Book13:ティエリーがエルネストに宛てた手紙。結婚を間近にして亡くなった聖公爵の死を嘆いている。

Last-modified: 2008-11-19 (水) 21:15:11

煌天馬の月8日

 

親愛なるエルネスト

 

この悲しい話を聞いて、僕も大変驚いている。
あの聖公爵閣下――ジュリア姫が亡くなられたなんて、信じられないよ。
今でもなにかの間違いではないかと思っている。あんなに美しくて神々の寵愛を一身に受けたような方が、こんなにも突然亡くなるなんて、どういうことなんだろう?
聖龍王陛下とのご婚礼も目前に迫っていたというのに、アウレーヌはどのような手違いであの方のお命をつみとってしまったのだろう!

運命の女神ガルネリも、今回だけは残酷にすぎるのじゃないだろうか。
それともこれは、悪魔の仕業か悪霊の呪いなのか?
聖龍王陛下は、さぞお嘆きだろう。僕だって辛い。何しろ、アウロラの光が消えてしまったのだからね。

けれど考えてみると、聖騎士オーギュストやカリス姫といった過去の名だたる美男美女も、みんな若くして亡くなっているのだよ。
美しい人ほど早く天に召されてしまうというのは、本当なのかもしれない。
たしかに、あれほど完璧な聖公爵閣下であれば、神さまが傍らにと望んでも不思議はないね。
姫も今は天上で心安らかな日々を過ごされていると思えば、僕らの気持ちも少しは慰められようというものだ。

それにしても地上の悲しみは深すぎて、僕にはなにやら世界全体が闇につつまれているように感じられるよ。
これがほんとうに、何か不吉な前兆でなければいいのだけれど。
とにかく、これほど悲しいことはない。

 

ティエリー・ヴェルマン