Book4:ヘレナが父親に宛てた手紙。ティリュアンという名の王について興味深い記述がある。

Last-modified: 2008-11-15 (土) 15:13:15

花妖精の月25日

 

父さんへ

 

おかわりありませんか?わたしは元気です。
お城でのくらしにも、だいぶなれたと思います。
お城とよぶには、あまりにもちっちゃくて地味で粗末なところかもしれないけれど、それでもわたしには、ここはりっぱなお城に思えます。
ここにいる人たちはみんな優しくて、わたしにもよくしてくれます。みんな、この土地をもっと豊かで住み良い都にしようと頑張っているのです。わたしも、そのお手伝いをしているのよ。

王陛下もすばらしい方です。こんな方がわたしたちの王様になってくれて、よかったと思います。
でも「陛下」ってよばれるのは嫌なんですって。だからみんな、ティリュアン様とよんでいるの。ふしぎなひびきの名前よね。
オレニアの将軍さえたじろがせるほどのすぐれた戦士でいらっしゃるのに、そのお姿は妖精のよう。アウロラの王族の血をひいていらっしゃるというううわさ、父さんは本当だと思う?

ティリュアン様は、うまれ故郷のことや家族のことはだれにもおはなしにならないので、本当のことはだれも知りません。でも、わたしはティリュアン様のひみつを、ひとつだけ知っています。
それは、銀色の四角い箱なの。まわりには青いきれいな宝石がはめられていて、上のふたにも同じような青い宝石が四つはめられた、とてもうつくしい箱なのよ。
この箱は、ふたの数字をうまくあわせると開けられるのです。でも、その数字はティリュアン様しか知らないの。
何かの日付じゃないかしらと思うのだけど……。
ティリュアン様は、その箱にたぶん日記をしまっていらっしゃるのだと思うわ。
そうでなくとも、なにかだいじなことを書いた本をそこにいれてらっしゃるようなのです。

もちろん、王陛下のもちものをかってにのぞこうなんて考えたりはしていません。安心してね、父さん。
ただ、あの箱をみるときのティリュアン様は、さみしそうな、それでいてとても優しい、幸福そうなお顔をなさるのです。
父さんはわたしに「正しい人間は、心のなかにとてもうつくしいものをしまっているのだよ」と、話してくれたでしょう?きっとティリュアン様は、心のなかにある何かとても大事でうつくしいものを、あの箱のなかにしまわれたのだと思うわ。
わたしの想像だけれども、そんな気がするのです。
つまりね、父さん、ティリュアン様は、父さんがいったように正しい人間だと、わたしも思うってことよ。

ティリュアン様がわたしたちをまもってくださったように、わたしもティリュアン様をおまもりします。
ここがいちにちもはやくあんぜんな国になって、もうだれも魔物や盗賊のせいで家族をうしなったりすることがないように、わたしはここでじぶんにできることをやってみせるつもりです。

父さんもからだに気をつけてね。無理をしちゃだめよ。
夏が来たらおひまをもらえると思うので、そのときにかえります。
また手紙をかきますね。

それでは。
父さんに愛を込めて。

 

ヘレナ