フアナ〔オルタ〕

Last-modified: 2018-04-17 (火) 04:33:12

キャラシート

【クラス】バーサーカー
【真名】フアナ〔オルタ〕
【容姿】黒き王冠を冠った少女。
【英雄点】35(ステ15点/スキル20点):令呪二画(ステ一画/宝具一画)
【HP】 40 / 40
【筋力】C+:4
【耐久】B+:5
【敏捷】E :1
【魔力】B :4
【幸運】E-:1
【合計】15点
 
【スキル1】狂化 A(E)
10:物理攻撃時、補正値5を得る。 物理防御と魔術防御時、補正値3を得る。
 
【スキル2】鋼鉄の王意 A
5 :最大HPを15点増やす。 物理防御と魔術防御時、補正値2を得る。
 
【スキル3】無位の王冠 D
5 :奇襲防御時、補正値5を得る。
   相手の攻撃時、攻撃対象を自分に変更できる。
 
【宝具】『我が王威は密やかに、陽の光は此処に在らず(ミ・レアレザ・エス・セクレタメンテ)』 1/1
【ランク・種別】A-:陣地宝具
【効果】キャラシート作成時、令呪を一画消費する。
   移動フェイズ、または交戦フェイズに現在地で陣地を作成出来る。
   交戦フェイズ中に作成した場合、交戦フェイズ終了時に消滅する。
   陣地内に於いてマスターは物理攻撃時に補正値5を、バーサーカーは物理防御と魔術防御時に補正値3を得る。
 
【その他】人型/女性/混沌・狂/人属性
 
 

【キャラクター詳細】
 “狂王女”フアナ。
 敬虔で聡明、かつ落ち着きのある女性であったが、結婚を境に精神状態が悪化、
 その後に夫の突然死という不幸にも見舞われ、統治を放棄した挙げ句に狂乱に耽る、異名通りの女王と成り果てた。
 そんな逸話を持つ彼女は無論、サーヴァントとして呼び出される場合は『バーサーカー』の霊基を以て召喚される、のだが――。
 
 
【パラメーター】

筋力C+耐久B+
敏捷魔力
幸運E-宝具A-

 
 
【クラススキル】
 ○狂化:A(E)
  理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
  Aランクであれば全パラメーターを2ランクアップさせるが、マスターの制御さえ不可能になる。
  その生涯に由来する様々な狂乱の逸話、そして何より『狂王女』という異名を冠する彼女は、
  このスキルを高ランクで保有している――が。 何の要因か、彼女はこのスキルの効力が極めて落ちている。
  具体的にはEランク相当。 少々のステータス上昇程しか効果はなく、理性のほとんどを残している。
 
  その要因は彼女の宝具やスキルに在る。
  二つの宝具による二重の狂気抑制と、
  また『狂化』、『精神汚染』、『無辜の怪物』、それぞれ方向性の違う狂気の拮抗もこれを助けた。
  バーサーカーで呼び出される彼女はしかし、バーサーカーで呼び出されるからこそ、
  『狂王女』としてではなくそれに至る前の――理性と誇りを持つ女王としての彼女、即ち『別側面(オルタナティブ)』として召喚される。
 
 
【保有スキル】
 ○鋼鉄の王意:A
  『鋼鉄の決意』の亜種スキル。
  46年という幽閉の時を、狂気と綯い交ぜになりながらなお、
  その最期まで女王であることを貫いた精神性がスキルと化したもの。
  狂気に取り憑かれていた彼女ではあったが、礼儀を弁えた者の前では女王らしく振る舞ったという。
 
  C-ランク相当の勇猛及びに不屈の意思等を兼ね備える複合スキル。
  混沌性精神的スーパーアーマー。 精神干渉系スキル、宝具をある程度レジストできる。
  ただし、判定に失敗する度に効果が逓減していき、最終的にはほぼノーガード状態になってしまう。
  これの回復にはある程度の時間が必要となる。
 
