シドニア提督の言の通り、機動戦とは火力より機動力を重視する、というより機動に焦点を当てた軍事 / 戦争哲学の総称である
なお同項では定義について腐心されている向きがあるが、機動力を軽視した結果を考えれば逆説的に説明できる
つまり、
- 部隊の機動に関する手順や段取り等、数理的な合理性を追求しない
- 単純に部隊の速度が遅い
- 上記 2 点による客観的事実に対する心理的影響を考慮しない
この 3 点の裏が機動戦の要旨である*1
なおアクション RPG や FPS などに存在する既知の概念としては 「 位置取り 」、「 裏回り 」 等が文脈的に近い関係にあると言えるだろう
目次
コンセプト
モデルを単純化し、機動部隊と非機動部隊の交戦を考える
非機動部隊 = 兵力の融通 ( 再配分 ) が困難、または制約が大きい戦力 ( 例 : 固定陣地・要塞・低速ユニット・地形依存の火力など )
機動部隊 = 大きな制約なく兵力の融通が可能な戦力 ( 側面 / 後背への再配分、短時間での局地集中など )
なお、自明ながら、機動力ゼロであっても 「 障害物 」 として戦力効果を持つ ( 拠点・地形・固定火点は、運動しないだけで “ 戦力 ” ではある )
数理的特徴
本項では戦闘を次の三変数で要約する
- ΔC 自 : 自軍戦力の変化量 ( 損耗 / 増援 / 再配分の正味 )
- ΔC 敵 : 敵軍戦力の変化量
- Δt : 戦闘に関わる経過時間 ( 到着遅延・交戦持続時間を含む )
一般形として
ΔC 敵 = f( ΔC 自, Δt )
と置く ( f は地形・兵器・士気・指揮統制などの要因を含む写像 )
実務上の操作は、- Δt を制御する事による交戦速度の設計 ( 膠着 / 電撃 )
- ΔC 自 を制御して投入密度を設計する ( 集中 / 分散 / 偽装 )
- その帰結として ΔC 敵 が生じる
の三段で表せる
心理戦
ただし上記までの話は心理的、政治的な観点を無視、少なくとも軽視し、短絡的に軍事上の評価を述べたものに過ぎない
人は全ての情報を元に行動などできない
仮に情報自体は辛うじて集められても、それらには必ずバイアスが掛かる
つまり、機動戦においては
「
対象は機動戦を展開できるので、相手は現状に対して○○○という印象を受けた
だから特定の言動を呈した / 呈さなかった
というベクトルを念頭に置く事が非常に重要である
国境警備隊 / 沿岸警備隊
特に為政者から見て、仮想敵国の保有する機動戦力は侵略意図、領土的野心を危惧 / 警戒されがちである
自走化 / 機械化されていない戦力であれば、仮に大規模であっても侵略に用いるには奇計を要するものと解釈される公算が大きい
現実でも他国を刺激しないために射程や航続距離を敢えて抑えた兵器の開発 / 配備が優先されたり、逆に挑発のための射程や航続距離の誇示というのは頻繁に行われるCoW においても国境 / 沿岸付近の配備兵力は心理戦の影響を考慮した方が良いだろう
例えば牽制目的に限定するなら対戦車や対空、歩兵などに絞り、示威や挑発を加味するなら戦車や自走砲、沿岸の場合は戦艦や空母を航行させるといった具合であろう衝力
また、比較的古い時代においても機動部隊による戦術レベルかつ素朴な水準での心理的効果は指摘されてきた背景があり、特に日本では、そのような効果、あるいは能力を衝力という単語で表現する慣習がある
極論から言えば、機動戦力は動力自体を武器として用いる事ができる
そのため極端に間合いを詰めるなどして銃器や刀剣類の使用に制限が生じる状況に持ち込むだけで相手を一方的に加害できたり、前線が崩壊する場合がある欺瞞下における数理モデル ( 仮称 )
敵は実際の変数ではなく “ 見かけ ( 誤観測 ) ” に基づき判断する
- この枠組みで 「 増援到着前の短時間に優勢を作る 」 「 撤退でΔtを伸ばし、敵の過小評価を維持する 」 などを設計できる
運用パターン
- Δt 操作 : 膠着 ( 防御 ・ 撤退 ・ 遅滞 )、電撃 ( 短期決戦 )
- ΔC 自 操作 : 集中 ( 局地倍率 )、分散 ( 多方面拘束 )、偽装 ( 見かけの増減 )
- ΔC 敵 操作 : 複合 ( 遅延 + 偽装、劣勢演出 → 誘引→包囲、等 )
( 各パターンは上記式を目的関数として再解釈する : min/max T、min 自損耗、max 敵損耗、max |ΔF| など )Δt 操作 ( 時間の操作 )
戦闘の進行速度 Δt を長く / 短くすることで得られる効果を考える
ΔC自 操作 ( 自軍戦力の見せ方 )
自軍の戦力消耗 ΔC自 を実際以上に大きく / 小さく見せ、敵の意思決定を誤導する
ΔC敵 操作 ( 敵軍戦力の操り方 )
包囲殲滅の成功例 ( カルタゴ軍の運用 )
カルタゴ軍は両翼の騎兵機動によりローマ軍を包囲、ΔC敵 を急減させた- ローマは ΔC自 を正面に集中させたが、
- 包囲により退路を失い、Δt の経過とともに 消耗速度が加速
包囲成立後は消耗係数 k が跳ね上がり、短時間で局地戦力が壊滅した包囲殲滅の失敗例 ( 真田の前進撤退 )
東軍は包囲を狙ったが、真田側は Δt を延長する撤退遅滞を繰り返した - 撤退ごとに防御線を形成し直し、
- 包囲輪が閉じる前に局地突破、包囲成立を阻止
時間を稼ぐことで、敵の ΔC敵 操作を無効化し、包囲は未完のまま終息した局地集中の成功例 ( ハルキウ防衛戦, 1942 )
ソ連軍の突出を狙い、ドイツ軍は局地的に戦力を集中 - ΔC自 を側面に集中させ、突出部を切断、
- Δt 内で敵の局地戦力を急減させた
「 誰が早く Δt 内で局地優勢を確立するか 」 が勝敗を決した例局地集中の失敗例 ( ローマ軍の正面突撃 )
ローマ軍は大兵力を一点集中させたが、カルタゴ軍の側面攻撃で局地集中が逆手に取られた - 正面での ΔC自 増加は成功、
- しかし両翼からの包囲で ΔC敵 の削減が急増
「 集中 」 そのものは成立したが、配置条件が逆転要因となり大敗北へ

ありがとう ! -- 2022-03-05 (土) 12:02:59