31
体があまりにも熱い。
これまでも、二人の匂いや体温に当てられて理性が溶けそうになったことは何度もあった。けれど、自分から扉を開き、ここまで無防備に身体を差し出したのは初めてだ。身体の奥底から、自分でも制御できない激しい渇望が沸き起こるのを感じる。欲しい。僕は、僕が思っていた以上に彼らに飢えていたのだ。
「っ、ぷは……」
ようやく唇が離されても、呼吸は一向に落ち着かない。ヒート中ではないはずなのに、この肺を焼くような熱さは何だろう。歓喜と、それを上回るほどの本能的な昂ぶりが僕を支配している。
「おい……」
低くくぐもったディーンの声が、霞む視界の端で揺れた。
「……なに……っ」
濡れた声で、僕は問い返す。
「サム、愛してる……」
そこに宿っていたのは、聞き慣れた兄弟愛の響きではなかった。ディーンの声もまた、情欲に湿り、剥き出しのアルファとしての熱を帯びていた。耳元に吹きかけられる熱い吐息。生まれてからほとんどの時間を共に過ごしてきたこの人と、こんなふうになるなんて。まるで、本当の初夜を迎えるような、恐ろしさと期待の混ざった震えが止まらない。
ディーンの肉厚な身体にゆっくりと抱きしめられ、僕はその圧倒的な安心感に身を預けた。けれど、彼はそこで止まらない。
「俺ばかり楽しむわけにはいかねぇ、だろ?」
抱きしめられたまま、僕の身体はくるりと反転させられた。ディーンに抱きかかえられた不自然な姿勢のまま、ベッドに沈み込む。
眼前には、トレンチコートと上着を脱ぎ捨てたカスティエルがいた。別の温度を纏った彼の青い瞳に見つめられると、蛇に睨まれた獲物のように、指先一つ動かせなくなる。
「キ、……ャス……」
これまでずっと穏やかで、優しい言葉を交わし合ってきた彼が、今、完全にアルファの捕食者へと貌を変えていた。普段通りの延長線上にいるディーンに比べ、キャスの豹変ぶりは凄まじい威圧感を持って僕を圧迫する。
「サム、辛かったら言ってくれ」
言いながら、彼は優しく啄むような所から、深く、執拗なキスを紡ぎ出した。
「……っ、」
ディーンの荒々しさとは対照的な、労わるような、けれど決して逃さない粘着質な口づけ。唾液の筋がすうっと零れ、鎖骨を濡らしていく。
背後では、ディーンが脚を広げて僕を拘束するように抱きかかえている。彼の心音がドクンと鳴るたび、あるいは目の前のキャスに熱い眼差しを向けられるたび、身体中の穴という穴から、二種類の濃密なアルファのフェロモンが蹂躙してくる。
「すげぇ、匂いだ……。俺のキスより、キャスのほうがいいのか?」
嫉妬を滲ませるように、後ろから抱く力が強まった。ディーンが僕の首筋に顔を埋め、柔らかな皮膚を吸い上げる。その刺激に身体が跳ねるが、自由はどこにもない。
「……そんな、んじゃ……っ」
タンクトップを掴むディーンの手が、僕の素肌を露わにしようとする。
「素肌なんて……たぶん、見たことねぇよな。見ないように、してたしな……」
「……サム、もう少し……身体をこっちに」
前後から抱かれ、押し上げられるように服が剥ぎ取られた。地下室の僅かな冷気が肌を刺したのも束の間。ディーンに後ろから、キャスに前方から、隙間なく全裸の身体を抱きしめられ、僕は二つの強大な「火」と「雷」の匂いを、真正面から吸い込むことになった。
「……っ、ァあ、ア!!」
脳が狂おしい悲鳴を上げる。
本来、一人のオメガが対応できるのは一人のアルファだけのはずだ。二つの最強の存在に同時に塗り潰される快楽と恐怖。僕のオメガとしての本能は、もはや制御不能の混乱に陥り、ただ彼らの熱に溶かされるまま、意識の彼方へと飛ばされようとしていた。
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喉の奥を震わせ、込み上げる涙を強引に突き放した。身体を岩のように強張らせ、アルファの毒気に呑み込まれそうな意識の欠片を必死に繋ぎ止める。僕は、単なる弱々しい「オメガ」としてここにいるんじゃない。簡単に降伏もしないし、本能の波に溺れ死ぬこともしたくない。
