秘密の部屋/9~12章

Last-modified: 2023-05-12 (金) 19:33:51
 

9章

ウグドゥグ

■日本語版 9章 p.212
「そう、非常によく似た事件がウグドゥグで起こったことがありました。」

■UK版 p.108
‘I remember something very similar happening in Ouagadougou.’

■試訳
ワガドゥグー

■備考

  • ミセスノリスが石化した時のロックハートのセリフ。
  • 「ウグドゥグ」は間違いで「ワガドゥグー」となるのが正しい。
    これは西アフリカのブルキナファソという国の首都で、
    外務省のホームページにも中学生の地図帳にも「ワガドゥグー」の読みで出ている。
    調べればすぐわかることなのに適当なカタカナにしてしまった理由がわからない。


おうかがいしますがね

■日本語版 9章 p.217
「おうかがいしますがね」スネイプが冷たく言った。
「この学校では、我輩が魔法薬の先生のはずだが」

■UK版 p.110
"Excuse me," said Snape icily, "but I believe I am the Potions master at this school."

■試訳
「失礼だが」
「この学校では、私が魔法薬の教諭ではなかったかね?」

■備考

  • ロックハートのでしゃばりに対するスネイプの台詞。
  • 「お伺いしますが」なら「私が先生なのではありませんでしたかね」と、軽い疑問形のようになりそうなものだけど。前半と後半の口調が全然違うのも違和感。またスネイプが自分のことを先生と言うのも違和感がある。


モチのロンさ!

■日本語版 9章 p.237
「モチのロンさ!」ロンが言った。

■UK版 p.120
"Of course I am!" said Ron.

■試訳

  1. 「もちろん、僕は言ってるよ!」ロンが言った。
  2. 「もちろんそれの事だよ!」ロンが言った。
  3. 「もちろん、そのとおり!」ロンが言った。

■備考

  • ハーマイオニーの「あなた、マルフォイのことを言ってるの――」に対するロンの返事。
  • この"Of course I am!"は「もちろん、僕はロンさ!」の意味ではない。
    会話の流れを考慮して訳せば「もちろん、僕は(マルフォイのこと)言ってるよ!」という意味。
  • 原文ではロンは少しもふざけていないので、作者の意図に反した余計な悪ふざけ。


10章

ブラッジャーをかわす

■日本語版 10章 p.251-252(※本文は改行なし、括弧なし)
(グラウンドの反対側でフレッド・ウィーズリーが待ち構えていた。)
フレッドが力まかせにブラッジャーをかっ飛ばした。
それにぶつからないよう、ハリーは身をかわし、ブラッジャーは逸れていった。

■UK版 p.184(※本文は改行なし)
Harry ducked as Fred swung at the Bludger with all his might;
the Bludger was knocked off course.

■試訳
(グラウンドの反対側でフレッド・ウィーズリーが待ち構えていた。)
ハリーが頭を引っ込めると同時に、フレッドが力いっぱいブラッジャーを打った。
ブラッジャーの進路が変わった。

■備考

  • クィディッチの試合中、ドビーのブラッジャーがハリーを狙っているシーン。
  • このasは「~なので」ではなく、「~と同時に」の意味。
  • 日本語版の表現だと、ハリーよりも先にブラッジャーがフレッドのいる場所に到達していることになる。
  • 本来の動きはハリーとフレッドが同時で、日本語版と比べるとよりスリルと臨場感にあふれている。
    →ブラッジャーはハリーの頭を狙っていて、フレッドが打ったところには一瞬前までハリーの頭があったということで、息のあったプレイがよくわかる箇所。
    →アルゴリズム体操の「手を横に あら危ない 頭を下げればぶつかりません」のイメージ。


その程度の怪我

■日本語版 10章 p.265
「ドビーめは、ハリー・ポッターが家に送り返される程度に怪我をするようにしたかったのです!」
「その程度の怪我って言いたいわけ?」ハリーは怒っていた。
「僕がバラバラになって家に送り返されるようにしたかったのは、いったいなぜなのか、話せないの?」

■UK版 p.193(ハリーのセリフは改行なし)
"Dobby only wanted Harry Potter hurt enough to be sent home!"
"Oh, is that all? "said Harry angrily.
"I don't suppose you're going to tell me why you wanted me sent home in pieces?"

