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Last-modified: 2007-03-31 (土) 13:02:49

第二十四景 戯れ

高禄をはむ藩士の子であった夕雲が
親に疎まれ捨てられたのは
髷が結えぬからではない

 

流れ流れてようやく巡り合えた
師と呼べる人物 一刀流 小野忠明に
ある時 奇怪な剣を突きつけられる

 

「これなるは南蛮国 以西把爾亜の剣
 はたきを持つがごとく軽く握り
 羽子を投げ込むように突く
 夕雲 この突きを極めい 」

 

異教徒・切支丹の剣法を封じるのは
将軍家剣術指南役小野派一刀流の務めである

 

そのために己自身が捨て石になることを
主君に命じられたらなら よろこんで
仰せつかるのが士の本懐である

 

夕雲にはそれが理解できないのだ

 

どこでどう はぐれたものか
遠い異国より流れ着いた一振りのいびつな剣
そこに夕雲は己自身を重ね合わせた

 

二年後
"れいぴあ"と呼ばれる刺突剣が
一刀流の高弟を蜂の巣に変えていた

 

その必殺の刺突が
虎に捕獲されていた

 

万事休す
そう思った時
虎の拘束が緩んだ!

 
 

虎の眼が見ているのは夕雲ではなかった

 

清玄…

 

「伊良子」

 

清玄の装いは肩衣付の裃姿
岩本家若党の身分の源之助には
着用することも許されぬ出立ちである

 

「夕雲どの 今宵のお相手は虎にございますか」

 

に・・

 
 

「いかん 検校さまお抱えの剣士ゆえ
 先生は躊躇しておられる

 戯れるには手強き相手 伊良子め はめおった」

 
 

「何の音ぞ?」
「夕雲さまが…」

 

戯れなれば 当て身にて…

 

夕雲の頭部は ほぼ二倍に膨れ上がっていたが

 

「夕雲どの?」