第二十七景 火縄
秋葉山昆嶽神社
清玄からの果たし状のことを
源之助は誰にも漏らさなかった
自分一人の力で清玄に勝利することこそ
虎眼流の跡目であることの証明(あかし)
そう 信じていた
中秋の十五夜
武家では座敷を開け放し
月を鑑賞するのが習いである
根尾谷六郎兵衛
金岡雲竜斉
伊吹半心軒
誰のためであろう 三重の肉体は
再び潤い 妖しく艶めいていた
「お美しうございまする」
検校屋敷の友六である
無双虎眼流は火縄に対し
いかに処するか?
短筒に狙われて動じることなく
無造作に歩み来る標的は初めてである
友六はある事実に気付いた
一発で仕留めねば
次の弾を装填する間に
手負いの虎の牙に
自身の首が狩られる
と なると 狙うべきは
頭と心臓の二箇所
スゥ
半身になった源之助の心臓は
肩の肉で覆われた
狙いは一つ
源之助は額にひりひりと熱を感じている
距離五間
友六の技量ならば絶対に外さぬ間合い
源之助が弾丸を避け得たのは強運と
攻撃部位を頭部に特定することに
成功したためであろう
源之助の鼓動は早まり
生ぬるい汗が全身を伝わった
己がまんまと策にはまり
岩本家を離れるべく
陽動されたことに気付いたのだ
この夜 岩本道場に竜虎と恐れられた
二名の弟子は居ない
夕刻以降 武家の正門は閉ざされ
開かれることは無いが
ゴトッ
閂を外す音がした