「ディーン……キャス。僕は、獲物じゃない」
宣告するように喉を鳴らした。二人と共に地獄を潜り抜け、肩を並べて戦ってきた戦友だ。受け入れたからといって、ただ無垢な少女のように抱き伏せられ、理性を奪われるなんて、ハンターとしての僕が許さなかった。
もちろん、フウッと意識が霞み、すべてを明け渡してしまいたくなるのは本音だ。当然だろう、一人のアルファに射すくめられただけで膝を突くオメガだっているのに、ここには最強の二人が揃っている。だからといって、何もかもを投げ出すのは、ただの獣と餌の関係に成り下がるのと同じだ。
「オメガだから抱く、とか……そういうのは嫌なんだ……」
言葉がうまく繋がらない。前から抱きしめてくるカスティエルの、雷を予感させるオゾンの匂い。後ろから支えるように包み込むディーンの、爆ぜる火の粉の匂い。その二つに絡め取られ、脳が蕩けそうになる。この期に及んでこんな意地を張るのは、おかしいだろうか。
「……わかったよ。ったく、その精神力だけは、俺には一生勝てねぇな」
ディーンが苦笑混じりに手をひらつかせ、無理な拘束を解いた。
「まったくだ。これほど強烈な気配を浴びてなお、サムはこれほどまでに気丈だ。私は君のそういう強さを愛しているのだが……。今は少し、その肩の力を抜いてほしい」
キャスの真っ直ぐな言葉が、熱を帯びた皮膚を刺す。そんな大層な話じゃないんだ。オメガとかアルファとかいう種の境界を超えて、ただ愛する人に、愛を持って抱かれたいだけなのだ。
「じゃあ……つまり、『優しく』ってことだな」
思考を放棄したような言い方をしながら、ディーンがカスティエルを促すようにして、改めて僕の上からのしかかってきた。
「……ッ」
ディーンの重み、筋肉のしなり、肌を伝う汗の雫。そして、至近距離で見つめてくる熱いグリーンの瞳。その隅々が自分とひとつに混ざり合っていく感覚だけで、有り体に言えば、僕はもう限界だった。
「サミー、じっとしてていいぞ」
前髪に柔らかなキスを落とされ、上気する鎖骨をディーンの指先が緩やかになぞる。互いの肌に刻まれた、あの悪魔除けの刺青。それを扇情的に、くるくると弄ぶように指でなぞられる。
「……今だけ、こいつを消してやりたいぜ」
「……はッ?」
喘ぎと疑問符が同時に漏れ出した。
「そしたら、俺っていう『悪魔』が、中に入れねぇだろ?」
こんな時まで悪ふざけのようなジョークを言えるのは大したものだが、もう反論する余裕さえ奪われていた。あんなに気丈なことを言っておきながら、モノ欲しげに彼を見つめ返すことしかできない。
「わかったよ。……慣らすか? いや、要らねぇみたいだな」
「ひ、あッ……!」
後ろに無骨な指先が触れる。
準備など必要ないほどに身体は熱く、既にシーツを濡らしている。僕の理性がどんなに拒んでも、身体は正直に、二人のアルファを迎え入れるための準備を終えていた。炎と雷に焼かれながら、僕はただ、深い悦楽の淵へと沈んでいった。
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その時、たしなめるようなカスティエルの声が、静かな雷の気配と共に部屋に響いた。
「ディーン、きちんと馴らせ。彼に苦痛を与えたくないのだ」
「わぁーったよ、分かってるって……。じゃあ、俺は前から頂く」
そんな必要なんてないのに。もう身体の奥は、泣きたくなるほど二人を欲しがっているのに。けれど、二人のアルファはそれを許さず、じっくりと時間をかけて僕を追い詰めていく。
正面からはディーンに力強く抱き締められ、背後からはカスティエルの重厚な圧をかけられる。ぴたりと二人に挟み込まれる形になると、互いの熱と濃密なフェロモンが激しく混ざり合い、一秒ごとに理性が削り取られていくのが分かった。たまらず、僕は縋るようにディーンの広い肩にしがみついた。
「あッ……ん、……」
