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Last-modified: 2008-08-24 (日) 11:19:31

第五十五景 兜

寛永元年
日坂の舟木兄弟が 顔を奪われて怪死

 

今や舟木道場の一粒種となった
第三子千加は舟木一族に伝わる
怪力の特性と 双子の兄同様の
豪放な気質を備えており

 

「参れ」
「やあああ」

 

ズアッ

 

「おおお」

 

「ま 参ったァ!」

 

「次は誰ぞ」

 

「又八!」
「は はいッ」

 

「やあっ」

 

倉真又八 色白の美形である

 

「それ 胴ががら空きぞ!」

 

やー

 

バンッ

 

「こそばゆい」 くすっ

 

ドサァ

 

「ううう」

 

「手がすべった」

 

「はあ はあ」

 

「しばし 休んでいくが良い」

 
 

又八はその日 舟木道場の一室に一泊を薦められた

 

うう 情けない
こんな様では千加さまに嫌われてしまう
あの美しい千加さまに

 

「又八…」
「千加さま…」
「千加が強く当てるのは又八だけじゃ…」

 

乙女は未通であったが 営みの手順については
双子の兄から十分な説明がなされていた

 

この時 異変が

 

千加自身 思いもよらぬ異変である

 

「ち 千加さまは…男子…」

 

「ぶ 無礼者!」

 

「ぎ ゃ あ あ あ」

 
 

事に臨まんと欲した時 乙女の一部位が男子と化す!

 

千加の肉体は再び乙女に戻っていた

 
 

この一部始終を床下でうかがっていた者がある
屈木頑之助

 
 

この醜漢 元はといえば 行き倒れた浪士の孤児を
一伝斎が養育したもので

 

「不憫…」

 
 

「頑之助の奴 でか頭が邪魔をして あれ以上ふりかぶることが出来ぬ!」

 

「ぬわっは!!」

 
 

その特異な重心により 容易に転倒を招いた

 

そのような頑之助は

 

「何をふざけておる!」

 
 

千加が無防備なのは 蝦蟇を家畜以下の生物と
見なしているからに他ならぬが
この男の脳内ではこれが…

 
 

その"蝦蟇"がこの夜 乙女の秘密を知った

 

ごろごろ
「俺のからだは他人とは違う
 でも千加さまのからだも…

 

 だから俺と千加さまは…」