 ○無位の王冠:D
  同ランク相当のカリスマ、及びに戦略等の複合スキル。
  ただしそれらによる彼女の功績は公然と評価される事は少なく、
  縁の下の力持ちという印象に落ち着くことが多い。
 
  女王で在る事を貫いた彼女ではあったが、
  実質的に統治をしていたのは彼女の息子、名君と名高きカルロス一世であった。
  ただ一説によれば、彼は幾度か政治的な判断をフアナと相談し、この意見を聞き入れていたという。
 
  また愛する夫であるフィリップに王位継承や共同統治を要求されようともこれを退けて、
  貴族や臣下たちの支持を勝ち取ったことや、そのフィリップの死因もフアナを支持するものによる毒殺説もあることから、
  彼女にある種のカリスマ性、及びに才覚自体があったことは事実であると思われる。
 
 ○精神汚染 C-(E-)
  精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
  ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
 
  その精神状態は波があったともされ、体調も良いときは冗談を言い合い、乗馬を楽しんだり、
  先にも書いたが礼儀を弁えた者の前では女王らしく振る舞い、日常的な会話をすることもできたという。
  しかし彼女の意向を無視し、己の領分や内面に干渉しようとした場合には極端な警戒や嫌悪が発露してトラブルを起こしたともされる。
 
  彼女の母イサベラ女王も大変な癇癪持ちであったとされ、
  また祖母にもこの兆候が見られたことから、フアナの精神障害は遺伝的な要素もあったのではないかとの説もある。
  しかし大方の見方では政治的な思惑や、何よりもフィリップの行動や振る舞いがその精神を圧迫し、消耗させたとの見解が強い。
 
  このスキルも効力が極めて低くなっている。
  E-ともなればこのスキルを持たぬものとであっても意思疎通が成立する。
 
 ○無辜の怪物 D
  生前の行いからのイメージによって、
  後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。
 
  『狂王女』。
  暗い石造りの城館にて徘徊する、恐ろしい女。
  狂気に取り憑かれ、錯乱していたことは明確な事実であるがしかし、
  それより生まれたイメージは更なる狂気や事実と相反する印象を彼女に押し付けた。
 
  精神の在り方は上記のように正常を保てているが、能力や姿は変貌を来してしまっている。
  能力の変貌はステータスの上昇等のメリットとして表れているが、
  美貌こそ失われていないその姿はしかし、全体的な印象は変質してしまっている。
 
 
  「無辜の怪物大いに結構。
   過去の否定をする気などさらさらなく――受け止めた上で、立ち向かうのみよ」
 
 
 
【絆Lv.1で開放】
 身長/体重:147cm・48kg
 スリーサイズ:B74cm / W55cm / H78cm / AAカップ
 出典:史実
 地域:スペイン
 属性:混沌・狂
 性別:女性
 全盛期で召喚される筈であるが、その身体は少女期の頃のものである。
 またその性格と言動は生前と比べ少々棘がある。 端的に言うと、“グレて”いる。
 
 「サーヴァントは全盛期の肉体で召喚される。 そして、精神は肉体に引っ張っられるとも」
 「……で、あれば。 狂っていない頃の身体で召喚されるのは道理でしょう」
 「フン……少女の頃が一番安定していた、と言うことね」
 
 
【絆Lv.2で開放】
 フアナは1479年、カスティーリャ女王イサベル一世と、
 アラゴン王フェルナンド二世の間の次女として生まれる。
 幼少期の彼女は内気な性格であり、政治等よりも寧ろ音楽などの芸術や宗教の儀礼、
 また書物に描かれる物語等に興味を示し、多数の言語を修める聡明な少女であった。
 
 カスティーリャ・アラゴン連合王国(スペイン王国)はカトリック信仰の深い土地であり、
 彼女も同様に敬虔に育ったが、その拝礼や儀式に宗教的な懐疑(無神論ではなく懐疑論の一種)を示し、
 宗教的無関心主義(宗教間の教義などの違いはとるに足りないことだという考え)を表していたが、彼女の母はこれを秘密にするように命じたという。
 
