空中給油 (Air-to-Air Refueling)

Last-modified: 2023-01-05 (木) 19:35:37

空中給油とは

空中給油 (Air-to-Air Refueling, in-flight refueling, 略してAAR等) とは、戦闘機・攻撃機・爆撃機などが上空を飛行しながら空中給油機 (Tanker) から燃料の給油を受けることで、飛行場や空母に給油のための着陸・着艦を行うことなく遠方まで・より長時間連続した飛行や戦闘行動を継続できる戦術であり、DCSのプレイヤーフライアブルモジュール機やAI機においてもその機能をシミュレートするようになっている。
ただし、シミュレータとしての再現の限界や動作簡略化、旧来の一部AI機の機能不再現などにより、現実の実機とは異なる挙動や制約がDCSには存在する。
実機どおりである点、実機や現実と異なる点は後述する。

2種類の空中給油システム

航空機の開発・発展の歴史上にはさらに他の空中給油システムも存在したが、21世紀の軍用機として普及しているのは フライングブーム方式 (Flying boom) と プローブ&ドローグ方式 (Probe and Drogue) の2種類である。
この2種類の空中給油システムには互換性がなく、「フライングブーム方式の戦闘機はフライングブーム方式の空中給油機からしか燃料を補給してもらえない」「プローブ&ドローグ方式の戦闘機はプローブ&ドローグ方式の空中給油機からしか燃料を補給してもらえない」のが基本である。
なお現実の空中給油機には、1機体でフライングブームとプローブ&ドローグの両方の給油装置を積んでどちらにも対応できるものがある(KC-135MPRS、米空軍のKC-10A、米空軍のKC-46A)が、DCSにおいては再現されていない。
また1960年頃に開発された過渡期の機体には、どちら方式の空中給油機からも燃料を受け取れるよう2通りの受油装置を積んだ機体が存在した(F-102、F-105など)が、21世紀にはほぼ存在しない。

DCSにおいてもこの組み合わせ制限はシミュレートされており、乗っている自機がどちら方式であるのか、これから燃料をもらいに行こうとしている空中給油機は自機と正しくセットになれる相手なのかを把握しておく必要がある。
またミッションを自作する場合も、正しい方式組み合わせになるよう飛行させる機種を選ぶ必要がある。

フライングブーム (Flying boom)

dcsaar_flyboom.jpg
空中給油機の胴体後方から斜め下向けて給油ブームが伸ばされ、受油側機体の背面・主翼付け根・機首などに設置されたレセプタクル (Receptacle) にブームの先端が突っ込まれて給油を実施する。
ほとんどの機種でレセプタクルはカバーで覆われており、空中給油実施前にカバーを下げて給油口を露出させる(古いAI機ではこのアニメーション再現なし)。

DCSにおけるフライングブーム空中給油機 KC-135
DCSにおけるフライングブーム受油プレイヤーフライアブル機 A-10A/C(同II)、F-15C、F-16CM bl.50
DCSにおけるフライングブーム受油AI機 B-1B、B-52H、C-17A、E-3A、F-15E、F-16A/C
(将来発売予定DCSフライアブル機でフライングブームなもの F-4E、F-15E)

史実におけるフライングブーム方式のメリット
送油可能量が多いので爆撃機など大型機相手の空中給油に向く。
ブーム先端の細かな位置調整は給油機側のオペレータが行うので爆撃機など動きが鈍い大型機相手の空中給油に向く。受油側パイロットの負担がわずかに少ない。
史実におけるフライングブーム方式のデメリット
給油機はフライングブームを備え安定した飛行を行える機体である必要があるので大型機となり、空母艦上機が給油機となることが不可能。
給油機の改装箇所が大がかりとなる、技術的にも高度。
小型機相手でも1機ずつしか給油を行えない。(給油時間が短いことで一定の相殺はできているだろうが)

プローブ&ドローグ (Probe and Drogue)

dcsaar_prodro.jpg
空中給油機の主翼下のポッドあるいは胴体後方から伸ばされる給油ホースの先端にドローグ(バスケット)がついているので、受油側は機首や胴体側面に備わったプローブ(格納式・伸縮式の機種であれば展開しておく)の先端をみずからドローグ内に突っ込むように機体を操縦して給油を実施する。
(古いAI機では格納式プローブを展開させるアニメーション再現なし)

