砂漠のプライベート・レッスン？

「そんな強えのにいつもだらしなくて、ドジやって…ずりいよ、そんなの……！」
「……ぶひひっ、なーにスネてんだ、ア・ニ・キ。お前カワイイとこあんじゃねえかよ？」
怯えるセトを宥めながら、ゴウリョウは出会った頃を思い出す。
異界の砂漠で出会った頃の青年は、粗暴な振る舞いで力を誇示し、今とは違って弱さを見せまいとしていた。
からかい混じりに青年を「アニキ」と呼ぶゴウリョウ。
しかしそれは、虚勢の類いとは異なるのではないか――共に旅する中で打ち解けていき、そう考えるようになる。
やがて推測は旅の果てに確信へと変わる。
セトには兄という強者のイメージがあり、目標があるからこそ、最終的には己の弱さと向き合い、勇気を奮い立たせる事ができたのだと。
そして今――セトは勇気を振り絞り、サーフボードの上に乗る。
ゴウリョウはかつて自分がテュポーンから教わったように、信頼する「アニキ」にサーフィンを教えていた。
セトもまた、異界の旅でゴウリョウへの信頼を深めていたからこそ、水を恐れてにも関わらず、彼の誘いに乗った。
陸で散々繰り返した動きの通りに。頭の中で浮かべ続けたイメージの通りに。
セトは水面に浮かぶ板の上に立ち、バランスをとる。
「すげえ……俺、波に乗ってる！　見てるかゴウリョウ！」
「おー、うまいもんだ。やっぱりアニキはすげえな！　ぶひひっ」
何度も諦めず練習した結果が実を結び、セトは破顔する。
ゴウリョウもまた賞賛でそれに答え、二人はサーフィンを楽しんだ。
「ま、これで自信がつきゃあ、本物の波にも乗れんだろ」
ゴウリョウの呟きは波飛沫に呑まれ、セトには届かなかった。