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Last-modified: 2007-04-02 (月) 10:23:20

第二十七景 火縄

秋葉山昆嶽神社

 

清玄からの果たし状のことを
源之助は誰にも漏らさなかった

 

自分一人の力で清玄に勝利することこそ
虎眼流の跡目であることの証明(あかし)
そう 信じていた

 
 

中秋の十五夜

 

武家では座敷を開け放し
月を鑑賞するのが習いである

 

根尾谷六郎兵衛
金岡雲竜斉
伊吹半心軒

 

誰のためであろう 三重の肉体は
再び潤い 妖しく艶めいていた

 

「お美しうございまする」

 
 

検校屋敷の友六である

 

無双虎眼流は火縄に対し
いかに処するか?

 

短筒に狙われて動じることなく
無造作に歩み来る標的は初めてである

 

友六はある事実に気付いた
一発で仕留めねば

 

次の弾を装填する間に
手負いの虎の牙に
自身の首が狩られる

 

と なると 狙うべきは
頭と心臓の二箇所

 

スゥ

 

半身になった源之助の心臓は
肩の肉で覆われた

 
 

狙いは一つ

 

源之助は額にひりひりと熱を感じている

 

距離五間

 

友六の技量ならば絶対に外さぬ間合い

 
 

源之助が弾丸を避け得たのは強運と
攻撃部位を頭部に特定することに
成功したためであろう

 
 

源之助の鼓動は早まり
生ぬるい汗が全身を伝わった

 

己がまんまと策にはまり
岩本家を離れるべく
陽動されたことに気付いたのだ

 
 

この夜 岩本道場に竜虎と恐れられた
二名の弟子は居ない

 

夕刻以降 武家の正門は閉ざされ
開かれることは無いが

 

ゴトッ

 

閂を外す音がした