DCSにおけるプローブ&ドローグ空中給油機 IL-78M、KC-130、KC-135MPRS、S-3B Tanker
DCSにおけるプローブ&ドローグ受油プレイヤーフライアブル機 AV-8B NA、F-14A/B、F/A-18C Lot20、JF-17、M-2000C、Su-33
DCSにおけるプローブ&ドローグ受油AI機 MiG-31、一部のMirage F1サブタイプ、Su-34、Tornado GR4/IDS、Tu-95MS、Tu-142M、Tu-160
(将来発売予定DCSフライアブル機でプローブ&ドローグなもの A-6E、A-7E、Eurofighter、F-4艦上型、F-8J、F-100D、Mirage F1 EE?、Tornado IDS)

史実におけるプローブ&ドローグ方式のメリット
給油機・受油側ともに技術的に平易で開発・改装も容易。
MPRSのようなポッド型ドローグを後付装備して給油機を仕立てること、A-6やF/A-18Fなど攻撃機・マルチロール機がハードポイントに給油ポッドを携行するだけで給油機に変わるバディタンカーが可能(DCSのAI機S-3B Tankerも哨戒機S-3Bが給油ポッドを携行している状態)。
空母艦上機を空中給油機とすることができるので、完全に陸上基地から離れた地点でも活動可能。
ヘリコプター相手に空中給油を行うことができる。
主翼下に給油ポッドを持つ大型空中給油機であれば、小型機相手に2機同時の給油実施が可能。
史実におけるプローブ&ドローグ方式のデメリット
プローブをドローグに正確に突っ込む、給油実施中にプローブが外れないよう給油機に追随し続ける操縦がすべて受油側パイロットの負担となる。
送油可能量が少ないので大型機相手の空中給油では完了までに長時間かかる。
バディタンカーではベース機体が小型で燃料タンクの機内増設も行わず、ほぼ無改造で外部ポッド&増槽で携行燃料を増加させているだけなので、給油機1機が空中給油できる燃料の総量あるいは相手できる機数などは大型機よりかなり少ないものとなる。

DCSでプレイヤー機として空中給油を受ける操作全般

プレイヤー機として乗り込んだ機体がフライングブーム方式であってもプローブ&ドローグ方式であっても、実際に空中給油を行うまでの準備操作には共通する点が多い。

  • ブリーフィングで、ミッションに登場する空中給油機の機種名(自機の給油方式と合致した機種かどうか、複数機種が別個に登場するかしないか)とそのコールサイン、無線周波数、A/A TACANを有する機体であればそのチャンネルを確認する。
  • 自機と空中給油機両方にTACAN機能があれば(DCSで空中給油の受油機能を持つASM機種はほぼTACAN持っているはず、SSM機種は要確認)、TACANのモードをA/Aとし、チャンネルを目標とする空中給油機に合わせる。空中給油機との間にTACAN電波が届く範囲であれば、HSIやHUDに目標空中給油機の方位や距離が表示される(一部古い空中給油機は史実として方位返答のみ行い距離を返さないのでDCSでも実機通りの挙動となる)ので、空中給油機に向けて飛行する。
  • TACANが無効な場面でAWACSが飛行していれば、AWACSに無線問い合わせすることで最寄りの空中給油機 (Tanker) の方位と距離を返答してもらえる。
  • 空中給油機に無線周波数を合わせ、 "Intent to refuel" を送信する。現在の飛行高度と速度の返答がある。
  • 空中給油機と同じ高度で1nm (1.8km)ほど後方、同じ方位同じ速度で飛ぶように自機を操縦する。
  • 兵装のMaster ArmスイッチをSAFEにする、レーダーやIFFをOFFあるいはSTBYにするなど安全措置をとる(具体的な操作は機種個別のマニュアルやガイド参照)。
  • レセプタクルのカバーを開ける、収納式プローブを露出させるなど空中給油実施準備を行う(具体的なスイッチ位置・キー割り当て・インジケータ表示などは機種個別のマニュアルやガイド参照)。
  • 空中給油機の後方1nmの Precontact Position で飛行を安定させた後、無線で空中給油機に "Ready Pre-Contact" を送信する。
  • 飛行状態に問題がなければ空中給油機から "Cleared Contact" の無線返答があり、フライングブームを下ろし始めるor給油ホースを伸ばし始めるので、スロットルを少しだけ開けてゆっくりと接近する。
    • 飛行状態に問題がある場合は空中給油機から "Return Pre-Contact" の無線返答が来るので、 Precontact Position での安定飛行に努め再度 "Ready Pre-Contact" を送信する。
  • フライングブーム方式の場合、ブームを固定できる相対位置に自機を固定するとブームがレセプタクルに挿し込まれ、給油が開始される。
  • プローブ&ドローグ方式の場合、自機を操縦してプローブをドローグの中に挿し込む。プローブとドローグがうまく噛み合えば給油が開始される。
  • 燃料計や空中給油関連のインジケータを注視し、給油が完了したら静かに空中給油機から離れる。
  • レセプタクルのカバーを閉じる、プローブを収納する等の操作が必要な機種であればその操作を行う。
  • 編隊飛行中であれば、編隊のすべての機が空中給油を完了するまで空中給油機の近傍で追従する。
  • 次のウェイポイントへ向かう。レーダー、IFF、Master Armなど次の予定行動に必要な装備のスイッチをOnにする。

