北セロビ平野

突如、空間に亀裂が入った、あのウェポンの
時と同じ亀裂。自分は再び吸い込まれていく。
その中、ラルドは子供の死体を抱きあげて、
もう１枚のプレートを子供の身体の中に押し
込んでゆく。その光景に戦慄を覚える。自分
はこれを知っていた。それは自分自身の記憶
として……。意識が真っ白になっていく。
全てが理解できそうで、全てがわからない。
ピースの足らないパズルを眺めているように。
気がつくと、自分はまた見知らぬ土地にいた。

それは、驚き以外の何物でもなかった。
自分の目の前に現れたのは【アイオラ】だ。
この数ヶ月間、共に過ごした彼女ではなく、
同じ顔と名前を持つピクトロジカーの彼女。
安堵で身体の力が抜ける。一体何から話せば
いいのだろうか考えていると、彼女の顔が、
苦しみで歪んだ。そして絞り出すような声を
あげて「逃げて…」と言った。突然の攻撃、
咄嗟に避ける。それは避けなければ死に至る
だろう一撃だった。

わけもわからず、平野のモンスターを倒しな
がら逃げてまわる。なぜ彼女は自分を殺そう
としているのか？ 次から次へと身の上に
起こる異常なできごとに思考がまとまらない。
アイオラの笑い声が平野に響く。 「どうりで
見つからないはずよねぇ。この時間まで存在
自体、飛ばしてるなんて。でもやっと……」
アイオラとの距離がつまる。身を切り裂くの
ではないかというほどの殺気を感じる。こん
な、何もわからないまま殺されるわけには…

なにがなんだかわからない。自分の理解を超
えた現象は恐怖となって膝を震わせる。名前
も姿も同じ「アイオラ」が３人…？
ラルドと３人で旅をした仲間のアイオラ、バ
ルドニア雪原の町で出会った、約束の地を目
指すアイオラ、そして今自分を襲っているア
イオラ。いずれにしても自分がアイオラに襲
われる理由なんて微塵もないはずだ…。
とにかく今はモンスターを倒して、逃げるし
かない…のか？

思考を捨て、背中に脅威を感じながら、ひた
すらアイオラから逃げる。いったいいつまで
逃げれば…と思った矢先に小さな森が視界に
入る。あそこなら逃げ切れるかも、と僅かな
望みを胸に進路を変更した。背後から聞こえ
るアイオラの笑い声。 「そっちはそっちで、
いろいろ大変よ。まあ、こっちは助かるけど
ね」いったいなんの事だ？と思った瞬間に意
味がわかった…。そこに立ちふさがるモンス
ターが…。

テュポーンとの戦いは乗り切れたが、ついに
アイオラの攻撃が自分に降り注ぐ。
「これで後ひとつ」そう言い、彼女はあの町
でラルドから託されたプレートを奪っていく。
「どうして…」投げかけた言葉。突然、彼女
の顔が狂気から悲しみに変わる。そして何か
を言おうとした時、遠くから大勢の人の声が
聞こえ、彼女は姿を消した。 「見つけたぞ！」
聞き覚えのある声。 「指名手配犯を確保！」
なんで？疑問を抱えたまま意識を失った……。