 そして時は1496年、彼女が17歳になる頃に移る。
 このご時世でのヨーロッパは政略的な結婚が当たり前の時期で、
 イサベル一世とフェルナンド二世(=カトリック両王)も外交的、戦略的な繋がりを強固にするために結婚政策を行っていた。
 例に漏れずフアナもハプスブルク皇帝マクシミリアン一世の長男、ブルゴーニュ公フィリップとの結婚が決まる。
 翌年には彼女の兄であるフアンもフィリップの妹であるマルグリットと結婚をしており、いわゆる二重結婚であった。
 
 婚礼の前日、修道院にて初めて出会った二人はしかし、
 一目惚れに近い形で惹かれ合い、対面に立ち会った司祭を説得しその場で簡素ながらも結婚の儀式を執り行った程であったとされる。
 その後の10月20日に正式な結婚を行い、それは政略的な結婚でこそあったが二人は深く愛し合った。
 特にフアナは彼に一途であり続け、時期を鑑みれば、この少し後には既に子を宿すほどに情熱的であったのだろう。
 
 ――そして。
 彼女の運命は狂い始めた。
 
 
【絆Lv.3で開放】
 フィリップは『美公』と謳われたその通称通り大変な美男子であり、それにかまけてか酷い浮気性であったとされる。
 この頃も身重であったフアナの目を盗んでは彼女以外の女性と出会ったり、
 狩猟や乗馬、政策等といった名目を借りては他の女性を誘い、共に過ごすこともあったという。
 フアナはこれを激憤とした態度で批判し、人目を憚らず彼や相手の女性に声を荒げたこともしばしばであった。
 その真面目ながらも厳しい様に奔放な性格であったフィリップの心は離れていき、次第にその愛は冷めていく。
 
 時代を考慮すれば愛人や妾等を作るのは隠然としても当たり前である時勢であったが、
 それでも反省の色すら見せなかった彼の態度は目に余るものがあると言えるだろう。
 また彼女がここまで激高したのは無論その行動、態度にもあったのであろうが、
 それが信仰深く、敬虔であった彼女が築き上げてきた『常識』を脅かしていたことの恐怖も含まれていたであろうことは想像に難しくない。
 
 そして時は1500年。 彼女が21歳になる頃に移る。
 フアナの王位継承権は上に長男フアンと長女イサベルがいたため、第三位の立場である。
 それが回ってくることは誰も、彼女自身も考えていなかっただろう。
 
 しかし運命の悪戯か、歴史の妙か。
 長男フアンと長女イサベルが相次いで死に、
 雲の上のようであった王位継承権はフアナの元へ降ってくることになる。
 
 そこで折しも態度を一変させたのがフィリップである。
 それまでを忘れたかのように彼女に優しさを見せ、愛を囁き、情熱をぶつける。
 そんな最中の1501年11月、彼女は夫と共にカスティーリャへ渡ることになった。
 
 カスティーリャ到着後、まずフィリップが行ったことは、
 フアナの両親であるカトリック両王に彼女が精神異常を来していると喧伝した上で、王位の継承権を要求したことだった。
 しかしフランスにかぶれ奔放なフィリップはカスティーリャの慎ましやかで敬虔な土地柄を嫌い、そして耐えられなくなってか、
 臨月であったフアナを一人残し、故郷であるフランドルへ帰郷してしまう。
 
 彼女はこのことにショックを受け、不安定さを見せていた精神状態は更に悪化。
 子育てすらままならぬ程であったため、彼女の子どもたちは息子である長男のカルロスや兄嫁のマルグリット、
 また父であるフェルナンド二世にそれぞれ育てられることになった。
 その後、出産を果たしたフアナはその精神状態を少しだけ回復させたが、今度は夫の元へ帰りたい、と訴えるようになる。
 イサベル女王はこれを諌め、また尋常でなかった娘の様子を見てラ・モタの城に幽閉までするがついに折れ、フアナはフランドルへの帰国が許された。
 
