DSCが他のキャラをリスペクトしつつ回想する話。妄想と拡大解釈とフィクションでできているページ。
最終話のあとで集まってる感じ。
みんなそこにいた
いつも通りの薄暗くてだだっ広いバンカーにて。
ドラマを走り終えたディーン、サム、カスティエルは各々のイニシャルが刻まれたテーブルでビールを揺らす小ぢんまりした宴に興じていた。話の題材は自然と苦楽を共にした味方や刃を向け合った敵たちとの回想に注がれる。
ルシファーは最高の悪役
「それにしても、このドラマの男たちの圧は凄まじかったね」
サムは空になったビール瓶を見つめ、まだ消えぬ熱気を思い出すように呟いた。
「ほとんど男性陣で占められていたような気がする」
「ああ、なんていうか……どいつもこいつも、個性という名の業(ごう)が深すぎるんだよ」
ディーンは椅子の背もたれに深く寄りかかり、天井を見上げた。かつての敵や友、そして今は亡き親父の顔。そのすべてがこのバンカーに一堂に会した瞬間は、まさに嵐のようだった。
「男性だけではない。全員だ。もちろん我々を含め、トラウマを抱えていない者など一人もいなかったな」
カスティエルが静かに付け加える。
「お前ら二人は実際に中に入られたことがあるから言いにくいだろうが……俺はわりとルシファー、特にあのニックの器の時は気に入ってたぞ。もちろん、最悪のヴィランとしてな」
「ディーン、信じられない……あいつを褒めるのか? 散々酷い目に遭わされておいて。……とはいえ、一理あるとは思うけど」
サムは苦笑交じりに同意した。かつて自分の肉体を奪い、精神をズタズタにした「彼」への評価は、そう簡単には割り切れない。
「私が憑依されていた期間はサムと比較すれば僅かなものだが、それでも彼と意識を共有していた時間は……本当に、予測不可能だった。まるで荒れ狂う海の中に放り込まれたようだったよ」
カスティエルが記憶を辿るように青い瞳を細める。
「そうなんだよな。マジモンの魔王みたいに威圧感たっぷりかと思えば、不意に狂った子供みたいに無邪気になる。見ていて飽きないというか、次は何を仕掛けてくるか読めない不気味さがあった」
「ニックの器以外の時は、遊びも冗談もなくて、ただただ純粋に怖かったんだけどね」
サムが肩をすくめると、カスティエルがふと思い出したように口を開いた。
「私は……彼がわりと真面目に涙を浮かべた、あの瞬間だけは本物だと思っているんだ」
「……そんなところ、あったっけ?」
サムが不思議そうに聞き返すと、ディーンが膝を叩いた。
「ああ、あれだろ。アポカリプス・ワールドでガブリエルに貶された時だ。ジャックはお前なんか父親だと思ってないし、望んでもいない、とかなんとか言われて。てっきりキレてガブリエルをぶん殴るかと思ったら、あいつ、不意に泣きやがったんだよな」
「ああ……」サムの記憶も鮮明に蘇る。「あれは、けっこう……溢れ出した瞬間に、ガブリエルからすっと視線を逸らしたよね。あれは、見られたくない弱さだった」
「本気で、悲しかったんだと思う」
カスティエルが断言した。「他の言葉や行動は、そのほとんどが嘘八百と悪ノリのジョークばかりだっただろう。だが、あの涙だけは本物だった。彼は、自分が唯一手に入れたかった絆を否定されたことに、心底傷ついていた」
「そう考えると、どうしようもなく可哀想な奴だったんだよな、あいつも」
ディーンが独り言のように漏らす。
「たぶんだけど……ルシファーは、本当に、ただの普通のパパになりたかったんだと思う。そのために手段を選ばなかったし、選ぶ方法も知らなかったから、ああなっただけで」
サムの言葉に、地下室に僅かな沈黙が流れた。
「聖書にあるルシファーの悪行とやらも、その大半は神(チャック)によって捏造され、盛られたものだと言っていたしな。言うほど、根っからの悪人ではなかったのかもしれない」
「まあ、存在感とキャラの濃さだけなら、主演男性陣の中でも一際デカかったのは確かだな。強さも桁外れだったし」
「指パチンで、悪魔も天使もまとめて砂煙に変えちゃうからね……」
サムが溜息をつくと、カスティエルが最後を締めくくるように静かに語った。
「天使でもあり、悪魔でもあるということは、天の高さも知り、地の深さも知るということだ。孤独だが、唯一無二の堕天使……。彼は、自分の居場所を最後まで探し続けていただけなのかもしれんな」
クラウリーって悪役?
