即戦力を評して取った選手が尽く使い物にならなかったドラフトのこと。
ここでは主に2014年における中日ドラゴンズのドラフトに対する評価を扱う。
【目次】 |
概要
2014年ドラフト会議まで
2014年の中日は、主力の高齢化が進む一方で、若手は伸び悩んでいたことから、ドラフトで即戦力重視の方針を示し、山﨑康晃(亜細亜大)の1位指名が有力視されていた。
しかし、当日になって方針転換、ドラフト1位で野村亮介*1(三菱日立パワーシステムズ)を単独指名。野村はどちらかといえば素材型であり、しかも山崎を最初に指名していれば一本釣り出来たために疑問の声が上がったが、最終的に社会人の有力野手4人を獲得した落合博満GM(当時)の手腕を評価する声もあり、この時点では賛否両論だった。また、伝統的に即戦力中心のドラフトに対して厳しい評価をすることで有名な小関順二氏がヤクルトと共に「指名に軸を感じられない」と酷評したことで、逆に成功ドラフトを確信した中日ファンも少なくなかった。
プロ入り後
かつて杉下茂や星野仙一が背負い、中日でエースナンバーとされる「20」を与えられるなど期待を集めていた野村だったが、新人年の春季キャンプでいきなり右肩痛を発症、シーズンでも中継ぎとしてわずか3試合登板のみに終わる。その後は一軍での登板すらなく3年で戦力外通告を受けプロの世界を去ることとなってしまった*2。
一方でDeNAに入団した山﨑は1年目から守護神に抜擢され新人王に輝く。その後も不調な年こそあれど、消耗の激しい中継ぎ・抑えとしてプロ入りから8年で459試合に登板する鉄腕ぶりで、2018年、2019年に最多セーブを獲得、2022年には29歳10ヶ月で(当時)史上最年少となる200セーブを達成する*3など大活躍している*4。
また野村に加え、落合が特に熱を入れて指名させた結果、かつてのドラフト1位であった堂上直倫から剥奪*5してまで背番号1*6を与えられたのみならず早くから異様なまでの重圧をかけられてしまった3位・友永翔太もこの年の中日の指名選手の象徴とされることが多い。
その往時の人気ぶりは一軍出場がほとんどないにもかかわらず友永スレが定期的に立っていたレベルであり、登場しないにもかかわらず登場曲が3つもあるなどネタにされることもあった。
友永自身、引退後に出演したプロ野球戦力外通告の番組に「落合博満が惚れ込んだ才能」と銘打たれて出演し、観衆などから「背番号が泣いているぞ」と繰り返し批判されたことを悲痛な面持ちで語っており、即戦力を期待されたとはいえ当初からプレッシャーをかけられすぎていたことには同情の声も上がった。
10人近い本指名選手に高校生が1人もいないという大胆な指名は(具体的な大卒及び社会人選手の選定自体も含めて)完全に裏目に出た形となり、1位・野村が3年で戦力外となったことを始め、多くの選手がかなりの速いペースでチームを去っていき、残った選手もほぼ在籍しているだけで「戦力」とは言いがたい状況が続いたことでこの呼称が定着した。
ちなみにドラフト1位の選手はなかなか結果が出なくてもかなり長い目で見てもらえる上に引退後の保証も手厚いというのが古くから指摘される傾向であり、その背景には「うちはドラフト上位の選手を手厚く守る」と示すことで新規のスカウト活動を成功させる目的もあるためというのが定説だが、そんな1位の選手がわずか3年で戦力外となったことは誰の目にも明らかな失敗と映っていたことを物語っている。
中日の2014年ドラフト指名選手一覧
通算成績は2023年レギュラーシーズン終了時点。『一軍出場』は一軍出場経験・他球団への在籍経験ともにある場合、「通算出場数(指名球団での出場数)」で示す。
順位 | 名前 | 守備位置 | 出身 | 一軍出場 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 野村亮介 | 投手 | 三菱日立パワーシステムズ | 3試合 | 2017年限りで戦力外。 |
2 | 浜田智博 | 投手 | 九州産業大 | 1試合 | 2016年に育成落ち、2020年限りで戦力外。 |
3 | 友永翔太 | 外野手 | 日本通運 | 34試合 | 2019年限りで戦力外。 |
4 | 石川駿 | 内野手 | JX-ENEOS | 31試合 | 2020年限りで戦力外。 |
5 | 加藤匠馬 | 捕手 | 青山学院大 | 217(136)試合 | 現役。2021年途中に加藤翔平とのトレードでロッテへ移籍するも、2022年オフに無償トレードで中日に復帰(詳細は後述)。 |
6 | 井領雅貴 | 外野手 | JX-ENEOS | 216試合 | 2021年限りで戦力外。 |
7 | 遠藤一星 | 内野手*7 | 東京ガス | 293試合 | 2021年限りで戦力外。 |
8 | 山本雅士 | 投手 | 四国IL・徳島 | 3試合 | 2018年限りで戦力外。 |
