バルドニア雪原

彼女はこの町に半年ほど前に来たという。
そして、口も心も開かずにただ生きていた。
それが調査団が帰ってきた、あの時に、突然、
口を利き、明るい女性に変わったらしい。
半年前からここにいたのなら、彼女は自分が
知っているアイオラではないということだ。
しかし名前も顔も同じなんて……。何度か、
彼女にも問うてみたが、やはり別人だった。
そして本格的な冬が到来し、自分もこの町で
しばらくの間、過ごすこととなった。

ピクトロジカーとしての技術は、この町では
とても重宝がられた。特に、この冬から突然
現れたモンスターたちへの対処は、この町の
危機を幾度も救った。ラルドも記憶こそ戻ら
なかったが、段々英雄としての力を取り戻し
てきていた。しかし、この町で生活を続ける
ほどに、言いようのない不安がわき上がる。
何かを忘れているようで、思い出さなければ
ならないという焦燥と共に……。

この町のアイオラとも度々話した。彼女は、
聞いたこともない町の話や、自分がいつか、
行くと信じている【約束の地】の話をした。
その度に、やはり彼女は、あのアイオラでは
ないと実感する。町の子供がアイオラを呼び
に来る。町に若い女性が少ないせいか、子供
たちにも人気があるようだ。その子供と遊ん
でいる姿を見ている時、また原因不明の郷愁
が入り交じる激しい焦燥を感じる……。っと
今は町のためにパトロールに専念しよう。

思いのほか、町を襲うモンスターはなかなか
手応えがあった。平和な町に突然こんなモン
スターが現れるとは、たまったもんじゃない
だろう。しばらく滞在することにはなってい
るが、町のみんなにもピクトロジカの使い方
を、できる限り伝えていこう。
手持ちのメモリアを町の若い男たちに渡して
ピクトロジカの基礎を伝える。非常事態とは
いえ、自分が人にピクトロジカを説くことに
なるとは…。しかもラルドもいるのに、だ。

町の東にモンスターの根城があるとの情報を
手に入れた。そこを叩けばこの冬から現れた
モンスターの活動を沈静化させられるかもし
れない。ラルドを含む有志たちと討伐隊を組み
その場所を目指し出発した。
この討伐が成功すれば、しばらくは町の平和
を守ることができるだろう。なんとしても討
伐を成功させなければ。
いよいよこの先がモンスターの根城。気合い
を入れて一歩踏み出す。

モルボルグレートの討伐から戻った時、町は
炎に包まれていた。なぜか。その光景を自分
は知っていた。燃えさかる炎と魔物たち、
それを引き連れている……。「嘘だ…これは
夢だ。そんな訳…」フラフラと町に入る。
目の前に倒れている人々。その中の、眼鏡が
外れた男の顔は…「父さん？」。その傍らに
立ちすくむラルド、足下には子供の死体…。
ラルドは「すべきことがわかった」と呟き、
自分に１枚のプレートを押しつけた。