其の壱

Last-modified: 2007-09-27 (木) 08:19:31

止むことの無い清玄の慟哭は
天才剣士の終焉を示すものだろうか
いや
これは産声…
新たなる怪物の産声…

「あんた誰?」
清玄は意識を取り戻した。だが、目が開かない。そうだ。
自分は光を奪われたのだ。虎眼の秘太刀の前に、剣と将来とは永久に葬られた…!
屈辱と絶望が煮え湯となって喉を焼き、声ならぬ音となって漏れた。
うぉおおおおおぉおおおおおおおお…
穏やかな午後のトリステインに、似つかわしくない呪詛が描き文字となってあふれだす。
生徒たちはルイズたちを遠巻きにしてざわめき出した。
「ちょ、ちょっと何変な声出してんのよ。怪我でもしてるの?」
「ルイズ、サモン・サーヴァントで怪我人を呼び出してどうするの?」
キュルケの野次もどこか精彩を欠いている。

混乱から真っ先に我に帰ったのは、コルベール教師であった。
「香水のモンモランシー!」
「はい、ミスタ・コルベール」
「彼に手当ては急を要します。手伝いなさい」
全身の打撲と切り傷に水の魔法が施され、清玄の痛みは春の淡雪のごとく消えていった。
呪詛の声もやみ、当初の惑乱から立ち直った生徒たちは興味深そうに見ている。
もっとも気がかりであったのは、当のルイズであろう。
「ミスタ・コルベール!」
「なんだね、ミス・ヴァリエール」
「あのー、もう一回召喚させて下さい」
「それはダメだよ」
「でも!怪我人を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」
「いいかね、ミス・ヴァリエール…」

頭越しに行われた押し問答は、ルイズの負けで終わった。
清玄としては相変わらず体の自由はきかないことでもあり、自分の行く末がどうなるのか気が気ではない。
目も見えず、聞こえる言葉は耳慣れない異国じみた名詞ばかりだ。
「ねえ」
初めてルイズが清玄に声をかけた。
「は」
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」
貴族?公家か?
ルイズは清玄の目の前でなにやら身振りをまじえ、呪文を唱えた。
こ、こいつ、何のまじないだ…
「我が名はルイズ(中略)この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
額に杖がふれ、そしてゆっくりと距離をつめてくる気配がする。
「な、なにをする」
「いいからじっとしてなさい」
ルイズの唇が、清玄の唇に重ねられる。
怪我人には似つかわしくない、艶めいた芳香がルイズの鼻をついた。

まじないは成功したらしい。
ルイズは喜びの声をあげており、それを褒める声と冷やかす声がある。
清玄はそれを他人事のように聞いた。
自分は果たして何故このような場所にいるのだろう。
虎眼も虎子たちも居ないこの場所には敵意こそないが、まるで別の世界にでも来たように不確かだ。
と、清玄の体が妙に熱くなった!
「ぐ!ぐぁああああ!」
もがき苦しむ清玄に、ルイズが苛立たしそうに吐き捨てた。
「すぐ終わるわよ。待ってなさいよ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」
この時、盲いた剣士の脳裏に最後に見た光景が蘇った!
絶叫と共に 双眸は再び裂けた。
「ふむ…珍しいルーンだな」