 そして1504年11月。
 イサベル女王が崩御し、彼女が残していた遺言状の内容が明らかとなる。
 フアナの状態と、フィリップが君主の素質に欠ける事を見抜いていたイサベル女王は、その遺言の最後にこう書き連ねていた。
 
 「フアナにカスティーリャを継がせる。
  ただし統治不能な場合は、フアナの父フェルナンド・アラゴン王を摂政とする」
 
 これを聞いたフィリップは内心で激怒しながらも、
 この余禄に預かろうと彼女に対して殊更に愛情を紡いで懐柔しようとした。
 フアナに王位が継承されればまだチャンスはあると踏んだのだろう、彼女の正常さを主張する動きも見られている。
 焦眉の急であるために時には脅迫すらも行ったというが、フアナは頑なとしてこれを退け続けた。
 覚悟を決めたのか、この頃から既に女王としての矜持が彼女には芽生えていたと推測できよう。
 またフアナの精神を異常であると言い触らしながら、今度は正常さを主張するフィリップの振る舞いはあまりに非常識も甚だしいと言える。
 
 フアナはカスティーリャへ帰郷する決意をし、フィリップ共々船に乗ってフランドルを発つ。
 しかしその航海の途中、嵐に見舞われた一行はイングランドへ漂着し、ヘンリー七世の保護を受けた。
 ここで、ヘンリー七世はフアナの美貌を讃えたという。
 
 そして遂に1506年にカスティーリャへ到着し、
 フアナは女王として動こうとした矢先、フィリップは“カスティーリャ王フェリペ一世”を名乗り始めて共同統治を主張するようになる。
 無論その主張が支持される筈もなく、フアナもこれに対しては凛然とした態度で王は一人のみであると一歩も引かぬ態度を貫き、
 その様は貴族や臣下たちの支えとなって、フィリップとは対象的に大きな支持を得た。
 フィリップはこれを受けて暴走をしたのか、カトリック両王と敵対していたフランスに近づいたり、
 地元であるフランドルの貴族たちにカスティーリャの土地を勝手に与えたりと、政策と形容する事すら憚られる愚行を繰り返し、
 フアナは元よりカスティーリャ全体からの反発を受けてしまう。
 
 それでも彼女はフィリップを愛し――。
 同年。 彼はあまりにも呆気なく急死することになる。
 
 
【絆Lv.4で開放】
 その死因は当時流行っていたペストであるという説もあるが、
 彼の周りにいた者は一切罹らず、彼だけがそれに罹り死んだというのはあまりにも都合が良すぎ、
 また上記の愚行を受けてか、カスティーリャに於いて彼の死を望んでいなかったのはフアナただ一人とすら囁かれていたことから、
 真実は想像の域を出ないにしろ、毒殺説が有力であるのは間違いないと思われる。
 
 この一件に衝撃を受けたフアナは狂乱状態に陥り、
 フィリップの埋葬を許さず、その棺を馬車に乗せて運び出し、数年間カスティーリャ国内を彷徨い続けた。
 また各地で復活の儀式を行っていたともあり、これは一説によれば占い師に言われたことを実践していたという。
 この話は猖獗を極めるようにして国中に広がり、『狂王女』という異名はこの時に称されたとされている。
 
 死者の復活という概念はカトリックに在っては殊更背信的という訳でもなく、
 たとえば『キリストの復活』や『最後の審判』でもあるように、
 死者の復活そのものは、たとえ常識的に考えれば起こるはずもなく、
 幾ら陰口を叩けようとも明確に否定を公言することは恐らくはできなかった行為だろうと推測できる。 また彼女の立場もこれを助けただろう。
 
