近藤の62球

Last-modified: 2024-05-02 (木) 09:55:13

2023年8月25日の中日ドラゴンズ対横浜DeNAベイスターズ戦(バンテリンドームナゴヤ)での出来事。
所謂「晒し投げ」に該当する。 


試合経過

試合直前の時点で6連敗中・借金26だった中日は、この日も先発の松葉貴大が6回5失点、2番手の福島章太が1回3失点と序盤から劣勢。打線も相手先発のバウアーに8回2失点と抑えられ2-8と大勢は決した状態であった。その9回表、中日ベンチはこの日2年ぶりに一軍昇格して来たばかりの近藤廉*1を4番手として即登板させる。

しかし先頭の佐野恵太を安打で出すと、続く牧秀悟ネフタリ・ソトの連打と中堅手・岡林勇希のエラーも絡み2失点。不運な当たりや岡林・(土田)龍空という守備の要にミスが生じるなど気の毒な点はありながらも2アウトまではこぎ着けたが、そこからあと1つのアウトが取れず四球も連発し大炎上してしまう。

ところが投手の交代は行われず、近藤はこの登板だけで打者16人の猛攻を受け1イニングで62球も投じ*2被安打8・与四球4・与死球1・10失点(8自責点)、防御率は僅か30分の間に72.00まで破壊されてしまった。*3
結局試合は2-18で敗戦し、7連敗を喫した他バンテリンドームでの1試合最大失点、球団ワーストの借金27など不名誉な記録を更新することになってしまった。


9回表・近藤の投球内容

打者数(打順)打者打席結果(失点)投球数備考
総投球数62球
1人目(3)佐野恵太中安打1球関根大気が代走
2人目(4)牧秀悟中安打中失(1)5球林琢真が代走
3人目(5)N.ソト右二塁(1)2球西浦直亨が代走
4人目(6)大和二ゴロ2球
5人目(7)伊藤光空三振4球
6人目(8)柴田竜拓四球7球
7人目(9)山本祐大左安打(1)4球T.バウアーの代打
8人目(1)大田泰示中二塁(2)2球
9人目(2)桑原将志四球5球
10人目(3)関根大気四球5球
11人目(4)林琢真左二塁(3)6球
12人目(5)西浦直亨中安打(1)1球
13人目(6)京田陽太四球6球大和の代打
14人目(7)伊藤光中安打(1)1球
15人目(8)柴田竜拓死球3球
16人目(9)山本祐大遊ゴロ8球


試合結果

8月25日(金) バンテリンドーム 18回戦(中日4勝13敗1分)
試合時間3:18(開始18:00 終了21:18) 入場者32,063
 
123456789RHE
DeNA301001301018200
中日001001000271
 
バッテリーDe○バウアー(10勝4敗)、宮城-伊藤、山本
●松葉(1勝4敗)、福島、岡野、近藤-木下、石橋


反響

敗戦処理を綺麗にできなかった近藤にも問題はあるが、一方で1イニングで10失点したのも関わらず、一軍に上げたばかりの若い投手を全く投手交代をする気がなく、結局させなかった立浪和義監督の采配は中日ファンはおろか、他球団のファン、さらには中日内外のOBをも巻き込み、物議を醸した。

加えて、近藤が失点を重ねる中でも中日内野陣は中々マウンドに集まらず、9回を投げきった時にベンチで出迎えたのは外様である加藤翔平(元ロッテ)と後藤駿太(元オリックス)のみで*4立浪監督は9回表の終了後即ベンチ裏へ消えていった*5ことから、チームの雰囲気の悪さを指摘する声がネットで溢れかえった。
特に、柴田竜拓に死球を与えてしまった際はあまりの惨状ゆえか、帽子を取り深々と頭を下げている近藤の姿が中継のカメラに映し出されており、死球を受けた柴田はおろか、お互いのファンからも近藤のメンタルを心配される状態だった。

