第十一景 秘剣伝授
三重が門松に見とれている同じ頃
牛股権左衛門も市場を奔走していた
買い求めていたのは
勝栗 打蚫 昆布
これらは盃と合わせることで四方膳と呼ばれ
合戦に出陣する際に武将が食するものである
「伊良子 虎眼先生がお呼びだ」
「先生が…」
「急を要するとのこと」
「藤木 若先生と呼べ」
秋葉山
昆嶽神社は剣客 岩本虎眼が
秘剣 流れ星を開眼した場所であり
虎眼流にとっては聖地である
「鑓痍によう効く金瘡薬を塗り申した
じきに高熱も鎮まりましょう
お拾いいたしておきました」
「~~っ」
「まことお痛ましや」
プギュ プギュ プギュ
「~~っ」
「仕置きつかまつりまする奥方様を
かかる破目におとしいれた
伊良子清玄を仕置つかまつりまする」
「~~っ」
昆嶽神社… 何ゆえかく場所へ…
「伊良子清玄 ただいま参着」
口元が閉じている…
「伊良子清玄 本日 この場にて
その方に流儀の秘奥を伝授いたす」
ひ 秘剣流れ星!
ついにくれるのか 三重に続いて流儀の秘奥
「あ ありがたき幸せ」
「さすれば まずこの権左衛門と手を合わせ 業前をお見せした後」
「承知」
しかと見るがよい虎眼流の跡目は
この清玄をおいて他にないと!
勝負あり!
ズムッ
「ぐふっ」
「ぅぅ・・」
「牛股どの それがしの剣が先…」
同門の試合では止めるのが作法である
「んああ」
「清玄どの!」
「大事ない」
「先生は止めよと申しておらぬ」
な…
み 妙ぞ!
こはいかなること?
「先生」
「次 藤木」
伊良子清玄ははじめて 藤木源之助の笑みを見た