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Last-modified: 2007-03-30 (金) 10:40:46

第十三景 篝火 ――かがりび――

「若先生」

 

「清玄さま 初めてお会いした日より
 このようになる日を祈っておりました」

 

「種 種ェ」

 

「倅や」

 

お袋 まだじゃ 今宵は踏み台に過ぎぬ
さらに昇るぞ己は どこまでも どこまでも

 
 

「そこまで」

 
 

ドォン  ドォン

 
 

「・・・・」

 

「ご案じめさるな 清玄に含ませたるは罌粟の実よりこしらえし妙薬…」

 

「その効き目は清玄の痛みを春の淡雪の如く消し去りまする」

 

「かくのうえ 奥方様に御けじめをつけていただきたく」

 
 

ん…

 

「奥方様をかかる破目に貶めた 悪根を焼き断つるが御けじめ」

 

「虎眼先生の御言い付けにございまするぞ」

 

「奥方様がやらぬと申されるなら この清玄の命 我らの手にて!」

 

い 命…

 
 

じ ゅ う う

 

ぶす ぶす ぶす

 

形容しがたい異臭がたちこめ
焼けた脂肪が清玄の顔にしたたり落ちた

 

しかしこの時 いくは自分の乳房に焼き鏝を埋め
清玄をかばっていたのだ

 

伊良子さま 逃げて…

 
 

阿…

 
 

煩悩を打ち消す筈の除夜の鐘の音が
牛股権左衛門に抉られた背中の穴を押し拡げ
藤木源之助に揺すぶられた脳をかき回した

 

薬物によって清玄の視聴覚は極限まで昂ぶっている

 

こ… ここは何処?

 

虎眼

 

「清玄どの」

 

太刀?

 

そうだ そうであった

 

流れ星をもらい受けるのだ

 
 

夢と現実の境にいる清玄は手にした刀が竹光であることに気付かない
濃尾無双とうたわれた剣客 岩本虎眼の指が刀にさしかかると高弟たちは目隠しをつけた
虎眼流印可をすでに授かっている師範牛股だけは それを見ることを許されている

 
 

狂ほしく 血の如き 月はのぼれり

 

秘めおきし 魔剣 いずこぞや