近藤の62球

Last-modified: 2025-04-13 (日) 11:38:59

2023年8月25日の中日ドラゴンズ対横浜DeNAベイスターズ戦(バンテリンドームナゴヤ)での出来事。
所謂「晒し投げ」に該当する。 


試合直前の時点で6連敗中・借金26だった中日は、この日も先発の松葉貴大が6回5失点、2番手の福島章太が1回3失点と序盤から劣勢。打線も相手先発のトレバー・バウアーに8回2失点と抑えられ、2-8と大勢は決した状態であった。
9回表、中日ベンチはこの日2年ぶりに一軍昇格して来たばかりの近藤廉を4番手として投入。3番手で1回無失点に抑えた岡野祐一郎と同様、敗戦処理の役割を期待された。

しかし先頭の佐野恵太を安打で出すと、続く牧秀悟ネフタリ・ソトの連打に中堅手・岡林勇希のエラーが絡み2失点。それでも2アウトを取り、あと1つのアウトで自責点0のままイニングを終えられるところまではこぎ着けたが、そこから1死が取れず、四球を連発するなど泥沼に陥ってしまう。

ところが最後まで投手の交代は行われず、近藤はこの登板だけで16人の打者と対戦、1イニングで62球も投じ*1被安打8・与四球4・与死球1・10失点(8自責点)という大炎上。防御率はわずか30分の間に72.00まで破壊されてしまった。
結局試合は2-18で敗戦し7連敗を喫したほか、バンテリンドームでの1試合最大失点、球団ワーストの借金27など複数の不名誉な記録を更新することになってしまった。


打者数(打順)打者打席結果(失点)投球数備考
総投球数62球
1人目(3)佐野恵太中安1球関根大気が代走
2人目(4)牧秀悟中安中失(1)5球林琢真が代走
3人目(5)N.ソト右二(1)2球西浦直亨が代走
4人目(6)大和二ゴロ2球
5人目(7)伊藤光空三振4球
6人目(8)柴田竜拓四球7球
7人目(9)山本祐大左安(1)4球T.バウアーの代打
8人目(1)大田泰示中二(2)2球
9人目(2)桑原将志四球5球
10人目(3)関根大気四球5球
11人目(4)林琢真左二(3)6球
12人目(5)西浦直亨中安(1)1球
13人目(6)京田陽太四球6球大和の代打
14人目(7)伊藤光中安(1)1球
15人目(8)柴田竜拓死球3球
16人目(9)山本祐大遊ゴロ8球


2023年8月25日(金) バンテリンドーム 18回戦(中日4勝13敗1分)
試合時間3:18(開始18:00 終了21:18) 入場者32,063
 
123456789RHE
DeNA301001301018200
中日001001000271
 
バッテリーDe○バウアー(10勝4敗)、宮城-伊藤、山本
●松葉(1勝4敗)、福島、岡野、近藤-木下、石橋


敗戦処理の場面で炎上してしまった近藤にも問題はあるが、1イニングで10失点を喫するほどの乱調にもかかわらず、一軍に上げたばかりの若い投手を交代させなかった立浪和義監督の采配は、中日ファンだけでなく他球団のファンやOBからも物議を醸した*2

加えて、近藤が失点を重ねる中でも中日内野陣はなかなかマウンドに集まらず、9回を投げきった時に(グラウンドから確認できる範囲で)ベンチで出迎えたのは外様である加藤翔平と後藤駿太のみ*3、チームの雰囲気の悪さや私語禁止令の影響を指摘する声も多かった。
特に、柴田竜拓に死球を与えてしまった際はあまりの惨状ゆえか、帽子を取り深々と頭を下げている近藤の姿が中継のカメラに映し出されており、死球を受けた柴田はおろか、お互いのファンからも近藤のメンタルを心配される状態だった。

試合後のインタビューにて、立浪監督は「近藤には酷なことをした」としたうえで「2アウトまでは取れていたので代えづらい場面だった。勝ちパターンの投手しか残っておらず代えようがなかった」と采配の意図を説明。
実際カード途中の試合だったため一定の理解を示す声もあったが、やはり“それにしても”の感は否めず、そもそもそこまで勝てていないのに勝ちパターン温存の必要があったのか*4という疑問の声が噴出した。
また、そもそも近藤の二軍成績は昇格前の時点で防御率6.48、WHIPは1.88に達しており、敗戦処理とはいえ近藤を一軍で起用したこと自体に問題があるのではとの声も上がった。

対戦相手であったDeNAの選手たちも思うところがあったようで、10失点の最中にはバウアーを皮切りに複数人の選手が困惑や不安の表情を露わにしていた。
試合中のベンチで明らかに困惑しているバウアーの映像を見た当時のスレ民からは「ドン引きで草」「二桁勝利決めた投手の顔じゃない…」「これが日本野球だとは思わんでくれな」と指摘されている。

