Book12:滅亡したラヒア帝国貴族の手記。ラヒアの滅亡はアウロラの怪物によると断じ、アウロラをひどく非難している。

Last-modified: 2008-11-19 (水) 20:59:24

ここから先は、ラヒア帝国滅亡の直前に書かれたと思われる、あるラヒア人貴族の手記の写しである。
原本はすでに喪われている。この手記は、ラヒア研究家に貴重な手がかりを与えるものと考える。

 


<イロモスの手記>

 

私にあと、どれほどの時間が残されているのかはわからない。少なくともわが祖国は、もうすぐ消えゆく運命にある。
そして、その運命を決めたものがなにであるのかを私は知っており、後の人間に私の知るところを伝えようと思うのだ。
滅亡の後、偉大なる帝国ラヒアの名は、忘れ去られることなく残りつづけるのだろうか?

かつて、これほどまでに豊かな国は存在しなかった。
神の都といわれるアウロラでさえ、わがラヒアの輝かしい繁栄のまえにはかすんで見えたものだ。
ならばラヒアの名は、至上の楽園の名として語りつがれるだろうか?
それとも、その繁栄ゆえに神の怒りをまねいたわざわいなる土地の名か?
おそるべき破壊は、神の名のもとにおとずれる。
それをもってして、後の世の人々は思うかもしれない。
アウロスを無視した罪が、いかにおそろしいものであることかと。

しかし、真実はそうではない。
神々は、我らに何ひとつ語りかけも命じもしなかった。
我らに命じてきたのは、あのいまいましい神聖王国と称する国のやつらだった。神ではない。神の代理人と自称する、ただの人間だ。
そして我らがやつらの言葉を無視したとき、怒ったのは神ではなく、やつらであり、この国に災いをもたらすのも、やはり神ではなく、あの国がつかわした怪物なのだ。

神聖王国は、我らの繁栄を嫉んだのだ。
でなくばなにゆえ、我らが築きあげた文明を捨てよと云うのか。なにゆえ、我らのすすめる計画を阻止せんとするのか。すべてはあの国の傲慢と嫉妬による、子供じみた妨害工作にほかならぬ。
ラヒアこそ、神君パセウスがアウロスの恩寵によって築きあげた神聖国家なのだ。アウロスが選んだのはラヒアであり、アウロラではない。
しかし神聖王国のやつらは、それを認めようとしなかった。我々の繁栄が、世界を汚し神の摂理に背こうとしているなどと勝手ないいがかりをつけ、さらには我らの国宝を手放すようにとしつこく迫った。
あれは、神君パセウスがアウロスより賜った至宝。アウロス大神が、ラヒアを選んだという証である。
それを、あたかも我らが神聖王国から盗み出したかのように、あの国のやつらは云うのだ。

あまりの暴論、あまりの厚かましさではないか。
まともにとりあうに値せぬ戯言だ。
しかし、我らが無視を決め込むと、やつらは恐ろしい脅しをかけはじめた。
奴らの言に従わねば我らのすべてが滅びるだろう、と。

神聖王国との開戦を主張する声が高まり、私も賛同した。あのようなとるにたらぬ自称神聖国家など、我がラヒア帝国の前にいかほどの存在だと云うのか。それを思い知らせてやるべきだと、私は思った。
しかし、そこにあの使者がやってきた。怪物がやってきた。
美しい姿に惑わされ誰もがその使者の正体に気付かなかったが、私は偶然にも知ってしまった。
あれが、我がラヒアの大艦隊を一瞬にして葬りさるところを私は見たのだ。

怪物だった。あのようなことが、人間の力でできる筈がない。
やつが実際に何をしたのかを、私は見ていない。見ていたら、私も生きてはいなかっただろう。
だが、それがどんなかたちであれ、やつがあらゆるものを確実に滅ぼすことのできる、恐るべき怪物であることに変わりはない。
我がラヒアの全軍団をさしむけても、やつを倒すことはできまい。全ては無に帰すだろう。
アウロラとは、何と酷い国家であることか。やつらは自分たちよりも豊かな国、優れた国を許さぬのだ。そして、そのためであればどのような卑怯な手段、残酷な手段も厭わぬ。ラヒアが意のままにならぬと知ったとき、やつらは我らに死の裁定を下した。まさに悪魔のような連中だ。

神聖国家など、1000回呪われるがよい!
後の者たちよ、気をつけるのだ。あの国は、とんでもない怪物を飼っている。
それこそが神聖国家の強さの秘密であり、地上における最大の脅威なのだ。
よいか、我らは決して神に背いたわけではない。
ラヒアを滅ぼすのは神ではない。
神聖王国だ。あの国が飼っている怪物こそが、我が帝国を葬り去るのだ。

 


<イロモスの手記>は、以上である。
ラヒア帝国は星王歴2500年頃、一夜にして地上から消えたと伝えられている。その消滅の原因は未だに謎に包まれたままである。
この<イロモスの手記>を読む限り、当時ラヒアとアウロラの間に何かの緊張状態があり、それが最終的にラヒア滅亡へと至ったと考えられる。
アウロラの怪物とは何を意味するのか、実に興味深い言葉である。

もっとも研究者として云わせてもらえば、イロモスには多少の失望も禁じえない。アウロラへの批判や個人的な見解などは後まわしにして、彼自身が知る事実をまずは書き残してほしかった。
怪物と呼んでいるものが武器なのか、軍隊なのか、魔物なのか、魔法なのか、せめてその点だけでももっと詳細に書き残してくれればと思うのである。