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Last-modified: 2007-11-02 (金) 12:20:36

第三十景 流れ星

虎眼流秘剣流れ星
何人もこの魔技から
のがれることは出来ない

 

いくと清玄は 流れ星の及ぼす
死の間合いの中に位置し
瞬時に首をはねられる運命にあった

 

魔神の脳裏に浮かぶは
鮮明なる勝利の幻

 
 

伊良子清玄の仕置追放より十一ヵ月

 

使い物にならない徳利であった
それを手にした時 源之助の背中がじわりと濡れた
顔面蒼白の同門の士に九郎右衛門が
話しかけたが 幽鬼の如く素通りし
穴の開いた徳利を林の中に埋めてしまった

 

これは奥技にかかわるもの
剣士の本能がそう告げていた

 

夜半 廃堂に忍び入った源之助
宿場で集めた徳利を並べる

 

師 虎眼より授かった徳利の穴は
得物によって空けれたものではない
高速の指だ

 

中身が空の上に固定されてもいない
徳利の上部のみが削ぎ飛ばされた

 

極限の脱力によって生み出される超高速の指が
生み出す神技と言ってよいだろう

 

しかし 遅い…
源之助は思った

 
 

同じ頃 盲目となった清玄といくは
金谷宿の外れで追剥に遭遇していた

 

盲いた男と美しい女
格好の餌食である

 

いくは清玄を守るためなら
命のかぎり抵抗するつもりである

 

「いく 伏せていろ」

 

下種が…

 

失態である
刃が幹の根元まで埋まり
ぴくりとも動かないのだ

 

幹より引き抜いた太刀は
清玄自身が思いもよらぬ
速さで走った

 

この時 盲いた剣士の脳裏に
最後に見た光景が蘇った!

 

絶叫と共に 双眸は再び裂けた

 
 

もし奪わんと欲すれば
まずは与えるべし

 

もし弱めんと欲すれば
まずは強めるべし

 

もし縮めんと欲すれば
まずは伸ばすべし

 

而して

 

もし開かんと欲すれば
まずは 蓋をすべし!

 
 

この翌日 稽古場に現れた源之助を一目見るなり
師範牛股は"大目録術許し"(免許皆伝)を与えている