第五十一景 一ツ目
みしぃ みりりり
同刻 掛川城下孕石邸
「雪千代… 主は剣の鍛錬を怠っておるまいの」
「拙者 江戸に遊学せしおり 次郎右衛門忠常先生の道場にて
血の滲むが如き努力の末 異例ながら僅か三年にて免許を…」
「雪千代… 人を斬ったことは?」
同刻 賎機検校仕置屋敷
「やるせなきかな 我が剣は呪われしか~~
藤木どの お主とは共に剣を磨き
語り合いたかったぞ~~」
「うわはは よいぞ蔦の市」
へひゃ へひゃ うもおお
当道座の階位を省みぬ超無礼講である
「出たな牛鬼 一太刀にて汝を屠るぅ」
わはははは
紙一重の勝負であった
ドゴオオオオ
「何も恐れることはございません
虎はもう一匹たりとも残っておりませぬゆえ
虎眼流を滅ぼし剣名によって 清玄様の行末は思いのまま
駿府で道場を開くことも 当道座にて出世なさることも」
「いく」
「何も…」
向かいの間には清玄の護衛のための手練が
生き様しにおける“二つ胴”
頭部を破壊された人間が
なおも仇を憎むことが可能であろうか
ものを思うは脳ばかりではない 臓器にも記憶は宿る
筋肉とて人を恨むのだ