2023年8月25日の中日ドラゴンズ対横浜DeNAベイスターズ戦(バンテリンドームナゴヤ)での出来事。
所謂「晒し投げ」に該当する。
試合経過
試合直前の時点で6連敗中・借金26だった中日は、この日も先発の松葉貴大が6回5失点、2番手の福島章太が1回3失点と序盤から劣勢。3番手の岡野祐一郎は1回無失点に抑えたが、打線も相手先発のトレバー・バウアーに8回2失点と抑えられ、2-8と大勢は決した状態であった。その9回表、中日ベンチはこの日2年ぶりに一軍昇格して来たばかりの近藤廉*1を4番手として即登板させる。
しかし先頭の佐野恵太を安打で出すと、続く牧秀悟、ネフタリ・ソトの連打と中堅手・岡林勇希のエラーも絡み2失点。不運な当たりや岡林・(土田)龍空という守備の要にミスが生じるなど気の毒な点はありながらも2アウトまで取り、後1つのアウトで自責点0のまま敗戦処理を終えられるところまではこぎ着けたが、そこからその後1つのアウトが取れず、四球も連発し大炎上してしまう。
ところが投手の交代は行われず、近藤はこの登板だけで打者16人の猛攻を受け1イニングで62球も投じ*2、被安打8・与四球4・与死球1・10失点(8自責点)、防御率は僅か30分の間に72.00まで破壊されてしまった。
結局試合は2-18で敗戦し、7連敗を喫した他バンテリンドームでの1試合最大失点、球団ワーストの借金27など不名誉な記録を更新することになってしまった。
9回表・近藤の投球内容
打者数(打順) | 打者 | 打席結果(失点) | 投球数 | 備考 |
---|---|---|---|---|
総投球数 | 62球 | |||
1人目(3) | 佐野恵太 | 中安打 | 1球 | 関根大気が代走 |
2人目(4) | 牧秀悟 | 中安打、中失(1) | 5球 | 林琢真が代走 |
3人目(5) | N.ソト | 右二塁(1) | 2球 | 西浦直亨が代走 |
4人目(6) | 大和 | 二ゴロ | 2球 | |
5人目(7) | 伊藤光 | 空三振 | 4球 | |
6人目(8) | 柴田竜拓 | 四球 | 7球 | |
7人目(9) | 山本祐大 | 左安打(1) | 4球 | T.バウアーの代打 |
8人目(1) | 大田泰示 | 中二塁(2) | 2球 | |
9人目(2) | 桑原将志 | 四球 | 5球 | |
10人目(3) | 関根大気 | 四球 | 5球 | |
11人目(4) | 林琢真 | 左二塁(3) | 6球 | |
12人目(5) | 西浦直亨 | 中安打(1) | 1球 | |
13人目(6) | 京田陽太 | 四球 | 6球 | 大和の代打 |
14人目(7) | 伊藤光 | 中安打(1) | 1球 | |
15人目(8) | 柴田竜拓 | 死球 | 3球 | |
16人目(9) | 山本祐大 | 遊ゴロ | 8球 |
試合結果
2023年8月25日(金) バンテリンドーム 18回戦(中日4勝13敗1分) |
---|
試合時間3:18(開始18:00 終了21:18) 入場者32,063 |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
DeNA | 3 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 3 | 0 | 10 | 18 | 20 | 0 | |
中日 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 2 | 7 | 1 |
バッテリー | De | ○バウアー(10勝4敗)、宮城-伊藤、山本 |
---|---|---|
中 | ●松葉(1勝4敗)、福島、岡野、近藤-木下、石橋 |
反響
敗戦処理を綺麗にできなかった近藤にも問題はあるが、一方で1イニングで10失点したのも関わらず、一軍に上げたばかりの若い投手を交代させる気が全く無く、結局させなかった立浪和義監督の采配は中日ファンはおろか、他球団のファン、さらには中日内外のOBをも巻き込み、物議を醸した。
加えて、近藤が失点を重ねる中でも中日内野陣は中々マウンドに集まらず、9回を投げきった時にベンチで出迎えたのは外様である加藤翔平(元ロッテ)と後藤駿太(元オリックス)のみで*3、立浪監督は9回表の終了後即ベンチ裏へ消えていった*4ことから、チームの雰囲気の悪さや私語禁止令の影響を指摘する声がネットで溢れかえった。時を同じくして*5起きていた「令和の米騒動」の件なども絡めて「米を奪われた野手が米をたらふく食える投手に優しく出来るわけないよな」「米の恨み強すぎやろw」「米食べんから血糖値低くてボーっとしているだけ」等という声もあった。
特に、柴田竜拓に死球を与えてしまった際はあまりの惨状ゆえか、帽子を取り深々と頭を下げている近藤の姿が中継のカメラに映し出されており、死球を受けた柴田はおろか、お互いのファンからも近藤のメンタルを心配される状態だった。
