まあぶっちゃけ全員イケメンなんですよね。妄想と拡大解釈とフィクションでできているページ。
不毛な審判と、天使の受難
バンカーの夕飯時、テレビから流れる低俗なバラエティ番組の笑い声が、思いもよらない火種を投下した。
「さ、審査員はキャスだよ」
「はっきりさせようぜ。俺とサム、どっちがイケメンだ?」
皿洗いの手を止めたディーンが、大真面目な顔でカスティエルに詰め寄った。隣ではサムが、否定しつつもどこか期待を込めた眼差しで、長く豊かな髪を無意識に整えている。
今、この広いバンカーにいるのは、ウィンチェスター兄弟と一人の天使だけ。逃げ場のない状況で、カスティエルは「不幸な審判」という、これまでのどの試練よりも不可解な任務を与えられた。
「待て。私が適任とは思えない。……せめて、クラウリーか、あるいはロウィーナあたりを呼んで意見を聞くべきではないか?」
カスティエルが困惑し、眉間に深い皺を寄せて提案すると、兄弟は間髪入れずに声を揃えた。
「絶対ダメだ。ここには強力な悪魔除けがあるからね、高い酒も飲まれちゃうしクラウリーを招き入れるわけにはいかないよ」
「魔女なんか呼んでみろ、帰すほうが百倍面倒くせぇことになるだろ!」
言い合いながらも、二人はずいずいとカスティエルとの距離を詰めてくる。その圧倒的な「人間」の圧に、カスティエルは思わず一歩後退した。
「なんやかんやで、キャスのほうが世間的にはモテてるみたいだけどさ……」
サムが少し拗ねたような困り顔で続ける。
「僕だってそれなりに、身だしなみには気をつけてるんだよ? 知識だけじゃなく、清潔感だって重要だろ」
「俺だってそうだ!」
ディーンが負けじと胸を張る。
「ってか、俺のほうが人生経験も、アッチのテクも豊富に見えるだろ!? ハンサムっていうのは、そういう『色気』も含めてのことなんだよ」
「兄貴はただの乱暴者だよ……」
「お前こそただのデカいオタクだろ!」
騒々しく始まった兄弟喧嘩を前に、カスティエルは言葉を失い、絶句したまま立ち尽くしていた。数分遅れてようやく状況の意味を咀嚼し、深く、長く呼吸を整える。
「……どちらがハンサムか、ということだな。……それは難しい問いだ。どちらも別々の魅力があり、一つの枠に収めることはできない。サムは知性的で穏やかな美しさを持っているし、ディーンは……その、非常に意志の強い、生命力に満ちた顔立ちをしている」
「逃げるなよキャス! じゃあ質問を変えてやる」
ディーンが身を乗り出し、悪戯っぽく笑った。
「もしキャスが女の子だとしたら、俺たちのどっちと付き合いたい?」
「天使に性別や性的な嗜好はない!」
「想像力はあるだろ! 仮定の話だよ」
「私は神の兵士だと言っているんだ、ディーン!」
カスティエルの叫びも虚しく、兄弟の追求は止まらない。
ボロボロの翼を休める暇もなく、天使は「家族」という名の、最も攻略困難な迷宮に閉じ込められていた。
窓の外では星が静かに瞬いているが、バンカーの中では、いつまでも終わらない不毛で愛おしい議論が、夜の更けるまで響き渡っていた。
守護天使の断定と、二人の沈黙
昨夜の「どっちがイケメンか」という不毛な議論の火種は、翌朝になっても燻っていた。朝食の席、ディーンは鏡で自分の顎のラインをチェックし、サムは心なしかいつもより丁寧に髪を梳かしている。
それを見つめていたカスティエルの、感情に起因する「キラキラとした欠片」のような鋭い瞳が、静かに二人を射抜いた。
「……昨夜の問いに対する、私なりの『仕返し』をさせてもらおう」
コーヒーを啜っていたディーンがむせ返り、サムが手を止める。カスティエルは、いつになく冷徹なまでの真剣さで言葉を継いだ。
「君たちは自分たちの『魅力』について論じていたが、守護者である私から見れば、検討すべきは別の点にある。すなわち、『どちらがより手のかかる守護対象か』ということだ」
「おいキャス、藪から棒に何を……」
「黙って聞いてくれ、ディーン。まずは君だ」
カスティエルは重戦車のような無表情で、ディーンを指差した。
「君は常に最前線に立ち、自らを盾にする。敵が誰であろうと、肉体がボロボロになるまで止まらない。昨日も一昨日も、君の傷を癒やすために私の恩寵(パワー)は限界に近い。君を守るということは、絶え間なく崩壊していく堤防を素手で支え続けるようなものだ」
ディーンは「一閃」の涙を堪える時のような複雑な顔をして、言葉を呑み込んだ。
「そして、サム」
視線が弟へ移る。サムは「僕にはそういうのいいから……」と言わんばかりに視線を逸らしたが、カスティエルの追及は容赦ない。
「君は肉弾戦を好まない理論派だ。だが、皮肉なことに君は『流れ弾』の類を引き寄せる天賦の才がある。リサーチに没頭している背後から、あるいは混戦の最中から、君は常に予測不能な角度で傷を負う。君を守るということは、どこから飛んでくるか分からない透明な矢を、全方位から警戒し続けることだ」
バンカーのキッチンに、重苦しい沈黙が降りた。
カスティエルは、かつて湖畔で見せたボロボロの翼を、今は誇り高く隠しながら、最後にこう断定した。
「結論を言おう。ディーン、君は『私を死なせる気か』と思わせるほど無茶をする。サム、君は『いつの間にか死んでいるのではないか』という恐怖を私に植え付ける。……どちらが優れているかではない。どちらも、私をこれ以上ないほどに疲弊させる、最悪の守護対象だ」
「……」
「……」
兄弟は、ぐうの音も出なかった。
カスティエルは数分遅れて、自分の言葉が彼らに与えた衝撃を咀嚼し、猫のようにビクッとしてから、ほんの少しだけ顔を赤らめた。
「……だが。その『最悪』な二人のために、私はこのボロボロの翼を広げ続けている。それが私の、この世界における唯一のアイデンティティだからだ。……これで、昨夜の質問の答えになっただろうか?」
ディーンは照れ隠しに「うるせぇ、あっち行け!」と怒鳴りながらも、カスティエルのマグカップに並々とコーヒーを注ぎ足した。サムは困り顔で笑い、そっと自分の上着の裾を整えた。
結局、誰が一番「イケメン」かなんてことは、この歪な家族にとってはどうでもいいことだった。