南米特異点休息キャンプで発生しかけた情報汚染に関する報告(2023/04/10)

Last-modified: 2023-04-11 (火) 00:18:36

■■■南米特異点休息キャンプで発生しかけた情報汚染に関する報告(2023/04/10)■■■
 
アスカ「やめろお前らッ!!!」
ライダー「「ぎゃぅん!?」」
アスカ「なんか……なんかが裏返る!!!!!」
 
熾波アスカを左右から挟み込んでいた二頭の獅子が、同時に裏拳を受けてひっくり返る
3名──正確にはライダーの幼獣も10頭近く居るため総数は10名を超えるが──の目の前に投影された通信映像には、購買部のサイトで検索された猫のトイレ砂がずらりと並んで表示されていた
 

なぜこんなことに…?
これを知るため、少し時間を戻そう
 

ノゥエンティ・スノウスケイプにより召喚された古き黒/古き闇の前に撤退を選んだ南米特異点調査隊は、一時の休息を得ていた
英気を養う……と言うには絶望的であったが、それでもその絶望を腹に抱えて休息を取る強さが彼らには戻ってきていた
自然、軽口も出る
 
ヒッポメネース「熾波様、では我らと肉の喰い合いで勝てると?」
アスカ「流石に英霊でライオンのお前らと量で比べ合いする気はねーけどさ」
アタランテー「ふむ?続けろ熾波様、ただし心せよ、競技とは神聖なものだ」
 
アスカ「今目の前にある皿を平らげる速さなら勝てると思うね」
ライダー「ふーーーーーむ」「ふふん♪言ったな?」
 
競技(きそいあい)であれば賭けるものが必要だと言い出したのはアタランテー
互いに一つ簡単なことで言うことを聞くということになった
ライダー達の正気もマスターの魔力が十全に回復すれば獅子としてのテクスチャに覆われまた失われる。しばしの間、ヒトと口がきけることを楽しむ、それまでのじゃれ合いだ
2対1では流石に勝負にならぬので、真剣にじゃんけんをした結果ライダー側の代表者はヒッポメネースとなった
結果はヒッポメネースの勝利、アスカの敗北であった
喰い貯めに慣れた獅子と、ヒトの身であるアスカの勝負ではあったが、咀嚼という初期消化工程の有無は後半に近づくほどアスカに味方した。
臼歯は食物をよりコンパクトに変形させて胃に運ぶ事を可能にする
妻の脅迫ともとれる声援がなければヒッポメネースは敗れていただろう、それほどの僅差であった
そしてヒッポメネースが切り出したのが
『熾波様にも獅子の素晴らしさを知っていただく』
という事だった
 
ダ・ヴィンチちゃんの解説によればライダー達のマスターである令呪は”観察”という司令を受けているという
そうして観察したものを女神に送信しているそうなのだが、当然現代社会に女神キュベレーは存在していない
ライダー達は、この通信はパスを通して彼等が受信してしまう事がある程度で、基本的に誰も受け取ってはいないだろうと言う
 
そして、この受信で、彼らは
『自分達の獅子吼にちょっと加わりたそうにしていたアスカ』を幻視していたと言うのだ
「仔らの咆哮が近づき、最後に当機(われら)の吠え声が加わった。当機はそれで満足しておりましたが……」「咆哮を次ごうと熾波様の拳が握られ、吼咆のために息を吸いかけるのがしっかり映されていたのだ」
とは彼等の弁である
 
人類最後のマスターの1人が自分達の戦車の列に加わる
二頭牽き(ビーガ)のライダー達ではあるが、アスカも加われば四頭牽き(クアドリーガ)も夢ではない、旋回性能等は犠牲になるが、我等が力を合わせればブラックバレルの搭載すら可能であろうとヒッポメネースは熱弁していた
何も直ちに加わってほしいという訳ではない(「簡単なお願いを聞く」の範疇を遥かに超えている)、ちょっと話だけでも聞いて欲しい。という訳だ
 
アスカにとってはとんでもない話であるが、目の前の二名はいたって本気の様子。
正気のライダー達と会話するのは初めてだがこの英霊達、バーサーカーかと思うほど認識がネジ曲がっていた
己が獅子であるという自己認識に対して疑問がカケラもないのだ
そして見どころがあると言ってアスカを引き込もうと熱心に勧誘する
 
いい加減にしろと言って追い散らせばそれで済むのだが、賭け勝負に負けた以上それも言い出しにくい。
それになんというか……
両側から獅子達に挟まれて熱心に訴えかけられる今の状態、たいへんふにふにでもふもふなのだ
彼等がアスカを引き留めようとする手は肉球がぷにぷにだし、女神が侍らすだけあって両方顔がよい
気のない対応のアスカをなんとか逃すまいとしているのか、二人の獅子尻尾が腰と足に巻き付きこれもたいへんふかふかだ
自分達をカルデアに配備された装備と考える二人はカルデア職員であるアスカを「熾波様」「熾波様」と呼び、へりくだりながらも一生懸命関心を引こうと頓珍漢な話を続ける
権力を持つとヒトはおかしくなるというが、その気持がややわかってしまうような気がしてきたアスカであった
 
