概要
Tool-Assisted-Speedrun(ツール・アシステッド・スピードラン)の略称。
「外部ツールを使用した【タイムアタック】」のような意味で、発音は「タス」。
使用ソフトが海外版であることが多く、海外の仕様を覗くこともできる。
これらのプレイを動画サイトに投稿している例も多数あるが、メーカーによっては製作者の想定外であるとして著作権者として削除を申し立て、動画の削除に乗り出している所もある。
著作物に関する法律もこれらのツールが生まれた頃と大きく変わっているため、制作は最新の法調査と自己責任の元で行う必要がある。
ツール・アシステッドの名の通り、専用のエミュレーターを介してゲームソフトを動かし、ステートセーブ&ロード(いわゆるどこでもセーブのようなもの)やフレーム単位の機械的な操作入力、フラグやメモリ、乱数の可視化、プログラムの解析、マクロツールによる総当りなど、本来のゲーム機には存在しない機能をフル活用して最短記録を目指す。
ただし、認められるのは「理論上、実際のゲーム機でも起こりうる動作」のみとなる。
もっとも、この「理論上」とは、ゲームソフト側のプログラム上絶対にあり得ない現象でなければ良い、というレベルの話であり、非現実的な低確率で起きる現象でも「理論上」はあり得るものと扱われる。
システムの穴を突くような手法は凄まじいパターン数があるため個別の可否の事例は割愛するが、例えば、敵の攻撃を20回連続でかわし、30回連続で【会心の一撃】を出すのは「確率が低すぎて普通のプレイでは起こらない」が、「理論上はごく低確率で起こり得る」ので、TASの場合はセーブとロードを繰り返して都合の良い結果が出た戦闘だけを保存したり、乱数の可視化で最適な道順だけを進むといった方法で発生・利用しても良いとされる。
また、あくまでゲームソフト側が実機と同じであれば問わないらしく、「1/60秒ごとに十字キーの左右を交互に連打」などの人力ではまず不可能な入力操作も認められ、「十字キーの右と左を同時押し」なんていう、一見実物のコントローラーでは不可能に思える入力も、実機で強引に押し込むなどの手段を試して可能なら認められている場合もある。
また、正規ソフトの仕様上で起こりうるバグや、データ確認モードに入る隠しコマンドなどを利用可能とするレギュレーションもあり、
これらの性質から、人力によるプレイではまず再現不可能な状況になる場合がほとんどで、過程も結果も一般的なタイムアタックとは別物となりがち。
TASという名称の意味さえ知っていればタネ明かし済みのマジックの手際を見物するようなものだが、あからさまな異常事態が巻き起こる例も多いため、コメント機能のある動画などではデータ改造系の【チート】などと混同してクレームをつけたり、手動でないならインチキだと騒ぐコメント、それらを「TASの意味も知らんのか」などと揶揄するようなコメントが流れていくのも日常茶飯事。
そうした条件も踏まえて、TASではゲームを開始してから最後にボタンを押した時間(それ以上ボタン入力をする必要がなくなる瞬間)までを記録とする。
そのため、仮に実機プレイでTASと全く同じプレイを再現できたとしても、記録時間はTASの方が短くなる。
その一方で、TASはセーブ・ロードによるリトライなど試行錯誤の時間を記録に含めないため、一回のトライにおけるゲーム起動時間長さで見れば、上手い手動プレイの方がクリア到達までは早い。
手動タイムアタックを可能とするほどのプレイ習熟にはかなりの時間を要するだろうが…。
こうした手動でのタイムアタックを区別する場合は「タイムアタック(TA)」、「リアルタイムアタック(RTA)」と呼ぶ。
上記のようにTASが「コマンド入力を必要とする最後の瞬間」を測る場合が多いのに対して、
TAは「ゲーム内タイマーで計測される時間」を、RTAは「プレイに関わる実時間すべて」を測ると言える。
なお、TAやRTAでも、手動で可能なら解析で判明したバグやメモリ埋め、
デバッグモードへの突入など異常事態を引き起こす手段を使えるレギュレーションはあるため、一般的な正攻法でプレイしたかどうかはまた別の話である。
ちなみに「ツールによるアシストを行いつつもタイムアタックをしない」というプレイに対してもTASと言われることがある。
こちらの場合はTool-Assisted-Superplay(ツール・アシステッド・スーパープレイ)の略称。
人力では不可能な高速入力などができる事を利用して、単純な動作で済むところに敢えて複雑な手順や難しいアクションを挟む、特に意味はないが妙な現象が起きるルートを無理やり通る、倒せないはずの敵を強引に倒してストーリーや会話を矛盾させるといった珍現象を引き起こして見せる趣向のプレイである。
TASは有名どころの動画サイトやタイムアタックのランキングサイトなどに多数のユーザーが投稿しているため、ネットでは「TASさんという凄くゲームが上手い人物がいて、一人で大量の動画を作っている」とボケるネタも生まれている。
タイムアタックを行わない、変な事態を引き起こしてみるなど、お遊び要素が強い動画は「本業外で遊んでいるだけ」という意味を込めて「TASさんの休日」等と呼ばれることもある。
DQシリーズにおけるTAS
たとえばDQシリーズでは、以下のような現象を意図的に発生させることができる。
- 【ランダムエンカウント】の作品では全くエンカウントが発生しない。
- 【歩数エンカウント】の場合でもエンカウント数が最少になり、エンカウント時は100%逃走が成功。
- 珍しくエンカウントが発生したと思えばメタル系。そして逃げず絶対倒せる。
- 味方の攻撃は全て会心の一撃になり、逆に敵の攻撃は一切当たらない。そのためレベルが低くても影響はない。
- 避けられない攻撃でも乱数の最低値が発生し、紙一重で生き残る。