体勢がわずかに傾いだ瞬間、カスティエルの冷たくて細長い指が、僕の背後へと忍び込んだ。それは優しく、けれど執拗に、艶めかしく内側を揺すり始める。指が動くたび、粘膜が擦れる恥ずかしい水音が密やかな部屋に響き、僕は顔が燃えるほど赤くなるのを感じた。
「や、……キ……ャス、」
内壁に軽く爪を立てられ、緩慢に、しかし容赦のない正確さで秘部を引っかき回される。まだ奥に行くのかと思うほど長い指が、僕自身でも触れたことのない深奥の快感を掘り起こしていく。熱い一点を執拗に行き来するその刺激だけで、脳が真っ白に染まりそうだ。
ず、と一際熱い場所に指先が届いた瞬間、僕の身体は弾かれたように跳ねた。
「……う、わッ……! あ、ッッ……そこ、や! やめ、……」
「ここだな。サム、君の弱点は……。それにしても、ずいぶん奥だな。さすがに隠すのが上手い」
何かを必死に訴えようとしても、まともな言葉にならない。ただカスティエルの指先に翻弄され、そこをカリカリと執拗に突かれるたび、息をすることさえ忘れるほどの強烈な快感が全身を貫く。
「ん、はあッ、は、あッッ!」
のけぞる僕の身体を、ディーンがカスティエルとは異なる野性的な力強さで引き寄せた。
「……さすがに嫉妬するな。こんなに良がられると、面白くねぇ」
「……ん、な、ッ……」
ディーンの深いグリーンの瞳が、快感に溺れ、涙を零す僕の目と至近距離で合う。
「ずっと……こうしたいって、思ってたんだ」
溜まりかねたように彼が身を引き、再び僕の唇を塞いだ。行き場を失った僕の吐息は、オメガの匂いと共にディーンの中へと注ぎ込まれていく。背後では、カスティエルの容赦ない指の動きが、僕の思考と理性の糸を一本ずつ丁寧に解いていった。
部屋に満ちる、激しく淫らな水音。自分がどれほど飢え、彼らを求めているかが完全に露呈していてもなお、彼らは僕を解放してくれない。
ディーンがようやく唇を離した刹那、僕の口からは、自分でも信じられないほど甘ったるい言葉が零れ落ちていた。
「も、……う、だめ……ちょうだい……奥、まで……」
一瞬、カスティエルの指が止まった。ディーンの鋭い視線が、釘のように僕を射抜く。
どんなに匂いに当てられても、どんなに精神をかき乱されても、かつて一度も僕の口から出るはずのなかった、剥き出しの「おねだり」。それが二人のアルファに火をつけたのは、もはや疑いようもなかった。
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「初めて、見たな……お前のそんなとこ」
ディーンの声が、鼓膜を震わせる。カスティエルも、喉を鳴らして「我慢できるか不安だ」と零した。
顔に火が出るほど熱いのは、後ろでカスティエルの指先がクチクチと執拗に動きを再開したからだけじゃない。今の自分は一体、何を言った……?
これまで、どれほど二人に至近距離まで詰め寄られようと、どれほど本能が悲鳴を上げようと言わなかった言葉。壊されないように、踏み越えられないように律し続けてきた精神の防壁が、音も立てずに瓦解してしまった。その事実への、凄まじいまでの羞恥と屈辱。けれど、それ以上に下腹部の疼きが、すべてを塗り潰していく。
「だ、……め……もう、指じゃ……我慢、できない……」
一度崩れると、後は脆いものだった。舌の回らない、情けない声で眼前のディーンに縋り付く。
肌と肌が重なり、ぺっとりと湿った濃厚なフェロモンが辺りに漂い出す。きゅぽ、と、後ろからカスティエルの指先が抜けていく感覚に、背筋が跳ねた。そのわずかな衝撃、喪失感ですら身が震える。知らぬ間に腰を前後させ、僕はディーンに跨るような格好になっていた。
「キャス、いいだろ」
「……やむを得んな」
二人が交わす短い了解の言葉が、ひどく遠くに聞こえる。
もう、どうでもよかった。誰でもいい、この燃え盛るような熱を止めてくれと、はしたないほどに狂っていた。
「ほらサミー、腰上げろ。自分でできるだろ」
突き放すような物言いだが、ディーンの声には期待と昏い企みが乗っている。
