Book44:<私>によって書かれた言葉。なにかを暗示しているようだ。

Last-modified: 2009-08-16 (日) 16:14:27

かつて
東方に風が起こり
それは火と水とを伴って
地を席巻し塔に至り
光を殺し闇を払い
私の秘密の門を開いた

 

されど
私の世界は昏く
あなたがくれた心なしには
求める道すら
見えぬほど
この闇の奥底に
私を招く声がある



かつて私は王に背き、王のものであるべき私のすべてを、一人の人間の男に捧げた。
ルシーヌは本来王のものであり、王に背くことも、そのくびきから逃れることも許されない。
王は私を人の世から引き離して、ルシーヌの記憶から私が彼と交わした誓いを奪い、<銀の卵>に閉じ込めてしまった。
あの誓いは確か、婚姻のようなものだったと思う。

王は私に彼を殺させた。それは私が王に背いた代償だったけれど、かわりに私は彼の魂を得た。
王は、世界を守るためにルシーヌの力を必要とし、ルシーヌの心が王のものとなることを拒むことは、すなわち世界を滅びにまかせるという意味だと云い続けてきた。
私は、それを信じていた。確かに、王は守護者なのだ。そして、王との繋がりを失えば、心は惑いルシーヌは道を見失って、本能のままに暴れだしてしまうだろう。私が幼かった頃に、そうであったように。
王のものであることが、もっとも安全な選択であることは間違いない。

けれど、それ以外の道がないというのは嘘だ。
決して、王だけがすべてではない。
王のものとならずとも、己の心でルシーヌを制し、守護するための戦いを貫くことはできる。
彼の魂を得た時、私はそれを理解した。

ルシーヌは重く、その強さに耐えられる者は少ない。でももし、家族であれ友人であれ、その者のために命を賭せるなら、もし、ルシーヌの重さをわかちあうことができるほど強く、王と同じほどかたくルシーヌと結びつく者と出逢えたならば、もし、その者が常に傍らにいてくれるならば、王の存在がなくとも、人の世でルシーヌとして生きていくことができる。
王のものとしてではなく、人の世で生きたいと望むなら、そのことを憶えておいてほしい。

かつて私が愛した人の魂は、その望みのためであれば、一時的にであれ力を貸してくれるだろう。
王は、その魂をルシーヌの記憶の奥底に封じ、私との繋がりを断ってしまった。
けれど、<銀の卵>に封じられた私たちの誓いは、まだ生きているはず。
その誓いが、彼の魂への道を教えてくれるだろう。

王は彼の魂を滅ぼせと囁くだろうが、あの魂は、すでに私の一部。もしもそれを滅ぼせば、きっと心ごと壊れてしまう。
そのことも、どうか憶えておいてほしい。


<花妖精の魔法液>ユリを使った場合*1

 

かつて
東方に風が起こり
それは火と水とを伴って
地を席巻し塔に至り
光を殺し闇を払い
私の秘密の門を開いた

 

それは私の傷となり
穢れとなって
今も私を毀し続ける

この奥底に潜む闇
この元凶を封じねば
私の世界はやがて
崩れすべては
暗黒にのまれよう



かつて、カリス姫が北方の闇に触れた時、その心に闇の一部がはいりこんだ。
それはルシーヌの心を蝕み、やがては邪悪なものへと変える危険な呪いだった。
王は、その呪いを取り除くためにカリスの心を壊したが、闇はあまりに深く心にはいりこみ、ルシーヌの一部となっていたため、他の者には――それが王であっても、もはや抜き取ることができなかった。

そこで、王は闇を血の宝珠に閉じ込め、ルシーヌの心の奥深くに封じて、その記憶を奪った。
ついで銀竜の牙から聖なる力をこめた短剣をつくり、ルシーヌの心のなかにうめこんだ。
いつか、ルシーヌの心が己の奥底に封じられた闇に気づいた時に、その短剣で闇を滅ぼすことができるようにと、王は願ったのだ。

その時がくるまで、記憶の奥底への道は閉ざされている。
<銀竜の剣>を手にとれるだけの力ある心が、銀竜の短剣を手にした時に、はじめて最後の道は示されるだろう。


*1 この場合、KnowledgeのBook44は埋まらない