現中日ドラゴンズ二軍監督・片岡篤史が阪神タイガースのコーチ時代に編み出した宗教。
「フライボール革命」は邪教であり、(右打者は)とにかく右方向を意識しろが主な教義。
「セカンドゴロレボリューション」とも揶揄され、地獄が生まれた一因とされている。
概要 
片岡は2010年に一軍打撃コーチとして阪神・真弓明信政権に入閣したが、2012年オフに打撃不振を理由に辞任。
そのため3年後の2015年オフに誕生した金本知憲政権が一軍打撃コーチとして再入閣させたことを疑問視する声もあったが、前任の関川浩一*1や高橋光信*2よりはマシという評価もあり、2年間は大きな問題が起きなかった。
しかしヘッドコーチも兼務した2017年の秋季キャンプで、中谷将大と大山悠輔に「右打ちのススメ」を説き、ひたすら右方向へ打つ練習に取り組ませたことで状況が一変した。
「引っ張るだけではなく、広角に打ち分けられるようになれば打撃の幅が広がる」という指導方針自体は一理あり、現にオリックスの若月健矢が2020年に田口壮から右打ち指令を受け打撃改造を行った結果、打撃向上に繋がった例もあるため一概に間違いとは言えない。しかし、片岡の指導はやり過ぎるあまり「セカンドゴロゲッツーを打つ練習」「2017年の反動でセカンドゴロに飢えているのか」などと言われ、阪神ファンを大いに不安にさせた。
2018年阪神の貧打ぶり 
阪神ファンの不安はオープン戦から的中。貧打もあり序盤から連敗街道を爆走しオープン戦ぶっちぎり最下位になったのを皮切りに、6月中旬までは打率1割台は当たり前、二割台あれば上々という有様。チームの四球数・三振数・得点圏打率・残塁数・併殺数もセでぶっちぎりワーストで、2016年や暗黒時代すら下回る「史上最低打線」*3とさえ言われた。
また中谷は開幕から2か月近く二軍に幽閉され、大山は規定打席未満ながらセ・リーグ最多併殺を長らく記録していた。
期待の新外国人であるウィリン・ロサリオも、オープン戦で早くも弱点を露呈。5月下旬に二軍落ちする頃には三振・併殺・失策の裏三冠王であの人の再来と揶揄された。
この頃になると片岡の右打ち指導に疑惑を持つ声が徐々に出始め、プルヒッター右打者たちの持ち味を消しまくる指導のことを、村田真一ヘッドコーチの「コンパクト教」に擬え「右打ち教」という言葉が誕生した。
そんな中、開幕以降二軍漬けだった陽川尚将らがこの年から二軍監督に転じた矢野燿大や濱中治二軍打撃コーチの指導のお陰で結果を残し一軍のカンフル剤となったこと、梅野隆太郎や大山が中村紀洋のYouTube上の打撃指導の動画を視聴し*4、それを参考に打撃フォームを修正し復調した*5ことがあり、片岡の指導は二軍首脳陣は愚かYouTubeの動画にさえ劣るとみなされてしまった。
なお、片岡の指導には野球解説者たちも著しく低い評価を与えている*6。
結局、右打ち教を蔓延させた結果、大山たちを伸び悩ませ17年ぶりの最下位と言う地獄を招いてしまい、シーズン終盤は金本と片岡を非難する横断幕や苛烈なヤジが飛びながらも、翌シーズンも金本体制の継続は決定的であり片岡後任の一軍打撃コーチとして新井貴浩の阪神復帰が取り沙汰されたり和田一浩の名が上がっていた。
ちなみに当の片岡は二軍監督に配置転換が内定しており、翌年以降も右打ち教の継続が心配されていた。
右打ち教の終焉 
しかし、この決定に不服だったのが、阪神の親会社である阪急阪神HD*7*8である。
同社は、株の値動きや毎年6月に行われる株主総会の情勢が阪神タイガースの成績で左右されると言っても過言ではない特殊な事情がある。
当然、オープン戦とペナントで最下位、交流戦もあわや最下位という一軍最下位コンプリート同然の暗黒期ばりの非常事態*9になってしまった事から、HD株の下落や来年の株主総会の泥沼化を見過ごす訳には行かなかったのか、最終的には電鉄本社を飛び越えHD本体がわざわざ介入する異例の事態となり、金本監督と坂井信也オーナーが揃って辞任。*10
片岡自身も打撃不振の責任を取り、10月14日付で阪神を退団するという結末で2018年シーズンは幕を閉じた。
2018年と2019年シーズンのチーム打撃成績 
1)2018年(最下位)
- 打率.253(セ5位)
- 長打率.361(セ6位)
- 得点圏打率.265(セ4位)
- 出塁率.330(セ3位)
- OPS.691(セ6位)
チーム本塁打王:糸井(16本)、次点:福留(14本)
チーム首位打者:糸井(.308)、次点:糸原(.286)
チーム打点王:福留(72)、次点:糸井(68)
2)2019年(3位)
- 打率.251(セ4位)
- 長打率.362(セ6位)
- 得点圏打率.247(セ6位)
- 出塁率.317(セ4位)
- OPS.681*11(セ6位)
チーム本塁打王:大山(14本)、次点:マルテ(12本)
チーム首位打者:糸井(.314)、次点:近本(.271)
チーム打点王:大山(76)、次点:梅野(59)
右打ちコンパクトの元祖 
和田豊*12は現役時代から右打ちを得意としコーチ時代から監督時代まで軽打や右打ちを推奨していた*13ことは有名だが、ある時上本博紀が本塁打を放った時にカミナリを落とした時のエピソードについてこう述べたことがある。
上本は勘違いをしている。幹になる選手、つまり外国人や金本や新井のような選手はホームランを狙うべきだが上本のような小兵がホームランを打って喜んでいてはいけない。 枝となり葉となる選手にはそれなりの役割がある。ホームランよりもまずは塁に出ること。転がすこと。ランナーがいたら右に打つこと。ヒットでなくとも構わない。 私は現役時代、キャンプでホームランを打つ練習をした。それは「今日で長打は打ち止めだ」と自分を戒める為の練習だった。 身長や腕力など、身体的にどうしようもない事はある。しかし小兵は小兵なりの戦い方をするしかない。だからホームランの上本に雷を落としたのです。
「フライボール革命」以降、小兵でも狙えるならフルスイングして長打を狙うべきとする近年の風潮からすればまさに時代錯誤もいいところであり、和田の考えは片岡よりも村田の考え方に近いものがあり、和田を「右打ち教」「コンパクト教」双方の元祖とみなす向きもある*14。
かつて金本は、解説者時代に名前こそ出さなかったものの暗に和田と村田真一の打撃論を批判していたのだが、自分が監督として率いたチームの打撃スタイルがまさしく和田のそれになってしまったというのは皮肉という他ない。