空中給油機の外部ライト表示

フライングブーム方式のKC-135には、主翼前方位置の腹部に受油しようとしている機体に現在の相対位置ズレを示すライトがある。
ただしDCSでは非常に暗くて見づらい。
dcsaar_flyboom_kc135lights.jpg
左側が上下位置ズレ・右側が前後位置ズレ(だったと思う)。
赤ランプは大きくずれている状態で、2つめ緑ランプは小さなずれ、中央緑ランプでフライングブームにピタリ。

 

またプローブ&ドローグ方式のKC-135MPRSやKC-130の主翼下給油ポッドにも状態表示ライトがある。
実機では緑・黄色・赤の3色で給油中断や問題発生時には黄色もしくは赤点灯もあるはずだが、DCSで実装されているかは不明。
DCSでの挙動としては、ドローグを伸ばし終えて接続待ちをしている間は緑ライトが点滅する。
受油機のプローブが正しくドローグに接続されるといったん緑ライトが消灯し、つづけての給油実施中は緑ライトが点灯し続ける。
このライトも暗くて点灯状態がよく分からない(特にKC-135MPRS)。

DCSにおける空中給油の現実との相違点

  • 現実のKC-135MPRSでは胴体のフライングブームは機能として生きているので、レセプタクルを持ったF-15などがやってくればフライングブーム方式の空中給油も実施できる。
    しかしDCS内のKC-135MPRSは主翼下のMPRSを用いたプローブ&ドローグ方式の空中給油しか実施しない。
  • 現実のプローブ&ドローグ方式には、給油圧力の違いなどで同じ国製の組み合わせでないと空中給油に失敗する制約が一部に存在するが、DCSではプローブ&ドローグ方式でありさえすればどの組み合わせでも実施可能。
  • 現実のフライングブーム方式では給油機オペレータがブームを操作して空中給油実施中に受油機の相対位置が少々ズレてもブームを追従させてくれるので給油口からブームが抜けることがそうそう起こらずパイロットが楽できるはずであるが、DCSではAI給油機がそんなにブームの追従操作をしてくれず、すぐブームが外れるし操縦が大変な感じがする。
  • 一部のAI機は実機にある受油機能が再現されていない F-4E、S-3B
  • 現実の空中給油機には、給油機自身が別の空中給油機から受油できるものも多いが(フォークランド紛争時にイギリスが行ったブラック・バック作戦など)、DCSでは再現されていない。
  • 現実のF-5Eなどに固定式の外付け受油プローブを追加装備したものがあるが、DCSのモジュールとしては再現していない。
  • CH-53やUH-60、その派生型など大型中型ヘリコプターの一部はプローブ&ドローグ方式で空中給油を受けられるものがあるが、DCSでは(たとえ固定式プローブが3Dモデリングされていても)受油機能を実装していない。