僕は肘を突いて身体を持ち上げた。震える膝をどうにか御して、ディーンの逞しい身体のラインに沿って、ゆっくりと腰を下げていく。屹立した熱い塊が、僕の入り口に触れた。
「……ん、あ……」
これを、自分の手で挿れろと、彼は命じている。
膝から抜ける力を必死に繋ぎ止め、震える手で位置を確認する。フェロモンの匂いだけで目眩がしそうだ。ようやく「それらしい場所」に宛てがうと、敏感な粘膜が、ただ触れ合っただけでうねるように歓迎の水音を溢れさせた。
「は、ァ、ッ……!」
「限界なんだろ……?」
騎乗位の体勢で、ディーンに頬を優しく撫でられた。その眼差しに含まれる、今まで一度も見たことのないような無垢な慈愛。それが何より僕の興奮を煽る。
「限界というなら、もちろん我らもだがな……」
珍しく息を荒らげたカスティエルが、後ろから支えるように、僕の身体を介助して抱きしめてくれる。その、どこまでも揺るぎない、けれど熱い力に身を預けた。僕は、彼の大きな手を握りしめる。
「こ、……わ、い……」
こんな状態なのに。いや、すべてを曝け出してしまった今だからこそ、怖いのだ。
これまで堰き止め続けてきた理性を、完全に解き放ってしまうことが。どこまでが「家族」としての我慢で、どこからが「番」としての渇望だったのか。
言葉とは裏腹に、寝室の空気は二人のアルファが放つ「炎」と「雷」の匂いに、どろどろと上書きされていく。肥沃な大地と木々、そして古く優しい本。僕の匂いが、彼らの中に溶け、混ざり合い、一つの歪な愛へと完成されていくのを、僕はただ震えながら受け入れていた。
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「ずっとずっと、お前を守ってきたのは俺だろ……?」
背中に回された腕。いつか子供の頃、不安に震えていた僕をあやすように、ディーンは優しく、それでいて力強く僕の背中を撫でた。
「酷いことなんてするわけないだろ。……な?」
わずかに身体を押され、視線が絡み合う。そこにあるのは、とろけるような深いグリーンの瞳。幼い日に「お前は俺が守る」と誓ってくれた時と、何一つ変わらない色だ。欲に浮かされていても、これを見間違うはずがない。
「ディ、……」
「……サミー……」
慈しむように、汗で額に張り付いた前髪を指先で解き撫でられる。その呼び名は、普段なら悪ふざけの延長でしかないはずなのに、今のこの場所では、別の熱を呼び覚ます鍵になった。その名を呼ばれるだけで、内側から溢れ出す雫が止まらない。
真下にあるディーンの熱い屹立と、僕の下腹部から滴る液体。
もう、限界だった。数十年の間、僕を縛り続けてきたタガが、音を立てて崩れ去る。
一体化する熱
「ん、ッ……い、ッはっあっぁッ……!!」
あまりにもすんなりと、最初からそこにあるべきだった場所へと、ディーンが滑り込んできた。自分ですら知らない内奥の深くまで。
熱と熱が溶け合い、魂ごと一つになるような感覚。
「……よく出来たな、サム」
頭をポンポンと優しく撫でられるが、僕は衝撃のあまり動くことすらできなかった。
「い、いいッ、……い、いきそう……!」
「……早いな、おい……」
ディーンが驚いたように目を見開く。僕だって信じられない。挿し入れられた、ただそれだけの衝撃で、絶頂へと一足飛びに駆け上がっていた。
かつて不本意な形で、見知らぬアルファに抱かれた時とは、何もかもが違った。身体のすべての細胞が、この瞬間を待ち望んでいたかのような歓喜。
「運命のつがい」なんて眉唾だと思っていたけれど、今のこの威力は、それを認めざるを得ないほどに圧倒的だった。
僕は腰を抜かしたようにディーンの上で伏せ、絶頂の余韻に喘ぐ。
「ひ、ァあん……や、ぁ、ッあァ……」
「……俺はまだ、収まってねぇよ」
物足りなそうに、ディーンが緩く、けれど執拗に最奥を突いてくる。それだけで、死んでいたはずの熱が再び鎌首をもたげた。
身体をグイッと引き寄せられ、自動的に角度が変わる。最上の「そこ」に当たるようになり、僕はたまらず仰け反った。そこに強引に唇を奪われる。
