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Last-modified: 2008-03-07 (金) 09:52:54

第五十一景 一ツ目

 
 

みしぃ みりりり

 

同刻 掛川城下孕石邸

 

「雪千代… 主は剣の鍛錬を怠っておるまいの」
「拙者 江戸に遊学せしおり 次郎右衛門忠常先生の道場にて
 血の滲むが如き努力の末 異例ながら僅か三年にて免許を…」
「雪千代… 人を斬ったことは?」

 
 

同刻 賎機検校仕置屋敷

 

「やるせなきかな 我が剣は呪われしか~~
 藤木どの お主とは共に剣を磨き
 語り合いたかったぞ~~」
「うわはは よいぞ蔦の市」

 

へひゃ へひゃ  うもおお

 

当道座の階位を省みぬ超無礼講である

 

「出たな牛鬼 一太刀にて汝を屠るぅ」
わはははは

 
 

紙一重の勝負であった

 

ドゴオオオオ

 

「何も恐れることはございません
 虎はもう一匹たりとも残っておりませぬゆえ
 虎眼流を滅ぼし剣名によって 清玄様の行末は思いのまま
 駿府で道場を開くことも 当道座にて出世なさることも」

 

「いく」
「何も…」

 

向かいの間には清玄の護衛のための手練が
生き様しにおける“二つ胴”

 

頭部を破壊された人間が
なおも仇を憎むことが可能であろうか
ものを思うは脳ばかりではない 臓器にも記憶は宿る
筋肉とて人を恨むのだ