 どちらかと言えば、一説にある占い師の言葉を聞いた事の方が背信的であると言える。
 だが錯乱していようとも、聡明であったフアナの事を考えれば上記のフィリップが毒殺された可能性に気づいていてもおかしくはない。
 ましてやそれがフアナを支持する者によるものであると思い至れば――それは、藁にもすがるような気持ちであったことは想像に難しくないだろう。
 また彼が急死した場所はブルゴスであり、そこにはペストの魔の手が近くに迫っていたともされる。
 夫の遺体が入った棺を持って、このペストから逃れた――とも、言えるだろう。
 
 そして2年後の1508年。
 フアナはその狂乱を遂に咎められ、父王であるフェルナンド二世によってトルデシリャスに在る城館に幽閉される。
 これ以降、彼女は政治の表舞台より忘れ去られることとなった。
 
 彼女の様子を監督した貴族や司祭、世話をしたという侍女たちによれば、
 フアナはフランドルで出産した4子(共同統治を行っていたカルロス一世も含む)を覚えてはいないようであったが、
 末の娘であるカタリナに関しては強い執着を見せていたという。
 
 このカタリナは幽閉されている母と一緒にいたために外で遊ぶことも、
 ましてや同年代の子との交流すらない状態であり、その惨状を見たカルロスが不憫に思ってこれを脱出させると、
 フアナは狂乱して暴れたとも、魂が抜け落ちたようにいつまでも、食事も忘れて虚空を見つめていたとも言われる。
 このためカタリナは一時、トルデシリャスの城館に戻された。
 
 しかし彼女が18歳になる頃には結婚が決まり、
 こればかりはどうしようもなかったために、引き留めることはしなかったという。
 あるいは、その頃には精神的な落ち着きをある程度取り戻していたのかも知れない。
 
 そして時は1520年。
 表舞台より忘れ去られていた彼女がしかし、片時ほど歴史に現れる事件が起こる。
 それが、この『コムネロスの反乱』である。
 
 カルロス一世はスペイン王としてフアナと共同統治を行っていたが、
 フランドルで育った彼に対する反発と、逆にスペインで育った次男であるフェルディナントを王として推す勢力が存在し、
 これらが相まって、スペインでは反乱が引き起こった。
 
 この時反逆者たちは彼女と会談し、フアナ女王の承認を得て正当性を主張しようと試みるも、
 狂気故に取り合わなかったとも、政治に全くとして関心を寄せなかったとも、頑なにこれを認めなかったとも言われる。
 以後、この反乱は自然瓦解に向かい、カルロス一世率いる王国軍の勝利で終結する。
 
 そして時は平穏に流れ――1555年。
 後に聖人と聖別されるフランシスコ・デ・ボルハが彼女の元に送られてきた。
 その事実の通りに彼は極めて信仰深く礼儀を備えており、フアナはボルハを好意的に受け入れたとされる。
 ボルハは彼女の最期にも立ち会い、告解を聞き入れたが――それは、長い錯乱状態に在った人物とは思えぬほど平静を保ち、
 またその言葉は思慮深く己の人生を振り返るものであったという。
 
 ――ここからは、想像の域を出ない。
 しかし本当に彼女がその最期、狂気から開放されていたのだとしたら。
 敬虔であり、聡明であり、そして何よりも生真面目で強烈な女王としての自負を抱いていた彼女が、最期に抱いたその感情。
 それは、『後悔』ではないか――そう、筆者は推測する。
 
 その後フアナは46年という幽閉生活の末、その凄惨な生涯を閉じた。
 彼女はその最期まで退位を拒み、女王で在ることを貫いた。
 息子であるカルロス一世は終始彼女に尊敬の念を以て接していたとされ、
 遠征からの帰国の度にフアナを見舞い、たとえ覚えられていないのだとしても、存命であることに安堵していたという。
 先にも説明した通り、実質には彼女はカルロス一世との共同統治を行っており、それは公文書のサインとして残されている。
 