「個性と言えば、クラウリーも相当な奴だったよ」
サムがビール瓶の口を指でなぞりながら、懐かしそうに目を細めた。
「すごいというか……あいつを本当に『悪役』のカテゴリーに入れていいのか、俺はいまだに確信が持てねぇんだ」
ディーンは椅子の背もたれに体重を預け、天井の染みを見つめる。
「君がカインの刻印に支配されていた時期、彼は彼なりの下心があったとはいえ、驚くほど献身的に君の世話を焼いていたからな。ルシファーの件でもそうだ」
カスティエルが冷静に分析を加えると、サムがニヤリと笑って横槍を入れた。
「そういうキャスだって、一時期はクラウリーと相棒同士だったじゃないか。なんだかんだで最後まで逃げ出さずに一緒にいたってことは、結構気に入ってたんだろ?」
「それは……調査の効率を優先した結果だ」
カスティエルは視線を逸らしたが、否定しきれない何かがその沈黙には混じっていた。
「あいつは結局、土壇場の一番いいところで本性を剥き出しにするんだよな。良くも悪くもさ」
ディーンの言葉に、サムがふと真面目な顔で問いかける。
「やっぱり欲しかったのかな。……『愛』がさ」
「彼の人間時代の境遇を考えれば、合点がいくな。まだ幼い頃、実の母親であるロウィーナに豚数匹と引き換えに売られたという話だ」
カスティエルの言葉に、サムは溜息をついた。
「でも、そのロウィーナだって、文句を言いながら最後はあいつのことを息子として認めていたみたいだし、なんなら必死に蘇生させようとしてた。本当に、わけのわからない母息子だよ」
「全くだ。……ただ、認めざるを得ないのは、クラウリーが登場すると話のテンポがやたらと早くなるってことだ」
ディーンが少し感心したように頷く。
「要点からズバズバ話すっていうか、とにかくキビキビしてるだろ。あれが契約の悪魔としての習性なのか?」
「地獄の王になってからも、十字路の悪魔としての現場仕事は降りてなかったしね。あの駆け引きを、心底気に入ってたんだろうな」
「リバイアサンのディック・ローマンを相手に、堂々と契約書を突きつけた時は、流石だと思ってしまったよ」
カスティエルが感嘆を漏らすと、ディーンが「おい」と釘を刺した。
「俺のカインの刻印関連は、全面的にあいつのせいでもあるんだ。そこは絶対に許す気はねぇけどな」
「だがディーン、あいつの逃げ足の速さだけは見習いたいものだ。絶体絶命の魔術の時など、実に見事だった。ルシファーから逃げるために、咄嗟にネズミに乗り移ったこともあったな」
「あったな! あの地獄の王がネズミだぜ?」
ディーンが吹き出す中、サムが少し声を低くした。
「でも、本気を出した時のあいつは……やっぱり怖かったよ。僕は一度、正面からやられてる。あの赤い目の悪魔としての威圧感は、決して見掛け倒しじゃなかった」
「あいつ、結局は上級悪魔だったのか?」
「それは定かではないが、並み居る悪魔たちを蹴落とし、実力で王の座まで登り詰めた執念は本物だろう」
サムはふっと笑みをこぼした。
「ムースだのリスだの……あいつにしか許されないあの呼び名は、最初は鼻についたけど、今思えばちょっとした特別感があって、嫌いじゃなかったかもしれない」
「俺は御免だけどな! ……ただ、アポカリプス・ワールドで散ったあの最期だけは、いまだに疑問が残ってるんだ」
ディーンの言葉に、その場の空気が少しだけ重くなる。
「サムと共にルシファーを封印しようとしていた時だ。魔術の最後の材料が『命』だと悟った瞬間、彼は躊躇なく自害に等しい形で死を選んだ。ルシファーの目の前でな」
「そうなんだよ……」サムの声が微かに震える。「あの時、目の前には僕という『絶好の材料』があったんだ。あいつなら、僕を殺して魔術を完成させることなんて、造作もなかったはずなのに」
「それを言うなら、俺も同じだ。ルシファーを必死に足止めしてて、背後のクラウリーのことなんて見てる余裕もなかった。あいつが俺を刺して材料にしたって、おかしくなかったんだ」
二人の言葉を受け、カスティエルが静かに告げた。
「……君たちを殺すという選択肢は、既に彼の計画からは排除されていたのだろう」
「どうしてだろうな。……心変わりか?」
ディーンが自嘲気味に笑い、ビールを飲み干した。
「あいつのことだ。……俺たちのことを、不覚にも『家族』だと思ってたのかもな。あの、愛に飢えた寂しがり屋の悪魔め」