試合後のインタビューにて、立浪監督及びチームの立場としては、「近藤には酷なことをした」としたうえで「2アウトまでは取れていたので代えづらい場面だった。勝ちパターンの投手しか残っておらず代えようがなかった」という事情があった事も明かされている。
実際カード途中の試合だったため一定の理解を示す声もあったが、やはり“それにしても”の声が大きいのは否めず、そこまで勝てていないのに勝ちパ温存を選んだ*6ことに対する怒りの声が噴出したり、時を同じくして*7起きていた「令和の米騒動」の件なども絡めて語られるなど、ネガティブな受け取り方をするファンは多い。

対戦相手であったDeNAの選手たちも思うところがあったようで、この日の先発投手であったトレバー・バウアーは近藤を気遣い、試合後の取材で「どんなに良い投手でも調子を崩してしまう時もある。だから、前を向き続けてほしい」と聖人発言をしたうえ、9月10日に自身のYouTubeチャンネルで公開された動画*8にて改めてこの一件を振り返り、近藤に対し「本当に可哀想だと思った」「落ち込まないで続けるんだ」「世界最高の投手でもそういうときがある」と激励の言葉を送った*9
また、当時DeNAの育成選手であった加藤大も自身のSNSで「同じ投手として最後のはしんどかった」とコメントを残した*10*11


その後

その翌日、立浪監督はこの試合で登板した4投手全員を登録抹消
近藤については現実的に62球も投じたリリーフはどのみち数日投げられないという事情も考慮する必要はあるが、(当時防御率5点台だったとはいえ)この試合唯一0点で抑えたはずの3番手・岡野祐一郎までとばっちりで抹消されたため、「連帯責任を取らされたのでは?」という推測も上がりなんG民は戦慄。
また、「ビハインドの投手が足りなかったのにビハインドの投手を複数抹消する余裕はあったのか」「『チーム事情で酷な事をした』のなら一軍でもう一度チャンスを与えても良かったのでは」との声も聞かれた。

シーズンオフになって、本事件の翌日のナゴヤ球場での2軍練習で外野ポール間走2日で200本の罰走が行われたという記事がリリースされた。記事によれば、間走自体はコーチと近藤本人が相談したうえで、コーチの「気の済むまで走ってこい」発言をもとに行われたが、片岡2軍監督含めコーチ陣は200本走を止めなかったとされる。なおソースがポストセブンなので事実かは不明
この報道に対し、エドウィン・エスコバー(DeNA)が「Terrible, that’s not Professional.*12」と投稿(のち削除)するなど複数の野球関係者から非難の声が上がった。
ただし、この件については他ならぬ球団広報が「8月26日の近藤選手の練習メニューについては、コーチと本人が相談して決めたものです。本人も練習については納得していて、コーチも『それなら気の済むまで走れ』と指示した。罰走というものではございません」と回答していることは考慮すべきである。

そして、近藤については次のチャンスもないまま戦力外通告による現役引退に追いやられる可能性まで危惧されていたが、最終的には自由契約を経ての育成再契約に落ち着いている

余談

  • 間が悪いことに、中日のお膝元・東海地方ではこの試合のNHK中継が組まれており、さらに大島洋平が試合前時点で2000本安打達成まであと2本と間近に迫っていたため、偉業達成の瞬間目当てで中継を視聴していた地元ファンも多数いたが、彼らにとっては大島の2000本安打は見られず*13、逆に近藤の晒し投げは公共電波で東海三県全域に晒される*14という、踏んだり蹴ったりな地獄となってしまった。
  • プロ野球を離れたところでは、近藤の母校である札幌学院大学の公式X(旧Twitter)が近藤を激励する投稿を行い、そちらも話題となった。
    loading...
  • この試合の8日後の9月2日に開催されたDeNA対巨人戦(横浜スタジアム)では、巨人が7回までに12点を奪われた上、初回から失点した投手を矢継ぎ早に変え続けた結果、8回開始時点の救援陣が勝ちパターンの2名しかいなくなったため、原監督は内野手の北村拓己を救援登板させる。北村はその起用に応え、一発は浴びたものの1回を投げ切った*16
    原監督は過去にも負けがほぼ確定した試合で野手を登板させたことがあり、そのことからこの近藤の事例でも野手登板をすべきだったとの声が散見された*17が、その直後に実際に野手登板が起こったことで、さらに話題を誘った。


