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Last-modified: 2009-05-13 (水) 23:23:33

第五十二景 鬼哭

医師の看板を掲げれば医師を名乗ることが出来たこの時代
祈祷なども医療行為であったが 藤木源之助が移送されたのは
金瘡医 西川玄適の邸宅であった

 

襷を用いた止血点の圧迫により出血は停止していた
四肢切断の場合 助かる見込みは殆どない
アラキ酒による消毒 熱による血管の凝固
傷口を縫合するには骨を切りつめる必要があった

 

麻酔なき時代の手術である
苦痛のあまり 発狂する者もあったという

 

 ゴリ ゴリ ゴリ ゴリ ゴリ ゴリ ゴリ

 

源之助の腹部に粥のごときものがあふれ出た
珍しいことではない 死の間際に種を残そうとするのは本能である

 
 

美童 蛍の市(※)
その歯は残らず抜き去られている
(※蛍の市の「ほと」は文字化けの為、蛍で置換)

 

「今宵はわしが…」
そう言うと検校は徳川忠長の侍医を
務めるほどの按摩術を
惜しみなく奉公人に施すのであった
「礼は清玄に申すがよい」

 

賎機検校が退席した後も当道者の乱痴気は続いていた

 

「厠 厠 」

 

ド ド オ オ オ

 

「桑原 桑原 」

 

雨は嗅覚を鈍らせる

 

「おや この牛面は松の市の…
 いけませんよこんなところで酔いつぶれちゃあ
 もったいないねえ 膳をひっくり返してしまって
 こんなお料理めったにいただけませんよ」

 

ドゴオオオ

 

雷は聴覚を麻痺させる

 
 

「誰か 誰かある~~っ」

 

ドオオオオ

 
 

柔い…