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Last-modified: 2008-03-07 (金) 09:52:05

第四十九景 幻視 ―まぼろし―

「ふふ うふふふ」
グチョ グチョ

 
 

漏れそうにござる…

 

「牛股・・・ 仇討場は芝居をするところではござらぬ
 虎眼に玉を抜かれた うぬら門弟は 乱心すらできぬ傀儡の群れ
 見物の者らは牛鬼が槍衆を三人まとめて木剣で斬っただの
 馬廻り役の腹を素手で破っただの騒いでおるが
 左様なものは幻… 我が目に幻は映らぬ
 お主は足掻いた なりふりかまわず武士にあるまじき体で
 それが真相…」

 

「伊良子 今日という日はお主が虎眼流を倒した日とはならぬ
 そのように決して記録されぬ
 一名の乱心者が掛川領の数多の民を殺戮せし災禍の日
 左様に記されるのだ
 散らばる骸と共に ようく かき混ぜてやるゆえ お主には墓も残らぬ」

 
 

一太刀… 一太刀にて汝を屠る!

 

この声は見分席にも届いた

 

 ひ…ひとたち
「あの権左を 一太刀と申したか」
本気(マジ)か 伊良子清玄

 

無明逆流れは虎眼流“流れ星”と理を同じゅうすと雖も
刀身を支えしは左指に非ず 不動の大地を以て力を蓄へ
全身を振るひて射出する秘技なり
泉岳寺を追放されし清玄が奇禍の中 開眼せし術理なり

 

無明逆流れと相対して生き残った虎眼流剣士は皆無である

 

藤木… よう見せてくれた 無駄にはせぬぞ

 

ズズ ズズズ

 

「伊良子清玄敗れたり」