Book43:愛の詩集。いつ、誰が、誰のために書いたかわからない、愛の言葉の羅列。

Last-modified: 2009-01-08 (木) 21:27:32

この詩はすべて
地上でもっとも
高貴な姫君に
ささげよう

ここに連なる言葉は
すべて
わが愛の証
わが忠誠の証なれば


かがやく大理石の列柱にかこまれた
花ざかりのアウレーヌの庭園も
かの姫なくば冬の廃園

その優美な顔が
微笑みをうかべれば
千の薔薇よりもあでやかな花が咲き
そのまなざしにゆらめくほむらに
頑なな老人のごとく凍てついた大地も
喜びの声をあげて溶けだす

かの姫の跫こそが
まことの春の訪れをつげる天上の喇叭

 

曙光すらとどかぬ
暗き地下の墓場さえ
かの姫がおりたてば天上の楽園

その眩い美しさが
虚しい闇をはらい
死神さえもかの姫の前では恋に落ちた少年へとかわる

夜の衣を脱ぎ
血の染み付いた鎌を捨て
銀の竪琴で愛の歌を奏でよう

かの姫の輝きこそが
まことの昼を
もたらす太陽


あの方は
天上の神々が美しいものだけをあつめておつくりになった
至上の芸術品


あの方の血は薔薇
ゆえに心は幾重にもめぐらされた棘鋭き曼に阻まれ
触れることもかなわぬ遠さ

その胸には誇り高き脈動を
頬には初夏の蕾を
唇には最高の紅玉も色褪せる深紅の輝きをそえる

口の奥でゆらめく天鵞絨の花弁が蠱惑的な調べを奏でれば
それは天空を駆ける黄金のチャリオットも軌道を違える
危険な呪文となって世界をつつむのだ

 

あの方の肉は百合
あの身をつつむ香気の理由もならばわかるというもの

吐息は新床でみる夢よりも甘く
肌は夜闇すらたじろぐ白さ
穢れを知らぬ高貴な肉体のうちに
宿るのは永遠の純潔

しなやかな輪郭は
天使の羽根のごとき優美さ
白鳥も嫉妬に羽をふるわせる優雅な頸領のかぐわしさよ
気品あふれる芳香のまえに他の花はすべて埋もれよう

 

あの方の骨は
金剛石と真珠
ながい睫毛の下から
隠しおおせずにこぼれでる光が
人魚もうらやむ声の玲瓏さとともに
それを伝えているではないか

甘い囁きにも碎けぬ硬き情思も
鋼の剣をも怖れぬ勁き意志も
その骨によって編まれたに違いない

粉雪よりも優しく
かろやかな足取りも
磨かれた銀よりも白くあえかな四肢も
それをつつむ光彩も
すべて類稀なる宝石たちの完璧な合奏

おお、見よ!
神秘のヴェールの奥で、ひときわまばゆいその身が
白い焔となって周囲を照らし
暗がりにいくすじもの光の矢をなげかけるのを!


高貴なる姿
それは勝利の女神
我が身を命と悦びで潤す愛の泉よ
その紅き唇にくちづけをゆるされるものならば、百万の軍勢を相手に独り戦うも我が心は怖れはせぬものを

 

霊感の源
輝ける銀の月よ
曙光が織りなす絹の帳の奥で、その身をやさしく抱きしめるあの山の稜線になれるものならば、永遠に地の底を彷徨うも我が心は厭いはせぬものを