【絆Lv.5で開放】
『我が慈愛は華やかに、要らぬは此処に在らず』
 ランク:D 種別:対己宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:1人
 
 ミ・テルヌーラ・エス・ブリランテメンテ。
 それは宝具にまで昇華した『在りし日の栄光』。
 かの月に狂わされた皇帝が持つそれが更に狂気を加速させるものであるのなら、
 こちらはかつて、確かに在った栄光として己の狂気を押さえつけるものである。
 
 フランドルからカスティーリャ――現在で言うところのベルギーからスペインへの船旅の折、
 ドーバー海峡にて彼女とその夫フィリップの乗る船が嵐に遭ってしまう。
 これを何とかしようとフィリップや水夫たちは積荷や余計なものを海に流そうとする。
 この時、その余計なものの中には船旅の慰めとして同乗していた娼婦達が含まれていたがしかし、
 これを見たフアナはフィリップや水夫たちにこう言い放った。
 
 「彼女たちが積荷のように余計であると言うのならば。
  それを乗せた人間も、また利用した者たちも同じではありませんか」
 「――無論。 フィリップ殿下とてこれに含まれましょう」
 「神の慈愛は王であろうと平民であろうと平等です。 罰するも同様に」
 「……それでもなお。 彼女たちを捨てるとおっしゃいますか」
 
 『その慈愛は華やかに』。
 この逸話は言わばフアナが狂気に取り憑かれる前の、
 確かに在った在りし日の栄光その象徴であり、『聡明かつ不敵な女王』としての彼女を支える宝具でもある。
 
 また、宝具の効果としては『要らぬは在らず』。
 彼女という船に在って要らぬものは何もなく、
 失われる筈の記憶を保持したり、自身より漏れ出る魔力をある程度回収することも可能。
 この特性によりバーサーカークラスとしては極めて燃費が良い。
 
 
 「『要らぬは在らず』。 慈愛は平等に降りかかる」
 「かつては神の。 ……そして今は、我が王威の」
 
 
 
『我が狂気は謐やかに、憐れみは此処に在らず』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:20人
 
 ミ・ロクーラ・エス・トランクィラメンテ。
 巨大な黒き棺。 上記の宝具が栄光の象徴ならば、こちらは『狂王女』としての狂気の象徴である。
 『狂王女』としての逸話、また各地で行った復活儀式は偶然にも術式を刻み、神秘を積み重ね、宝具として成立した。
 
 数々の不貞、愚行を働かれながらも彼女はフィリップをのみ愛していた。
 しかしフィリップはペロタ(バスク・ペロタ。 手やバット等を用いて行う一種のスポーツ)を行った後に飲んだ冷水にあたり、急死してしまう。
 一説によればその死因はペストであるとも、フアナを支持する者による毒殺であるとも囁かれている。
 
 この一件に衝撃を受けたフアナは狂乱状態に陥り、
 フィリップの埋葬を許さず、その棺を馬車に乗せて運び出し、数年間カスティーリャ国内を彷徨い続けた。
 また各地で復活の儀式を行っていたともあり、これは一説によれば占い師に言われたことを実践していたという。
 
 ――だが。
 『憐れみは在らず』。
 奇跡は彼女に、もっと言えば彼女の夫フィリップに齎されることはなかった。
 
 また彼女の狂気は誰がどう見ても、そして彼女自身もわかっている通りに夫のフィリップが原因であり、
 その遺体を棺に閉じ込めるということは、狂乱の要因を閉じ込める、という構図になる。
 『その狂気は謐やかに』。 狂気の象徴はしかし、そうであるからこそ此処に封印される。
 
 そしてこの棺を有ろう事か彼女は武器として使用する。
 打撃武器及びに狂毒性骨弾式パイルバンカー、死霊性追尾式ミサイルポッド。
 施された術式と積み重なった神秘は、死霊術に近い効果を生み出してこれを成す。
 
