057

Last-modified: 2009-02-03 (火) 11:51:34

第五十七景 瘡蓋

 

「千加…」

 
 

ドサァッ

 

男勝りの千加どのが契りを結ぶのを怖がるとは……

 

あせるまい やがて時が満ちれば…

 
 

明けて寛永五年 正月

 

斎田宗之助斬殺さる

 

わああん

 

「宗之助ほどの者にかような思い切った太刀を浴びせるとは 何者の仕業……」

 

その両足は膝の真下より切断され 端正な顔は

 
 

富士山麓

 

「斎田さま あなたの鼻は低く潰れている」

 

いかなる修練を積んだものか すりむけた背中の皮は巨大な瘡蓋となり
手足の爪ははがれ落ちている

 

「千加さま… 頑之助も美しくなりました」
“蝦蟇”の脳内で独自の世界観が構築されていた

 
 

「宗之助さま… 一度も契りを結ばぬうちに逝ってしまわれるなんて」

 

この年 婿選びの“兜投げ”には異例の六名が名乗りを上げた

 

ぎぃぃぃ

 

「ぐわ…」
“兜投げ”の日を待たずして全ての兜が両断されている

 

せんじょうのこころえにて

 

ね… 寝首を掻いたと……

 

汚物をなすりつけた文字である

 
 

寛永五年 五月五日

 

具足姿の乙女が見守る中 兜を持参した六名が挑み
次々と敗れる中 前年 二寸切り込んだ倉川喜左衛門

 

ム ゥ ゥ ゥ

 

やあっ

 
 

お お お

 

「でかしたぞ喜左衛門」
「お美事にございます」

 
 

「千加どの…」

 

「兜投げをなし得たからには拙者と千加どのは既に夫婦も同然
 夜這いをかけたとて誰かに責められる筋合いはないっ」

 

ぶり ぶり

 

「倉川さま あなたの足は曲がっていて醜い… あなたの鼻は低く潰れている
 千加さまとは蒸すばれぬ運命だ」

 
 

巨大な頭部を起点に背と首の筋肉ではね上がる天地逆転の斬法!
人ならぬ“異類”との決闘法を誰が知り得よう!

 

「見たか がま剣法」