逃げ場のない部屋。逃げ場のない腕。爆ぜる火の粉の匂いが、僕の理性を焼き尽くしていく。
「……ほら、揺するぞ」
「や、……あ、ぅっ!」
初めは優しく、徐々に強く。熱源が微細に、しかし確かな強さで僕の最奥を掻き回す。
「や、だ、ぁ、……ッあ!」
「なん、で……? こんなによがってるくせによ……」
ディーンの声も湿り気を帯び始めている。彼にも余裕がない証拠だ。
僕が抵抗する理由は、たった一つ。自分が自分でなくなるのが怖いのだ。すべてを投げ打って、ただの本能に従う獣になることが。
オメガだからアルファに屈するのではなく――。
「ディ……ディーンが、好きだから……ぁ。ッ!」
「……言って、くれるぜ……ッ」
腰の動きが激しさを増す。強烈すぎる火爆ぜの匂いに、視界が白く染まる。
「はぁ、ぁ……あ、……にい、さ……ぁんッ!」
幼い頃、繋いだ手を離さないように縋ったあの呼び方。いつから「兄貴」と呼ぶようになったのかはもう思い出せない。けれど、今だけは。この極限の瞬間だけは、あの頃のように僕を受け入れてほしいと、震えながら彼の手を握り締めた。
「……ッ」
ディーンの顔が、感極まったように歪む。
不意に、僕の内側を満たす彼の屹立が、耐えきれないほど肥大化した。
「や、ッ!? うそ、だろ……」
「お前が……そんなふうに呼ぶからだろッ!!」
ほとんど間もなく、最奥で熱いものが激しく弾け飛んだ。
僕は声にならない叫びを上げ、そのまま力尽きたようにディーンの胸元へと、ぐったりと身体を沈ませた。
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ふらつく体は支えを失い、ディーンの厚い胸元に吸い込まれるように倒れ込んだ。上下する彼の呼吸に合わせて波打つ身体は、僕の体温よりもなお熱く、その熱気に当たるだけで再び酔いが回るような感覚に、喉の奥から嗚咽が漏れた。
「……ッ、ァ、……は、……」
泣いて兄に縋り付く幼い弟に戻ったかのように、僕はその熱の中に埋もれていた。ディーンの大きな手が「よくやった」と告げるように、緩く、優しく僕の頭を撫でる。その慈しみに、いつまでも微睡んでいたいと思った。
けれど、不意にディーンが身を起こすと、きゅ、と微かな粘膜の音を立てて、背後から彼の屹立が抜けていく。そこにあることがあまりに必然だった重みが失われた瞬間、意識が強制的に引き戻された。
「……は、アッあ、……」
艶めかしく腰が追いかけてしまうのが止められない。自分でも情けなくなるほど、脳を溶かすあの感覚を求めて身が震える。ディーンの深いグリーンの瞳をそっと見上げると、そこには濡れ堕ちた僕を憐れむような、あるいは呆れたような苦笑が浮かんでいた。
「悪いな、サミー。俺ばかり愉しむわけにはいかねぇんだ」
「いいか……。そろそろ、……ッ」
背後から僕の腰を掴んだのは、冷たく、けれど確かな強さを孕んだカスティエルの腕だった。兄と弟の関係を尊重してこれまで静寂を纏ってきた彼の動きは、戦いの中で見せるそれと同じく、雷のように鋭く俊敏だった。
「痛かったら……言うんだ」
言うが早いか、今まさにディーンに解きほぐされていた場所に、別種の重厚な熱が突き刺さる。同時に、むせ返るような激しいオゾンのフェロモンが鼻腔を突き抜けた。
「ンァぁ! あ、……い、っ、……キャ、……スぅ……!」
「俺が腰を持っててやるよ、集中しろ」
特等席で見物すると言わんばかりに、真下のディーンの分厚い手が、僕の腰を遠慮なく固定する。激しい水音が再び狭い部屋を満たした。僕の細胞は、新たな主を迎え入れるように歓喜に震え、その神聖で暴力的な熱を包み込んでいく。
カスティエルの動きは、ディーンの野性味溢れるものとは対照的だった。力任せに抉るのではなく、内奥をじっくりと溶かすような、残酷なまでに焦らすような緩慢な律動。
「キャ……ス、ァ、もっ、……と、そこじゃな、あッ……!」