9 | 金子丈 | 投手 | 大阪商業大 | 11試合 | 2017年限りで戦力外。 |
育成1 | 佐藤雄偉知 | 投手 | 東海大付属相模高 | 育成指名であることを理由に入団拒否。 | |
育成2 | 石垣幸大 | 投手 | いなべ総合学園高 | なし | 2016年限りで戦力外。 |
育成3 | 藤吉優 | 捕手 | 秀岳館高 | なし | 2017年限りで自由契約*8。 |
育成4 | 近藤弘基*9 | 外野手 | 名城大 | 40試合 | 2016年に支配下契約を勝ち取るも、2019年限りで戦力外。 |
育成指名はともかく、本指名の選手はいずれも即戦力を期待されながら、谷繁元信~森繁和体制の2018年まで誰一人として一軍でまともに活躍できず、この年の出世頭の遠藤ですら守備難を理由に激戦区の外野手に転向してからはさらに出場機会が激減。
なお、彼らの入団当初の二軍打撃コーチは殆ど実績を残していない上にかつて森岡良介とのトラブルで無能扱いされていた高柳秀樹1人しかいなかったことから育成ミスとする意見も存在する。
とはいえ、2014年ドラフトは全体を見ても歴史的不作年で、2013年入団選手よりも早くに引退したケースが多いと話題になったこともあり、特に即戦力路線で指名を行った球団にとっては難しいドラフトだったともされている。
この年1年目から「即戦力」として活躍できたと言えるのは投手なら山﨑の他にはパ・リーグ新人王の有原航平(早稲田大→日本ハム)、高木勇人(三菱重工名古屋→巨人)、野手を含めても中村奨吾(早稲田大→ロッテ)、野間峻祥(中部学院大→広島)、西野真弘(JR東日本→オリックス)らの名前が挙がる程度であった。
なお落合の即戦力重視ドラフトはこの年に限った話ではなく、彼が最初に携わったドラフトである10年前の2004年ドラフトでも本ドラフトと同様に大学生・社会人選手のみ(計10人)を指名している。このドラフト自体は2位の中田賢一を筆頭に4位で川井進、5位で鈴木義広、6位で石井裕也と息長く活躍した投手を複数人獲得しており、投手に限れば十分成功と言えるが、涌井秀章(横浜高校から西武が1巡目で指名)を1位指名するよう推薦するスカウト陣の声を落合が「高校生はいらない」と押し切って*10自由獲得枠で獲得した樋口龍美(当時28歳)は3年間で一軍登板がないまま引退しており、野手陣に至っては当時黄金時代にあった中日野手陣の層の厚さに阻まれたこともあってか誰1人として一軍定着を果たせず、落合が監督を退任した7年目の2011年限りで全滅している*11。
与田体制で起用法に変化
与田剛体制になった2019年は一転して、加藤は中日捕手陣では最多の92試合に出場。遠藤はスタメンこそ少ないものの一度も抹消される事なく1年間一軍に帯同。
井領もアルモンテの不振や平田の一時離脱などで一軍に食い込み、8月に故障離脱するまでは月間MVPの候補に挙がるほどの活躍を見せた。また、石川は一軍出場は少なかったもののファームで打率・打点の2冠となり、躍進が期待された。
期待されていた「即戦力」としては誰一人として機能しなかったものの、加藤ら一部の選手は遅まきながらプロの水に馴染み、ここにきて同年のドラフトはようやく汚名を返上し始めたかに思えた。
……もっとも、この1年間のこうしたレベルの活躍で簡単に汚名返上と評されること自体が逆説的にこのドラフトの深刻さを象徴しているという声もなかったわけではなく、翌年の顛末を見る限りその懸念は正しかったと言わざるを得ない。
2021年、全選手が退団へ
翌2020年、遠藤・井領は揃って打率2割前後に低迷。石川は度重なる怪我と高年齢(当時30歳)が影響したのか同年限りで戦力外通告を受けることとなった。
また、加藤は木下拓哉やアリエル・マルティネスに押されて出番が減少していき、2021年シーズン中に加藤翔平とのトレードでロッテに放出された。
そして残る遠藤・井領は2021年も目立った成績を残すことはできず、2人とも10月7日に戦力外通告を言い渡され引退。指名した全選手が中日からいなくなった。
総括すると、この年のドラフトで獲得した選手たちは文字通りの即戦力外という結末こそ免れたものの、結局誰一人として中日ではレギュラーを勝ち取ることができず、「同年のヤクルト(後述)よりはマシ」程度に留まっており、近年の中日の中で最悪の失敗年だったという評価を覆すことはできなかった。
また、この時のGMである落合博満が退任して以降の中日は即戦力中心、及び社会人出身の選手のドラフト指名を避けており*12、良くも悪くも後のドラフトに影響を与えたともいえる。
2022年、加藤匠馬出戻り
ロッテへ移籍していた加藤匠は初年度から57試合に出場、優勝争いに加わるものの打率は1割を切るなど打撃面は相変わらず。翌2022年シーズンは松川虎生(2021年ドラフト1位)の加入や佐藤都志也(2019年ドラフト2位)の台頭により24試合の出場に留まっていた。
