AI_spn14

Last-modified: 2026-04-13 (月) 21:40:44

もっとこの二人のイチャコラが見たかった。妄想と拡大解釈とフィクションでできているページ。


珍しくバンカーの広々としたホールで、カスティエルが彫像のように立ち尽くし、考え込んでいた。
そこへ、手持ち無沙汰な様子で通りかかったクラウリーが、胡散臭そうにその横顔を覗き込む。
ウィンチェスター兄弟は今日、スーフォールズに住むジョディの元へ遊びに出かけている。アレックスやクレアたちとも顔を合わせるのだろう、帰宅は随分と遅くなるはずだった。

「何を眉間に皺を寄せてやがる、羽虫」
「……不思議だと思ってな」
「何がだ?」

問いかけたクラウリーは、これっぽっちも興味がなさそうに、手にしたブランデーのグラスを揺らしながら手近なソファに腰を下ろした。

「ディーンとサムだ。何故、彼らはこうも極端なのだ?」
「人に物を訊くなら、主語をはっきりさせろ」

フンと鼻を鳴らしたクラウリーは、苛立たしげに脚を組み替える。どうにもこの天使とは話のテンポが噛み合わない。だが、カスティエルは構わずに言葉を紡いだ。

「例えば、重要な情報を持つ悪魔を捕らえたとしよう。……仮に、お前だ、クラウリー」
「俺様だと? まあ、以前この図書室の奥に監禁されていたのは事実だが……反吐が出る思い出だ」

クラウリーは忌々しげに顔を歪めた。両手を悪魔封じの手錠で拘束され、なす術もなく転がされていた屈辱。

「その時、ディーンはおそらく『脅迫』と『拷問』を選ぶ。力で口を割らせようとするだろう」
「違いないな。あの暴力リスは、中身だけなら地獄の悪魔と大差ない」

ケッ、と吐き捨てるクラウリー。ディーンに殴り飛ばされ、聖水を塗りたくったナイフで切り裂かれた時の痛みが、古傷を疼かせる。

「それは着実で、効率的だ。だが、深い遺恨が残る。今、お前が感じているようにな。……対して、サムはおそらくまず『対話』と『説得』を試みる。時間はかかるし、失敗するリスクも高い。だが、上手くいけば誰も傷つかずに済む」
「あのヘラジカは平和ボケの臆病者だからな。ディーンよりは話が通じるが」
「何故これほど違うのだ? 同じ環境で、共に生きてきた二人が、ここまで両極端な性質を持っている。それなのに、決して離れることなく共にある。……単に『兄弟だから』という理由だけで片付くものなのか?」
「そんなことを俺様に聞くか! 性格が違う、ただそれだけだろう。なるほど、個の概念が薄い天使様には、理解しがたい怪奇現象だったか?」
「天界は一貫して統制された意思と性格があるからこそ、秩序を保っていられる。サムとディーンのような、正反対の属性が隣り合っているのが不思議でならないんだ」
「……別に、不思議なことじゃないだろう。現に今、俺様とお前がここでこうしているようなもんだ」


「……!」
ハッとして、カスティエルがクラウリーを見やった。

「俺様は悪魔のエリート、いや、トップだ。羽虫だろうがリスだろうが、必要なら躊躇なく『拷問』にかける。そこには一辺倒の慈悲もありゃしない。……お前なら、どうする?」
「私は……サムやディーン、たとえお前であっても……まずは『説得』を試みるだろう」

腑に落ちた思考を噛み締めるように、カスティエルは深く頷いた。

「そういうことだ。別々の考えを持つ不揃いな連中が集まって、誰かの欠点を誰かがフォローする。それが、あいつらの言う『家族』って代物なんだろ。俺様には縁のない話だがな」

鼻息荒く、キッチンへより上等な酒を探しに去っていくクラウリーの後ろ姿。
カスティエルはその背中を、まるで未知の真理を見出したかのように、いつまでも呆然と見送っていた。
キッチンに佇むクラウリーを見つけたカスティエルは、先ほどまでの自問自答が氷解したのか、どこか晴れやかな、それでいて「家族」という概念の再発見に打ち震えるような複雑な表情を浮かべていた。

「クラウリー。もし、我々の誰かを殺さねばならなくなったとしたら……あの二人なら、一体どのように振る舞うだろうか」
「……はあ? なぜ俺様がそんな物騒な仮定に付き合わにゃならん。せっかくの上等な酒が不味くなるだろうが」

