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Last-modified: 2007-03-30 (金) 10:36:03

第十一景 秘剣伝授

三重が門松に見とれている同じ頃
牛股権左衛門も市場を奔走していた

 

買い求めていたのは
 勝栗  打蚫  昆布 
これらは盃と合わせることで四方膳と呼ばれ
合戦に出陣する際に武将が食するものである

 

「伊良子 虎眼先生がお呼びだ」
「先生が…」
「急を要するとのこと」
「藤木 若先生と呼べ」

 

秋葉山

 

昆嶽神社は剣客 岩本虎眼が
秘剣 流れ星を開眼した場所であり
虎眼流にとっては聖地である

 
 

「鑓痍によう効く金瘡薬を塗り申した
 じきに高熱も鎮まりましょう
 お拾いいたしておきました」
「~~っ」
「まことお痛ましや」
プギュ プギュ プギュ
「~~っ」
「仕置きつかまつりまする奥方様を
 かかる破目におとしいれた
 伊良子清玄を仕置つかまつりまする」
「~~っ」

 

昆嶽神社… 何ゆえかく場所へ…

 
 

「伊良子清玄 ただいま参着」

 

口元が閉じている…

 

「伊良子清玄 本日 この場にて
 その方に流儀の秘奥を伝授いたす」

 

ひ 秘剣流れ星!
ついにくれるのか 三重に続いて流儀の秘奥

 

「あ ありがたき幸せ」
「さすれば まずこの権左衛門と手を合わせ 業前をお見せした後」
「承知」

 
 

しかと見るがよい虎眼流の跡目は
この清玄をおいて他にないと!

 

勝負あり!

 

ズムッ
「ぐふっ」
「ぅぅ・・」

 

「牛股どの それがしの剣が先…」

 

同門の試合では止めるのが作法である

 

「んああ」

 

「清玄どの!」
「大事ない」

 

「先生は止めよと申しておらぬ」

 

な…
み 妙ぞ!
こはいかなること?

 

「先生」

 

「次 藤木」

 

伊良子清玄ははじめて 藤木源之助の笑みを見た