一番触れてほしい場所の周りを、逃げるように、執拗になぞられる。僕はいつしか、こらえきれずに涙を零していた。情欲に当てられた熱い涙が、ディーンの胸元にぼたぼたと落ちる。
「……も、……」
言いかけて、それは言うなと脳が反射的にストップをかけたところで、カスティエルの熱い吐息が耳元を掠めた。
「どうして欲しい……? 言え、サム」
支配を根源とした、カスティエルというアルファでなければ出せない圧。逃げ場を奪うとてつもない雷の気配は、決して直線的に攻めてくるのではない。ただ逃さないように、僕を追い詰めていく。
「……ッ、も、……っ、と奥、突いて、ぇ……!」
あれほど拒もうとしていた「おねだり」が、呆気なく唇を割った。
ヒュウ、とディーンの軽い口笛が聞こえる。
「さすがだな。俺でもここまで引き出せるかどうか……」
僅かな嫉妬が混じる兄の声に、僕の身体はさらに激しく震えた。寄せられた眉に、別種の涙が零れる。それは、僕の理性が完全に瓦解した、決定的な「陥落」だった。
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目の前ではディーンが放つ、汗の滴りと「火」のフェロモンが僕の肌を焦がすように熱く包んでいる。背後からはカスティエルの、静かで重厚な「雷」のフェロモンが僕の輪郭を溶かしていく。
涙も、溢れる涎も、もうとうに決壊していた。ディーンの厚い胸に、鎖骨に、僕の中から溢れた透明な液体が艶めかしく伝い、そのまま腰へと落ちていくのを止められない。
「あ、あッ、そこじゃな……あ!」
それでも尚、カスティエルの執拗な焦らしは終わらなかった。
「も、ういい、もう……いいから!」
身体を維持することができず、僕は物欲しげにディーンの胸にしがみついた。背後から貫いているのはカスティエルなのに、視界を占めるのはディーンという歪な状況に、熱に浮かされた頭が激しく混乱する。
「嫉妬するよな……。でも、悪くねぇ」
ディーンの掠れた声は、僕を逃がそうとはしなかった。たちまち強引に唇を奪われ、含みきれない熱い液が二人の口元からこぼれ落ちていく。そのたびに、背後からカスティエルが鋭く突き、僕を望まない現実へと引き戻す。
「……っ、私も……嫉妬、しないことは、無いんだぞ……ッ!」
カスティエルの、あの緩慢で残酷だった焦らしの動きが、少しずつ速度を上げ始めた。呼吸が上手くできなくなり、僕はディーンから唇を離す。
「あ、ッ……や、ば……ッ!」
焦らしに焦らされ、ずっと放置されていた一番敏感な場所に、カスティエルの屹立が深く触れた。途端に、これまでの静けさが嘘のような、まるで叩きつけるような激しい衝撃が繰り返される。
逃がすまいとする、そして確かな独占欲の込められたディーンの強い手が、僕の腰を壊さんばかりに掴んだ。
「この辺か? 挿ってるのはよ」
茶化すように下腹部を親指でぐりぐりと弄られ、僕はたまらず腰をよじった。だが、そう動けば動くほど、内側ではカスティエルの熱が絶妙な塩梅で捻り擦られる。彼もまた余裕を失っているのか、ぐいぐいと、より深く、より重く、優しくても一切の容赦を見せずに突き込んでくる。
「大丈夫か、サム……?」
いつものようなカスティエルの慈愛に満ちた言葉が、これほどまでに「不要」に感じられるなんて。僕はなんとか手を動かし、弱々しく空気を払うことで「構わず続けてくれ」と言外に伝えた。
これまでずっと、互いのフェロモンを抑え合い、穏やかな時間を積み重ねてきた相手。ディーンとは違う、静かな安らぎをくれたカスティエル。その優しくて朴訥な彼に、これほど無慈悲に責め立てられているという事実が、信じられないほどの歓喜を呼び覚ましていた。
「い、ぐぅ……ッ……っ!」
全身が弛緩し、壊れるように絶頂を迎える。ディーンの時から数えれば、もう三度目だ。それでもなお、カスティエルの熱は収まることを知らず、僕の内奥を支配し続けている。
「サム……愛してる」