毒づきながらも、クラウリーは手元のブランデーを揺らした。

「……まあ、そうだな。俺様がディーンなら、何の躊躇いもなく引き金を引く。……というのは、少々言い過ぎか?」
「いや、続けてくれ。非常に興味があるんだ」

カスティエルが身を乗り出す。クラウリーは肩をすくめた。なぜ堕ちた天使とこんな泥臭い人間心理の講義をせねばならんのか。だが、この奇妙な対話も、決して不快なものではなかった。

「状況によるがな。相手が俺様なら、あいつらは眉ひとつ動かさずに仕留めに来るだろう。だが……相手がお前や、あるいはサムだったら話は別だ。奴らは必ず足を止める。何か別の、救いようのないほど非効率な方法を探し始めるはずだ。サムの心理なら、お前の方が俺様よりは詳しいだろ」
「……サムなら何があっても殺さない、ということはないな。お前が相手なら、彼はやはり躊躇わない。だが、相手がディーンである時だけは、彼の時計は完全に止まる。殺すという選択肢は、彼の辞書から消滅するんだ」
「ハッ、とはいえ結局は誰かをぶっ殺すんだよ。あいつらも俺様たちも、似てないようでいて、血塗られた本質はそっくりだ」


少しばかり溜息をつくカスティエルに、振る舞う酒はないとばかりに、クラウリーはボトルを自分の方へ引き寄せた。

「……これは俺様の想像だがな。もし手を下すとして、最後の一撃はディーンにとって、ある種の『至福』だ。ようやくすべてのしがらみを断ち切れる。殺したくても何かが引き止める、あのわけのわからん感情を、ほんの一秒でも忘れられるんだからな」
「……忘れられるのか?」
「すぐに思い出すさ。そして、猛烈な孤独が襲ってくる。忘れるためなら何でもするだろうが、その苛虐の矛先は外へと向く。意味のない暴力に身を投じるか何かして、拳を無駄に腫らすことになるだろうな」

まるで遠くを見るように、あるいは自分自身の影を省みるように語るクラウリー。カスティエルは静かに目を伏せた。

「……サムなら、まず最初に自分を肯定するだろうな」
「自己正当化か。おめでたい話だ」
「そうすることでしか、彼は自分を守れない。これは必要な犠牲だった、あるいは自分以外の誰かを守るためだったのだと。……そう、自分に言い聞かせる」
「ふん。平和主義の面皮を被ったヘラジカらしいやり方だ」
「だが、その後に来る後悔は、おそらくディーンのそれを凌駕する。彼は外ではなく、自分の内側を徹底的に責め苛み、やがて自分自身を壊してしまうだろう。後に残るのは肉体の損傷ではない、癒えることのない心の痛みだ」
「手に取るようだな……。で、最後は兄貴が弟の故障に気づいて、泥沼の中で肩を貸すんだろ」

カチリ、とグラスが鳴る。静かな沈黙がキッチンを支配した。


「……カスティエル。一体、何があった」
忌々しそうに、クラウリーがカスティエルを射抜いた。この天使が壊れているのは今に始まったことではない。だが。

「今日のこの無駄な問答は尋常じゃない。話し相手がこの俺様だという点を含めてな」
「……天使ラジオで、少しな……」

天界からの追放と、拭いきれない孤独感。サムやディーンと過ごす時間はそれを忘れさせてくれたが、時折、猛烈な後悔が波のように襲いかかる。自分は間違っていたのか。あの時、違う道を選んでいれば。
情報を拾うために天使ラジオを完全に遮断できないことが、今の彼には毒となっていた。

「悪魔に『悪魔ラジオ』なんて代物がなくて本当に良かった。だがな……」

不意に、クラウリーが手にしたグラスで、ゴン、と呆けたカスティエルの頭を小突いた。何をされたのか分からず、きょとんとするカスティエル。器は頑丈なままだ。

「天使ラジオなんて、今すぐ切っちまえ。答えの出ないことでグダグダ悩むな。……と、ディーンなら言うだろうな」
「あ……ああ。そうだな。そうする」

叩かれた頭を撫でながら、カスティエルは弱々しく応えた。躾を言い渡された仔犬のようではあったが、迷いを振り切るその言葉は、確かな力を持って彼に届いていた。

「クラウリー、……感謝する」

おそらくサムも、こうしてディーンに諫められ、時には自らも兄を諫め、共に何かを育んできたのだろう。私にも、それができるだろうか。
虚空に吐き出されたその願いは、いつしか音のない祈りとなって、バンカーの静寂に溶けていった。