関連項目



Tag: 中日


*1 育成出身でこのときプロ3年目。1年目に支配下登録して2登板もこれ以降一軍経験はなかった。
*2 1イニングの投球数としては1991年8月13日に記録した斎藤雅樹(巨人)と並ぶ歴代2位タイ。1位は2004年4月7日の8回に吉野誠(阪神)が記録した64球だが、奇しくも近藤の試合を含めた3試合すべてが現在のDeNAに相当するチーム(斎藤の時は横浜大洋ホエールズ、吉野の時は横浜ベイスターズ)との戦いで発生している。
*3 3アウトを取る直前には防御率が3桁(108.00)にまで達した。
*4 確認できる限り。また、内野陣で真っ先に声を掛けに行ったのがやはり外様かつ捕手登録でもある宇佐見真吾(元巨人→日本ハム)であったことも指摘されやすい。
*5 この行動や、10失点の最中のベンチの立浪監督の表情を指して「監督が戦う顔をしていない」という趣旨の指摘も見られた。
*6 中日は17日の巨人戦から連敗中であり、ベンチに残っていた勝ちパの投手の中で直近の試合で投げたのは22・23日の2試合(当該試合前日の24日は試合なし)で連投した藤嶋健人とマイケル・フェリスの二人だけであり、勝ちパ投手の運用には比較的余裕があったと考えられる。特に守護神のライデル・マルティネスが直近で投げた試合は9日前の巨人戦にまで遡る。
*7 第一報がこの試合の2日前。
*8 この件への言及は6:00~。
*9 なお、この一件の直後の8月27日に公開された動画でも「負のスパイラルから抜け出す方法」というテーマで話をする一幕があるが、バウアーの動画は基本的に公開の1つ前の週の出来事を主体とした構成のため、この解説が近藤の一件の直後に登場したのは偶然とみられる。
*10 なお、加藤は普段から投稿に寮の食事の写真を添えているが、この日のメニューが「米」を想起させる寿司であったことから一部中日ファンに詰め寄られ、謝罪に追い込まれてしまった。
*11 これらのことから、敵チームの関係者に近藤のケアをさせたという点で中日を指弾する向きもあったが、彼らはこれらの行動を自主的に取っている(先述のバウアーのコメントも「質問に答える前に言いたいことがある」として本人から切り出している)点には留意されたし。
*12 和訳:酷い、プロのやることでは無い。
*13 1999本目のヒットは第1打席で出たが、2000本目が打てなかった。翌26日の試合の第2打席で達成。
*14 東海地方でおもに中日戦を中継する東海テレビやCBCテレビはゴールデンタイムの19:00-20:54での中継となり、試合終了まで見られないことが多い一方、NHKは試合終了まで放送するため、試合終盤だが放映されていた。
*15 ただし、ブルペンにて投球練習をするライデルの姿が確認されたのは事実。ライデルの他にも同じく勝ちパターンである藤嶋の姿も目撃されている。
*16 9回には打順も回ってきたため、そのまま打席に立った(結果は宮城滝太から死球を受けて出塁)。
*17 このとき、高校時代に二刀流だった岡林と、西武時代に投手から野手に転向した川越誠司の2名が候補として挙げられた。また、バウアーも先述の動画内で、大リーグでは野手登板が一般的なことに言及しつつ、中日がそうしなかったことの理由が解らない、との見解を示している。