- 【デスルーラ】や【負けバトル】といった事情で素早く【全滅】したい場合は都合よくエンカウントが起こり、露骨に乱数の最大ダメージや痛恨が出て即死。
- ランダム行動が全て都合の良い結果になる(力溜め+商人軍団+全て会心の一撃を連発する【トルネコ】など)。
- 敵が都合良く行動する(敵は通常攻撃だけしかせず時間短縮(もちろんこちらは全回避)、MPが枯渇した頃に現れて【パルプンテ】でMPを全回復してくれるなど)。
- 1/256や1/1024のような極低確率でドロップするアイテムや仲間になるモンスターを1回の戦闘で入手、必要な場合はそれが連続して発生。
- カジノで大当たりが連発し、必要なコイン数が一瞬で集まる。
- 進路上のランダム移動のNPCが、主人公たちを避けるように移動する(主人公たちが足を止めずまっすぐ歩けるようになり、移動の手間が短縮)。
- レベルアップの能力上昇がランダムの作品の場合、必要な能力は最大限に上昇し、必要ない能力はそもそも上がらない(メッセージが1行余分に表示されることによるタイムロスをカットさせるため)。
昨今では能力値の変化がほとんど一括表示される(分割されても精々HPとMP、残り全部となる)作品もあるので、「〇〇がnポイント上がった」と言う旨を一行一行 見なくても良くなったため、そこまでの吟味は行われなくなっている。
※〇〇には ちからなどの能力値、nには自然数が入る
また、僅かでも時間を短縮するため、以下のようなテクニックも活用する。
- 歩数を節約するため、半歩ずらして話しかける。
- はい/いいえで問われた場合、少しでもテキスト量の少ない選択肢を選ぶ。
- 夜限定イベントの場合、町に入った瞬間に夜になるように歩数を調整する。
- メタル系やアイテムドロップなどの必要不可欠な雑魚戦は、長く歩かされるフロアでついでに行う(歩数エンカウントの場合。無駄な歩数を重ねることはしない)。
- プレイヤーよりもNPCの方が移動が遅いため、イベントではNPCの移動の妨げにならない位置で話しかける。
- 手渡しや装備の時間を短縮するため、アイテムを持たせる位置を考慮する。
- 並べ替えや装備品の付け替えはまとめて行う。
- レベルアップの時間を最低限に抑えるため、そして死にたいときにはスムーズに死ねるようにするため、必要以上のレベルアップは行わない。
- そもそもレベルアップしても意味がないと判断した場合は、仲間にした直後、または途中まで使った後に死亡させる。大抵は自動蘇生を除いてラスボスを倒すまで死にっぱなしの方が多いが、DS版DQ4のトルネコといった、用があるときだけプレイヤーの手によって途中で復活させられるパターンも存在する。
これらのテクニックをいくら駆使してもせいぜい数秒~数分の更新にしかならないが、元々が極限まで時間を短縮することを目的とした競技であるため、数秒、時には1秒未満の更新でも世界記録が塗り変わることは多い。
なお、上記の現象とは違い、これらのテクニックは一部を除いて乱数を必要としない。
よって人力によるタイムアタックに挑んでいる人でも応用可能であり、これらを心掛けることで自己ベストをグッと更新させることができるだろう。
基本的に、可能な限り全てのアイテムやストーリーフラグなどを回収する「100%run」と、それらの制限を考慮せず純粋にタイムアタックのみに終始する「any%run」に区分される。
DQのTASでは、
- 物語が大幅に変化するイベントが少ない。
- アイテム数、モンスター数などが多いため最適なチャートが組みにくい。
- その割にレアドロップなどのコンプ要素が少ない。
- そもそもコンプ要素の達成度がゲーム内でほとんど表だって示されない。
と言った理由からか、基本的にany%runのTASのみが製作されている。
またDQ11は放送規制がかかる都合上、基本的に【魔王ウルノーガ】撃破までがゴールと指定されている。
その他、前述の「正規の製品上で起こりうるバグ」を利用したプレイはTASは「glitched(バグ利用)」と言われている(むしろそれがデフォルトとして、バグを利用していても表記されないことも多い)。
こういった場合、ストーリーの大幅ショートカットに代表される、ゲームシステムを破壊するようなバグが利用されていることも多い。
例えば、DQ3ではFCは【棺桶バグ】により30分台で、DQ5ではSFCは【ボロンゴ技】、PS2は【オープントレイ技】によりどちらも50分台でクリアされている。
逆に、本来のゲームシステムやストーリーに沿うバグ不使用によるプレイは「バグなしプレイ(no glichedまたはglitchless)」という別条件の記録として分けられる。
これも、理論上の最短時間を突き詰めるためである。
また、バグプレイの一種として何らかの手段を用いて、エンディングの呼び出しを行ってクリアするというものもある。
ラスボスを倒したというフラグを偽装することによってクリアするというものもあり、例えばSFC版DQ1ではなんと1分台でのクリア記録がある。
なお、「ゲームを最初から始めてクリアまで進めるのがTAS」だと勘違いされていることもあるが、禁止されているのはセーブデータの使用であり、パスワード(DQであれば復活の呪文)を使用したものもまた、別のレギュレーションの記録として認められている。
概要でも記述した通り、通常プレイではまずあり得ない好都合な事態を多々発生させることでタイムロスを極限までカットし、
作り終わった入力コマンドを実行して突っ走るだけの機械的プレイは人力の各種タイムアタックとはもはや別ジャンルの精度と時間での攻略を実現する。
そのあまりに神がかり且つ露骨な展開は、「(文字通り)人間離れしている」「理論上は起こり得るが実際には起きるワケがない異常事態」「プレイ時間短縮のためなら試行錯誤には膨大な時間をかける」という前提も相まってしばしば笑いのネタにもなる。