■試訳
「ドビーめは、ハリー・ポッターが家に送り返される程度に怪我をするようにしたかったのです!」
「へえ、それだけ?」ハリーは怒っていた。
「僕をバラバラにしてまで家に送り返そうとしたのは、なぜなの?」

■備考

  • ロックハートに骨を消され入院中のハリー。そこへドビーがやってきたシーン。
  • 「その程度の怪我って言いたいわけ?」が意味不明。
  • 「僕がバラバラになって家に送り返されるようにしたかったのは」がわかりにくい。


11章

ズームアウト

2巻における代表的な誤訳を参照。


空気で作り上げて

■日本語版 11章 p.303
結局マクゴナガル先生が空気で大きなうちわを作り上げて、

■UK版 p.152
In the end, Professor McGonagall conjured a large fan out of thin air,

■試訳
結局マクゴナガル先生が何も無いところから大きな送風機(扇)を魔法で出し、

■備考

  • このconjureは魔法で何かを呼び出すこと。
    つまりマクゴ先生は空中から魔法でうちわを取り出したので「空気で作り上げた」というのは明らかな誤訳。
    out of thin air (何も無いところから)の解釈ミスかとも思われたがconjureの訳ミス。
    何か他の単語(たとえばcomposeなど)と読みまちがったままむりやり作文したのでは?と考えられる。


12章

ダントツに一番

■日本語版 12章 p.306
ダンブルドアの校長室が、ダントツに一番おもしろい。

■UK版 p.154
Dumbledore's was by far the most interesting.

■試訳

  1. ダンブルドアの校長室が、断然一番面白い。
  2. 面白さでは校長室が群を抜いている。


■備考

  • ダントツってのは「断然トップ」を略した俗語だよね。
    「ダントツに一番」というのは「頭痛が痛い」みたいな重複表現かな。
  • by farが「断然」、the mostが「一番」だから、
    直訳の「~断然一番面白い。」でよかったのにね。
    (口語なら「ダントツに面白い」もあり)
    他のプロなら「面白さでは校長室が群を抜いている」みたいに工夫するのかな。
  • 訳者は明らかに「ダントツ」の意味を考えずに使って
    「一番」の意味を重複させてしまってるね。


胃袋がズシンと落ち込んだ

■日本語版 12章 p.307
ハリーの胃袋がズシンと落ち込んだ。

■UK版 p.155
Harry’s stomach plummeted.

■試訳
ハリーは急に気分が落ち込んだ。

■備考

  • 直訳過ぎて不自然。
  • 「stomach」には「胃袋」だけでなく「気持ち」という意味もある。(参考)


バーンとどえらい音をたてて

■日本語版 12章 p.309
(略)バーンとどえらい音をたてて扉が勢いよく開き、ハグリッドが飛び込んできた。

■UK版 p.156
(略)the door of the office flew open with an almighty bang and Hagrid burst in,

■備考

  • 「バーンとどえらい音をたてて」というのが口語的過ぎる。
    「轟音とともに」「とんでもない音をたてて」など地の文にふさわしい書き方はいくつもあるはず。


したーに、下に

■日本語版 12章 p.312
二人でわざわざハリーの前に立って、廊下を行進し、
「したーに、下に、まっこと邪悪な魔法使い、スリザリンの継承者様のお通りだ……」
と先触れした。

■UK版 p.157
They went out of their way to march ahead of Harry down the corridors, shouting,
"Make way for the heir of Slytherin, seriously evil wizard coming through...."

■試訳
「スリザリンの後継者、邪悪な魔法使いが通ります。道を開けてください。」
と先払いした。

■備考

  • ハリーがスリザリンの継承者ではないかと噂になり、廊下で指をさされたりするようになる。
    双子がその状況をおもしろがり、悪のりする場面。
  • スリザリンの継承者のために道を開けろ、と言ってるだけだよね?
    「したーに、下に」ってどうしても大名行列のシーンが浮かんでしまう。
  • 大名行列に見立てるのもおかしいけれど、「先触れ」という言葉が間違ってるね。
    「下にー、下に」は「先払い」だな。
  • 原書の双子はどこにでもいるような冗談好きのティーンエイジャーのしゃべり方。
  • あのシーン、双子が面白がって時代がかった台詞回ししてるのかと思ってたけど、翻訳者の創作なのか…
  • 大名行列ではないけど、貴族のために平民に「道を開けろ!」と叫ぶ護衛の真似事という印象だった(帰国子女のため幼少時は日本で言う大名行列を知らかった)

無理やり笑いをひねり出した

■日本語版 12章 p.331
もう遅過ぎたが、二人は無理やり笑いをひねり出した。

■UK版 p.166
Far too late, Harry and Ron forced themselves to laugh,

■試訳
既に手遅れだったが、二人は無理に作り笑いした。

■備考

  • 「~無理に作り笑いした」とした方が自然な気が。
  • 最初の部分も「既に手遅れだったが、~」の方がいいね。




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  • モチのロンさ! って元々は真面目な場面のセリフなんだ -- 2021-11-07 (日) 09:58:45
  • 時代劇っぽい表現はやめてほしいんよ…… -- 2023-03-27 (月) 12:16:42
  • モチのロンさ!は結構好き -- 2023-05-12 (金) 19:33:51