Book40:<大崩壊>に関する本。<大崩壊>とよばれるものは過去に二度あり、いずれの時も、ユーフラニアに壊滅的な打撃をもたらしたと書かれている。

Last-modified: 2009-01-03 (土) 22:58:12

<大崩壊>と呼ばれるものは、厳密に云えば二つある。
ひとつめは、星王暦元年に起きたとされる<第一次大崩壊>である。
それ以前、世界は魔法に満たされていたと云う。
いまでは失われてしまった、様々な動植物や種族が世界を豊かに彩り、精霊や神々もいまよりずっと近いところにいた。

ドラゴンは、いまでは獰猛で貪欲な爬虫類の王としか思われていないが、かつては、はるかに高貴で賢い神々の一族だった。
人間の数はいまよりもずっとすくなく、世界には人間以外のさまざまなものたちの王国があった。
この時代からいまに残る国は、アウロラとシャクラーマだけだと云われている。
穏やかで平和な時代が長いこと続いたが、どういうわけかある時から、不信と不和が世界を覆い、やがてそれは大戦争に発展した。
この戦争は神々も含めた一切を巻き込み、200年以上続いたと云われている。

戦いに終止符をうったのは、人間の英雄だった。
彼の手には最強の剣があり、その恐るべき力は神々すらも砕き、世界の均衡を破った。
後に剣は<神々の黄昏>と呼ばれたが、事実その剣によって、神話の時代は終わりを告げたのだった。

戦争が終わり、あらたに人間の時代がはじまるかと思われた。
しかし、世界はあまりに疲弊し、混乱していた。大地には多くの憎しみがうずまき、大気には癒しがたい怒りと悲しみが充満していた。
そしてある日、天空に光の翼がひろがり世界は滅びた。
200年続いた戦争に比べ、それはわずか一瞬のできごとだったと云う。
しかし白光が世界を包んだとき、残されていた最後の魔法も消えてしまったのだ。
偉大なもの、美しいもの、不思議なものたちはみな消えてしまった。
世界は始原の闇にかえり、生き残ったわずかなものたちは、一からすべてを築き上げねばならなかった。

最初の<大崩壊>はあまりに昔のことであり、それによって多くのものが失われてしまったために、<大崩壊>が正確にいつ、どのようにして起こったのかは、時とともに忘れ去られてしまった。やがてそのようなことがあったことすらも忘れ去られた。
かつて、偉大な文明と時代があったことは歴史の闇に埋もれ、人々は星王暦以前の世界は未文化で野蛮な時代が続いていただけと考えるようになった。
この歴史上の断絶をうみだしたものこそが、最初の<大崩壊>である。


次の<大崩壊>は、星王暦2500年頃に起こった。
一般に<大崩壊>と云えば、この<第二次大崩壊>のことを指す。

<第一次大崩壊>により世界は滅び去ったかに思われたが、長い年月をかけて世界は暗黒時代から脱し、再び様々な文明が形成された。
そのなかでも突出した進歩をみせたのが、ラヒアである。
<第二次大崩壊>は、このラヒアを中心に起こったとされている。
当時、ユーフラニアの中心は大帝国ラヒアにあった。ラヒアは失われた偉大な文明を再建し、人類史上最大の帝国を築き上げていた。
この偉大な帝国は、ユーフラニアを照らす光であり、帝国の栄光はそのまま人間の智慧と力の証と思われた。

さらに輝かしい未来を夢見て、帝国が繁栄の頂点にのぼりつめようとした時、再びそれは起こった。
白光が世界を包み、一瞬にしてラヒアは消え去った。
ラヒアの中心部は消滅して海となり、それ以外の地域も、大地震と大津波によって壊滅的な打撃をうけた。
これによってユーフラニアの文明はふたたび無に帰し、ながい暗黒時代が始まったのである。
あたかも、それまでの歴史などすべて無かったかのように。


<大崩壊>が、なにゆえ起こるのかは判っていない。
アウロスの怒りだと云うものもあれば、暗黒神の呪いだと云うものもあり、空の彼方から襲来した異界の神々の仕業と云うものもある。
確かなことは、<大崩壊>が物理的な破壊にとどまらず、地上の多くのものを消し去ってしまうと云うことだ。

<大崩壊>の後、ラヒアは陸地ごと姿を消した。
消えた陸地や建物、人々がすべてどこにいったのかは誰にもわからない。
<大崩壊>がもたらすのは、実際には破壊ではなく無である。
それによって、それまで積み重ねられてきた時間は意味を失う。美しいものも醜いものも、偉大なものも卑小なものも、善も悪も、一切合切が無に帰すのだ。

この先<大崩壊>がまた起こるのか、起こるとしてそれはいつなのか、そういったことを知る術はいまのところない。
しかし、もしそれが起こることがわかったとしても、我々には何もできないだろう。
それは、逃げることのできぬ終焉なのだ。