ところが中日は同年オフに山下斐紹、桂依央利に戦力外通告をし、アリエル・マルティネス含めて3名もの捕手が退団。その矢先には石橋康太がクリーニング手術により長期離脱を余儀なくされ、壊滅的な捕手不足に陥ってしまった。その中で昨年まで中日に在籍し投手陣を知り尽くしている加藤匠に白羽の矢が立ち、無償トレードによる中日復帰を果たした。こうして現在では即戦力外ドラフト組は全滅ではなくなっている。
同年の類例
ここでは同じくらい(もしくはそれ以上)悲惨な結果に終わった、同年の東京ヤクルトスワローズと東北楽天ゴールデンイーグルスのドラフトにも言及する。
東京ヤクルトスワローズの場合
同年はヤクルトも即戦力重視の指名を行ったが、たった3年でドラフト1位含む5人+育成1人が戦力外。残る2人も2019年に山川、2020年に風張が戦力外となり、6年でヤクルトから全滅。風張はトライアウトを経てDeNAに移籍したがその年限りで戦力外となり、7年でNPBから全滅した。
その惨状たるや、
- 全投手の登板数を合算してもたったの105
- そのうち88試合は風張一人で稼いでおり、それ以外の投手は全員登板数10試合未満
- 野手で入団した2人は共に一軍での安打どころか出場数が0
という有様で、上述した中日より更に悲惨な結果に終わってしまった。
順位 | 名前 | 守備位置 | 出身 | 一軍出場 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 竹下真吾*13 | 投手 | ヤマハ | 1登板 | 2017年限りで戦力外。 |
2 | 風張蓮 | 投手 | 東農大北海道オホーツク | 93(88)登板 | 2020年限りで戦力外。同年オフにDeNAへ移籍するも翌2021年に戦力外。 |
3 | 山川晃司 | 捕手*14 | 福工大附城東高 | なし | 2019年限りで戦力外。 |
4 | 寺田哲也 | 投手 | 四国IL・香川 | 3登板 | 2016年限りで戦力外。 |
5 | 中元勇作 | 投手 | 伯和ビクトリーズ | なし | 2016年限りで戦力外。 |
6 | 土肥寛昌 | 投手 | Honda鈴鹿 | 8登板 | 2017年限りで戦力外。 |
7 | 原泉 | 外野手 | 第一工業大 | なし | 2017年限りで戦力外。 |
育成1 | 中島彰吾 | 投手 | 福岡大 | 5登板 | 2016年に支配下契約を勝ち取るも、2017年限りで戦力外。 |
東北楽天ゴールデンイーグルスの場合
シーズン最下位に終わったこの年、通常ドラフトで7人、育成ドラフトで2人指名。1・2位、育成1位では素材型の高卒選手を指名し、それ以外を大卒・社会人・独立リーグ出身の即戦力で固めるという、どちらかと言えば即戦力に比重を置いたドラフトであった。しかしそのうち3位以下で指名された7人は6年で全員が戦力外。2位の小野も二軍の帝王のまま鈴木大地の人的補償でロッテへ移籍したため、わずか6年で2位以下が楽天を去るという中々に荒廃したドラフトとなった。
唯一残った安樂智大は中継ぎ転向で一定の結果を残していたが、同僚へのパワハラというシャレにならない不祥事で自由契約となり、9年目にして楽天から全滅。結果的に上記2球団に負けず劣らずの悲惨な結果になってしまった。
順位 | 名前 | 守備位置 | 出身 | 一軍出場 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 安樂智大 | 投手 | 済美高 | 231登板 | 2023年限りで自由契約。 |
2 | 小野郁 | 投手 | 西日本短大附高 | 172(39)登板 | 現役。2019年オフに鈴木大地の人的補償でロッテに移籍。 |
3 | 福田将儀 | 外野手 | 中央大 | 112試合 | 2017年限りで戦力外。 |
4 | ルシアノ・ フェルナンド*15 | 外野手 | 白鷗大 | 72試合 | 2018年オフに育成落ち、2019年に支配下復帰するも2020年限りで戦力外。 |
5 | 入野貴大 | 投手 | 四国IL・徳島 | 30登板 | 2018年限りで戦力外。 |
6 | 加藤正志 | 投手 | JR東日本東北 | 10登板 | 2016年限りで戦力外。 |
7 | 伊東亮大 | 外野手 | 日本製紙石巻 | 8試合 | 2017年限りで戦力外。 |
育成1 | 八百板卓丸 | 外野手 | 聖光学院高 | 43(27)試合 | 2017年に支配下契約を勝ち取るも、2019年限りで戦力外。同年オフに育成契約で巨人に移籍、2021年に支配下復帰するも翌2022年限りで戦力外。 |
育成2 | 大坂谷啓生 | 内野手 | 青森中央学院大 | なし | 2016年限りで戦力外。 |