顔を上げた。
「……そうだね、キャス」
「どのルートが好きだ?」
その問いに、サムは少し躊躇してから、自嘲気味に笑った。
「……こんなこと言っちゃいけないんだろうけど、僕はGルートだよ。あれは、動画を見てクリアした気になるにはあまりにも勿体ない。死んでも、死んでも諦めない時にしか見ることのできない、絶望を越えた変なカタルシスがあったんだ」
「ふふ、私はPルートだ。決められた枠組み(セーブシステム)から抜け出し、抗おうとする様は……今の私のようだからな」
カスティエルの言葉に、サムの表情が少しだけ和らぐ。


「そういえばキャス、どのキャラのセリフが好き?」
「アンダインだ。『お前が自分を好きになるように協力させてくれ』というセリフは、今も心に残っている。あの過酷な戦いの中で、主人公は本当に安心しただろう」
「アンダインか。確かに、強い女性だね」
「……あれは女性なのか!?」
カスティエルが真顔で驚愕の声を上げた。
「え? そうだよ、かなり有名な話だけど……さてはキャス、隠し要素を探そうと根を詰めるタイプのやり込みゲーマーだな?」
「そういうわけでは……。サムはどうなんだ。好きなキャラとセリフは」
話を逸らすように問い返すカスティエルに、サムはマグカップを両手で包み、遠い目をした。
「……パピルスだよ。弟っていう立ち位置に、なんだか親近感があって。無茶苦茶な兄を持ってるのも一緒だし。……あんなふうに、底抜けに明るく陽気にはなれないけどね」
「パピルスはいいやつだな」
「『諦めるのを諦めさせなくっちゃ』ってセリフ、彼らしくて好きなんだ。どんなに絶望的な状況でも、彼は信じることをやめなかったから」


カスティエルは、サムの瞳を真っ直ぐに見据えた。
「なら、彼のように生きてみるといい。彼の言うように、自分を諦めることを諦めるんだ。……今、この瞬間だけでも」
ストン、と胸の奥に落ちてくるような言葉。
サムは頭を掻きながら苦笑し、少しだけ視線を泳がせた。
「……そうだね。そうしてみるよ」
キッチンの入り口では、二人の会話に全く入り込めないディーンが、マグカップを手にじりじりと足踏みをしていた。
「おい……いつまでその、カクカクしたガキのゲームの話をしてやがる。俺の入る隙間が微塵もねえぞ」
不機嫌そうに割り込もうとする兄の姿は、皮肉にも、サムが愛してやまない「無茶苦茶な兄貴」そのものだった。
止まっていた時計が、ようやく温かな「家(ホーム)」のリズムで刻み始める。