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Last-modified: 2007-11-21 (水) 21:35:07

四十七景 稚児

「お 親父殿…」
「畏れながらご家老さま どうか牛股殿をお許し下さい
 元はといえばこの清玄が招きし災い…
 一命をかけて幕を引きまするゆえ 何卒お見守りを」

 

あの時 いくは身の毛のよだつ真相に気付いた
許婚を斬ったのは 牛股…

 
 

「慈音寺へ参られよ」
牛股の言葉にすがるしかなかった

 

「なんと惨いことを 早よ中へ…」
廃寺の筈だが瀬安と名乗る住職が居た

 

清玄に応急の手当てを施すと
いくはようやく失神した

 

掛川藩士 角野安次郎 同じく桜井彦九郎

 

角野の娘と桜井の妹は清玄の魔性によって その純潔を奪われている

 

二日間に渡る制裁の後 男女は山中に放置された

 

「いく いく」
「あい」
「己の顔はどうなっている? 鼻はあるか 耳はあるか」
「あなた様のお顔は まるで稚児のよう」

 

男女を救ったのは月岡雪之介なる剣士
呻くような女の子守唄に招き寄せられたのだ

 

清玄といくは月岡の手により飛騨の山里に匿われた

 

岳仙寺

 

菜の花が咲き乱れた頃のある日 清玄はいくとはぐれてしまった

 

いく~~
 いく~~

 

「いく…」

 

斬ってはいない 峰打ちですらなかった
月岡の刀は寸前で反転し一毫たりとも触れていない

 

しかし 清玄は気絶した
“見た”のである

 

無無明