 なお、流石にフィリップそのものは入っていない。
 撃ち出されるのは彼女の一部であり、弾丸は上記の宝具によって回収している。
 
 
 「『憐れみは在らず』。 お生憎様、奇跡はもう信じないことにしているの」
 「……少なくとも。 この私には、それが降りかかることはないでしょう」
 
 
 
『我が王威は密やかに、陽の光は此処に在らず』
 ランク:A- 種別:陣地宝具 レンジ:1~60 最大捕捉:500人
 
 ミ・レアレザ・エス・セクレタメンテ。
 極めて限定的な王権具現化。 自らを幽閉した城館を、しかし誇らしく世界に打ち立てる。
 
 上記のように狂気に任せて彷徨い続けていたフアナはしかし、
 ついにそれを咎められ、父王によってトルデシリャスに在る城館に幽閉された。
 
 『その王威は密やかに』。
 彼女が幽閉された期間は実に46年にも及ぶ。
 幽閉された時の年齢は29歳。 そしてついぞこれより出ることはなく75歳で死去を迎えた。
 つまり、彼女はその人生の半分以上をこの城館で過ごし、死すらこれに閉じ込められたということになる。
 しかしこの間も彼女は退位を拒んでおり、その最期まで女王であり続けたという。
 
 城館は狂乱の最中にあったフアナをして脳裏に深く刻まれており、それは最早心象風景に近しい。
 しかし彼女が抱いていた印象も含めて再現されるために、本物よりも極めて広大で頑強で強固。
 生半可では傷すらつかず、宝具級の攻撃を受けて初めて、破損の恐れがあるほどである。
 
 また先にも言った通りこれは彼女の王権の具現であり、城館の内部は彼女の王威で満ちている。
 この中に在ってフアナは各種ステータスや『鋼鉄の王意』、『無位の王冠』スキルの上昇、
 知名度の補正を最大限に受ける等の恩恵を受け、敵対者は逆にステータスの減少、魔力発露の制限を受ける。
 
 ここまでは平均的な陣地宝具であるが、
 特筆すべきは下記にて説明している共同統治を取っていたという点。
 これは公文書に記されたサインとして残されているが、
 その逸話故か、彼女が所有する公文書に共にサインをすることで、陣地から受ける恩恵を他者にも与えることも可能。
 最も内部に在って最高権力者はフアナで動かないため、与えられた権限を以て彼女を傷つけることは不可能である。
 
 また限定的に展開することにより盾として使用することも可能。
 しかしその場合、傷つき壊れることが前提であるためにあまり使いたがらない。
 
 近代の英霊、それも神秘的な逸話や強大な伝説を有していないフアナの持つ宝具としては破格の神秘強度を誇るが、
 これはフアナと共同統治の体裁でスペインを治世していたカルロス一世の威光のためである。
 このカルロス一世の治世はハプスブルク家の絶頂期に君臨しており、
 スペインの黄金時代を築いたに留まらず、かのカール大帝以来のヨーロッパ共同体の体現者とも謳われている。
 それも彼の在位時期は1516年~1556年、俗に言う大航海時代の真っ只中であり、
 このヨーロッパから新大陸に至るまでの世界的帝国を築き上げ、その繁栄の様子は『太陽の沈まぬ国』とすら称されたという。
 
 『陽の光は此処に在らず』。
 太陽を紡いだ偉大なる王と共同統治を取っていたフアナは言わばこれを支えた『影』であり、
 紡がれる太陽が強大であればあるほど、染み出す影は色濃く深くなる。
 しかし、フアナの霊基に反比例するかのような強大な宝具はその分魔力消費が激しく、
 マスターからの潤沢な魔力供給と、『我が慈愛は華やかに、要らぬは此処に在らず』の補助がなければ維持すら困難である。
 ――彼女の王威は、在りし日の栄光こそが支えている。
 
 
 「『陽の光は在らず』。
  なればこそ、私はその光が届かぬ場所にも王威を伸ばしましょう」
 
 

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