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バウアーは試合後の取材で「どんなに良い投手でもこういう日が訪れる時もある。だから、前を向き続けてほしい。」とメッセージを送り、9月10日に自身のYouTubeチャンネルで公開した動画*5では近藤について「本当に可哀想だと思った」「落ち込まないで続けるんだ」「世界最高の投手でもそういうときがある」と改めて激励した
また、当時DeNAの育成選手であった加藤大も自身のSNSで「同じ投手として最後のはしんどかった」とコメントを残した。


その翌日、立浪監督はこの試合で登板した4投手全員を登録抹消
近藤については現実的に62球も投じたリリーフはどのみち数日投げられないという事情も考慮する必要はあるが、(当時防御率5点台だったとはいえ)4人で唯一無失点に抑えた岡野祐一郎までとばっちりで抹消された*6ため、「連帯責任を取らされたのでは?」という推測も上がりなんG民は戦慄。
また、先述した近藤の二軍成績を踏まえて「ビハインドの投手が足りなかった(から近藤を投入せざるを得なかった)のに、ビハインドの投手を複数抹消する余裕はあるのか」との声も聞かれた。

シーズンオフになって、本事件の翌日に外野ポール間走を2日で200本の罰走が行われたという記事がリリースされた。記事によれば、コーチと近藤本人が相談したうえで、コーチが「気の済むまで走ってこい」として行われたが、片岡二軍監督含めコーチ陣は200本走を止めなかったとされる。なおソースがポストセブンなので事実かは不明
この報道に対し、エドウィン・エスコバー(DeNA)が「Terrible, that’s not Professional.*7」と投稿(のち削除)するなど複数の野球関係者から非難の声が上がったが、この件については他ならぬ球団広報が「8月26日の近藤選手の練習メニューについては、コーチと本人が相談して決めたものです。本人も練習については納得していて、コーチも『それなら気の済むまで走れ』と指示した。罰走というものではございません」と回答している。

そして、近藤については次のチャンスもないまま戦力外通告を受けて現役引退に追いやられる可能性が危惧されていたが、最終的に戦力外にはなったものの育成再契約という形に落ち着いている。

  • 間が悪いことに、中日のお膝元・東海地方ではこの試合のNHK中継が組まれており、さらに大島洋平が試合前時点で2000本安打達成まであと2本と間近に迫っていたため、偉業達成の瞬間目当てで中継を視聴していた地元ファンも多数いたが、彼らにとっては大島の2000本安打は見られず*8、逆に近藤の晒し投げは公共電波で東海三県全域に晒される*9という、まさに踏んだり蹴ったりな結果となってしまった。
  • プロ野球を離れたところでは、近藤の母校である札幌学院大学の公式X(旧Twitter)が近藤を激励する投稿を行っている。
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*1 1イニングの投球数としては1991年8月13日に記録した斎藤雅樹(巨人)と並ぶ歴代2位タイ。1位は2004年4月7日の8回に吉野誠(阪神)が記録した64球だが、奇しくも近藤の試合を含めた3試合すべてが現在のDeNAに相当するチーム(斎藤の時は大洋、吉野の時は横浜)との戦いで発生している。
*2 9回表のベンチにおける立浪の表情や、イニング終了後即ベンチ裏へ消えていったことを指して「監督が戦う顔をしていない」という趣旨の指摘も見られた。
*3 加藤翔は元ロッテ、後藤は元オリックス。また内野陣で最初に声を掛けに行ったのも同じく外様の宇佐見真吾(元巨人→日本ハム)であった。
*4 中日は17日の巨人戦から連敗中であり、ベンチに残っていた勝ちパの投手の中で直近の試合で投げたのは22・23日の2試合(当該試合前日の24日は試合なし)で連投した藤嶋健人とマイケル・フェリスの2人だけである。無論、ブルペンでの準備もあるためこの期間が完全な休養ではなかった可能性もあるが、勝ちパ投手の運用には比較的余裕があったと考えられる。
*5 この件への言及は6:00~。
*6 なお、岡野はこのまま一軍復帰が叶わずオフに戦力外となって引退したため、この試合がプロ最終登板となった。
*7 和訳:酷い、プロのやることではない。
*8 1999本目のヒットは第1打席で出たが、2000本目が打てなかった。翌26日の試合の第2打席で達成。
*9 東海地方でおもに中日戦を中継する東海テレビやCBCテレビはゴールデンタイムの19:00-20:54での中継となり、試合終了まで見られないことが多い一方、NHKは試合終了まで放送するため、試合終盤だが放映されていた。
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