そこに宿る気配は、ディーンと同様、戦友や友人の愛とはまったく異なる響きを湛えていた。どちらを上にするのも憚られるほどに、その言葉の重みに身が竦む。
身体を反転させられ、再び唇を奪われた。ディーンに何度も蹂躙された口内を、自分の色で塗り替えようとでもするかのように。
「は、ん……ッ……ふ、」
クチュクチュと、徐々に唇が重なる水音が高まる。歯列をなぞられ、口蓋をくすぐられ、それと同時に背後の動きもさらに激しさを増していく。上からも下からも、二つの熱が止まることなく行き来し、自分がどこにいるのかさえ分からなくなる。
カスティエルは、ただ力が強いのではない。
……上手(テク)すぎた。僕は逃げ場のない二つの愛の中で、ただ幸福な廃人のように蕩けていくしかなかった。
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三人で何度、剥き出しの欲望を叩きつけ合っただろうか。
絶頂の波に呑み込まれた回数が五度を超えたあたりで、僕の脳は情報処理を拒絶し、世界はその輪郭を失った。ディーンとキャスは、一度吐き出してもなお、その熱を冷ますどころかさらに肥大化させ、畳み掛けるように僕の最奥を突き上げてくる。
こちらもこちらで、何度果てても身体の震えが収まらない。それがフェロモンのせいだけではないことは、自分でも分かっていた。魂の深層が、二つの強大な「炎」と「雷」を、自分を埋め尽くす支配を狂おしいほどに欲していたのだ。
「も、挿れないで……っ」
いつの間にかベッドに突っ伏し、後ろをヒクつかせながら、垂れ流される愛液の音に羞恥を覚える余裕もなかった。ただ、本気で壊れてしまうという恐怖が、理性の最後の防壁として僕の喉を震わせる。ただの獣になり果てて、自分を失うのが怖かった。
「壊れ、る……っ」
その言葉に、ディーンの厚い指先がそっと僕の頬に添えられた。
「……出しても出しても、ちっとも収まんねぇ。なんだこれ、マジで……」
「私もだ。これほどまでに自制を乱されるとは、想定していなかった……」
ディーンには頬を緩やかに、慈しむように撫でられ、力なく投げ出していた手はキャスに取られた。彼は騎士のような厳かな所作で、僕の手の甲に熱く、長い口づけを落とす。
運命の陥落
二人の言葉の裏にある、逃れようのない確信が僕の胸に刺さる。「運命の番」。そんな都合のいい奇跡が、それも二つ同時に見つかるはずがないと思っていた。けれど、壊れるからやめてと乞いながらも、身体の内壁を駆け上がる熱い疼きは、この二つのフェロモンをもっと流し込んでくれと背を震わせている。
否定のしようがなかった。理性なんてめちゃくちゃにしてほしいという懇願が、湿った視線となって二人に注がれてしまった。
「サミー……お前も、そうなのか」
「……っ、ちが……」
「隠すことなどないだろう、サム?」
誰に何度蹂躙されたのかも分からないほど熱を持った口内を、再びディーンに奪われた。けれど、今度のそれは短く、僕を気遣うような甘い名残を残して離れた。
「だが、もうやめよう。……そうしないと、本当にお前をぶっ壊しちまう」
今夜はな、と軽く付け加えられた一言に、ディーンらしい不器用な優しさが滲んでいた。
「それにしても、全く収まりがつかないな」
自身の熱を見つめながら、キャスが静かに独りごちる。
「君を傷つけたくはない。壊すなどもってのほかだ。今夜は……君を思って、私自身の手で自分を収めることにしよう」
「おい、言うに事欠いて人の弟をオカズにする宣言かよ!」
いつもの、慣れ親しんだ軽口が部屋の重苦しい空気を緩やかに解きほぐしていく。僕は汗みずくのシーツの中で、ようやく微かな、けれど確かな苦笑を漏らした。
それが、最後だった。
限界まで焼き切れさせられ続けた精神が、ようやく本当の安息を見つけてしまったのだ。瞼が鉛のように重くなる。まだ小声で何かを言い合っている二人の気配を遠い果てに置き、僕は握りしめていたその手をそっと解いた。
深い、深いソムニウム(眠り)の園へ。
僕は二人の愛に守られながら、吸い込まれるように旅立った。