試合後のインタビューにて、立浪監督及びチームの立場としては、「近藤には酷なことをした」としたうえで「2アウトまでは取れていたので代えづらい場面だった。勝ちパターンの投手しか残っておらず代えようがなかった」という事情があった事も明かされている。
実際カード途中の試合だったため一定の理解を示す声もあったが、やはり“それにしても”の声が大きいのは否めず、そこまで勝てていないのに勝ちパ温存を選んだ*6ことに対する怒りの声が噴出した。ちなみに近藤の二軍における成績はWHIP1.88で防御率6.48だったため、「この成績で何で一軍に昇格させたのかよく分からん」「晒し投げの是非以前に昇格させた首脳陣の頭がおかしいレベル」「そもそも二軍と連携取れてないからセーフ」という声も上がった。
対戦相手であったDeNAの選手たちも思うところがあったようで、この日の勝利投手となったバウアーは近藤を気遣い*7、試合後の取材で「どんなに良い投手でもこういう日が訪れる時もある。だから、前を向き続けてほしい。」と聖人発言をしたうえ、9月10日に自身のYouTubeチャンネルで公開された動画*8にて改めてこの一件を振り返り、近藤に対し「本当に可哀想だと思った」「落ち込まないで続けるんだ」「世界最高の投手でもそういうときがある」と激励の言葉を送った*9。
また、当時DeNAの育成選手であった加藤大も自身のSNSで「同じ投手として最後のはしんどかった」とコメントを残した*10*11。
その後
その翌日、立浪監督はこの試合で登板した4投手全員を登録抹消。
近藤については現実的に62球も投じたリリーフはどのみち数日投げられないという事情も考慮する必要はあるが、(当時防御率5点台だったとはいえ)この試合唯一0点で抑えたはずの3番手・岡野祐一郎までとばっちりで抹消された*12ため、「連帯責任を取らされたのでは?」という推測も上がりなんG民は戦慄。
また、「ビハインドの投手が足りなかったのにビハインドの投手を複数抹消する余裕はあったのか」「『チーム事情で酷な事をした』のなら一軍でもう一度チャンスを与えても良かったのでは」との声も聞かれた。
シーズンオフになって、本事件の翌日のナゴヤ球場での2軍練習で外野ポール間走2日で200本の罰走が行われたという記事がリリースされた。記事によれば、間走自体はコーチと近藤本人が相談したうえで、コーチの「気の済むまで走ってこい」発言をもとに行われたが、片岡2軍監督含めコーチ陣は200本走を止めなかったとされる。なおソースがポストセブンなので事実かは不明。
この報道に対し、エドウィン・エスコバー(DeNA)が「Terrible, that’s not Professional.*13」と投稿(のち削除)するなど複数の野球関係者から非難の声が上がった。
ただし、この件については他ならぬ球団広報が「8月26日の近藤選手の練習メニューについては、コーチと本人が相談して決めたものです。本人も練習については納得していて、コーチも『それなら気の済むまで走れ』と指示した。罰走というものではございません」と回答していることは考慮すべきである。
そして、近藤については次のチャンスもないまま戦力外通告による現役引退に追いやられる可能性まで危惧されていたが、最終的には自由契約を経ての育成再契約に落ち着き、翌2024年には2軍戦で43イニングを投げ、WHIP1.07、防御率2.09とまずまずの成績を残している。
余談
- 間が悪いことに、中日のお膝元・東海地方ではこの試合のNHK中継が組まれており、さらに大島洋平が試合前時点で2000本安打達成まであと2本と間近に迫っていたため、偉業達成の瞬間目当てで中継を視聴していた地元ファンも多数いたが、彼らにとっては大島の2000本安打は見られず*14、逆に近藤の晒し投げは公共電波で東海三県全域に晒される*15という、踏んだり蹴ったりな地獄となってしまった。
- プロ野球を離れたところでは、近藤の母校である札幌学院大学の公式X(旧Twitter)が近藤を激励する投稿を行い、そちらも話題となった。
loading...
- 「あまりの惨状に心を痛めたライデル・マルティネスが、コーチの制止を振り切って投球練習を始めていた」という情報まで出たが、これはなんG民が流したデマと確定している*16。
なお、デイリー新潮が2023年9月17日付で出した中日に関する記事で近藤の62球が取り上げられた際に、このデマを事実と誤認したと思しき記載があった。
関連項目
- 馬鹿試合
- 打つ方はなんとかします
- 令和の米騒動
- チュニドラ
- 藤浪の161球
- UNKO…この年は梅津智弘が同じく1イニング10失点の晒し投げの被害にあった。
- 初回50球無失点…(色んな意味で)対極。
- 投手増田…捨て試合への策のひとつ。
- ガトリング継投
Tag: 中日