Book31:妖精文化に関する本。

Last-modified: 2009-01-03 (土) 16:24:53

アウロラを語るとき、無視できないもののひとつが<妖精>である。
<妖精>がどのような存在であるのかを知る手がかりは、ほとんど残されていない。
<妖精>についてくわしく書かれた記録も残っておらず、神話や伝説はそのどこまでが真実であるのかはかりがたい。
確かなことは、彼らが神聖アウロラ王国の成立にふかくかかわっていたということである。

<妖精>はふるくからアウロラの地に住み、人間よりもはるかに高度にして優雅な文明社会を築きあげていた。
神聖アウロラ王国は、この<妖精>の社会を礎として成立したと考えられている。
伝説では、大神アウロスの降臨と女神ルキスとの婚姻が、神聖王国の起源と云われている。
おそらくこれは、<妖精>に初めて触れた当時の人間の驚嘆からうまれた物語であろう。
実際に起こったことは<妖精>と人間との婚姻であり、人間の<妖精>化であったと考えられる。
神聖王家の王族が有していたという神秘的な特性や能力も、<妖精>の血によってもたらされたものと考えるのが妥当であろう。
しかし、長い歴史の中で<妖精>の数は減少し、アウロラは人間の王国へと変質していく。それとともに、<妖精>の文化は次第に埋もれ忘れ去られていった。

<妖精>の文化には、時として非合理的であったり、ことさらに複雑であったりする部分が見受けられる。それは、<妖精>文化を洗練の極地と考えていた者を、おおいに困惑させる。
おもしろいことに、<妖精>には心楽しませるものや美しいもの、曖昧なものにひかれる傾向があるらしく、そのため、必ずしも合理的とはいえぬ構造をつくりあげることがあったようである。
また、彼らの生活は魔法とふかく結びついており、このことも彼らの世界に一見不可解な秩序をもたらしていたと考えられる。


アウロラの遺跡などに多く見られる装飾模様の一部は、<妖精>が0から9までを表した特殊な数字であることが、現在では判明している。
これらの数字は魔力を宿すとされ、この模様を刻むことで呪文を強化したり、不思議な効果をつけくわえることができると考えられていた。
かれらの魔法は当時の人間が魔道とよんだものとは別種の、<妖精>独自の能力によるものであったらしい。したがってこれらの数字も、魔道関係の資料にはみいだされることがない。
<大災厄時代>の前後には、すでにアウロラにおいてさえ、これらの数字を理解する者はいなかったようである。


<妖精>が人間に比して、きわめて優れた身体能力をもっていたことは確かである。
とはいえ、きわめて美しいものとされながらも、その外観は人間に近いものであったと考えてよい。

伝説の中でとりわけ興味深いのは、<妖精の血>に関するものである。
<妖精の血>はあらゆる傷や病を癒し、若さと活力をあたえる霊薬であると云うこの伝説は、ユーフラニアにあまりに深く根付いていたため、<妖精>の誘拐、売買、殺害が後を絶たず、さらには歴史上何度か大規模な<妖精狩り>をも招いてしまった。
その後ユーフラニアでは、国際法によって<妖精の血>摂取者は、いかなる理由があろうと直ちに処刑すべしと定め、<妖精の血>は医薬品や健康食品の名称のなかに、その名を残すのみの禁忌の品となった。

実際、<妖精の血>にそのような神秘的な効果があったとは考えにくい。
<妖精>が老い衰えぬ種族であったという事実が、人々の願望とあいまってこのような話をつくりあげたのではないか。
しかしこの苛烈な法は、やがて<妖精>を守る盾から、人間を陥れる危険な槍へとその本質を変えてしまった。

<妖精の血>により特別な力を得たという話で、最も詳しい記録が残っているものは、オレニアの魔導師大公の話である。
大公は、ユーフラニア一の魔導師として絶大な力を有していたが、同時に老いることがなく、四十を過ぎても尚、二十代の青年の姿をしていたと伝えられている。
このことから大公は<妖精の血>を飲んだとされ、他の様々な嫌疑をもかけられたうえで、最終的にはアウロラの神聖法廷で死刑を宣告されてしまった。
しかし、力ある魔導師であれば、魔道で姿を偽ることなど容易い筈で、この事件は<妖精の血>の神秘性を裏付ける話でなく、むしろその伝説が政治的に利用された典型と見るべきであろう。

この<聖域及び聖性の保護>に関する条文は、いまもユーフラニア憲章の第7章に残されている。
しかし、既に<妖精>が滅んで久しい現代においては、意味を失っていると云ってよいだろう。