「……のです熾波様、聞いておられますか」なんかムズムズしているうちに話はまた進んでいたようだ
「獅子であっても、いや、獅子だからこそトレーナーとトレーニーの信頼関係は重要なのだ」この二人、綺麗に会話を引き継いで交互に話すのだが、それも耳に心地いい
「は?」トレーニー?何だ?……調教を受ける者のことであるが、アスカがそんな事を知ろうはずもない
 
またヒッポメネースが右から引き継ぐ
「我等はネコ目(もく)の中では比較的社会的で、不本意であっても上下関係を受け入れますが」
「やはり信頼できるトレーナーがいい、熾波様も慣れているし、躾はオルナ様に願うのがよいだろう」
「待て、何の話をしてる?」
ライダー達は獅子としての暮らしの良さを語っていたはずだが、『ヒトにも理解してしまえそうな』領域に話が近づきつつある。そんな予感がよぎる、躾?
 
「熾波様は今はヒトですので、最初はやはり部屋飼いからがよいでしょう」「毛皮無しでは暖房が無いとキツいからな」この獅子達はカルデアが極点にあることを理解しているのだろうか、兎も角居住エリアが倉庫より温かいのは確かだ
「飼う?おいちょっと話がわかんねーよ…」
「獅子になるのですから熾波様は飼われねばなりません、野良獅子を放置できるほど人間は種として頑強ではありませぬ」「それにはぐれ獅子は飢えるものだ、熾波様もそうなりたくはなかろう」真摯な瞳が左右からアスカを挟む
「い、いや私はなるなんて一言も」
 
「ええですからまず獅子の生活を識っていただくために話をしております」「どこまで話した?そう躾の話だ」
「ヒトと獅子の生活で最初に成されるべき躾は何だと思われますか熾波様」「これはヒトとしても知っておきたいところではないか熾波様、部屋飼いの初歩の初歩だ」
「だから飼うってなんだよ!!知らねーよ!!」
 
話に熱が入って来たのか、ヒッポメネースがアスカの手をモフリと握る、肉球がぷにぷにだ、そしてその獅子は言った
 
「答えは…トイレの躾です」
 
「……は?」
 
「我等はヒトとは違う社会を形成します、当然これにはヒトの礼儀作法が差し挟まる余地もない」「そんな我等とヒトが同じ閉鎖空間で暮らす……正直我等の尿はヒトには匂いが強いからな」
「だからこそトイレトレーニングはトレーナーであるオルナ様と、トレーニーである熾波様が共同で行う」
「信頼関係形成の第一歩なのだ、熾波様」
何かが、近づいてくる、いやアスカが近づいているのか
 
「ご想像下さい熾波様、カリカリやおもちゃによる誘導、熾波様が粗相した衣類をトイレに敷くのも匂いで安心でき効果的です」「見られていたらしにくいか?いや見ていてあげたほうが落ち着くか?オルナ様は悩むだろう」
「根気強く付き合う必要があります、熾波様は強力な獅子ですから、トイレから離れようとする熾波様を制するにはクー・フーリン王の助けも居るでしょう」
「できたら褒めるのはとても大切だ、熾波様がきちんとトイレにできたらオルナ様が沢山褒めて下さるだろう」
 
「ななななん何言ってんだお前等…」
 
「喉をくすぐるられるのがお好きですか?」
「んひっ!?」
「背中を撫でられるのが好きか?」
「ひゃぁああっ!?」
獅子達の指先がアスカの喉をあやし、リズミカルに背をぽんぽん叩かれ、撫で下ろされる
 
「『よくできましたー♪』」「『さすが私のアスカだね…』」
「んにぃい……っ!?」
「トイレは熾波様のサイズに合ったものが良いでしょう」「これは飼い主であるオルナ様が選ぶものではあるが、我等も口添えする事はできる」
「あ、あ、あ、あ」
「お好みのものはありますか?カルデアにはヒトサイズの獣もおります、これなど丁度よい」「我等としては砂が合うかは気にしたいぞ、覚えておけ」
「や……」
「とはいえ最終的にお決めになるのはオルナ様」「そうだな、決定権はやはり飼い主にある、が…最初は我儘を言っておくのもいいだろう」
「やめ…」
「このネコ砂などは踏み心地が良くおちついてできます」「そういえば熾波様はネコ砂を使ったことが無いのではないか」「おおそうでしたでは一つ注文してみては」「どれがいい熾波様よく分からなければ当機らが選んで
 

アスカ「やめろお前らッ!!!」
ライダー「「ぎゃぅん!?」」
アスカ「なんか……なんかが裏返る!!!!!」
 

熾波アスカを左右から挟み込んでいた二頭の獅子が、同時に裏拳を受けてひっくり返る
幼獣達が驚いた様子で鼻面を抱えてもだえる親獣達を見るが、すぐに興味を失ってじゃれ合いに戻った
 
危なかった……何が危なかったのかはよくわからないが、熾波アスカは今日二度目を窮地を脱したのだ
こうして令呪のライダーによる熾波アスカに対しての情報汚染は防がれた
よかったよかった