Book21:マーガレットがリンドリーに宛てた手紙。北方からの難民への対処法について指示している。

Last-modified: 2008-12-27 (土) 18:27:11

金剛亀の月3日

 

リンドリー殿

 

北方からの難民の件だが、私はやはりこのまま、火刑に処すべきではないかと考える。
第一に、いまや魔族の支配するところとなったかの地の最奥から、一介の民百姓が無傷で逃げおおせるなどということがあるわけがない。明らかに、これは罠である。

第二に、難民を助け、かの地から逃したと云う者の存在が極めて怪しい。
かの地を支配しているのは単なる悪党どもではなく、人ならざる魔物、悪鬼の類である。そのような者どものなかに、哀れみや同情、まして正義の心などがあろうはずがなく、善意の協力者があらわれるとは到底信じ難い。

仮に、難民たちにとってはその話がまことだとしても、かの地の狙いは別のところにあるのだと思う。
王国の騎士団ですら太刀打ちできぬ魔物どもを、単身で打ち負かせるような人間の英雄がいるとは思われず、そのような噂も耳にしたことはない。
つまり、難民たちをかの地から逃したのは、裏切り者の魔族でも、人間の英雄でもなく、魔王そのひとだろう。

私が云いたいのは、こういうことである。逃げてきた者たちの善悪に関わらず、この度の難民の件はすべて、かの地がわが領土にあらたなる禍の種をまかんがための策謀であり、それを看過するのは重大な過ちなのだ。
仮に、それが罪なき者の命を奪うことになったとしても、その命とはかりにかけられているものの大きさを考えてほしい。
難民を受け入れることでロザリンドを、ひいてはグラヴィア全土を危うくするかもしれぬのだ。
施政者として、そのような危険をおかすことはできない。

あらためて云う。難民たちは一人残らず火刑に処し、わが領土に入れてはならぬ。
この言葉がすみやかに実行に移されぬときは、そなたもまた、かの地の呪詛を受けた者とみなされるだろう。

私のこの決断は、女王陛下にも認めて頂けるものと信ずる。
そなたの幸運と、成功を祈る。

 

マーガレット・ロメリン・メルコート