Book37:あるアウロラ人の回想。祖国を裏切ったメルキュールという友人について書いている。

Last-modified: 2009-01-03 (土) 21:08:37

<回想>

 

わが友、メルキュール=エルメほど恵まれた存在もいなかっただろう。
彼は誰からも愛され、何不自由なく育てられた。
才能にあふれ、輝かしい将来を約束されていた彼が、なぜ祖国を裏切るような大罪を犯したのか、私には理解できない。

彼を狂わせたのは、母上の死か?
父上にもあらわれていた、心の病か?
あれほど満たされていながら、彼には何が不満だったのか。
神々に愛でられていると誰もが信じた男が、なぜその神々を裏切り、この楽園を捨て去ったのだろうか。

アウロラの鎖国は、あと数百年は続くという話だ。
おそらく、彼にはもう二度と会えまい。
そもそも、生きているのかも疑わしい。
あのまま定められた運命に従っていれば、千年後のアウロラにおいても賞賛されるほどの偉大な存在になっただろうに。

メルキュール=エルメ、あれほどの人物を失ったことを、私は今なお深く憂えている。