Book17:リカルドがマンテア公に宛てた報告書。カリス姫の北方遠征について記されている。

Last-modified: 2008-11-22 (土) 21:58:20

獅子王の月24日

 

マンテア公閣下

 

カリス姫が北方王国の制圧に向かわれたというのは、まことでございます。
極少数での出立であり、聖騎士さえ伴われず、噂では宮廷絵師ただ一人が同行したとのことです。
制圧ではなく、人身御供との声もあり、私にもそのように思われます。それが聖龍王の命によるものなのかはわかりませんが、ここ最近の反カリス姫の動きはどうやら、シルフェラが陰で糸を引いていると見て間違いありません。
シルフェラの王子がカリス姫に手ひどくふられた腹いせだ、などと噂する者もおりますが、私が得た情報ではシルフェラの巫女姫が、カリス姫はユーフラニアに災いをもたらす、との予言をしたのが最大の要因のようです。
聖王家の姫君がユーフラニアに災いをもたらすということは、どうにも解せぬ話ですが、シルフェラの巫女姫の予言ともなると、確かに無視はできません。

また聖龍王はあのような方ですので、内外の言葉に惑わされやすく、カリス姫に対しても一貫した態度でおのぞみになれぬようです。
ガレア系諸国はそのような「御しやすい聖龍王」の方を歓迎し、さらにカリス姫派との対立を煽りたい考えのようです。
確かにカリス姫は氷姫とよばれるほど冷静沈着、なにものにも心動かされず、御しやすいとは逆立ちしても云えるような方ではありませんが、私に云わせれば、他の国の国王ならばいざしらず、アウロラの聖龍王についてだけは、無能な王はかんべんして頂きたいところです。ましてこのような時世柄、無能よりは無情の方が百倍ましと云うものでしょう。
むしろカリス姫よりは、現聖龍王こそがユーフラニアに災いをもたらすのではないかと、私などは考えてしまいます。巫女姫の予言がそうであったならば、私も疑いはしませんでしょう。

ところで、この度のカリス姫遠征の件で思い出したことがございます。
かつてテルドラが統一王国であった時代、テルドラを恐怖で支配した死者の王――私の記憶違いでなければ、あれを倒したのはアウロラから供も連れずにやってきた一人の聖騎士であった筈。
北方王国もまた、人ならざる魔族の王が治めるところとなっております。そのため我々にとっては非常な脅威となっているわけですが、神聖王国にはそのような剣で倒せぬものたちに対抗できる特別な魔法があるのかもしれません。
カリス姫が単身かの地に赴いたことも、もしかするとそのような理由によるのかもしれません。今の私としましては、カリス姫の遠征が無事に終わり、ユーフラニアに平和が戻ることを祈るばかりです。

 

閣下の忠実なる僕
リカルド・ヴィテッラ