カシュオーン大森林

自分はまだミラージュ砂漠にいる。建前上。
実際の自分は、砂漠の最南にあった施設で、
ロウロと話した後、大金を借りて、それを
使い、一時の自由を得ている。
地獄の沙汰、いやミラージュ砂漠も金次第。
どんな世界でも、時代でも、社会が形成され
ていれば、最後に力を持つのは金……とは、
言いたくないが、こうもすんなり、外に出ら
れると……まぁ、考えるのはやめよう。そう
して今、自分はカシュオーン大森林にいる…

このまるで生きているような、いや実際に、
生きているとしか思えない危険な森を進む。
砂漠をでた後、すぐにでもアイオラやラルド
を探そうと思ったが、協会すら行方を掴んで
いないふたりだ、簡単に見つかるわけはない。
なのでまずは、考えを整理するために、自分
の曖昧な過去と向き合うため、人の思い出を
プレートにする人物がいるという、少々胡散
臭い噂を頼りに、その人物が住むという場所
を目指し、森の更に奥に入っていった。

鬱蒼とした木々から漏れた光が、足元を転々
と照らす。ひんやりと薄暗い大森林に、むっ
と立ち込める草いきれが、真昼の到来を教え
てくれる。
気温はそんなに高くないものの、一気に上昇
する湿度と噴き出る汗で不快感が増す。緊張
感や集中力が途切れる中で、迫りくる何かの
鳴き声と足音。
メモリアの力を頼りに先を進むしかない。

ようやくこの森の雰囲気にも慣れてきた。
森に響き渡る音は、森の草木が異常な速度で
成長している音だった。一晩眠っただけで、
まわりの風景が一変するほどの成長をみせる
大森林。飽和するほどの生命力の中で生きて
いるモンスターも、今までないほどの力を持
っているようだ。戦いも楽には進まない。

この中での暮らしている人間…。彼もやはり
想像以上の生命力を持っているのだろうか。

大森林の果てはもうすぐだろうか。この森に
入ってから数日間が経過していることを考え
ると、すでに目的の場所に到着している時間
なのだが…この薄暗い森の中で自分の数える
時間にも自信がない…。
小一時間程前から森の匂いが変わり、雰囲気
が変わっている。不自然に踏み固められた道
の先に小さな小屋が視界に入る。
それを見計らったかのように、エリディブス
があらわれる。

ついにたどり着いた。小屋の扉をノックする。
反応がない。扉を押すと、鍵はかかっておらず
ギィィと音を立てて開いた。
「すみません」と声をかけ中に入る。静寂。
ここまで来て、まさか何の実りもないのかと、
落胆が残っていた気力を奪う。ペタリと座る。
「そもそも、何をしに来たんだっけ……」
「あぁ、何をしに来たんだウツロ者め」
驚き、声のした扉を見る。そこには箒を手に
した、いかにもな老婆がひとり立っていた。